紙の本
嘘の物語
2022/10/24 10:08
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投稿者:kapa - この投稿者のレビュー一覧を見る
カバー・デザインが決め手となって買った。CDのように本の「ジャケ買い」。『ギャラリーフェイク 35 』レビューで書いた、お気に入りの象徴主義のスイス画家アルノルト・ベックリンの『死の島』が使われている。日本語タイトル『魔王の島』とか、孤島で繰り広げられる不安、恐怖、そして死のイメージと数々の謎という紹介文を表現するのにぴったりなデザインだ。カリブ海の島で繰り広げられるゾンビ物語である「生ける屍」(ピーター・ディキンスン著ちくま文庫2013)でも使われており、2冊目だろうか(この絵画にインスピレーションを得た福永武彦の「死の島」の本で使われたことはないが)。
ということで内容は二の次であったが一気に読んだ。仏ミステリは初めてだが、よく読む独ミステリとは展開が違っている。折しもNHKで放映されたフランス発の犯罪ミステリ『アストリッドとラファエル』のシーズン1が終わったところだった。全10話を見て仏ミステリというのはこういうつくりとテイストなのか、と感じた。フランス語が「理性の言語」だからか、劇中登場人物から、欧州の歴史と文化を感じさせるような知識・言葉が自然と出てくる(中でも二コラ警部がその中心)一方で、米国文化への対抗的な扱い(自閉症アスペルガー症候群のアストリッドを主人公にするところはTVドラマ『名探偵モンク』、映画『マーキュリー・ライジング』だし、『レインマン』になぞらえもする)も垣間見える。犯罪捜査をパズルに見立てて、ピースをひとつずつ積み上げ解いていき、毎回予想出来ないような結末が特徴となっているのだが、本書も同じような展開だ。
大学の精神医学講座のケース・スタディという形で事件の概要が述べられていく。主人公と思しきサンドリーヌが、亡くなった祖母の遺品整理のため、ノルマンディー沖の孤島を訪ねるところから始まる。いわくありげなその島には、年老いた四人の島民が暮らしていた。彼らは島に秘密があることをにおわせる。だが、正体不明の何か、ゲーテの詩の「魔王」に擬せられる、に怯えているようで、決して島の秘密を明かそうとしない。1949年と1986年の時空を跨いで謎めいた物語が断片的に展開する。ナチス的テーマ「生命の泉」も登場し、ホラー的要素もある。
ところが次の章では、1986年血塗れの服を着たサンドリーヌが保護され、いきなり殺人事件の様相を呈し現実的な世界へと引き戻される(仏原書の表紙は血塗られたドレスを着た女性の姿で、「死の島」ではない)。精神を病んだサンドリーヌの証言は島の経験による不可解な内容。担当刑事ダミアンと担当精神科医ヴェロニクがパズルを解く展開となる。トラウマを負った患者は、心の「避難所」(仏原書タイトルLes refuges)をつくってそこに逃避する。多くは虚構の世界で、そのおかげで患者は目を背けたいトラウマ体験から守られている。だが、現実の一部が含まれており、二人は鍵となる言葉(「道しるべ」)を探し、「パズル」を解くように捜査していく。クリストファー・ノーラン/ディカプリオの映画『インセプション』のように、深層心理の深奥に入っていくかのように物語が展開する。
そして一つの「道しるべ」から殺人事件に結びつき、新たなサンドリーヌの証言を得て彼女の経験が明かされるのだが、それも実は新たな「避難所」で嘘だったのだ。それでもダミアンは「道しるべ」を探し、ついに真相にたどり着いて事件は解決…と思いきや、これらの講義内容は全て嘘という展開。これでは物語は終われない。パズルを解く最後のピースが示され驚愕の結末となる…。そのピースは残酷な「現実」であった。まるで精神医学の講義のようなミステリである。
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【反則スレスレのサプライズ・ミステリー登場】その島には忌まわしい「魔王」がいる。戦中のナチスの影が蠢く島に封じられた秘密とは? 数多の伏線がもたらす驚愕のドンデン返し!
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構成の素晴らしさと、アイデアはすごいと思います。
が、それを利用してこういう物語しか書けないのだろうか…? うーん、もっと違う方向性もあったのではないかなぁ。
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マトリョーシカのように、三重四重に構成された作品。じわりじわりと、少しずつ謎が解かれていく。
人の心は、各の如く捉えがたい…。
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何を書いてもネタバレになるとはなるほどこういうことか!
フレンチミステリ好きなら文句なしに楽しめると思います
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これまでの常識を覆してくれる作品(^◇^;)
いろいろな意味でこうした作品が発表されるのは、ミステリファンとしては大歓迎!
ですが、これ以上のことが書けないことが……。
興味があったら一読を!
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不気味な島で女性が遭遇する不可思議な出来事と、その事件を調べる警部。
ゲーテの詩「魔王」をモチーフに繰り広げられる、謎と罠に満ちたミステリー。
得体のしれない不気味さと、ときおり現れる違和感が、やがて真相へとつながっていく過程はなんとも恐ろしい。
反則ぎりぎりのミステリーとも言えるが、骨格も人物造形もしっかりとしていて、トリッキーなものにありがちな安っぽさとは無縁だ。読み進めるほどに不安と恐怖が募り、重厚なサイコミステリーとして深い印象を残す作品だった。
読書好きな友だちにおすすめしようっと。
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ストーリーの大半が、娘を失った登場人物が自我を守るために作った作り話で、そのことが最後に分かるようなっている(逆に言うと最後まで分からなかった)
別の小説で、ストーリーの大半が加害者の書いた小説だった、というのがあって、この時は、ちょっとそれはないよ、と思わないでもなかったが、
「魔王の島」は、よく出来ていて、納得感があった
アイデアとして凄いと思ったのが、
作り話の中の架空人物が更に作り話を作っているという、2重の構造になっていることで、
小説の中盤で、前半部分が作り話であることが明かされるが、
このことで、後半部分は虚構ではないと思わせるようになっている。
でも、最後まで読むと、逆に、後半も虚構であること示唆していたことが分かるという作りになっている。
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これはないのでは感と力技、すごい!、と印象がないまぜになるのを止められません。終盤まですごい!と思って読み進めたけれど、なんとも言えない後味が。いやもう、ここまで世界が練り上げられるのはむしろ驚異的ですよ。全て創作物にすべきです。衝撃度が圧倒的だったその女アレックスを思い出しました(←ストーリーは全く違いますよ、念の為)フレンチミステリはいろんな世界を見せてくれるなあ、、としみじみ感じ入ります。これからの出会いが楽しみです。
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着想や構成を楽しんだ人勝ちなんだろうけれど、うーん。
正直私は、◯◯物も、女性や子どもが嫌な目に会うのも辛過ぎてダメなので、それほどページターナーではなく、むしろ重い気持ちで難儀した。ダ◯◯◯が出てきたあたりで、そうかもなーと思ったら、やはりそういう結末に。
入れ子のような、層のような構成は、感覚的に面白かった。
まあちょっと苦しい読書だったな。
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えっっ⁉︎とにかく驚き‼︎
海外作品苦手な私が一気読みしてしまった。これはミステリーなのかなんなのか。いやいや、人間の心こそミステリーそのものだ。
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2023.1.26
後半は展開読めちゃって萎えたけど全体的には満足。
ずっと不穏な感じが漂ってて好みだった。
サンドリーヌの島での描写もっと欲しかった。
あと、サンドリーヌの現実世界に島の住民が地域住民として出てくるけど、シモンいたっけ…?彼は架空の人物…?
最初からもう一度読んだ方がハマれそうだな、、
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良くある孤島に取り残され系かと思いきや2章で予想しない展開になり、3章で真相も犯人も分かった!と思わせておいてからの4章で明かされる事件の全貌。構成がすごい。
このミス2023海外編10位。これで10位って今年はレベル高いなあ。
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あの最後のエピローグで完全にやられました。心の避難所。それが「誰の」避難所だったのか。冒頭からヒントがいくつかありましたが(サンドリーヌが感じる数々の違和感や不快感)、まさかここまでもがほとんど虚構だったのか!結局、彼は避難所に棲んだままなんだけど、ある種の生きる希望を得た架空の現実を生きるのは幸せなことなのかもしれない。精神の異常の描き方は秀逸でした。
好みの問題かもしれませんが、感動のストーリーをウリにしたあからさまな話より、こういう話の方がずしりと来ます。面白かった!
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初めは女性記者が祖母の訃報を受けて島を訪れる話だったが、心の避難所をテーマに話は二転三転する。最後はそう来たか?と感慨深い。