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桐矢さんのレビュー一覧

投稿者:桐矢

67 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

紙の本万延元年のフットボール

2001/02/22 23:53

密度の濃い時間を

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 エンターティメント系の作品を読み慣れていると、やはりこういうのは初めとっつきにくい。文章の間の密度の桁が違うのだ。
 それでも、途中からは一気に読めてしまった。翻訳家である「僕」と弟の「鷹」が、故郷である四国の村に帰る。近代的なスーパーマーケットの天皇に卑屈に接しながら、人種的な優越感を隠そうとしない村人達。閉鎖的な空間は、地続きで万延元年の百姓一揆の時代に繋がっている。
 話をひっぱるすじは、その百姓一揆の首謀者であった、曾祖父の弟の真実。彼は、卑怯者だったのか。それとも、鷹が切望する通り本当の英雄であったのか。
 幼児のように、内側に丸くこもってあくまで傍観者であろうとする僕にくらべて、鷹のキャラクターが魅力的だ。暴力的な自分を極限まで演出することで自らの中にある地獄の縁を乗り越えようと模索する。そのぎりぎりの危うさに結末まで読者は目が離せない。


 それにしても、大江健三郎の作品に繰り返し、同じような登場人物が出てくるのはなぜだろう?
 「頭を赤く塗って肛門にキューリを差し込んで縊死した」友人。こんなにインパクトのある人物を違う作品にも登場させている。その他にも、S兄さんや、ギー、少しずつキャラクターは違うが、やはり、他の作品に登場している。それから、大江健三郎の作品にいつも出てくる祖母。(今回は大した出番は無かった)「……ですが!」という方言がなんとも言えず、わたしは好きだ。

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紙の本

紙の本百年の孤独

2001/03/03 10:14

百年の重さ

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 まず、時間の単位が違う。一夏の純愛物語とか、一週間の旅行記などとは訳が違うのだ。百数十年の時間が一冊の本に詰まっている。マコンドという村を作り上げ、マコンドの終わりと共に消滅したブエンディーア一族の盛衰記だ。
 たくさんの登場人物の一人一人に感情移入したりして読んではいけない。あっという間に、子供だった彼は壮年になり、頑固な老人になり、惚けて立ち小便をしながら死んでいく。それが、三世代か四世代繰り返される。それに、繰り返し付けられる同じ名前。二十人以上登場する「アウレリャーノ」の血縁関係を混乱しないようにメモに取りながら読んだ方がいいかもしれない。
 そして、なにより読者の頭をくらくらさせるのは、緻密にリアルに語られる村の細々した出来事、自動ピアノが響くパーティ、淫売屋や、トルコ人街、バナナ農場の労務者達、壁に巣食う白蟻、などなどの日常の中で超常現象が当たり前に語られ、幽霊がそこらを歩き回るその違和感のなさ! 物語がすすんで、飛行機が飛びパリのモード雑誌を読んでいるそのわきにも、村の創始者の亡霊が歩き回る。
 このへんはもしかしたら、あらゆるものに神が宿り、精霊(妖怪?)と、祖霊に守られているというアミニズム的感覚を古来より持つ日本人には理解しやすい部分かもしれない。
 「むかしむかし…」で始まるおばあちゃんの長い長い繰り返しのお話、そんな印象を受けるこの物語の主人公は、マコンドという村そのものなのだ。

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紙の本

紙の本ビート・キッズ 2

2001/03/03 10:05

さらに魅力的なキャラ登場で

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 前作『ビートキッズ』では中学生だったエイジが、高校2年生になって帰ってきた。
 軽音楽部のロックバンド「ビートキッズ」のドラムのエイジが主人公。ボーカルのゲンタは、可愛い顔ながらやる事は子供そのもので女子には悪ゲンタと呼ばれている。リーダーのシゲは老け顔で中身も一番のしっかり者。ギターのサトシは、成績優秀の頭脳派で前作の七生をちょっと思い出させる。ロックコンテストに出る事になったり、エイジが他のバンドに引き抜かれそうになったり、今回もなにかと騒動がおこる。
 キャラクターが生き生きと弾けるくらい飛び回っている。一気に読ませる小説というものの力がキャラクターの魅力によるものだということがよく分かる。
 全編大阪弁、笑いあり涙ありで、前作をさらに上回るパワフルなエンターティメントに仕上がっている。作者は実際に仲間とバンドを組んでいて、もちろんドラマーである。

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紙の本

紙の本ビート・キッズ

2001/03/03 10:02

活字なれしていない中学生にプレゼントしてみては?

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 全編大阪弁で笑って泣かせる人情ドラマ。
 講談社児童文学新人賞受賞作品。多分マンガで育った中高生にもスムーズに読めると思うし、大人が読んでも楽しい。やっぱり大阪弁の一人称には独特の味わいがある。これが東北弁だったら全然違うものになっていただろう。
 主人公は横山英二、中学二年生。天然ぼけが入ってるが優しくて明るく、リズム感は抜群。ついふらふらと誘われて入った吹奏楽部でパーカッションを任されることになる。もう一人の主人公、菅野七生は、成績優秀、超クールで音楽センスも超一流の二枚目。ぼけの英二と突っ込みの七生。この二人が所属する、顧問に見放された吹奏楽部がさまざまなトラブルを乗り越えて、万博公園ドリルフェスティバルですばらしい演奏を披露する。
 吹奏楽部が野球部になったりバスケ部になったりすればストーリーとしてはわりとメジャーな路線だと思う。この作品の面白さは話の筋よりもその魅力あるキャラクターによるところが大きい。主人公の二人の他にも、アル中ぎみでひょうきんな英二の父ちゃんがいい味を出している。読者の要望でパート2が出版され、さらに3が出る予定もあるそうだ。2001年、舞台公演も決まっている。
 なんといってもいきのいいキャラが読者を引っ張っている。

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紙の本

紙の本小説「聖書」 旧約篇上

2001/02/09 16:50

一度はどうぞ

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 一度聖書は通読したいと思っていた。
 世界中で文句無しにナンバーワンのベストセラーである聖書は、重複していたり、長々と系図が出てきたりして、数度の通読で全体を捉えるのは難しいという。
 ともかく、一続きの物語として編み直された旧約聖書を読み終えてみて、まず思う。なんでこんなにうんざりするほどおろかな過ちを繰り返すのだろう。兄弟を殺し、隣人の妻を奪い、異教を崇拝し、怠惰と贅沢にふける。名君と歌われた王でさえ例外ではない。訳者あとがきにあるように、車輪が回るように、神のまえに悔い改めてはまたあやまちを繰り返す。車輪は回り続けて二十世紀の今日に至っている。
 ヤハウェの神は辛抱強いのか短気なのか。神に背く人々に怒りの鉄拳をしょっちゅう落とすわりには何千年もの繰り返しによく飽きないものだと思う。疑りぶかく信仰心を試させるようなことをしたり慈悲心に溢れていたりもする。
 それにしても、やはり読んだかいはあった。あちこちにさまざまな文学、絵画、マンガなどなどへの引用の元を見つけた。引用された原典の物語を知っているのといないのとでは見方も変わってくる。わたしのような無神論者(ごく一般的な日本人として)には共通のそのベースがない。
 そういう意味でも旧約聖書は、キリスト、イスラム教圏の文化の神髄であると言えるのかもしれない。

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紙の本

紙の本老人力 1

2001/02/09 15:36

誤解していませんか?

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 元祖老人力の人、赤瀬川原平のエッセー。
 老人力は誤解されやすい。わたしも間違って使っていたかもしれない。
 老人力は、マイナスのパワーだ。だが、老人に残された力……というのではない。例えば重い荷物を前にして、「いやあこのくらいの物、まだまだ老人力で頑張りますよ」というような使い方は間違い。単なる力の欠乏を言うのではない。
 著者も老人力の定義には手を焼いているようだ。なにしろ、定義する……ということを放棄するのがそもそも老人力なのだから。あえていえば、力の欠乏ではなく、肩の力を抜く、努力しない、ポジティブに忘れる、眠る力(不眠症というものがあるくらいで努力して眠ることはできない)などなど……。
 抽象的に言えば、凝り固まった自我を解体していく力……とでも言おうか。そういう意味ではまだまだわたしなど若いのであった(忘れる力は着実に付いてきているが……)。

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紙の本

紙の本ナシスの塔の物語

2001/03/29 10:59

ただ石を積んで…

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 さらさらと流れる砂の乾いた音が聞こえてくる。ナシスという砂漠の辺境の架空の街が舞台。
 昔ながらの職人の家に育ったリュタは、父親の様にりっぱな職人になることを目指して、修行の毎日を送っている。だが、その一方では、より早くより大量のものを魔法のように作り出すことの出来る、ドロスのはぐるまにも、憧れている。
 辺境の街は、はぐるまによって、変っていく。馬の代りに車が走り、砂漠を切り開き、新しい家が建ち並ぶようになる。はぐるま…人知の力は、砂漠…不毛の地を楽園に変えることが出来るのだろうか?
 愚者として登場するトンビは、最初から最後まで変わらない。街の外、荒れ果てた丘のうえに、ひたすら石を積み、たった一人で、高い塔を作り続けている。結果的にトンビは人々を救うことになるが、それはトンビがそうしようと思ってしたことではない。トンビはただ、空の上にいる死んでトンビになった母さんに会いたくて、ただその想いだけで石を積み続けたのだ。
 街を大きく住みやすくしていこうとしたドロス。昔ながらのやり方のなかに人としての幸せを探した職人たち。どちらが善でどちらが悪だと、言い切れるだろうか? 真実に一番近いところにいるかもしれないのが、愚者のトンビだった。
 架空の街のようすと暮らしがていねいに描写され、しっかりしたバックグラウンドがあることで、骨太のファンタジーになっている。

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紙の本

紙の本エリ・エリ

2001/03/29 10:28

ストレートど真ん中SF

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 第一回小松左京賞受賞作品。小松左京がさまざまな作品で描いてきたテーマ、「人類の未来」「神の存在とは」に真正面から取り組んだ力作。
 舞台は21世紀半ば。「神はいない」敬虔なクリスチャンだった友人の最後の一言が、主人公の牧師、榊をアルコールに溺れさせた。極限まで進んだ科学が非論理的な存在を否定する。
 その一方で異星人による誘拐・アブダクション事件が続発していた。神を失った人類は、超越者としての異星人を求めるのか。NASAでは、太陽系外の地球型惑星へ宇宙船を飛ばそうというホメロス計画が進行している。
 そして、教会の威信をかけて、「科学によって神を証明」するために、バチカンの教皇自らが目をつけたのが、そのホメロス計画だった。
 著者の前作「エンデュミオン・エンデュミオン」をはるかに上回る完成度だ。登場人物は多いが、それぞれ魅力的で、わかりやすく書き分けられ、なぞを追ううちにこれだけの厚さの本が一気に読めてしまう。文句なしで、受賞が決まったというのも頷ける。
 後半にかけて、大きく俯瞰した構図になっていく。
 主人公の榊、気に入っているので、もっと活躍してほしかった。続巻を待ちたい。

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紙の本

紙の本でりばりぃAge

2001/03/29 10:17

少女の仕組み

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 主人公の中学二年生、真名子の家では週に一回は宅配ピザが夕食になる。教育マニアで健康マニアな母親は毎朝腐ったプールの藻のような色の健康ジュースを作り、夜は教育研究サークルに出かけて留守にする。
 おとなになりかけの少女の目の前に、理想的なモデルはもうない。古くさい女性像には吐き気がするし、理解ある態度を演じるとりつくろった母親の教育論にもうんざりしている。
 そんな時、夏期講習で出会ったロン毛の浪人生と、庭先に真っ白い洗濯物のはためく古ぼけた家。ちょっとだけ寄り道をすることで真名子は自分自身を取り戻していく。
 14才の少女の揺れる心は、男性にとっては摩訶不思議でヒステリックにしか写らないのかもしれないし、女性にとっては、過ぎ去った恥ずかしくも懐かしい感傷なのかもしれない。
 汚さや曖昧さを許せない少女の潔癖さが、もういい年になってしまったわたしには少々痛い。 同年代の少女、あるいは、男性にこそ、読んで欲しいと思う。

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紙の本

紙の本永遠の仔 上

2001/03/15 16:42

その先にある救い

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 天童荒太のベストセラー。
 物語は1979年と1997年とが同時に進行していく。17年前、霧に煙る霊峰の登山道で起きた事件。それ以来、ずっと別々の道をたどっていた優希と笙一郎と梁平が、運命に導かれるようにして再会する。そして再び事件は起こる。
 この作品は自分をアダルトチルドレンだと自覚していてなおかつその事実を消化出来ていない人…は読まないほうがいいかもしれない。辛い描写が多すぎる。
 救いを描くために地獄をも描かなくてはならないのは、作家の宿命なのだろうか。残酷なシーンが話題になった同じ作者の「家族狩り」でも「家族」の崩壊がテーマとなっていた。「永遠の仔」でも親と子の関係が重要なテーマの一つになっている。
 「その先にある救い」を描くために、作者は親と子をずたずたに切り裂く。なぶる。叩きのめす。けれど、神が死んだ現代、魔法も奇蹟も起きない。作者が啓示する救いはあまりに小さく頼りなく弱々しい光でしかない。人として生きていくということは、這いつくばり、血と涙を流し、引き千切られるような痛みを味わいながらも進んでいくことなのだ。
 ミステリー仕立てになっているが、あっとおどろくどんでん返しがあるわけではない。犯人の動機自体やや弱い。全体の作りよりも、少年少女達の個々の描写が痛いほど鋭い。
 血にまみれたような登場人物が多い中で、こたつでお茶を飲んでいるのが似合いそうな叔父夫婦の存在にほっと一息ついた。

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紙の本

悪を考える

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 この本は、副題にある通り、「虚偽と邪悪の心理学」の本である。「悪」に関しての心理学は、今までほとんど研究されていなかったという。人が生きていく上で、避けて通れない問題であるにもかかわらず。
 精神科医である著者が臨床の場で出会った、邪悪な人達についての、具体的な例が挙げられている。うそをつき、人を踏みにじり、己の欲を満たそうとだけする人々は確かに存在する。
 著者は、キリスト教信者としての立場を隠そうとしていない。悪が行き過ぎた利己心の行使であるとするならば、自由意志の意義について考えざるをえない。
 「私自身の見方にしたがえば、自由意志の問題は、(中略)パラドックスである。一方では自由意志という一つの選択がある。(中略)その一方ではわれわれは自由を選ぶことが出来ない。そこには、二つの状態があるのみである。神と善にしたがうか、それとも、自分の意志を超える何者に対しても服従を拒否するかである。この服従の拒否こそが、とりもなおさず、人間を悪魔の力に隷属させるものである。結局のところ、われわれは、神か悪魔のいずれかに帰依しなければならない。私は、善にも、また完全な利己心にもとらわれることなく、神と悪魔のまさに中間にあたる状態が真の自由な状態ではないかと考えている。しかし、この自由はばらばらに分断される。これは耐えることの出来ないことである。われわれは、いずれに隷属するかを選ばなければならないのである」
 この考えには、私自身は、そのまま賛成は出来ないが、キリスト教者として、ある種タブーであったはずの、悪を、真正面から、受け止めて、それを考えてみようとした著者の勇気をたたえたい。邪悪な者に対抗する手段として、著者は悩みつつも、「愛」しかないのではないかと言う。「醜悪な(中略)カエルが王女にキスされて王子に変身する神話は今も生きている。(中略)愛の基本原理はいかにして働くのか、いかにしてそれがいやしを起こすのか、私には正確なところはわからない」
 ここのところ、私の記憶によれば、王女は、カエルを壁に投げつけ、それで、カエルは王子に戻ったような気がするのだが、そうならば、話は、まったく逆になってしまう。邪悪なものに対して、われわれは、キスするべきなのか、投げ捨てるべきなのか?
 私にも、その答えは分からない。

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紙の本

紙の本われらのゲーム

2001/03/15 16:26

孤独な男の慟哭

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 引退して悠々自適の生活を送っていた元英国諜報部員ティムがある日突然追われる身に。元部下でパブリックスクール時代からの旧友ラリーが、ロシア政府から大金を搾取して失踪し、警察はティムも共犯だと疑っているのだ。そして…ティムの愛人のエマも一緒に失踪していた。
 諜報部員…スパイ物なのだが、緊迫した機密情報のやり取りや派手な銃撃戦は全く出てこない。物語はラリーとエマを探すティムの一人称で回想をはさみつつ進む。
 ラリーは言った。
「あんたはおれの人生をぬすんだ。おれはあんたの女を盗んだ。それだけのことじゃないか」
 いつも作り物の笑みを顔にはりつけるようにして生きてきたティムの内面の、絞り出すような苦悩が全編を覆っている。ラリーのように民族紛争に身を投じることも出来ない。愛人は庇護を必要としなくなって飛び立っていってしまった。
 埋まらない穴をどうすればいい?
「だがラリーは嘘をついている。(中略)わたしにはわかるのだ。(中略)欺瞞を教え、どっぷり欺瞞づけにし、隠された狡知をうまく引き出して、それを使えるようにし、遠くへ送り出して敵と寝かせ、いらいら爪を噛みながら帰りを待ち、その愛憎、その絶望と理不尽な恨みと不断の退屈に付き合い」
ラリーはティムが仕立てた二重スパイだ。ラリーはティムの作品で、ティムの半身で、ティムの全てだった。
 民族紛争、情報部、兵器販売、独立戦争と緻密に組み立てられた舞台で語られるのは、大きな穴を抱えた孤独な男の魂の慟哭だ。

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紙の本

紙の本寄り道ビアホール

2001/03/15 16:19

女のおじさんと、男のおばさん

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 朝日新聞の家庭面に連載していたエッセイ。
 さざえさんの時代から、会社帰りにビールを一杯、くだをまいて政治の話をぶつのは、オヤジと決まっている。寄り道カフェテリアではない。あくまでビアホール。
 巻末の重松清との対談が面白い。おとこのオバサンの代表、重松と、おんなのオヤジ篠田節子が対照的だ。オバサンの価値観を一言でいうと、「家内安全」。さてオヤジはというと、「大義という幻想」。芸術でも仕事でも我が社の利益でも、大義のために自分を犠牲にすることをいとわない価値観。なるほどなあ…とうなずかされる。
 なかでも、そうそうと思わされたのが、異世界の異なる感性の人とお茶を飲もう(ビールでもいいが)という薦め。同性、同年代からなるメンバーで構成されるグループには、理性を麻痺させる心地よさがある。その心地よさは、横並びの無言の圧力となり、あやしいマルチ商法や、いんちきにみんなでひっかかってしまったりする。そこで、「おかしいよ、それ」そう言ってくれる異質な感性を持つ友人がいたら、どんなに心強いことか。性別職業性格を超えて、茶飲み友達を作ろう!

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紙の本

紙の本魍魎の匣 文庫版

2001/03/03 10:52

とにかく怖い「はこ」

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 京極堂シリーズの中でこれがいちばん恐かった。わたしにとって箱に手足を切って詰められた男(女)というイメージは文句無しに恐い。もっとも、知り合いは、そのイメージに「笑ってしまった」と言っていたから、何が恐いのかは人によってずいぶん違うようだ。
 4つの殺人事件が絡み合いながら、複線伏線で、一気に最後まで読ませてしまうパワーはやはりすごい。これだけの話の複雑さは、作者自身書いていて混乱したりしないのだろうか?
 今回は、しぶい木田が主人公。もちろんいつもの面々も登場している。占い師と、宗教家と、超能力者の違いについての講釈など、京極堂の話が興味深い。

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紙の本

紙の本どすこい〈仮〉

2001/03/03 10:48

完璧なパロディ

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 げっぷ…。この厚さで、まるごと「でぶ」のオンパレードにやや食傷。
 京極ファンなら驚く、ベストセラー小説のでぶパロディ短編集。題名からして笑える。「パラサイト…デブ」「すべてがデブになる」「リング(土俵)」「脂鬼」…etc。全部通して読むと、きついが、それぞれはばからしくて笑える。
 例えば、脂鬼…「ここは今、でぶに包囲されているのよ。村は脂肪に囲まれている!」死者が太って蘇るという「膨れ上がり」。電車の中で読んで吹き出してしまった。
 ほとんどの作品に出て来る、美人だがきつい性格の編集の女性がいい感じのキャラだ。脂肪腹をヒールで踏みつけて…。実在するのかなあ…。

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