紙の本
横溝や乱歩のような展開も想像してしまう
2023/05/29 07:01
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投稿者:マーブル - この投稿者のレビュー一覧を見る
嘘を身に纏い、本心をなかなか明かさぬ美しい女に振り回される分析医。書かれた時代がそんな雰囲気を帯びているのか、横溝や乱歩のような展開も想像してしまう。 あるいは、分析医の口を借りて語られる精神分析への態度や、そもそもそんな商売が流行るようになってしまった日本の描写に三島の意図を感じることも可能だ。 解説によると一時期精神分析に凝ったことがあるらしい。『仮面の告白』や『金閣寺』においても人間の心理から生まれたものが作品の芯に感じられるのだが、どうだろうか。
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徹底的に作り込まれた人物と世界観。それ故に現実感があまりなく思える。
しかし内容は流石と言ったところか、美しい文で記述されるえげつない物語には天晴れ。
「音楽が聞こえない」という比喩は、(もしそれが比喩であるとするのならば)漱石の「月が綺麗ですね」よりも好きかもしれない。
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「音楽」が聞こえないというヒステリー持ちの麗子を診察する精神科医。不感症である彼女を治すべく自由連想法療法を使うが、それでもうまくいかない…一体、彼女を苦しめている元凶は何か?
音楽ほとんど関係なかった。不感症とあるので、性的な文が多いかと思いきや、自然な形で表現されているので読みやすい。
精神病理学について触れているので勉強にもなる。
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おそらく読了二度目のはず。増村保造監督による映画を観たあとなのでその映像が浮かび、逆に読んでいる間ずっと音楽が聞こえる感覚を持った。
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2022年11月2日読了。「音楽が聴こえない」症状を訴える患者・麗子を診察する医師汐見。挑戦的な彼女の振る舞いは多くの男たちに影響を与え…。映画化もされたという三島由紀夫の長編。勿論文章も古めかしく、「当世流行の精神分析を題材に小説を書いてみよう」という著者の山っ気も大いに感じられ、説明口調の部分はご愛敬という感じだが、それでも文章の巧みさ・展開のドラマティックさにいつの間にか引き込まれてしまう。著者自身の女性に対する屈折した感情、を想像しながら読むのは邪道な読み方かもしれないが、非常に楽しく読んだ。結果ハッピーエンドになってよかったね。
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死ぬほど面白い。物語としての完成度がレベチすぎる…
明美⇒麗子に対する感情の変化とかも興味深いテーマだと思うな。
"神聖さと徹底的な猥雑さとは、いずれも「手をふれることができない」という意味で似ている。"ここすごいですね。
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前評判として、三島由紀夫の音楽はやばい(エロティックという意味で)というのがまずあった。開いてみると、精神分析医の手記という体裁で治療の顛末を追う構成になっていて、少し拍子抜けしながらも納得した。ぜひ精神分析の学徒に意見を聞いてみたいところだが、私自身は面白く読んだ。もう少し頭の切れる人なら女性に起こったことも予想できたのかもしれない。少し影響を受けて気持ちが沈むような期間もあったことを記憶している。
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精神科医である私の診療所のドアを、ある日、美しい女が叩いた。女性心理と性の深淵をドラマチックに描く異色作。本作刊行前後、三島はノーベル文学賞の有力候補だったことが後に判った。(e-honより)
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快感と音楽はどちらも感覚的なものなので(音楽を聴くだけの人間からしたら)、音楽が聴こえない=不感症というテーマがおもしろく感じ、最初から最後まで興味を持って読むことができた。
物語内で起きたこと全てに対して、事細かく精神科医の考えが巧みに表現されていて、最後まで飽きることがなかった。
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一人の患者の治療の一部始終に関する精神分析医の手記という体裁だが、言葉の秀逸さと物語性により序盤から引き込まれた。
新たな事実が付加される度に深まる麗子に対する分析医の考察は、一つの症例を解決するだけでなく、神経症全般における新たな見地や人間精神の奇怪さ、さらには分析治療の在り方を示唆するものとして機能しており、かなり大きなテーマを消化している作品。
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なんてあたしに無関係な題材なんだろうって思いながら彼のうちにて、1日で読み終えてしまった ずいぶん軽やかで、でもタブーの効いたおはなしだった為、すらすら読了できたのかも 三島由紀夫の描写する女性のうつくしさ!細やかにあざとく、意地悪なくらい隙のない褒めがかなり気に入った エロスをぼやかしてひそひそうふふと嗜むの、嫌いじゃないけどすこしみっともないかしら この本が初三島となり、安堵していますありがとう
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これからずっと「音楽」を違う意味にとらえる呪いをかける本だな。
花井の「先生伺いますが『治す』とはどういうことなんですか。精神分析の力で患者の抑圧を取り除き、『治癒させる』とはどういうことなんですか。」「多様で豊富な人間性を限局して、迷える羊を一匹一匹連れ戻して、コンフォーミズムの檻の中へ入れてやるための、俗人におもねった流行なんですね」「僕はひょっとすると、アメリカの精神分析学者は、政府からお金をもらっているんじゃないかと思う時があります」ってセリフが一番印象に残っている。私の「鬱を治すことってつまり、いつ誰が定めたかもわからん"普通の人"って人間に、労働に都合のいい人間に、無感動な人間に、無理やりされちまわねぇですか?」という取るに足らない思想は、こんなにおしゃれかつ感情が乗った文章になるのかと。花井好きだったな。
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あまりにも面白くて一気に読んでしまった。
三島由紀夫の描く狂気が好きだとひしひし思いながら読み進めた。
登場人物に風変わりな人間が多く登場するが、不思議と異質な印象は抱かず、すっと胸の内に溶け込んでくるのは心理描写が非常に丁寧で緻密だからだと思う。狂気的な思いもわかりやすい言葉で表現されているからこそ、理解することができ、なおさらその恐ろしさを強く感じられた。
また、タブーを犯した人間の背徳的な感情を美しく描いている点が好みだった。良くないことをしているのに、どこか神聖にも感じさせる文章を生み出す三島由紀夫の言葉の使い方はすごいと思う。
『いいわ、きっといつか兄さんを矮小な赤ん坊に変えて、私の子宮へ押し込んでやるから』この一文に、『音楽』の持つ魅力が凝縮されていると思った。衝撃的なこの言葉を見た瞬間の爽快感が堪らなかった。
良い本に出逢えた!と大声を出したいくらい、楽しめた物語だった。
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やっぱり表現が綺麗で飲み込みやすく、スムーズに読めた方でした。
専門的な話は難しかったですが、段々と患者の冷感症の根本的問題に迫っていく展開は読んでいて楽しかったです。
汐見先生と麗子の対話も互いに勝負している感があり好きでした。
麗子にはあの後、今までとは違う音楽が聴こえたのでしょうか。
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音楽に例える三島のセンスに腰砕けって感じ。参りました。麗子嬢にイライラしながらも、だんだんと真実に近づいていくストーリーも純粋に楽しめたし、まあ本当に文章がうまいなと思いました。