紙の本
狼たちの城
2021/06/23 22:16
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投稿者:ごんちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ユダヤ人のイザークがゲシュタポのヴァイスマン少佐になりかわり殺人事件と家族を助けるという一人3役のような作品でしたがイザークがゲシュタポのいる城や本部で自分の心に打ち勝ち試練を乗り越えて目的を達成していくところが面白かったです。
紙の本
ナチ×スパイ×名探偵×歴史反転ミステリー
2022/08/13 16:14
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投稿者:kapa - この投稿者のレビュー一覧を見る
1942年3月ニュルンベルク。ゲシュタポ高官宅で人気女優の惨殺死体が発見される。スキャンダラスな事件解決のために、ベルリンのゲシュタポは特別犯罪捜査官アドルフ・ヴァイスマンを送り込む。一方ユダヤ人古書店主イザーク一家のもとにポーランド移送命令が届く。家族を守るため、抵抗勢力メンバーと聞いたかつての恋人クララを頼るが、彼女が用意してくれたのはヴァイスマンの偽の身分証だった。イザークは受渡しの場でヴァイスマンに間違われたまま、女優殺人事件の捜査をする。なりすましの露見、抵抗勢力との接触などの危機に直面しながら、事件解決と家族の命を守るための素人捜査官のドラマが始まる。イザークの犯罪トリック推理も興味津々だが、ゲシュタポ深奥部でどのように生き抜き、危機を脱するかが面白い推理小説。
ナチ「反転」物語には、負傷親衛隊にすり替わりドイツを脱出する英国兵士を描いた「アルファベット・ハウス」(早川文庫)や親衛隊から殺人事件捜査を命じられるベルリン元敏腕刑事でユダヤ人のオッペンハイマーの「ゲルマニア」(ハラルト・ギルバース集英社)がある。オッペンハイマーには事件を解決しても命の保証はなく、行くも地獄、戻るも地獄であるが、イザークは偽物であり捜査の素人、しかも、抵抗勢力に加担、また、家族も守らなければならない、とさらに立場は厳しい。
古書店主として得た知識を活用し、捜査官然とふるまうイザーク。敵国英国のホームズや頽廃的とされた著書が焚書され、ドイツ市民権を剥奪されたユダヤ人諷刺作家クルト・トゥホルスキーの箴言を引用しながら、有能な助手の親衛隊伍長シュミットを翻弄しつつ使いこなすところは、皮肉たっぷりのホームズ=ワトソン・コンビだ。
フィクションであるが、作者は「場所的にも時代的にもできるだけ真実に近づけるように」したという。「ユダヤ人問題の最終的解決」を決定し、イザークがその議事録に翻弄されることになる「ヴァンゼー会議」は2か月前に開催されている。容疑者とされたニュルンベルク・ゲシュタポ長官代理ノスケは実際には会議出席者ではないが、別の地で長官となり、独ソ戦で「特別行動部隊」指揮官となった同姓の親衛隊がいる。ノスケの肩書ユダヤ人問題担当課長は実際にはあのアドルフ・アイヒマン、「人民法廷」の「死刑執行人」裁判長オットー・ローターは、ローラント・フライスラーがモデル。そして捜査指揮権を巡ってナチス内部の権力闘争カオスも描かれる。
イザークはヴァイスマンに似てはいたが、整髪し髭をおとして綺麗なスーツを着ただけで「彼は風采よく見えた。ドイツ的な魅力があった。厳しくて尊大で。」街ではアーリア人女性から言葉をかけられるし、ラーン秘書からは愁眉を送られる。「前の日にはまだ、彼に唾をはきかけ、侮辱的な言葉を浴びせかけていた人々が、今日は彼に敬意を示している。彼らの丁重さは、髪型と親衛隊のしるしに、むけられているのだ。彼らは、その奥に隠れているユダヤ人を、今なお見下している。」ナチ社会をイザークは体現したのである。
2020年続編『隠れた敵』Der verborgene Feindが出版された。前作から2週間後。イザークは、ノスケの秘書ラーン嬢を通じてナチ支配層にアクセスし、抵抗勢力のスパイとなる。一方2年前と同じ手口で二人の若い女性が絞殺される殺人事件が発生。事件解決を急ぐベルリンは、ヴァイスマンにこの事件の解決を命令、イザークはまたも特別捜査官になってしまう。しかも彼の評判を妬む者も現れ、自らの身辺も危うくなる、という展開のようだ。敗戦までヴァイスマンのままでやり通せるのだろうか。そして家族の命運は?
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思いがけず、一気読みだった。
1942年、ナチス政権下、ドイツ、主人公はユダヤ人ときたら、重い、苦しい、悲痛、激痛、対する読者は "要休息" ときまっているではないか。
ところが、これは、息をつく間も惜しい一気読み本だったのである。
イザーク・ルビンシュタインは、元古書店店主である。
"元"というのは、彼の大切な〈ルビンシュタイン書店〉はナチスに押収されたからだ。
財産も没収され、彼とその家族――両親、妹、その2人の子らは、狭苦しいユダヤ人住宅に押し込まれている。
その上、今度は「立ち退き通知」が来た。
移住させられるのだろうが、行き先はわからない。なにが待っているかもわからない。
不穏なものを感じたイザークは、脱出する道を選んだ。
彼のかつての恋人クララには、レジスタンスとの繋がりがあった。
脱出に手を貸すと彼女は言ってくれたが、ただし、イザークと家族は別行動になるという。
イザークは髭を落とされ、ユダヤ人らしさのあらゆることを一切捨てろと言われた。
そして、別れ際に渡されたパスポートには、
「アドルフ・ヴァイスマン 犯罪捜査官」とある。
さらに、SS、すなわちナチス親衛隊の少佐であると――
仰天するイザークの前に「ハイル・ヒトラー!」と若い親衛隊員が現れた。
「本部ではあなたをお待ちです。参りましょう」
混乱と恐怖の中、イザークは車に乗せられ、ゲシュタポ本部へと案内される。
そして、ニュルンベルクのゲシュタポ長官から、殺人事件の捜査を任されるのだった。
ドイツ一の切れ者と名高いヴァイスマン捜査官として。
イザークは、事件の捜査をしなければならない。
せめて、捜査をしているように見せなければならない。
さらには、脱出の対価として、レジスタンスの要件を果たさなければならない。
そしてなにより、ユダヤ人だとばれてはいけない。
ただの古書店主が、捜査をする手引きになるものは――本だ。
オーギュスト・デュパン、エルキュール・ポワロ、そしてなによりシャーロック・ホームズ、偉大なる先人たちに倣うのだ。
さすがだ、イザーク、古書店主!
ナチス政権とユダヤ人をテーマにすれば、どれほどでも深刻にすることができる。
しかし、この本はそれをしない。
事態はまったく深刻だが、それについては抑制した筆致で描き、なにより読み物として面白い物語に仕上げている。
この『狼たちの城』は、推理小説で、スパイ小説で、冒険もの、そして歴史もの、極上のエンタテイメントなのだ。
1942年のドイツが舞台なんて、どうせ重苦しいんでしょう?
伸ばす手をためらった人にこそ、ぜひ、読んでほしい。
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優先度の高いナチスもの。第二次大戦中のニュルンベルグが舞台です。ナチスの迫害を逃れようとしたユダヤ人の古書店主イザークは、ナチス親衛隊の将校にして腕利き捜査官のヴァイスマンになりすまして、難事件の捜査を指揮する羽目に。そんなに上手く行くものかと思いましたが……最後は何だか「続編」がありそうな終わり方でした。と思ったらあるみたい(未訳だけど)
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1942年ニュルンベルク。ユダヤ人イザークは家族6人全員が収容所に送られる直前。レジスタンスと関係のある元彼女のクララに何とか出来ないかと頼むと・・・ナチス親衛隊中佐の家で著名な女優が殺害された。守衛がいて、人の出入りは厳密にチェックされていた。事件解決のためにベルリンから敏腕捜査官のアドルフ・ヴァイスマンが送られてきた。クララがイザークのために用意してくれたのはヴァイスマンのパスポートだった。イザークはヴァイスマンになりすまして事件を解決しなくてはならなくなった。
めっちゃくちゃ面白かった。ユダヤ人がどういう目に会うのかの臨場感、事件解決のプレッシャーが凄い。私は必ずしも主人公に自分を投影して読まないのだけれど、本作はなぜかイザーク=ジブンで読んでしまった。
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ユダヤ人の主人公のイザーク。
最初はどうなるかと思ったけど、見事に危機を切り抜けていく。爽快なストーリーだった!
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はじめはじれったかったが、途中からぐいぐいと引き込まれ、一気に読み終えた。
冷静に考えると、博識とは言え古書店主がゲシュタポを出し抜けるような活躍ができるのか?
ボクシングのトレーニングをしている者相手に勝てるのか?
など違和感はつきないが、まあ楽しく読めました。
続編もあるそうなので、日本語訳がでたら読みたいと思います。
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年明け早々に大傑作。昨年末の各種ベストテンでも上がっていた、ナチス支配下のドイツで虐待される側のユダヤ人が、レジスタンス活動に巻き込まれあろうことかゲシュタポの捜査官として殺人事件解決にあたる。全く逆の立場になることの複雑な心境と、果たして身分がバレずに無事に終わるのかどうかというハラハラ感。
歴史ミステリーでありながらも、重厚になり過ぎず、スリリングな緊張感を保つ手腕が素晴らしい。
4.2
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物語の面白さやスリルと謎解きも楽しめた。
一方で迫害される民の悲惨さ、迫害する側の意識亡き罪深い日常に慄然とする。
Amazonより----------------------------
ナチス×スパイ×名探偵
前代未聞の歴史反転ミステリー!
招聘されたゲシュタポ犯罪捜査官。
その正体はユダヤ人の古書店主!
第二次世界大戦の末期、ニュルンベルクの
ユダヤ人古書店主イザークと家族のもとに
ポーランド移送の通達が届く。彼は絶望の
なか、レジスタンスに関わっていると聞い
たかつての恋人クララを頼るが、彼女が用
意してくれたのはゲシュタポの特別犯罪捜
査官アドルフ・ヴァイスマンとしての偽の
身分証だった。イザークは受け渡しの場で
ヴァイスマンに間違われたまま、ナチスに
接収された城内で起きた女優殺人事件の捜
査に臨むことに。ゲシュタポの深奥部で彼
は無事生き抜き、事件を解明できるのか?
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ユダヤ人の古本屋主人が家族を守るために、かつての恋人を頼る。恋人は家族を助ける代わりに主人公にゲシュタポ(ナチスの秘密警察)に変装し、彼らの住居で発生した殺人事件を捜査しつつ、本来の目的である秘密文書を見つけろという要求をしている。というのが物語のあらすじ。このあらすじだけで勝ったようなものでしょう。ここまで盛り込まれた展開も珍しい。正体がバレたら=死という極限状態の中で読書で仕入れた昔のミステリー(ホームズなど)を駆使しつつ奮闘するさまは身震いもの。密室殺人の謎も見事に絡ませながらエンタメ度抜群の秀作。
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大戦中に迫害を受けるユダヤ人の悲哀 ゲシュタポとレジスタンス 紙一重の駆け引が痺れる #狼たちの城
■あらすじ
第二次大戦中、ユダヤ人である古書店主の主人公に、ポーランドへの移送通知が届く。不安に思った彼は、自身の安全と家族を守るために、レジスタンスに所属するかつての恋人に協力を求めた。
一方、ドイツ秘密警察が駐留している城では、人気女優の殺害事件が発生する。しかし事件を捜査するはずだった特別捜査官は、現場への移動中にレジスタンスに襲われてしまう。
レジスタンスは主人公の彼に、特別捜査官に成りすますように告げるのだった。
■レビュー
第二次大戦中のドイツ舞台に繰り広げられる、歴史&冒険ミステリーです。
そのまま海外ドラマになっても良いくらい、展開がお見事で、シンプルに読んでいて面白い! ★5
これまで大戦中のスパイ小説や映画は、いくつか体験したことがありますが、他に負けないくらい素晴らしい作品でしたね。
話の筋としては大きく二つ、殺人事件の解決と秘密文書の入手。さらにユダヤ人とドイツ軍高官との入れ替わりのサスペンスが、さらに物語を盛り上げていきます。
始まりから終わりまで、次にどう話が転がるか全く分からない、ひりつく場面が目白押しです!
とにかく特にレジスタンスたちの命を張った、ギリギリのやり取りがスゴイんです。
ばれちゃう? うまくいくの? どこにいったの? そんなの無理だろ! え、さらに裏切者がいるの?! なーんて驚きと感情が、次々押し寄せてきます。
そしてやはり本書を読む中で一番強烈なのは、戦争がもたらす罪の描写。
ユダヤ人の迫害…いかに教育が重要であるか。
権力者にとって都合の良い情報や知識を与えることで、群衆は悪魔のごとく育ってしまう。彼らの財産、自由、生命すら奪うことが、むしろ「正義」とされている価値観がヒドイ。たった80年前に行われていた現実を目の当たりにし、強烈に胸を打たれました。
また権力を持つことの恐ろしさが切々と語られていきます。
権力者がただそこに存在しているだけで、恐怖を吹き込んでいくのです。
民衆は決して欲望や悪意でユダヤ人を迫害しているわけではない。自らの安全を担保するために、弱者や悪者と定義して叩くしかないのです。人間性を失っていく様子は、まさに戦争がもたらす不幸で見るに堪えませんでした。
■推しポイント
良い人間が戦わなければ、悪い人間が勝利する。
主人公が成長するきっかけとなった、女性レジスタンスが言ったセリフです。
当たり前のように聞こえるシンプルなセリフですが、はたして自らの生命を賭けることができるでしょうか。
遠い場所で繰り広げられる戦争、我々はぼんやりと他人ごとのようにテレビで見ています。自分自身が戦うということ、そのために行動することがいかに大事か。肝に銘じておかねばならないと思いました。