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投稿者:ダタ - この投稿者のレビュー一覧を見る
心が妙に浮き足立つ時、落ち着かない時、
この人の本を読むに限る。
当たり前のことだけれど、
自分の知らない場所や街にも、
同じ時間が流れ、生活があることを実感する。
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『机』から始まり『椅子』に至るまで、モノについて書かれた全百回の新聞連載エッセイ。著者がこれまでの人生で出会った人々との記憶を、モノを頼りにじっくりと辿っていくような文章です。
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山形の木工職人に作ってもらった楢の木の机から見渡す世界。机の上に置かれる石だったり貝だったり、酒だったり食器だったり、果物だったり図鑑だったり、机の先の窓から見える植物だったり鳥だったり。そして、机に座って思い出す人だったり、出来事だったり。いかに著者の文学が、半径2メートル以内のディテールから出来ていることが感じられます。なので、この本のサブタイトルは「ものをめぐる文学的自叙伝」です。新聞連載の作家のエッセイという建て付けから始まっていますが、佐伯一麦という小説家の構成要素がすべて網羅されているような気がしました。一個一個のモノが、そのモノを巡るエピソードが濃厚なストーリーを持っていて、またそのストーリー同士が絡み合ったりして、彼の人生の忘れられないこまごまが、彼の小説のすべてなのかもしれません。庭木 ドクダミの章で語られている私見、作家の中で最も植物に詳しかったのは井伏鱒二、その反対なのが三島由紀夫という部分が印象的で、現代の文学における私小説という位置づけはまったく理解していない上で、佐伯一麦が私小説の作家とされることに納得しました。東日本震災後の内向の世代の古井由吉との新聞紙上の往復書簡の連載も、その流れで成立しているのでしょう。「空にみずうみ」読んでみようかな…
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コロナ禍による引き籠りの影響か、確かに、近頃、家具や机回り、文具関連が気になる傾向にある。そんな折に出会った、私小説作家のエッセイだ。しかも「Nさんの机」という気になるタイトルで。
新聞連載(山形新聞)がまとまったもので、作家生活30年の区切りに文机を新調する著者。懇意にしている木工作家(それがNさん)の工房に出向いて、木を選び製作してもらうところから始まる。米沢に出向いて、木を選び、表題にある「Nさん」に作ってもらった。
その文机や、自宅で使う道具類をメインに語られるが、モチーフは著者の書斎周りの自然環境や、道具にまつわる交流のあった作家たちとの思い出など。古井由吉、黒井千次、三浦哲郎、島田雅彦・・・
「黒井氏もまた、富士重工に勤めながら小説を書いていた時期があった。」
あぁ、黒井千次が武蔵野界隈、中央線沿線に居たのは富士重工務めだったからか!?と、先日読んだ『中央線小説傑作選』(南陀楼綾繁編)の「たまらん坂」が思い出される(https://booklog.jp/users/yaj1102/archives/1/4122071933 ) 。
「人気のまばらな逗子駅近くでは、同じく朝帰りとおぼしい芥川賞を受賞したばかりの辺見庸氏をたびたび見かけたものだった。」
著者の少し前の世代から、同世代、若い世代と、作家仲間との交流が面白く綴られている。
Nさんの机の回りに置かれた、文具、家具、想い出の品々の向こうに垣間見えるのは、小説家としての著者の執筆人生と文学的交流、創作への自己研鑽、そして文章へのこだわりだった。
道具への愛着を通じて見える、著者の作家人生は、静謐ながらも実に豊穣だった。羨ましいほどに。
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ちょっとだけ手間をかけた小鉢の料理を食べているような気分になった。
横山やすしの取材の時の話(あんちゃんだけここに残れや124p)や、中上健次の革ジャンの思い出(158p)は、心に残る。
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毎日、Nさんに作成してもらった机につき、「自分の書くものも職人の潔い手仕事のようであれ」と心の中で念じてから執筆を始めるそうです。佐伯一麦さん「Nさんの机で」、ものをめぐる文学的自叙伝、2022.4発行。机、筆記具、ワープロ(1989~)とパソコン(1997~)、机の上の小物、手紙(桐の箱に)、眼鏡、作務衣、辞書、図鑑、月齢付きカレンダー、オーディオ、コーヒーメーカー、茶筒、酒、庭木、風呂敷、スーツケース、鞄とリュック、靴、マフラーとセーター、椅子などに関するエッセイ集。