紙の本
研究史や史料の深い読み
2023/02/13 21:24
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投稿者:K2 - この投稿者のレビュー一覧を見る
都市王権と正当性の概念を手掛かりに、中世を考える野心作。権門体制論と東国国家論を相容れない学説とすることなく、後者によりながら、武家政権としての幕府の本質を明らかにする。研究史や史料の深い読み込みが印象的。ときに批判の舌鋒が鋭くなるのは、自身の研究に対する自信の故であろう。鎌倉幕府成立史の部分は特に刺激的。
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「室町幕府」はなかった
2023/05/05 22:28
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は、ただそこが将軍の「居処」ゆえに「室町幕府」と呼称することは、ほとんど意味がないと主張する。「○○幕府」は、東国国家論、二つの王権論といった議論に限定して用いるべきだともいう、私も読んでいてそう思えてきた
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<目次>
第1章 平家政権と「いくつもの幕府」
第2章 鎌倉幕府、正しくは東関幕府~正統性なき北条氏の正当性
第3章 足利将軍家の時代~二つの変動期と正当性の変容
第4章 織豊政権~近世の始動と中世の終焉
第5章 江戸幕府は完成形なのか~生存の近世化
<内容>
「幕府」について、副題のように「正当性」を問いながら、学説の流れをまとめていったもの。むろん、自説の主張のために打破していくだが、その筆致の圧力がすごい。言い方を変えると口が悪い。コテコテの関西人だと思う書き方だ。その論理は筋が通っている。基本、中世の泰斗、佐藤進一説推しである。
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支配の正当性の観点から武家政権を描き直す内容。個々の内容には興味深い点もあったが、総じて著者の見解がそれほど説得的とは思えず、強い自己顕彰の側面と、他研究者に対する傲慢な姿勢も相まって読むのに多大なストレスを感じた。読まなければ良かったと思うほどの不快な読後感を持ったのは近年ちょっと記憶に無い。研究者ではない身として内容の是非判断は難しいが、こうした見識下での立論にどこまで信を置けるかとなると、かなり厳しい。
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幕府の正当性について考察した歴史書である。都市王権、もっとあからさまに言えば都市民を食べさせることに注目する。
『応仁記』は公家も武家も庶民も奢侈を好んだことを応仁の乱の原因とする。人々が華麗さを好むと万民が苦しむという関係になっている。贅沢や飽食は世を乱す。人々が金を浪費し、華麗なものに執着することが社会の安定と経済の発展を妨げる。無駄に金を使って金を回すことが経済発展という昭和の感覚を否定する。
足利義政は土木事業を頻繁に起こし、天皇に叱責された。多数説は天皇を支持し、義政の悪政と評価する。これに対して少数説は、貧民に職を与える雇用創出事業であったと積極的に評価する。しかし、「大規模土木事業を興し、雇用を創出すればするほど、窮民を京都に集める結果となる」(227頁)。
後の豊臣秀吉も大規模普請によって雇用創出を図った。しかし、劣悪な労働条件のために負傷して働けなくなり、乞食になった人々が京に充満した。「雇用創出の理想とは逆の結果も生まれた」(289頁)。
足利義政と豊臣秀吉の事例から大規模な土木事業が雇用を創出する面があるものの、その結果として窮民が京都に集まり、劣悪な労働条件下で働くことを余儀なくされた。金を回すことが経済発展とはならない。