紙の本
謝った先入観が直される1冊
2021/02/08 15:44
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:広島の中日ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
歴史を紐解いて、女性差別は社会にどう確立されたのかを、著者が丁寧に説明した1冊です。第1部と第2部に大別され、前者は西洋史、後者は日本史です。
我々日本人は「西洋は昔から女性差別がひどくなく、逆に日本は昔から女性差別がひどすぎた」と勝手な先入観がありますが、当書では全く真逆のことが語られています。読み切ると、読む前にあった先入観が大きく変わるでしょう。
ページ数も190頁と薄く、値段も新書にしてはお手頃です。気軽に数多くの方々に読んでほしい、そんな1冊です。
紙の本
イングランドと日本の、政治思想から見た女性差別の歴史
2021/03/31 18:56
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:3π - この投稿者のレビュー一覧を見る
西洋、特にイングランドがキリスト教を基盤にして女性差別が作られてきた歴史を追ったのが第1部で、古くは聖書、アリストテレス、アウグスティヌスから、宗教改革を経て、フィルマー、ロックなどの政治思想・法制度が外観された。その中でホッブズは、その他の政治思想の女性差別から切り離されたような思想を構築していたのが特徴。
第2部は主に江戸時代以降の日本。儒教の影響で日本の女性差別が準備されたという俗説を、徳川が政権としては儒教を用いなかったことを示して否定し、また明治以降西洋の法理が持ち込まれたことで女性差別的な構造が作られたという単純な見方も退ける。日英では家族、そして国家のあり方が異なり、日本の「家」の慣習は根強く、家制度に無理矢理組み込もうとした西洋の家父長制は、選挙権、産業構造の変化などを通して徐々にしか浸透しなかったが、大戦後には女性差別の構造が確立された。
大雑把にはこういう内容だったと理解しました。
個人的には政治思想・法制度の勉強をあまりしてないからか細かい論理はわかりづらいと思うところもけっこうあったけど、読み終えてみると、かなり綺麗に現在の話にまで繋がったなと思います。
電子書籍
まさに求めていた1冊
2021/10/10 22:44
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投稿者:ryu - この投稿者のレビュー一覧を見る
とにかく面白かった。
「なぜ現状はこうなのか?」「日本の『伝統的』家族とは?」等々、漠然と感じてきた疑問がはっきりと形になり、答えは与えられないまでも光が差した。西洋のことも日本のことも知らないことばかりで、自分が生まれた時代以降のイメージだけで考えてはいけないとつくづく反省した。
今まで忌み嫌っていた「家」や「主婦」に対する認識も、本書をきっかけに(現状ではなく歴史的な文脈では)違う見方ができるようになりそう。
あくまでも自分の現実は棚に上げてではあるが、とても面白く勉強になる1冊だった。
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社会史というより、ペイトマン先生を下敷にした思想史なのね。ペイトマン〜中村先生たちにとっては現代的な女性支配とはどういう感じなのかなあ。最後にジェンダーギャップ指数が出てきてずっこけた。ほんとあの数字は有害だ。
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録画しておいたNHK「アナザーストーリーズ」を見た。
取り上げられていたのは、女子差別撤廃条約に批准するため国内法を整備した女性官僚、俳優浅野ゆう子氏、そして男女雇用機会均等法一期生の女性たちだった。
私も彼女たちの意志を継ぐものとして、後輩に道を作りたいと思う。
さて、本書ではホッブズの意外な点に驚かされた。
ホッブズといえば、リヴァイアサン。
教科書に載っていた白黒の王冠を被った王のような、怪物のようなものが描かれた版画を覚えている人もいるだろう。
ロックやモンテスキューに比べると、ちょっと古い人、というイメージがあったのだが、こと女性の権利に関しては全くホッブズを理解していなかった。
「社会契約」によって守られていたのは男性のみで、女性はそもそも契約の主体である「人間ですらない」というのはショックだった。
アリストテレスから続く「女性=無能力」の思想は西洋に根深く、だからこそ女性たちは権利を勝ち得た。
一方日本では、江戸期においては女性が一定の独立性を持っていたことを考えると、次第に女性の権利が奪われていったのは何故か。
本書では明治政府の施策に原因をみる。
そしてその施策によって作られた「伝統」は今も女性を縛るが、時代は動きつつある。
男女の別なく、互いを尊重し、協力し、自分らしく、善く生きることは誰にとっても生きやすい世界だと思う。
本書は日本と西洋を同一に語らず、しかも断罪しない点がよい。
私のように感情に任せるのではなく、淡々としかし単調ではない論理の詰めかたは素晴らしい。
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メモ→ https://twitter.com/lumciningnbdurw/status/1396235098203168771?s=21
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日本の江戸時代,案外いけてるのではと見直した.キリスト教の弊害というよりキリスト教を巧みに使った男たちの支配だったというべきだろう.わかりやすく歴史を整理してあり,フェミニズムというのは本当に最近になってのことだと知った.
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ジェンダー格差について、西洋の方が進んでいて、日本(前近代)が遅れていた、という固定観念を持ち勝ちだが、本著を読むことで、それが誤った観念であることがよく分かる。
日本については、明治において家父長制が制度化されたところが大きい。(西洋の制度の影響も受けている)
一方、日本が直近の状況においてジェンダー格差において世界水準から遅れていることを見ると、単に明治時代に制度化したことだけの理由ではないように思える。
ここで述べられている歴史を学んだ上で、世界標準とのギャップを、どのように改善していくのかが重要なテーマになってくる。
(本著ではそこまでは触れていないが)
以下抜粋~
・「ジェンダー」とは、生物として持って生まれてた性別を意味する「SEX」(生物学的性差)と対になる言葉で、社会によって作られた性別(社会的性差)を意味します。
・(江戸時代)企業体としての家の財産、詰まり家産を守り次世代につないでいくことでした。家産は当主個人の所有なのではなく、文字通り家の財産だったので、当主の役割は家産を管理する管財人の役割だったといわれています。重要なのは、このように家を代表するとされた当主は、家全体を支配する権力を法により保障されていたわけではないという点です。
・江戸時代の家における夫婦は一体ではなく、妻はイングランドの妻とは異なり、かなり独立性を保って自分の職分を果たしていました。こうした妻の独立性は、家に関わるほかの事項についても見ることができます。
そもそも女性たちは、結婚後も自分の姓を変えることはありませんでした。
・江戸時代の女性と夫婦関係の状況を見た上で確認しておきたいのは、当時の女性が自分の財産所有権と離婚の権利を持っていたことです。通常この二つの権利は、女性の解放を見る際の重要な指標とされています。
江戸時代の日本の女性は、イングランドの女性より解放されていたといえるのです。
・明治おける家父長制の二つの潮流
→中国に由来する父系による家族を目指す流れ。(王政復古)
→西洋に由来する、男性である夫が権力を持つ父権的家父長制ともよべる流れ。
・社会全体の大きな構造として女性差別が作り出されていくことに関係しているのは、(明治時代に)西洋の法概念が導入されて家族関係が法により規定されるようになったこと、そして、その中で男性たる戸主の権利が法によって認められたことだと思われます。
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女性差別はどう作られてきたか。中村 敏子先生の著書。世界の女性差別の歴史と日本の女性差別の歴史がわかりました。過去において世界でも日本でも女性差別が露骨にあったのは事実。女性差別の歴史は変えることはできない。だけれど女性差別のない未来はこれから作ることができるもの。世界の女性差別は減っているのに日本の女性差別は減らない現実。すべての日本人が女性差別の歴史と正面から向き合ってはじめて日本の女性差別は減るのかも。
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実におもしろい!
帯に小島慶子氏の推薦文が書かれていたので、嫌な予感がよぎったが(笑)、いわゆるフェミニズム本ではなく、丹念に政治思想史を読み解き、西洋と日本でどのように家父長制が浸透していったかを説明した本である。
著者は、キャロル・ペイトマン(恥ずかしながら本書で初めて知った)の思想をベースに、トマス・ホッブズや福沢諭吉の思想を紹介しながら、西洋と日本の、国家と社会の変遷を説明していく。著書「リヴァイアサン」や「万人の万人に対する闘争」という言葉で知られるホッブズが、17世紀に既に、神の存在を根拠とせず、男女が平等な社会構想を描いていたのには驚いた。対して、学校で「自由主義の父」として教えられるジョン・ロックは、女性の人権を全く考慮していなかったという事実には憤慨。また福沢諭吉は、西洋で学んだ自由主義思想に傾倒して自由や平等を説いたと解釈されがちだが、その社会構想は幼い頃から学んでいた儒学の枠組みにもとづいており、男女の身体的差異をポジティブに評価し、また社会的弱者についても考察の対象としたとのこと。私は諭吉先生の創った学校を出ておきながら、その思想をまったく知らず尊敬もしていなかったことを恥じた。
まとめると、西洋の家父長制はキリスト教をベースにしており、男女は一体であると考えられたため、財産権や肉体の所有権は、一体である二人を代表する男性のものとされたのに対して、日本に家父長制が成立するのは明治以降であり、男女が異なる職分を担う協業体制である「家」に、国家による上からの家父長制の押し付けが徐々に浸透していった。それゆえ日本では、西洋に比べて主婦の地位が高く(財産を管理する職分を担う)、それゆえに家父長制構造を打ち壊していく動機づけが強まらなかったことが、ジェンダーギャップ指数121位の現状につながっていると考えられる。
しかし、性別分業が事実上不可能になっている現代において、社会構造としての「家父長制」を打ち破ることは急務であり、やるべきこと(クオータ制の導入、男女賃金格差の是正など)は明確なのに、明治期以降に成立したに過ぎない「伝統」に固執し腰を上げようとしない政府に苛立ちを感じる。
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女性差別の原点。アダムとイヴまで遡る。西洋ではやはりキリスト教が根源のようだ。そして我が日本では、民法が作られた明治時代以降。その前はもっと自由だったような。。。いつからこうなったんや!!
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国立女性教育会館 女性教育情報センターOPACへ→https://winet2.nwec.go.jp/bunken/opac_link/bibid/BB11483358
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フェミニズムの本は面白い。
若桑みどりの『戦争とジェンダー』を
ワクワクしながら一気に読み終えて
これは名著だなと確信していたが
本書も学者然とした冷静な語り口が
印象的だ。理路整然、クール。
若桑は感情の高まりを隠さなかった。
対照的で面白い。
P162
社会的秩序は男性によって作られているので
女性たちがそれに反して自分の考えに
従って行動すると、それは
無秩序とみなされてしまう。
しかしそれは女性にとっての秩序なのだ。
(ペイトマン)
P165
「貞操」とは、女子を拘束するための
男性の希望であり、
「男子による女子征服の象徴」である。
(山川菊栄)
P165
「女らしさ」という言葉で
女性の行動を縛ろうとする議論に対して、
重要なのは「人間らしさ」であると反論
(与謝野晶子)
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日本の女性差別は西洋から、西洋の女性差別は聖書から。元凶はアダムとイヴの話で、宗教的な考えを配慮しないで言えば、たかが神話のせいで世の半数の人間が苦しい思いをしてきたと思うと少し悔しい気持ちだった。規模が壮大すぎるけど。
確かに日本は奈良時代は女性天皇もたくさんいたし、江戸時代もあまり性別というのを意識している感じはしない。その頃の考えのまま時代が流れていたらどうなっていたんだろうとは思う。
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近年女性の社会進出が進み、会社に行けば、当たり前だが多くの女性が働いている。結婚して子供が産まれても、産休明けにはまた以前と同じように職場復帰し働ける制度も機会も充実してきた。国による法整備も行われ、役員数を一定以上、女性にする動きも出てきている。会社は頻繁に女性の管理職登用に躍起になっており、後何年後かには沢山の女性管理職が生まれているはずだ。
一方で、本書の入りに記載される様に、受験で一方的に女性の点数を下げて、男性を優先的に合格させようとする不祥事があったり、世界経済フォーラムの発表するジェンダー・ギャップ指数では先進国G7の中では最低、全体146ヶ国中でも125位と低迷する。特に政治への女性進出を表す「政治」の指標では世界最低クラスの138位と、恐ろしく低い。別の調査では、女性管理職が30%を超える企業は全体の10%そこそこで、働く人数は凡そ男女同数でも、実際に能力とは関係ない、昇進の壁の様なものがあるとしか思えない。これでは国も躍起になって法整備を進める理由もよく分かる。
本書はそうした現代日本で問題となっている女性への差別的な扱い、現状が過去の人類の歴史の中でもどういった経緯で発生してきたかを紐解く内容である。まずは西洋社会における、アリストテレスの論に始まり、自由平等の社会が確立し始める産業革命前後の法学者や社会学者の言葉を集めて推測していく。更にはそれらが日本の旧来の社会に与えた影響、そして西洋とは異なる形で成立していく日本独自の考え方などを多くの学者の考え方などから紐解いていこうとする。個人的には江戸時代の儒教の影響が強かったと考えていたが、それを否定した上で別の要因に迫っていく。
女性社会進出の現状改善に向けては、まずその成り立ちや原因を探るところから始めなければならない。全く場違いな改革や施策では本質的な問題を取り除く事は無理だろう。政治家だけでなく、企業経営者、管理職、そして昭和の親父達にも読ませたい一冊である。