紙の本
世界は繋がり、世界はひとつではない
2023/03/17 12:59
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投稿者:あお - この投稿者のレビュー一覧を見る
内容的には雪月花と似たような、文学・本にまつわる話、それに関する著者の所感、と簡単に言ってしまえばそうなるかと思います。
個人的に本そのものは好きですが、歌舞伎や落語、近代文学のことはほとんど全くと言っていいほど分からないので、著者のいわば「推しポイント」が今ひとつしっくり来ず、そんな自分が残念だなあと思ってしまいました。
しかし、「赤とんぼ」を聴いて何を思い浮かべるかはその人の感性次第であり、そういうものを大切にしたい、というところのくだりは共感できました。
エラリィ・クイーンへの評価についても、数十年前に知人からちらりと聞いただけの「悪評」がそのまま自分の評価になってしまうような、「ある一点」だけで物事を決められてしまう怖さ、やるせなさが伝わってきました。
世界はひとつではない、人の数だけ存在するということを、自分の好きな「本」を通して再認識できたのが良かったです。
また、著者は文学・文芸にまつわる小さな謎を追う中で、過去に自分が見聞きしたこと、期せずして他人から差し出されたものなどとの様々な繋がりを感じます。
それもまた、世界の神秘だなと思わせられました。
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Amazonの紹介より
本を愛する作家が、言葉と物語の発する光を掬(すく)い取り、その輝きを伝える7篇。
懐かしくて新しい物語の言葉が、映像や詩や短歌、歌のことばに結び合わされて光を放ち、豊かに輝き出す。
向田邦子、隆慶一郎、山川静夫、遠藤周作、小林信彦、橋本治、庄野潤三、岸田今日子、エラリー・クイーン、芥川龍之介……思いがけなく繋がっていく面白さ。本の達人ならではの探索と発見が胸を打つ。
「謎解きの達人、7編の小説集」と紹介されていたので、てっきりミステリー小説かと思っていました。
どころが、読んでみると結果的に自ら体験するという私小説(あるいはエッセイっぽい?)ということで、文学好きにはたまらないビッグネームの数々の話題に色々楽しめました。
ただ、個人的にはわからないことだらけでした。
というのも、小説に出てくる実際の人物が、半分以上わからなかったのです。自分の父親・祖父世代にとっては大変有名な方だと思いますが、全然ピンと来ず、ただただ「へぇーそうなんだ」ぐらいしか感想がないなと思いました。
主に昭和初期の話題が中心で、様々な著名人に関するへぇーが詰まっていて、ためになりました。
特に文学によるカルタ。様々な作品の一文を「いろは」順に書かれていて、興味をそそりました。
他にも、様々な知識が散りばめられているのですが、凄い驚いて印象に残ったというわけではなく、翌日になったら忘れているかも・・・といったものばかりでしたので、結果的にあまり残らなかった印象でした。
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『雪月花』の時も思ったけど、本や落語や歌舞伎など北村薫の趣味に特化した私小説なんだろう、あえて副題に小説と付けるのは。
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「本の小説」とあるが、中身は随筆のよう。
文体はですます調で小説らしいのだが、本書で著者がこだわる私小説というものだろうか。
中身は著者の文芸に関する博覧強記を縦横に生かした、古今東西の古典、名作について著者の周辺に起こったエピソードで満たされている。
「中野のお父さん」シリーズのように間接的ではなく、著者の思いを直接投影したという意味では、小説、なのかもしれない。
波乱万丈の展開は全くないが、先人が残した遺産のほんの一端に触れ、生きているうちにはそれらを通読する時間を持とうと思わせられる。
数多ある現代の「通俗的」作品群とは明らかに一線を画している。
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タイトルには「小説」とあるが、以前に読んだ『雪月花: 謎解き私小説』と同様、小説とはいえない。私小説というのも苦しくて、エッセイのほうがしっくりくる。もちろん、本書に書かれていることのすべてが虚構だったらすごいが……。
北村さんの日常に起きた小さなことを起点に、あたかも水が流れるように様々なことを思索していく過程を描く。それは本の話に限らず、落語や歌舞伎にまで及ぶ。いつものことだが、その豊富な知識とそれを引き出す能力に圧倒された。
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著者のお得意の文学評論?古書探偵のような心地よいエッセイ。
こんな話なら文学部学生として聴講してみたい。と理系人間はいつも思います。
今回の最終章、「水」は地元金沢の3文豪のお話でしたが、全く知らなかった話が多くて、興味すらなかった文豪にこの歳になって再確認しました。秋声、読んでみます。
公箱蟹の名前の由来、かめなくやさんとか、新しい発見がとにかくいっぱいで楽しかった、保存版です。
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さまざまな文学に関するエッセイ。タイトルに「小説」とあるのですが、エッセイですよね。でもとにかく小説好きなら、楽しく読める一冊です。
読書感想文、映画化したものを見て書くってのは実際に聞いたことがあります。たしかに楽かもしれないけれどね。本を読むことでしか得られない楽しさってのはあると思うんだよなあ。とはいえ本を読むことって、習慣にしないとできなくなってしまうのかも。
文学いろはかるたが楽しい! 不勉強なので分かるものは少ししかなかったのですが。これは自分の好きな作品とか作家さんとかで作ってみたくなりました。
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■5つのメモ
・「なんやこれ?」ビッグバンからこっち宇宙が広がり続けているように、本を起点にどんどん話が広がっていってもうてもう止まらへん。話が飛んで何処かにいってもうたと思うてたら最終的に戻ってきたり、めくるめくとゆうか、書名に合わせてゆうたら、水の波紋のようにって感じ。これ、一種の私小説なんやろうけど小説やからたぶん、実際にあったことより豊かな感じに、おもしろおかしくなってるんやろうと思います。
・ヲタクの世界ですな(今は特にマイナスイメージはあらへんですよね?)。そうでない人には理解できないことも多々あるかと。橋本治さんの《日本人作家の小林信彦氏は、日本人読者を、必ず微妙なところで外人にしてしまうのである。小林信彦が難解だというのはそういうところだが》(p.48)という引用がありますが北村薫さんもある意味難解で、んで、知識的にも感性的にも「こんくらい理解できるようになりやぁ」と促されてるようなもんなんでなかなかタイヘンやなあ。《もし理会出来ないなら、バーを下げるのではなく読者の方が跳べるようにならなくてはいけない。それが、小説の文章と実用文の違うところです。》(p.133)ということではあるんやけど。
・「読む」ゆう行為はどういうことなんか? 《この読みは、語られる小林以上に、語る橋本治を、語っているのです。》(p.51)。《今日子ちゃんの読みは間違っていても、正しかったのです。》(p.54)。《読みの値打ちは、ここにあります。読まれる対象という海に飛び込み、宝玉を見つけてくるのが、読むという行為なのです。》(p.54)。本であれ何であれ読解ゆうのは読むゆう行為の中で自分自身の作品を(無意識に)作っていってるようなもんやと思います。たとえば批評家たちの書く文は一見対象を解き明かしていってるように見えてるけど実は自分のことを描いてる「フィクション」なんやと思うてます。せやから「これは深読みすぎやろう?」てことが当然のことなんやと。フィクションなんですから。
・自分の「文学かるた」を作りたくなった人多そうです。どうせなら全部異なる著者でいきたいもんやなあ、とか思ったりしてます。ですが、ぼくらの教養やと「ゐ」や「ゑ」や「を」にどの言葉を当てはめたらええのんかようわからへんかも。
・『中野のお父さん』でもそんなこと書いてはりましたね? 《とにかく、何でも持っていないといけない。いつかは役に立つ》(p.220)。さすがになあ…金もなく、狭い家に住んでる素人としてはなかなか…。読んでは売り、売っては読むというタケノコ生活になってまいますねえ。延べでいうと蔵書量一万冊程度(雑誌含めたらその倍程度)やろう思いますが、今あるのは千冊~二千冊くらいでしょう。それにしても、この北村薫さんに助言を与えることができる人が交友関係の中に多々おられるというのはおっそろしいもんです。
■この本はブックガイドではあらへんけど、つい読みたぁなった本(再読含む)や、なんらかの思いを抱いてた本がけっこう出てきます。
・向田邦子『無名仮名人名簿』。
・恩藏茂『「FMステーション」とエアチェックの80年代――僕らの音楽青春記』河出文庫。ちょうどその世代やったから『FMステーション』や『FMレコパル』読んでたんで興味あります。
・サマセット・モームの短編と『月と十ペンス』。再読になるけどとぉの昔に印象のうなってもうてるんで。
・『新潮世界文学』はかなり持ってたんやけど売ってもうて、「これだけ読んでれば、まあ本好きの一般人としては充分」って感じの全集やったからけっこう後悔してるんでいくらか買い戻したい気分。
・春陽堂の「ウーブル・コンプレート」場所減らしに便利やったなあ。夏目漱石と芥川龍之介の個人全集売って、有名どころの作品以外はこれで読みました。
・スタンリイ・エリン「特別料理」これも売った本。またちょっと読みたぁなりました。
・スコット・バーグ『名編集者パーキンズ』草思社文庫。それに書かれてるゆうわけではあらへんですが、なるほどピッチャーとキャッチャーの関係かあ。なんとなく納得。
・團伊玖磨『好きな歌・嫌いな歌』もちろん、好き嫌いは本人のもんですねん。
・小林信彦『決定版 日本の喜劇人』。
・『冗談そして閑談』青土社。
・ウェスト『孤独な娘』岩波文庫/『いなごの日・クール・ミリオン』…ぼくも「いなご」が飛んでくる話なんかと思うて読む気になれてませんでした。
・徳田秋聲『仮装人物』古いけど美本やった、たしか新潮文庫版を持ってましたが読まないまま手離してしまいました。
・伊藤人譽の著作。
・福原麟太郎『天才について』『命なりけり』講談社文芸文庫
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手/〇 まる/糸/湯/ゴ/札 ふだ/
本を読むのが本当に好きな人だと思い、その記憶量に頭がさがる。
読みながらこれは覚えておきたいという気持ちになる時はあるけれど、大体時のかなたになってしまう。
あれ?さっき読んだところと違わない?と思ってページを戻り見つけることもあれば見つからないこともある。私の記憶力はそのくらい。
と 思いながらも、読み終わればお友達が増えた感じがうれしい
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作者の書物、文芸一般に関する博覧強記ぶりを土台に、あちこちに書き連ねていく様に、ただただ驚くばかりです。個人的には「札」が一番おもしろかったです。