紙の本
ひとを信頼できるということ
2024/05/15 15:50
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この『古くてあたらしい仕事』は、
近年たくさんの「ひとり出版社」が誕生するきっかけともなった
出版社「夏葉社」の経営者でかつ編集者であり営業マンでもあり、
その他もろもろの仕事をひとりでこなす(ひとり出版社ゆえの)島田潤一郎さんの
書き下ろしエッセイである。
大急ぎで書き足しておくと、
島田さんは確かに「ひとり出版社」であるが、決して自分ひとりの力で
多くの注目と称賛を集めたとは言っていない。
むしろ、自分を支えてくれている他の出版社や書店、あるいは読者があって
はじめて事業が成り立っていると書いている。
つまり、「ひとり出版社」は決してひとりではない。
むしろ、ひとりゆえに、助けてくれるたくさんの力が存在するといっていい。
本書は二つの章で構成されている。
ひとつは「だれかのための仕事」で、
転職活動がうまくいかない中、仲がよかった一歳年上の従兄が事故で急逝したことをきっかけにして、
33歳で「ひとり出版社」を立ち上げるまでの思いを綴ったもの。
もうひとつは「小さな声のする方へ」と題され、
出版事業や本屋さん、そして本を愛する人たちへのほとばしる思いが綴られている。
特にふたつめの章では、働くということや本を読むということについて
多くの示唆に富んでいて、何度でも読みたくなる。
そして、何よりもそういう思いがある島田さんだからゆえに、
その人がこの世界に送り出してくれた本に信頼がおけると思う。
また今度、夏葉社の本を手にしたい。
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夏葉社日記を読んでから島田さんをもっと知りたくなり、手に入る物を少しずつ。『あしたから出版社』よりもう少し進んだ、島田さんの考えのまとめだなと思った。本屋さんや本に対する考えや意識している向きが色々参考になった。自分の仕事をより良く、効率だけでは無い何かも含めつつ行なっていく大切さを教えてもらった。新潮文庫の紙の気持ちいい手触りがページを捲るだけでも良い気分にさせてくれた。本って、本屋って良いなと。
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ひとり出版社夏葉社を立ち上げ素敵な本を出し続けている島田さんが、出版社を作ることになった経緯や様々な苦労、本作りにかける思いなどを綴ったエッセイ。
夏葉社を立ち上げることになったいきさつは、『あしたから出版社』でも書かれているので、結構知られていることだと思うが、とても仲の良かった従兄の事故での急逝、息子を亡くしてしまった叔父、叔母の心を支えるために、ヘンリー・スコット・ホランドというイギリスの神学者の書いた一編の詩を本に仕立て、プレゼントしよう、その夢を実現するため出版社を立ち上げたのだった。
起業に当たってA4一枚の事業計画書を作り、その事業目的に「何度も読み返される、定番といわれるような本を、一冊一冊妥協せずにつくる…」としたことに、島田さんの本に対する思い、出版社という事業、仕事をしようとした思いが良く表れていると思う。
夏葉社の本は装丁や版型を含め丁寧な本作りだなあと感じていたが、本書ではそういった本を出していくための島田さんの哲学、考え方が丁寧に説明され、また、実際の仕事の進め方や全国の書店への営業、金銭的な苦労についての話などが具体的に書かれていて、自分たち読者にこうして一冊の本が届くのかとの感慨も覚えた。
「人生が一度きりなのであれば、ぼくはいまの仕事をできるだけ長く続けたい。/それくらい、ぼくはいまの自分の仕事が好きだ。/大好きだ。」(はじめに)
こんな思いで仕事をしたかったものだ。(嘆息)
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読みながら、温かい気持ちになれる本。
言葉づかいがやさしく、わかりやすいからか、文字を追うのが心地良くてあっという間に読み終えてしまった。
日々の「はたらく」をとおして、人との接し方や生き方などにおける「忘れがちだけど大切なもの」を教えてもらったような気がする。
「本」という存在や「読書」という行為についての島田さんなりの解釈も面白く、発見があった。
ほかの著書もぜひ、読んでみたい。
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本好きにはこういう方がいて嬉しいし、共感ポイントがたくさんありました。損得でなく、真っ直ぐお仕事に向き合う姿が素敵です。本、そして本屋さんの良さを改めて思いました。
これは私の個人的な話ですが、先日、気に入っていた書店にふらりと寄ったら、あと数日で閉店するとのこと。店員さんに思わず気持ちを伝えました。出版社ごとでなく作家ごとに並べられてい手探しやすかったこと、平積みしてある本のセレクトが好きだったことなどお話ししたら、たまたまそのお姉さんがそれらを自由に任せてもらっていたとのこと。本についてのこだわり・熱を感じて、閉店がますます寂しくなったのですが、そこで最後に出会って買ったのがこの本だったのも良い思い出になりそうです。また、思いがけず私が心に留めておいた詩が載っていてびっくりしたり、この本を持って電車で出かけた帰りに読んだページにたまたまその場所が載っていたり。個人的に運命を感じた本でした。
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ひとり出版社“夏葉社”をされている島田潤一郎さんの、本への想いが溢れ綴られているエッセイ。本を扱う仕事に携わる人間として、悩んだ時にいつでも立ち戻れる場所がこのエッセイだと思った。終始涙が出そうだったのをこらえた。100人に1人、いやもっと少ないかもしれないけれど、そんな瞬間のために、その人のために、わたしも誠実に仕事をしようと思った。
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仕事のあり方とか、「本」というものに対する考え方とか、自分の住んでる町の文化とか、そういうものにゆっくりしっかり目を向けたくなる。
自分は小さな仕事を生業にできるのだろうか。