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  3. 平野雅史さんのレビュー一覧

平野雅史さんのレビュー一覧

投稿者:平野雅史

168 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

見せかけの科学的現実観と実存主義の狭間の議論、アンシャンレジュームに囚われた者の主張とは如何に。

10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

まず、著者の主張は大嫌いだし、論理展開は合成の誤謬以外の何モノでもなく論証としての蓋然性は乏しいと言うべきで似非学者と言わざるを得ない。しかしながら、昨年議論を巻き起こしたことを考えれば、その社会的貢献は星5つに値する。
「人はパンのみ(ONLY)に生きるにあらず」と言う。実存主義を言い表した言葉としては最も広く知られる。しかし、この裏の含意には、「人はパンなし(NO)には生きられない」がある。また、マズローは欠乏欲求が満たされて後、高次欲求が満たされると説いた。加えて、かねてより「貧すれば鈍する」とも言う。
著者の主張は、まさに「人はパンなし(NO)には生きられない」を誇張し歪曲したものであり、功利主義的世界観から見た将来日本の悲観である。学歴・所得・貧富の二極化を憂う。そして、その論述は、それを裏付けんがためのデータ構築であって、論理的堅牢さは決してない。将来を憂う諫言を弄しながらも、アンシャンレジュームの世界観から見た日本なのだ。分析性の覆いを身に纏った悲観主義である故に、主張には建設性が伴っていない。ましてや、これまでの社会科学の発展と考究の履歴を蹂躙したものに過ぎない。
確かに、わが国における貧富の差が拡大するであろうことは論を待たないし、所謂「勝ち組」「負け組」のレッテルが明確になるであろう。だが、この二元論的構造観から見る限りは、結局は相対的優劣観は払拭できないのだから、数量的にその格差が解消したとしても、心理的な格差は拡大するばかりである。
であるならば、著者が指摘すべき建設性は、決定論に支配された状況反応行動ではなく、ポシビリズムに立脚した個の主体性の回復ではないのか。この視点が欠如している限りは、希望など訪れないはずであり、それが故に、最も経済的・福祉的に富んだ国家でありながら、状況依存性が強い相対的価値観しか抱けず、希望を抱けない人民を擁するに至ってきたのではないか。すなわち、著者の主張に従えば、「成功者」としての「なりたい自分」を描く視座を与えはするが、実存としての「ありたい自分」には盲目にならざるを得ないのである。悪しき表層的な結果平等観は忘却し、実存的な機会平等観に転身せねば、成熟国家としての進歩はないはずである。
もとより、勤勉・勤労なる人民を抱くは国家の大事であるが、他方、そのことは実存の意思から生まれるものであることを失念してはならない。自己の幼少期の貧しき時代を振り返るに、改めてそう思うのである。

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紙の本

紙の本小倉昌男経営学

2005/07/04 01:09

ノブレス・オブリージュを具現化した「義憤の志士」を追悼して

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

何人の方に本書を拝呈したであろうか。本書が机に鎮座して後、どれだけを経るだろうか。
尊敬する経営者は誰かと問われたなら必ず小倉昌男の名を挙げるだろう。この時に臨んで、氏が世に問い・具現化した「宅急便」が我々の生活にもたらした利便を振り返って再考してみるべきだし、追随した他社の人々は尚更であり、これが生まれた経緯と実践を見つめ、我々自身の行動において生かすべきことは何かを真摯に問うてみる価値がある。
本書は、ヤマト運輸において氏が何を見て何を学び、如何に考えを得てきたのかを示す「第二創業」および宅急便という「イノベーション」のケーススタディと言える。また、巻末に認められらた「経営リーダー10の条件」は氏の経営哲学を表象している。曰く「論理的思考」「時代の風を読む」「戦略的思考」「攻めの経営」「行政に頼らぬ自立の精神」「政治家に頼るな」「マスコミとの良い関係」「明るい性格」「身銭を切ること」「高い倫理観」の10である。
文面から迫り来る氏の経営者像は、決してビジョナリストではないし元来のオプティミストではない。むしろ価値観と信条の人である。この良心に触れた時、彼に眠る強大なマグマが火柱を上げるのだ。「義憤の志士」という表現があるなら、それが一番適切かもしれない。三越に対する義憤、運輸省に対する義憤、郵政・郵便局への義憤、また、パイを守ることに終始しパイを拡大することを考えない視野狭窄な従業員の集団思考(グループ・シンク・バイアス)への義憤である。
一方、彼の企業家としての行動態度の根底には「ジョブ・クリエイション」があるのだと強く思う。長距離・大量輸送を華としてきたドライバー達に、家庭の主婦からの「ありがとう」の言葉を与えた。今では、ヤマト運輸に働く人の数は、わが国屈指の域にある。時として「選択と集中」は重要であるが、これを笠に着てヒトキリをするのでなく、働く者に新たな仕事を創り出すことが、氏の戦略的思考の本質なのである。
また、彼のアイデア借用の姿勢は極めて徹底している。牛丼、JALパックから、猿真似のエビゴーネンではなく本質をプリコラージュしていくのだ。「新しいアイデアとは新しい場所に置いた旧いアイデアである」とは良く言われるが、彼が生んだイノベーションの本質もここにある。
最後に、人間の八徳には「仁」と「義」がある。仁は最高の徳とされるが、義を重んじた彼の行動は、結果、仁に至ったのだと思う。また、昨今のCSR「ブーム」とは次元の違うノブレス・オブリージュ(道徳的義務感)を胸にし、正すべきは正すを信条とした希代の企業家が、自らの経営の実践において錬磨し昇華してきたフィロソフィーが、この一冊に凝縮している。伊藤肇曰くの「精神の貴族性」、「第5水準のリーダーシップ」(『ビジョナリーカンパニー2』)を持った経営者なのだ。昭和の経営者の巨星の最期の時に際して、本書および『経営はロマンだ!』から益々そう感じるのである。
巨星の逝去に当りそのご冥福を祈り、しかし、彼が事上磨錬のなかで昇華したビジネスに対する姿勢がひとつのロール・モデルとしてこれからも模範として受け継がれていくことは疑う余地がない。

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紙の本

ポーター競争戦略への強烈なアンチテーゼ、既存の戦略論の認知アンカリングから開放する

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

経済には需要と供給がありこの関係によって価格が決まるというのは、誰もが知る一物一価の原則である。問題は、一物一価の市場の認知の枠組みのなかで超過利潤を得るためには競争戦略しかないということであり、更には競争戦略のゼロサムゲームは最終的にマイナスサムゲームに移行してしまうことだ。
本書は、この領域を取り払い、知られざるマーケット・スペースを自ら創出する「ブルー・オーシャン(手垢つかずの海)」を見出すための戦略論であり、供給飽和の市場構造にあって、新たな収益・成長オポチュニティを見出そうとする。
まず特徴的なのは、この戦略理論が、競争戦略の枠組みをあっさりと否定し、「競争優位」に囚われた認知構造をリフレーミングしてくれることだろう。典型的には「差別化かコストリーダーシップかの二択」というポーターのGenerics strategyが提示した命題を超えて、両者が両立するマーケット・スペースを生み出すということにある。むしろ自社と顧客双方の価値を飛躍的に高めることで競争とは無縁の存在になることがブルー・オーシャンの目的である。正に孫子の論理と同様と言える。
他方、このスペースが簡単に見出せるのであれば競争戦略に腐心する必要はない。これに対してキムは、1「青い海は技術革新の賜物ではない」、2「青い海は既存のコア事業から生まれやすい」、3「企業や業界を単位に分析してはいけない」、3「青い海はブランドを育てる」と言う。即ち、1や2に従えば新機会は辺境にあるのではなく灯台下暗しということになる。これは認知のフレームを変えないと見えないものだ。更に3は合理的な経営判断の否定である。データにもとづく意思決定は結局測定可能性バイアスにかかり多角的な視点を消滅させる。即ち、既存の認知を変えることができれば新たなオポチュニティの可能性が生まれると説いているのである。
もとより、簡単ではない。キムは「ブルー・オーシャンは事業構造の変革を要求するため、社内の政治に負け易い難しいものだ」と説く。戦略と言う言葉が戦争のメタファでありこれにひきづられてしまうように、バイアスから逃れ集団の認知構造を変えることさえできれば、青い海が見出せる可能性は格段に高まるだろう。本書では多くの欧米企業の事例からこうした洞察を導くが、日本では例えばヤマト運輸の宅急便も「青い海」だと言える。
本書はこのように、既存の戦略理論に囚われることによってむしろ超過利潤の機会を失ってきた特に過当競争におかれた企業にとっては、新たな認知の地平を開くという難しい作用を促すに際しての力強い示唆を与えるものとなる。

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紙の本

仕事で「一皮むける」という語感、実態的なキャリア形成論

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

仕事で「一皮むける」 という語感は何とも耳に感触良い響きである。本書は、関西経済連合会が主催して調査したミドルマネジメントのキャリア形成に関する調査を新書として仕立て直したもの。かのエドガー・シャインの直系の弟子である金井先生によることも手伝って、たかが新書と侮ってはならない一冊に仕上がっている。若い後進達に紹介したい一冊であり、また、それに値するものだ。
本書では、数多くのビジネスパーソンが、自己の職業人生を回顧しながら、自分自身が「一皮むけた」と感じた44の実体験が告白される。
「新規事業・新市場のゼロからの立ち上げ」「プロジェクトチームへの参画」などの華々しい場面でこの体感を得た人もいれば、「悲惨な部門・業務の改善と再構築」「降格・左遷を含む困難な環境」に直面して脱皮した人もいる。仮にそれが好ましい状況ではなくても、後々の血肉となり、自己を形成する糧となるのである。また、こうした体験がないままにリスク回避的な行動を採ったツケは、合理的な判断だけでは立ち行かない局面において必ず回ってくる。「艱難辛苦は人心を鍛える」というが、まさにそういうことなのである。
つい先頃、経済同友会が公表した「知的感性時代の人材マネジメント−ビジネス感度と革新型リーダー−」では、仕事を通じてのリーダーシップ開発の重要性を声高に説いている。本書の指摘する「一皮むける」経験と同じ趣旨だ。
戦略策定PT参画という私自身の経験は貴重ではあったが、成功体験というよりは挫折感や限界感が残る。一介のサラリーマンにとって、経営者や組織の複雑な力学など大きな壁・制約があるとは言え、自分自身の努力不足も痛感するし、傍観者からの批判はそれなりに堪える。もとより本書が示した事象に比べればアマちゃんだと言える。だが、集団への責任感を傍らにおけば、これもまた自分の力で「一皮むけた体験」に昇華し得るはずである。
夫々が、夫々の状況のなかで学べることはふんだんにあるのだ。まさに「生徒の準備ができた時に先生は現れる」のである。真摯に愚直でいよう。

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紙の本

紙の本仕事は楽しいかね? 1

2004/12/06 01:37

何度読んでも新しい気づきを与えてくれる清涼剤

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 早いもので、本書が出版されてからもう3年が経とうとしている。お話としての読みやすさの完成度は高いし、(年食ったからか)何度読んでも新しい気づきを与えてくれる良書。これは実際読んで頂ければ分かるだろう。

 本書で特徴的なのは、なによりビジョン→プラン→ドゥー→シーという、ビジネスや個人の成長にありがちな考え方の汎用スタイルをあっけなく否定していることだろう。
 時代が成熟化し、市場が競争化するに連れるほど、何が成功するかは混迷していく。ご多分に漏れず成熟化したわが国でもサービス経済化が進行している訳で、ビジネスや個人の仕事のあり方は多様性が増す過程にある。「狙え・構え・打て」的な、もしくは「先知後行」的な考えで臨む方がむしろ非効率になる場面も出てくるのは無理からぬ。主人公マックスは、「目標に関するきみの問題は、世の中はきみの目標が達成されるまでじーっと待っていたりしない」、「必要は発明の母かもしれない、だけど、偶然は発明の父」と言い、偶発性を受け容れる自分を創ることを薦めるのだ。
 そして、そのうえで「試す」ことの価値を改めて説く。すなわち、失敗の擬似を沢山創ることでそのなかから成功するシーズ、失敗からの学びを得ようと説くのだ。曰く「試してみることに失敗はない」、「遊び感覚で色々やって成り行きを見守る」と言う。
 そして、なにより、仕事に身を投じるなかで楽しみを感じ続けるために、如何に「試してみる」ことが大切かを切々と語りかけてくる。「人生とはくだらないことがひとつふたつと続いていくのではない。ひとつのくだらないことが何度も繰り返されていくのだ」、「明日は今日と違う自分になる」と言う。新しい自分を試してみないことには、ツマラナイという負の連鎖から抜け出せないということなのだろう。

 勿論、本書のような自己啓発書のようなお話を気に入らない向きもいるだろう。ならば、『あなたの知らないヒットブランドの本当の話』(ジャック・ミンゴ著)は試すこと・偶発から生まれた成功の実例を示している。理論的に考えたいなら、『失敗を生かす仕事術』(畑村洋太郎著)も良いだろう。ただ、本書に清涼剤としての付加機能がついていることは、改めて有り難いと思う。

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紙の本

紙の本ビジョナリーカンパニー 2 飛躍の法則

2004/12/08 00:59

真の企業、企業家に飛翔するための卓越かつ必読の理論

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 前著『ビジョナリー・カンパニー』よりおよそ6年の年月を経て出版された本書。偉大な企業が偉大さを永続する卓越した企業になることを説いた前著に対して、本書はその続編ではなく、「良い組織を偉大な実績を持続できる組織に飛躍させる(Good to Great)」ことを説いたものであり、むしろ前編に当る。前著以上に、本書はすべての企業人、企業家に対して価値ある示唆を与える卓越した一冊だと言える。

 まず、こうした内容の類書・文献は多分に散見されるが、これらと本書とを明らかに異なるものにしている点は、本書が理論の域に達していると言い得ることだろう。巻末に示される膨大なデータ調査の経緯や議論・検討の経緯の記述から、仮説でも一般解でもなく理論だと言い得るのだ。即ち、本書が与える示唆は、勿論実現は容易ではないのだが、科学性・再現性を備えたものだと思われる。
 次に、ただ単に「成功の方法」を説いたものではなく、その持続性に焦点を当てていることは無視できない。即ち、如何に短期的な成功、大々的なキャンペーンがあろうとも、企業組織が持続的発展を望む以上、この視点から考察された本書の示唆は非常に稀有であり、読む者を崇高な想いに至らしめる。ビジネスの競争にあって、ややもすれば独善性や視野狭窄に陥り易い企業人に対して自身を内省させる視点に溢れている。
 第3に、それでいて革新的な提言が盛り込まれている。本書で提示するGood to Greatへの処方箋は、「第5水準のリーダーシップ」「最初に人を選びその後に目標を選ぶ」「厳しい現実を直視する」「針鼠の概念(BHAG)」「規律の文化」「促進剤としての技術」「弾み車と悪循環」の7つの概念から構成されている。「第5水準のリーダーシップ」はコッターなどが提示するリーダーシップモデルを超えて更に「個人としての謙虚さと職業人としての意思の強さ」を兼ね備えたリーダーの必要性を説いている。また、「最初に人を選び次に目標を選ぶ」というのは人的資源管理の原則的な考え方とは趣きが大いに異なる。加えて、「促進剤としての技術」では技術はあくまで補助に過ぎないことを再認識させ、それに振り回される企業人に警鐘を鳴らす。非常に有益で考えさせられる示唆が豊かなのだ。

 本書が示すところは所謂「企業変革」とは明らかに相容れない空気がある。しかし、短期的に華々しい変革ではなくとも超長期の卓越を得たいのであれば、本書の説くポリシーがまずもって優先されるべきだろう。偉大な企業に脱皮し持続的高成長を掌中にするためには、市場環境に対応すること以上に、規律ある組織や内省できる個人など、深く・潔く自らと向き合うことが如何に重要であるかを思い知らされる。
 間違いなく秀逸な良書である。

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紙の本

紙の本完全なる経営

2004/11/27 18:52

「心理学第三勢力の父」によるマネジメントへの洞察

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 A.マズローと言えば欲求段階説であり自己実現欲求、そんな覚え方をしている人は多いだろうし、かく言う自分自身とて大差ない。その著「完全なる人間」によって行動主義とフロイト派から離れた「心理学第三勢力の父」としての功績はあまりに大きく、更にはエドガー・シャインとウォレン・ベニスが彼の弟子に当ることを考えると、とてつもない巨人だと言えよう。

 まず断らなければいけないことは、はっきり言って難解な文章だということ。そもそも読み難いマズローの文章は、本書が手記の編纂であること、60年代に書かれたものであることが相まって、決して読みやすいとは言えず、読了には骨が折れる。しかし、本書では、ウォレン・ベニスの冒頭や金井泰宏氏の解説、現代経営人による解釈コラムによって、その意味付けや現代的・実践的解釈が理解し易いように構成されている。

 彼のマネジメントに対する心理学的洞察は本著の一編「進歩的な経済活動と経営管理」に表出しているように思われる。このなかで彼が提唱する「ユーサイキアン・マネジメント」の36の仮定に、前提を為す与件、人間観が現れている。「誰もが受動的な助力者であるよりも原動力でありたいと望む。道具や波に翻弄されるコルクのような存在でありたいとは思わない」、これが彼の組織を構成する人間に対する認識だろう。
 一方、彼の欲求段階説に従い、人間の欲求が多様であって、夫々の段階に応じたマネジメント策が在り得ることを示唆している。マネジメントは、この多様性を認知せず一様に取扱うか、逆に多様なものとして不作為に陥るかの傾向があることを省みれば、「存在価値」と「欠乏動機」など、マズローの指摘は今更に新鮮な気づきを与えてくれる。
 また、マグレガーやドラッカーに対する批評の部分など、興味深い点は尽きない。

 「仕事を通じての自己実現は、自己を追求しその充足を果たすことであると同時に、真の自我とも言うべき無我に達することでもある。自己実現は、利己−利他の二項対立を解消するとともに、内的−外的という対立をも解消する」。マズローが概念提供し、今現在多用されている「自己実現」という言葉の意味がここにも現れよう。また、マズローによって構築された「人間主義心理学」のスタート地点が、陽明学の「心即理」など東洋思想に通じていることは興味深い。

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紙の本

ドラッカーのMOTの思想と哲学が、経営思想と織り合ってここに!

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 今更言うまでもなく、ドラッカーはマネジメントの産み・育ての親と言われるほどに多大な影響力を持つ経営思想家である。そのドラッカーによる経営思想が織り重なり、MOT(技術マネジメント)の哲学として再編纂された一冊が本書である。
 MOT勃興の折柄、具体的な技術論を身にまとうことは大切だが、本書における論考はMOTやもの造りの背骨となる哲学・思想に向けた視座を提供する。

 まず、私の目をひいたのは書名に掲げられた「テクノロジスト」という言葉。文系の私にはあまり聞き慣れない言葉だし、この言葉を用いた書名は他書に見当たらない。サイエンティストに止まらず実践と行動とを伴った技術のプロフェッショナルの必要性を説く言葉である。プロフェッショナリズムの啓蒙に尽力してきたドラッカーらしさをこの言葉に表象しており、本書にはこの名に違わないMOTの太い背骨がある。
 また、冒頭「文明の変革者としての技術」の一編は、文系でも理系でもなく、科学でも社会学でもなく、マネジメントでも技術者でも科学者でもなく、各者の視点を俯瞰する技術への歴史的考察がなされている。こうした普遍的洞察力が、経営思想家としてのドラッカーの魅力の中核であると思われ、MOTを扱う本書においてもこれは変わらないのだ。
重ねて、技術は仕事や社会を通じて初めてその意味を理解できるという示唆は、技術への視野狭窄・近視眼に警鐘を鳴らし、技術と社会とを結節する単純だが深遠な示唆である。

 ドラッカーの深く・広い洞察は、今普及が急がれているMOTに哲学と強い風を与える。加えて、イノベーションを必然とせざるを得ない今後の先進国における企業活動に理念の基盤を与える。
 例えば一ツ橋イノベーション研究センター『イノベーションマネジメント入門』やクリステンセン『イノベーションのジレンマ』など他にも良書はあるが、本書は、MOTの哲学に触れる貴重な機会をリーズナブルに提供する一冊と言えるのではないだろうか。

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紙の本

自分を伝えることに熱心で誠実な人へ

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 最近は、論理的コミュニケーションやプレゼンテーションに関する書籍が結構増えてきた。もとより「論理」は読んで字の如く論を尽くす道理なのだが、どうしても心が置き去りになっていく。本当に伝えたいのは「想い」だというのに、正論としての正しさの追求ばかりが先んじてしまう。
 本書は、著者が幾多の経験のなかで悩み・考えてきたコミュニケーションへのスタンスを伝えるものであり、志を込めたコミュニケーションへの方途を説く良書だ。

 本書で説くコミュニケーションスキル自体は、実際、必ずしも目新しいものではない。2.相手にとっての意味を考える、3.自分が一番言いたいことをはっきりさせる、4.意見の理由を説明する。要は、ここまでは「What−Why」の構造であり、ベーシックなものと言える。
 しかし、本書の肝は、伝わる前提となる1.自分のメディア力を上げる、そして、5.自分の根っこの想いに嘘をつかない、この2点に集約されるだろう。メディア力は「言葉は関係性の中で人の心に届く」と言い、共感を入り口にしたコミュニケーション、信頼関係あってのコミュニケーションとそのスタンスを説く。なにより、自分が本当に伝えたい想い、すなわち「根本思想」が届くことこそが目的だと言う。そう、単に自分の考えを通すということに留まらず、自分の想いを致すことに心血を割こうとする著者の姿勢に至極好感を持つ。
 実際振り返って思うのは、何のために人間関係に悩んだり傷つき傷つけているのだろう、また、何のために言葉のもどかしさに苛立ったり失望したりしながらそれでも言葉に心を砕こうとするのはなぜなのか。内面的な想いで繋がることを求めてのことではないのか。著者は「何歳になっても、どんな強さを手にしても、人と通じ合えないとき新鮮な痛みを感じ続けられる人は志が高い」と伝える。これほど斯様に、コミュニケーションに悩む者を勇気付けるメッセージはないのではないだろうか。
 
 考えを伝える汎用的な基本を押さえつつも而して内面的な「根本思想」で繋がることを訴える本書は、想いの世界観と外界とを繋げる契機を与える稀有な良書であると思う。

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紙の本

コープランドが放つ、新時代のバリュエーションの決定版。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 バイブル的書「企業評価と戦略経営 キャッシュフロー経営への転換」(日本経済新聞社)を放ったバリュエーションの大家コープランド氏によるリアル・オプション(ROA)のテキストである。氏の手による本書は、ROAを利用する実務家等への手引きとしてまさに決定版と言える充実振りである。

 価値評価の手法としてのROAは比較的新しいものではあるが、すでに米国主要企業の4分の1以上が意思決定の際に用いている。ROAにページを割かない企業財務テキストは最近見ることが少ない。また、経済産業省の調査では、わが国上場企業の4分の1以上が採用を検討しており、今後、定量的意思決定手法として重要な地位を占めていくであろうことは疑問の余地がない。
 しかし、一方では実務利用に耐えかつ網羅的なテキストが不足しているのも事実であったと思われる。こうした状況下での本書は、非常に稀有な存在であり、今後長きに亘って実務家の座右として利用されるに足る。

 第一に、ROAを価値評価手法・意思決定手法の一つにとどめることなく、VBMの一体系と位置づけている。DCFに比べ相対的に難解なROAは、経営管理上の重要性の認知がなければ定着させるのは難しいと思われる。本書では、エアバス社での実例にもとづき、ROAによるVBMの実践、チェンジ・マネジメントを提示している。ROAを通じて組織のパースペクティブを変革したい向きには非常に参考になると思われる。
 第二に、理論を理解するために戸惑いそうな箇所には相応のページを割き、丁寧な解説がなされている。サミュエルソンの定理やボラティリティ推計などは解りやすい。
 第三に、実務と理論との間の矛盾で悩みそうな点についても十分な説明が施されている。この点は、コンサルティング経験と理論への理解の双方を有する氏ならではではないだろうか。

 ROAがもたらした最大の効用は、従来、定性的にしか説明できなかった不確実性や事業効果を金額的に捉まえ、価値に統合できることにある。不確実性を事業機会と捉えるツールとして今後重要性が増すROAの理解には本書は格好の機会を提供すると考える。

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梅之園商店街「ハッピー通り」の舞台上で熟達者達(エキスペリエンツ)7人の侍が見せる「団塊の世代」への熱いエール、「中高年よ、大志を抱け!」

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 この小説は、単純に面白く、堺屋太一ファンならずとも多くの方にお薦めしたい。ただそれ以上に、団塊の世代に属するサラリーマンにはネクストステージに向けたエールとなり、また、若い世代の方々にとっては団塊の人々との間に横たわる認識ギャップ、利害対立を埋める橋架け・応援歌になる一冊だと思われ、これらの方々には殊更に薦めたい。
 舞台は東京東部にある梅之園商店街「ハッピー通り」。
 どこにでもある衰退著しい近隣型商店街の再興に向けて、主人公たる(元)大手銀行員坂本龍生と、彼が長年の経験で培った人脈から選りすぐられた団塊の世代の仲間達が繰り広げる地域再生劇。この舞台装置のうえで、仕事に誇りと生き甲斐を賭してきた団塊の世代の熟達者(エキスペリエンツ)達が、「経験知(ディープ・スマート)」と「Know Who」を駆使し、衰退した街に新たな息吹を吹き込んでいく。金融機関や「ハゲタカ」ファンドとの陽動作戦や銀行間買収劇のやり合いなどは、ちょっとした推理小説のような興も味わえる。また、「あちら立てればこちらが立たない」地域社会が持つ生態系、「コンセプトに始まりコンセプトに終わる」商店街再生の王道を露わにしつつ、一方、新・旧金融実務、背後にうごめく欲も実態的であるから、地域再生や金融の疑似体験にもなろう。(私の勤務先が登場するというちょっとしたサプライズのおまけもあった)
 しかしその実、ストーリーの背景には、我が国経済社会が抱えた多くの課題が紡がれている。団塊の世代の退職、地域経済における不良債権問題、「シャブ漬」中小企業政策の後遺症、地域社会とソーシャル・キャピタルの崩壊、スモールビジネスの高齢化と後継者難、社会的起業家や地域貢献型事業(コミュニティ・ビジネス)への期待、REITやCMBSの背後にある地上げ、等だ。堺屋による軽妙なストーリー展開のなかで、我々の国が抱えた・またこれから抱える課題が身に迫ってくる。30年前、「団塊の世代」という言葉を世に生んだ堺屋は、団塊こそがこの課題解決者だとエールを送る。
 因みに、私個人としてお薦めしたい読み方は、本書を携えて近くの商店街に足を運び街の息遣いを感じながら、本書にある「ハッピー通りの地図」のコピーを傍らに、自分なりに考えを巡らせるというもの。本書に描かれたストーリーはフィクションだが蓋然性ある現実でもあると実感できると思うのだ。
 一金融人としての私自身はエキスペリエンツには遠く未達は言え、金融・融資に携わってきた立場上、多くの金融人に是非一読頂きたいと願う。我々が目にしてきた地域や金融の現実と符合する部分が多いからだ。
 融資や不動産のエキスペリエンツであれば、本書に記された情報が上述の「地図」に書き込まれ、これが暗号解読書となり、一方、自らのツマラナイ実務経験の蓄積をアイデアとして体系化するツールとなり、また、自らが身を置いた支店生活や地域社会への想いに至るに違いない。金融人にとっての自己探求の書ともなり得るのだ。
 もとより、本書のメッセージを自己を美化するレプリカントとして位置づけサンチマンタリズムに浸るべきではない。私自身、一金融人として、自転車漕いで集金していた頃や近隣の祭で神輿を担いでいた思い出はあるが、本書に描かれた銀行員達のように我々金融人は「悪役」「侍」そのどちらの立場にも組みし得るはずで、まして、街を守る主人公が善玉で資本主義の表象としてのファンドなどが悪玉とする安直な二元論的判官贔屓は慎むべきだろう。
 だが、本書を通じて、金融の良心・ノブレスオブリージュとは何か、「貸すも親切貸さぬも親切」という金融の格言が意味するものは何だったのか、我々の仕事が何に拠って立ちその自負心が何であったのか、そんなことを自省させる一冊でもあるのだ。

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紙の本

紙の本戦略計画 創造的破壊の時代

2005/06/27 06:16

アンゾフ、ポーターの対極として位置づけたい、「創発戦略」の必携本。特に、コンサル屋でなく実業界には示唆がふんだん。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

H・ミンツバーグは、1990年代欧米圏で『ミンツバーグ旋風』を巻き起こした経営学(経営組織)の世界的権威であるだけでなく、2003年の米国CEOへのアンケートでは、アンゾフやポーターよりも高評価されているグル(権威)である。極論だが、日本で「ミンツバーグ旋風」が起こっていたならば、自信を喪失することなく、経済停滞がここまでに至ることはなかったのかもしれない。『失われた10年』はなかったかもしれない。と本当に思わせてくれる。
MBA帰りなど、戦略論を用いて会社批判をする人に対しては、「ミンツバーグの視点からはどうですか?」の一言で返せば、当人の学びが本物か否か分かる「リトマス試験紙」とも言われる。
何度も読みこなす必要はあるが(5年を経て、やっと書評を書く気になった)、ポーターやアンゾフへの挑戦、マネージャーの仕事に対する実証的アプローチなど、怨念としか言いようのない凄い一冊であり、人としては付き合いたくはない感じがする(怖い)。だが、(職業が何であれ)戦略論を論じる者すべてにとって、登竜門たる必読の書である。」

第1に、他学者や戦略コンサルタントへの批判が散見され挑戦的。前半部分は他人批判によって構成され、後半部分は、「戦略とは何か?」という内容について書かれており、いずれも興味深い示唆に富む。ポーター、アンゾフだけが戦略論の本道と思われる日本において、既に欧米の戦略論研究ではその数段先の次元で議論されていることが(数年前の本書を通じても)よく判る。
第2に、多くの戦略論群もあくまで目的達成のための『方法論』もしくは『ツール』に過ぎないことを認識させてくれる。『ツール』であれば、そこには自ずと限界がある。限界認識してから『ツール』を用いるべきなのである。
最後に、こうした旧来のパラダイムに対して批判的・挑戦的であるが故に、何しろしつこいまでに論理的であり実証的である。このあたりは、前著「マネージャーの仕事」同様に、解かり易さを求めただけの安易な公式化やフレームワークは、ことごとく粉砕されてしまう。だから、コンサルティング業界の人間が、ミンツバーグを引用することが少ないのだろうと思えてくる。単純化・標準化を重んじる理論・知識「ビジネス」には扱い難いのだ。
(裏を返せば、世間一般に流布されているものが良いものとは限らず、かといって、流布されるためには単純化が重要ファクターという当たり前のことに気づかせる。ミンツバーグは、理論家としてはポーター以上であっても、マーケターとしてはそれ以下ということだろう)
ただ、工業化時代(=ポーターの時代)が去ったポストモダンの潮流のなかでは、必ず読んでおくべき一冊だろう。

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紙の本

「リテール・バンキング・エクセレンシー」を構想するためのベンチマークとフレームワーク

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『儲かる銀行をつくる』(山本真司著)で抱いたモヤモヤ感を払拭するには丁度良く、豊富なファクト・事例とフレームワーク整理とが相まって、今後のリテールバンキングを構想するに有益なベンチマークが充実している。
第1に、リテール戦略を考えるに際してのフレームワークもよく整理されているように思う。この点は、さすがにマッキンゼーらしいと言うべきなのだろう。このフレームワーク「リテール・バンキング・エクセレンシー」は、「業績重視のリーダーシップ」、「高度なマーケティングとセールス」、「差別化された効率的なディストリビューション・チャネル」、「コスト効率の高いオペレーション・プロセスとIT」、「優れた与信方針とスキル」の5つの視点から整理され、かつ、各視点は更に具体的な経営技術へと展開していく。とかく小さい精神論に偏りがちなリテールやそのセールスについて、経営の見地からグランドデザインを提供する。
第2に、ベンチマークとなるエクセレントなリテールバンクの事例が豊富である。米国の事例を引用しがちななかにあって、欧州大陸系の金融機関にも標本を求めている。
第3に、セールスやマーケティングに関する相応に詳細な分析やデータが見られる。この点は、リテール戦略の具体的なマーケティングを考えるに際して有効だろう。例えば、マーケティングデータやリサーチに仕方をとっても、こうした分析の視点は戦略実行後のフォロースルーを有効に機能させるための示唆となり得るだろう。
ホールセール金融は、多くの金融機関にとって昔は花形だった。しかし、コモディティかが進むホールセールの領域で収益を上げることは困難になっている。むしろ経済が成熟化する過程のなかでは個人取引のなかにビジネス・オポチュニティを見出していくことは喫緊に求められる。
「コンシェルジュ・バンク」を標榜するスルガ銀行が2003年にポーター賞を受賞したように、リテール・バンキング・エクセレンシーは、今後の銀行経営を占う登竜門。この獲得と構築に向けた構想のきっかけを与える1冊と言えるだろう。

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紙の本

セールスマンシップ再考のための古典的バイブル

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 デール・カーネギーをして「本書を一冊手にするためには、シカゴからニューヨークまででも、喜んで歩いてゆく」と言わしめた名著。所謂「外交」に携わる者にとってはバイブルと言える一冊だし、すべてのビジネスパーソンにとっても価値ある一冊。本書の出版は1964年、東京オリンピック当時の米国だが、40年にわたる風雪に耐え読み継がれてきた一冊なればこその重みは、今の時代の営業にも当然に通じる必読の一冊だろう。
 本書では、表題の如く販売外交に関する具体的なノウハウがふんだんであり、外交に身をおく者にとっては自身の活動を点検する視点に富んでいる。
 しかしそれだけではない。著者であるベドガーが、野球選手として失敗したその失意の底から、トップセールスパーソンにまで至る道程には、一人の人間が持つ底力を見せ付けられる。人生、そう簡単に捨てるものではないし、自分の態度如何によって人生はおおよそ如何ともなるのだと考えさせられる。
 また、改めて、彼の記述を通すにつけ、知識以上に実行する「事上磨錬」の大切さ、これを続ける自己動機づけの重さを考えさせられる。ノウハウではない、習慣なのだ。こうした当たり前だがなかなかできないことが、ぐっと迫ってくる。
 営業、渉外、外交、販売、サービスパーソン。呼び方は様々だが、客商売に携わる人々にとっては、長年の座右足り得る一冊である。
 大切だと思うのは、結局は、主体性の問題であり、状況に対して態度を決めるのは自分以外の何者でもないということだ。

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紙の本

紙の本勝つための論文の書き方

2003/06/04 01:43

バーバラ・ミントにも対抗できる!

4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 非常に示唆に富んだ論文ハウツーものだ。ロジカルシンキング、ロジカルコミュニケーションを取り扱う類書は巷に溢れかえっているが、本書のとっつき易さと読みやすさ、コストパフォーマンスを考えれば、「考える技術・書く技術」(ダイヤモンド社)や「実戦!問題解決法」(小学館)の対抗馬にもなり得る。

 論文の書き方や論理的コミュニケーションを取り扱った類書と本書を大きく差別化する点は、問いの立て方に関する詳細な記述にある。多くの類書は、文章表現としての論理展開のハウツーを展開するが、起点となる問いの立て方、問題設定の方法論には触れないことが多い。問題設定の方法論について、本書では多数のページを割き、かつ平易で判り易い事例を用いながら説いているから、頼もしい。
 また、本書のレトリックや取り上げる事例も面白い。「ピンク映画」や「わが国でのカフェの生い立ち」など、ちょっぴりエロティシズムを絡めながら進む筆者の語り口はページが進む。

 大学教授である著者らしく、講義仕立ての構成となっている。第一回講義「日常生活と論文」、第二回「問題の立て方」、第三回「資料の集め方」、第四回「論文の組み立て方」と進む。

 本書で示す書き方講座は、無論、ビジネス・レポートにも応用可能である。特に「問いの立て方」は、新規事業アイデアなどを求められる企画マンにも参考になると思う。学生だけではなく、考えること、書くことを求められるビジネス・パーソンにとっても非常に役立つ。

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