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世知辛い世間の荒波に揉まれ、ささくれだった心を癒してくれる故郷、そして母。ちよさんの東北弁が温かい。包容力に長け、素直で穏やかなちよさんの人柄と程よい距離感が理想の母になったのだろう。
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ユナイテッドカード•プレミアムクラブ ホームタウン・サービス。一泊50万円の架空の故郷への帰省サービス。このサービスを利用する熟年の男女のそれぞれの生き方が描かれていきます。同世代として身につまされて読み進めました。ふるさとの「母」が寝物語に語ってくれる「どんどはれ」の昔話しが興味深かったし面白く思いました。ラストのケンちゃんエミちゃんに語ってくれた物語がリアルのちよさんの過去なんだなぁと思うと、3・11の現実に引き戻された思いがします。テンポのいい文章で面白く読み終えました。
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あり得ない設定だと白けたが、読み進むうちに、これもありかと納得。「平和な時代に若者の姿がなくなってしまう現実は戦争より無慈悲に思えた」「多くの兵士たちは、生まれ故郷の風景を思い描きながら『お国のために』死んでいったのではあるまいか。だが、そのふるさとが今や、思いもよらずに滅びかけているのである。彼らが命をかけて守りきったはずの故郷が、平和な時代が続いたゆえに消滅してしまう」少子化といい、地域格差、限界集落問題といい、放置している貧しいこの国そのものが…この作品に共感できる若者がどれほどいるかで将来が決まる。「夜の黙(しじま)がきこえてくる」「夜が広い」唸ってしまう表現、浅田さん健在!
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さすが浅田先生。希代のステイストーリーテラーです。60前後の3人の男女が架空の故郷を見つける話ですが、リアリティーとそして最後の仕掛けが涙を誘います。こういう物語はオーソドックスに心に響きます。
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泣かせの浅田次郎。
久々に我慢できない水準。
疲れてるのかも。
看護師の母の手ひとつで育てられたので、将来は同じ職業につくと決めていた。だが高校生になると欲が出て、医師を夢見るようになった。
私立の学費はとうてい無理にしても、国公立の医学部ならばどうにかしてもらえるのではと、母に相談した。
しかし母は反対した。学費の件はさておくとしても、割に合わぬ仕事だと言った。過酷な勤務や研修医の生活や、父と同じ感染症の危険などを母は諄々と説いた。ベテラン看護師の目から見た医師という仕事は、そうしたものであるらしかった。
それでも数日後の夜勤明けに、母はくたびれ果てて帰宅するなり、「ナッちゃん。あんた、ドクターにおなんなさい」と言ってくれた。
なぜ母の心が翻ったのかはわからない。脆くてあやうい決心に思えたから、何も訊き返せなかった。
当直の医師か同僚に相談したのだろうか。それとも夜勤の静寂の中で、考え続けたのだろうか。いずれにせよ古賀夏生にとって人生を決めた瞬間は、大学の入試でも医師国家試験でもなくて、母の許しを得たのそのときだった。
割に合わぬ仕事。
母のその一言は、古賀夏生の心にずっと居据わっている。
六年間の大学と二年間の臨床研修。浪人も留年もせず一人前になっても、大学病院の医局に残った古賀夏生の収入は、大会社に入った同級生よりもずっと低かった。
(中略)
時間は蜂の巣のように、規則正しくみっしりと詰まっていた。
そうした同じ時間割の中でも、器用に恋愛をし、結婚をし、出産する医師たちを、古賀夏生は真似ることができなかった。チャンスがなかったはずはないのだが、幾度もあったそれらは、顧みてそうとわかるだけだった。
(中略)
介護生活に入ってから、母ひとり子ひとりの境遇を初めて苦労に思った。社会的地位もたかだかの経済力も、その生活の中ではほとんど無力だった。母が必要としていたのは、娘とともにある時間だけだった。だが、医師にはその時間がなかった。
(中略)
また、呆けた母を母とも思わず、かつて母であった何者か、と考えていたのもたしかだった。自分自身の行動よりも、その意識のほうが古賀夏生には許しがたい。心ひそかに、母を厄介者としていた自分自身が。長い介護生活にどれほど疲れ果てていたとしても。
(中略)
おめえもな、ナツオ。
もうは、けっぱらねで良えがら、たんと飯さ食て、のへらほんと生きてけろ。
おめはんほんによぐやった。誰がほめてくれなくても、母は力いっぺえほめてやる。そんで良へ、ナツオ。
【P84-104】
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自然な振る舞いをする人には、人は自然と素直になっていくものなのだろう。故郷とはこういうものであるのか。読み進むうち、こういう故郷が自分にもあったら良いなと思わざるを得なかった。
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NHKラジオでのインタビュー、東京人で田舎がないという発想、都会人だからの桃源郷なのかもしれないっと斜に構えたが・・・
さすが浅田次郎!、唸る。
やっぱり日本らしい作家はこうでなくっちゃ。
ありえない話なのに、なぜか共感してしまう、著者らしい世界観。
最後の昔ばなしが心に沁みる。
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一気読み。
こんなストーリーは初めてだ。
設定が新しいし、現代的。
磁石のようにちよさんに引き寄せられる還暦世代の三人の心の空白が沁みた。
さすがの浅田次郎。
すぐにNHKのドラマになりそう。
ちよさんの境遇と、ユナイテッド・カードプレミアムクラブという謎のセレブ対象のカード会社の意図、これが最後に明かされると思って読んでいったが、前者はうまく回収してくれたが、後者は結局わからずじまいなのがすごく引き込まれて読んでいただけに、残念。
最後はちよさんの急逝しか小説の方法はなかったのかな。「子どもたち」が一堂に会することができるのはそれしかないとは思う。
でも、ちよさんが、どんな思いでそれぞれの「子どもたち」に接していたのか、プレミアムクラブに対してどう思っていたのか、知りたかった。
そう思うのは、私もこの小説に深く入り込んでいたからなんだろうな。
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浅田次郎にハズレなし。故郷をテーマとした日本の現実を踏まえつつも心温まるストーリー。
相変わらずの見事な展開。浅田次郎は希代のストーリーテラー。前知識なく読むことでクライマックスに向けた大きな感動を味わうことができた。
藤子不二雄や星新一の作品にもありそうな設定だが最終的にはみごとな浅田節。
都会人の故郷を持たない不安定さ、老後に対する不安、希薄な人間関係。そんなものを描きつつ、擬似的な関係がある事件を気に一気に覆るというストーリにやられました。
久々実家に顔を出して見たくなりました。
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ありそうで 無さそうで 発想 設定が面白い。
ラストが そう来るか って感じ。どこまでが キャストで どこまでが 普通の村人なのか…。
ちよさん 本当はどんな人生でどんな人だったのか知りたい気もしたけど 知らないほうがいい事なんだろうな。
方言は優しい
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表紙や『母の待つ里』というタイトルを見る限り、アラ還男の帰郷物語を想像するだろう。ところが、これはカード会社”ユナイテッド・ホームタウン・サービス”がふるさとを持たない人に提供しているプランなのだ。家庭や故郷を持たない人々の元に、カード会社から舞い込んだ〈理想のふるさと〉への招待は1泊2日で50万円。過疎の集落へ送り届けるバスの運転手やあぜ道で出会う幼馴染の友人、酒屋などのエキストラを配備し「〇〇ちゃん、久しぶりに戻ってきたのぉ~」と声かけられる。半信半疑で向かった山が迫る美しい自然に囲まれた見知らぬ郷里に降り立ち、出会ったこともない母に温かく迎え入れてもらえる。還暦世代の徹・精一・夏生の3人たちは上京して四十年。奇跡の出会いが待っている。
徹・精一・夏生の3人たちは、おそらく実母とは親密ではなかっただろう。私も母とは18歳を機に実家を出て以来一緒に暮らさなかった。私が育った時代には共働きの両親は珍しく、働いていた母は時間に追われいつも忙しくしていた。出産時にも帰省していない。父は早く他界したが、母は定年退職後も自分の趣味や活動を楽しんでいた。お盆と正月には幼い息子たちを連れ帰省、子供が独り立ちしてからは、夫とふたりで季節ごとに帰省し母を連れ立ち旅行してきた。コロナ禍でできなくなり電話で話すことが多くなっていた頃、母は入院した。半年前に感染予防でお見舞いもままならないうちにあっけなく逝ってしまった。近くに住んでいた妹夫婦が居て寂しさはなかっただろうが、私の母への申し訳なさは今もくすぶり続けている。私は、母にとって手の掛からない娘だっただろうし、母も娘である私に甘えもしなかった。淡泊な母娘関係だった後悔がある。
読了後浅田さんのインタビューで目を覚まされた。浅田さんのお母様はきっと典型的な母親だろうと想像していたのだが見事に裏切ってくれた。自分の母はこの小説に出てくる「ちよさん」のようなイメージとはかけ離れた母だったと語っている。子供より鏡を見ている時間が長い美人のお母様だったらしく「それはそれで面白いが、母親の人生を見ながら、なんとなく別の母親に憧れていたような気がするんです」と言っている。結局、小説やドラマで描かれる理想的な母親像とか親子関係はないのかもしれない。自身も母親になり、反面教師を見ながら子育てしてきた割にやはり淡泊な親子関係に落ち着いている。柄にもなく温かく密接な親子関係に憧れたりしたが、それってあり得ないのかもと思えてきて、気持ちが楽になった。
でも、50万円は高額すぎるが作られた仮想故郷へのツァーがあったらそそられるだろう。そこで、気恥ずかしさを取り払い思い切り理想的な娘を演じたい。まさに大人のファンタジーかもしれない。
ちよの「何があっても、母(かが)はお前(め)の味方だがら」に動揺し、涙がこぼれそうになった。母から「コロナだったんだもの、仕方がなかったんだよ」と許してもらえた気がする。
仮想ふるさとで北国の曲がり家にひとり住む86歳の老女は、訪ねてきた者たちを素朴な岩手弁と手料理とあふれる母性で迎え入れる。最後に、彼女の人生に何があったのかが明かされ胸塞がれた。ちよも亡くした息子たちを想い迎えていたに違いない。仮想家族で繋がった幻の故郷に、新しい絆が生まれようとしている。
あまり設定されない自分に近い年齢層の登場人物に共感できた。自分と似た年頃の主人公が現れる作品をもっと期待したい。
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著者は「方言に手こずった」と言っていた通り、読み手にも難しいと感じた。
方言が面倒くさくなってしばらく放置してしまったw
途中から頭で解釈せず、目でなぞる程度に雰囲気のみで読み進めた。
多少のファンタジー要素を含むストーリーではあったが、最終話の描写が脳裏に浮かびじーーんとした。
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3人の独身者がカード会社のサービスシステムで故郷の疑似体験をし、一体どのような結末になるのだろうか、、、。ニセモノだろうとホンモノだろうと、心からその人の事を慕う気持ちや情があれば、それはそれで良いのではないか、と。
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家庭もなく、故郷もない還暦世代の3人の男女が、向かった先。
辺鄙な田舎だが、そこには迎えてくれる母がいた。
初対面でありながらも温かくて、安らげる。
無理しているところも感じず、気づかってくれながらも話しを聞いてくれ、意見も言う。
そして、また来ようと思うのだ。
途中、方言に悩まされたが、こういう「ふるさと」も良いではないかと思った。
ふるさとが、あったとしても実際、頻繁に帰っているのだろうか…否である。
血の繋がりがあるから故に拗れてしまうこともあり、
何日もゆっくりとできないのは何故だろう…と改めて自分の故郷を思った。
生まれ育った場所だけが、ふるさととは言えないかもしれない。
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浅田次郎作品、久しぶり。
私は雪深くはないとはいえ、ある意味限界集落に近い場所に住んでいるので、「ふるさとを求める」人の気持ちはよくわからないところもある。
まだ親が健在だからかもしれないけど。
でも例えば親だとしたって、すべてを肯定してくれるわけじゃないのに、行きさえすれば、絶対に肯定されて優しく甘く接してくれる人がいるということは、確かに救いなのかも。
そういうものにハマる人の気持ちはちょっと、わかるかなぁ…。