紙の本
火曜サスペンス劇場みたいな
2021/11/19 07:29
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
初めに、男の死体ありき。
それを見つめる女が一人。
この男が何故死んだのか、物語の最後まで明かされない。
これはその謎を解くミステリーではない。
見ていた女が立ち上がり、逃げる話だ。
顔を変えて、たった一人の娘をおいて。
女の名は鶴野圭子、間違っても美人とは言い難い、46歳の中年女。
彼女は整形して美人になった。名前も倉田沙世に変えた。43歳に若返った。
自分を変えてくれる、そんな闇があった。
そして、彼女は福井の芦原温泉のホテルで仲居となって住み込み始める。
誰も彼女のことは知らない。
けれど、人間は一人では生きていけない。やがて、彼女は新しい人間関係を作っていく。
倉田沙世としての人間関係だ。
ホテルの雇われ支配人に言い寄られ関係をもつ。コンパニオン派遣として雇ってくれた女性経営者にその関係を疑われ、時には同僚の若い女性をかばったりする。
地元のストリッパーから親友と呼ばれ、自分の顔でもない整形の顔を美人と妬まれて。
どんなに顔や名前を変えても、もちろん、逃げおおせるわけはない。
花房観音はそんな中年女の姿を描きながら、母として、愛し愛される性として、惑う女の姿を描いていく。
主人公が口にする「ひとりで生きていける人間になりなさい」は、女という自分に言い聞かせた言葉だったのだろう。
この女、死体をおいて逃げた時から、ひとりで生き始めたのだ。
強く、つよく。
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愛人を殺した後、整形し鄙びた温泉宿で働く事にした主人公。温泉宿での生活がこの本のほとんどをしめている。 後残りわずかとなったページから、意外な展開が、待っていて驚かされた。
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初出 2019〜20「小説新潮」
この作家さんは、男と関わって生きるのが難しい女の生身の苦しさを描くのがうまい。男と女しかいないのに、なんて難しいんだろね。
シングルマザーで、不動産会社の社長の愛人として一軒家で暮らしてきた圭子は、その社長の死体を前に逃げることを決意し、元ホストの鈴木の助けで、整形し、携帯を換え、沙世と名前を変えて、北陸のあわら温泉の旅館に住み込みで働くようになる。
小説の大部分がここでの生活の様子だが、コンパニオンにスカウトされて働くようになり、コンパニオン仲間のアカリが残してきた娘と同じ名前だったことで、娘への切ない思いも描かれる。男運が悪く、男を信じてはいないが、利用してきた、弱いと思っていた自分が結構したたかに生きてきたとも思うようになる。読み進むうちに、主人公に感情移入していく。
同年代のストリッパーのレイラから親しくされるが、実は警察の協力者で、次第にしがらみが増える人間関係からそろそろ逃げようとしていた矢先に逮捕されてしまう。
エピローグは、逮捕の後で娘の灯里とアカリが東尋坊で会う場面だが、驚きの真相がわかる。
どうして、みんなこんなに苦しむんだろう。
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ラストに意外な展開が待っていた。現代の話なんだけど、旅館のコンパニオンとか地方のストリップとか場末感と共に昭和の香りが漂う。そういうのが好きな方にはおすすめ。
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昭和の2時間サスペンスを観終わった様な読後。
埼玉県内の事務所で会社を経営する男性の遺体が発見される。
その場から姿を消した女は以前出会い系サイトで知り合った「鈴木太郎」と名乗る男を頼り、整形し名前を変え、東尋坊に近い日本海沿岸の温泉地へ逃避行する。
温泉旅館の住込み従業員として働きながら別人としての人生を生きるはずだった彼女の運命は…。
行間から冬の日本海の曇天や雪景色、荒れ狂う東尋坊の波の情景までが浮かんで来て、この女性の惰性的な生き様が絶妙にリンクする。
特別な仕掛けなどはないがノスタルジックな味わいの一冊。
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鶴野圭子の奔走を辿る物語だが、女性たちのネットワークの良さと悪さが混在した奇妙なストーリーだと感じた.圭子は娘灯里と糸井慎吾に養われていたが、度重なるDVに耐えかねて殺害してしまい、付き合いのあったホストの鈴木の助けを得て、倉田沙世と名前を変えて芦原温泉へ行き、仲居として働く.花やぎ旅館に住む場所を得て、咲村美加からコンパニオンの仕事も引き受けた.アカリやレイラといった友人も出来て何とか暮らしていた.しかし次第に素性がばれていく予感から、九州へ逃げることを企画し、ストリッパーのレイラの舞台を見に行く.ここから意外な展開が始まり、慎吾の殺害の真相が明らかになる過程が楽しめた.
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作者は何を目指していたか、どんでん返しは必要だったのか。女として生きることの意味と生きにくさと人生を描くのであれば、小手先の叙述は不用意な道具にしかならない。
とはいえ、男には書けない文章である。
またここにも美醜が見え隠れ。美しくさと母娘の問題と。