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  3. 平野雅史さんのレビュー一覧

平野雅史さんのレビュー一覧

投稿者:平野雅史

168 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

紙の本会社はだれのものか

2005/07/11 02:18

Bizスクール・ロースクール勃興の折、会社法施行直前の今読みたい、ひとつの「会社論」

12人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ビジネススクール、ロースクールなど会社制度に絡む人々が増える折柄、また、会社法施行間近に控えた今こそ読みたい、ひとつの「会社論」と言える。屈託のない表現のお蔭でこの領域に興味ある方であれば、コーヒー1杯の時間で読み干してしまうだろう。また、金融人としての私にとっては、著者のいう金融システム論もまた共感を感じるものがある。
 まず、本書の題名には注意が必要で、本書の内容はこの問いに答えてはいない。むしろ「世の中における会社という存在が価値を生み出すために、会社にとって重要な存在とは一体誰であるのか」という問いが適切だろう。「誰のものか」という問いには、所有権・使用収益権が伴うため、株主という答えが「原則的には」正しい答えとなる。しかし著者は、ポスト産業資本主義における企業において利益をもたらすものは智恵を生み出す従業員組織であって、提供される資金資本はその次であると論じることによって、米国輸入の株主至上主義を無批判に受容する風潮に対して警鐘を鳴らしているのである。実際、同じバイアウトでもMBOの方がパフォーマンスは高く、M&Aはポスト・マージャーが主要な論点になってきたこととも符合し、株主資本の意向が自らの資本価値を貶めるというポストモダニズムにおけるパラドクスと言える。
 第2に、これに付随する経営者の権限やガバナンスについて、私的に換言すれば、米国的株主至上主義に警鐘を鳴らす著者の主張は、古くからある権限神授説、権限法定説を覆し、また、ファイナンス理論の金字塔「プリンシパル=エージェント理論」を超えて、実態として権限受容説が成立することを示唆している。生産資源の観点から、工場設備など物的資源ではなく意思を持った人間の重要性が増すポストモダニズムにあって、従業員に権限が受容されない限り利益の源泉たる智恵や差異が生まれないのだ。この点は、ライブドアの買収行動に対するニッポン放送社員およびタレントの反対行動に顕著な事象である。
第3に、経済学と法学とが持つ個人観を一定程度踏まえ、双方をブリッジしようと試みている。アダムスミス以来資本主義経済が前提とするのは「自己利益を追求する個人」であり、政治学や法学が前提とするのは「(政治の僕である)法によって課された義務に従う個人」である。この両者いずれにも還元されない「市民社会」において前提とすべき個人とは、「自己利益を超えた何かを追求し、法的な義務を超えた何かを自らに課す個人の存在」であるという点は、強く同意したいのである。他方、経営者の倫理観は極めて希少な資源のひとつという一文も、確かに「べき論」と「ある論」とを混同しない点はすべからく重要である。
 第4に、会社と企業とを混同せずに論考している著者の視点は、実は極めて重要である。再生ブームの最中にあっても、経済再生・産業再生・企業再生・事業再生が混用され続けてきたが、その目的格の違いによって、当然にパースペクティブは異なる。同様に、人格を持たない「企業」を対象とするのか、自然人ではなく自然的実態がないにも拘らずあえて不自然に人格を付与した法人が実態を有する存在となる「会社」を対象とするのかでは、本質的に論点が異なるのである。
 ただし、本書の論考は、論理の飛躍が実に目立つし、使用しているメタファ(八百屋など)がメタファとしての役割を果たしていないので注意も必要。株主至上主義への警鐘を鳴らすことは私も否定しないが、著者の論考姿勢は、自らを高めようとしていない多くの経営者に対して所謂「日本的経営」というリトリート・隠れ家を用意した教唆ないし共謀に通じる部分がある。
 ただ、この行間を埋める自由があることを勘案すると、むしろ、法学・経営学・経済学またはその実務に携る者が、諸般議論をするたたき台として有用な一冊であると感じる。

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紙の本

見せかけの科学的現実観と実存主義の狭間の議論、アンシャンレジュームに囚われた者の主張とは如何に。

10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

まず、著者の主張は大嫌いだし、論理展開は合成の誤謬以外の何モノでもなく論証としての蓋然性は乏しいと言うべきで似非学者と言わざるを得ない。しかしながら、昨年議論を巻き起こしたことを考えれば、その社会的貢献は星5つに値する。
「人はパンのみ(ONLY)に生きるにあらず」と言う。実存主義を言い表した言葉としては最も広く知られる。しかし、この裏の含意には、「人はパンなし(NO)には生きられない」がある。また、マズローは欠乏欲求が満たされて後、高次欲求が満たされると説いた。加えて、かねてより「貧すれば鈍する」とも言う。
著者の主張は、まさに「人はパンなし(NO)には生きられない」を誇張し歪曲したものであり、功利主義的世界観から見た将来日本の悲観である。学歴・所得・貧富の二極化を憂う。そして、その論述は、それを裏付けんがためのデータ構築であって、論理的堅牢さは決してない。将来を憂う諫言を弄しながらも、アンシャンレジュームの世界観から見た日本なのだ。分析性の覆いを身に纏った悲観主義である故に、主張には建設性が伴っていない。ましてや、これまでの社会科学の発展と考究の履歴を蹂躙したものに過ぎない。
確かに、わが国における貧富の差が拡大するであろうことは論を待たないし、所謂「勝ち組」「負け組」のレッテルが明確になるであろう。だが、この二元論的構造観から見る限りは、結局は相対的優劣観は払拭できないのだから、数量的にその格差が解消したとしても、心理的な格差は拡大するばかりである。
であるならば、著者が指摘すべき建設性は、決定論に支配された状況反応行動ではなく、ポシビリズムに立脚した個の主体性の回復ではないのか。この視点が欠如している限りは、希望など訪れないはずであり、それが故に、最も経済的・福祉的に富んだ国家でありながら、状況依存性が強い相対的価値観しか抱けず、希望を抱けない人民を擁するに至ってきたのではないか。すなわち、著者の主張に従えば、「成功者」としての「なりたい自分」を描く視座を与えはするが、実存としての「ありたい自分」には盲目にならざるを得ないのである。悪しき表層的な結果平等観は忘却し、実存的な機会平等観に転身せねば、成熟国家としての進歩はないはずである。
もとより、勤勉・勤労なる人民を抱くは国家の大事であるが、他方、そのことは実存の意思から生まれるものであることを失念してはならない。自己の幼少期の貧しき時代を振り返るに、改めてそう思うのである。

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紙の本

紙の本小倉昌男経営学

2005/07/04 01:09

ノブレス・オブリージュを具現化した「義憤の志士」を追悼して

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

何人の方に本書を拝呈したであろうか。本書が机に鎮座して後、どれだけを経るだろうか。
尊敬する経営者は誰かと問われたなら必ず小倉昌男の名を挙げるだろう。この時に臨んで、氏が世に問い・具現化した「宅急便」が我々の生活にもたらした利便を振り返って再考してみるべきだし、追随した他社の人々は尚更であり、これが生まれた経緯と実践を見つめ、我々自身の行動において生かすべきことは何かを真摯に問うてみる価値がある。
本書は、ヤマト運輸において氏が何を見て何を学び、如何に考えを得てきたのかを示す「第二創業」および宅急便という「イノベーション」のケーススタディと言える。また、巻末に認められらた「経営リーダー10の条件」は氏の経営哲学を表象している。曰く「論理的思考」「時代の風を読む」「戦略的思考」「攻めの経営」「行政に頼らぬ自立の精神」「政治家に頼るな」「マスコミとの良い関係」「明るい性格」「身銭を切ること」「高い倫理観」の10である。
文面から迫り来る氏の経営者像は、決してビジョナリストではないし元来のオプティミストではない。むしろ価値観と信条の人である。この良心に触れた時、彼に眠る強大なマグマが火柱を上げるのだ。「義憤の志士」という表現があるなら、それが一番適切かもしれない。三越に対する義憤、運輸省に対する義憤、郵政・郵便局への義憤、また、パイを守ることに終始しパイを拡大することを考えない視野狭窄な従業員の集団思考(グループ・シンク・バイアス)への義憤である。
一方、彼の企業家としての行動態度の根底には「ジョブ・クリエイション」があるのだと強く思う。長距離・大量輸送を華としてきたドライバー達に、家庭の主婦からの「ありがとう」の言葉を与えた。今では、ヤマト運輸に働く人の数は、わが国屈指の域にある。時として「選択と集中」は重要であるが、これを笠に着てヒトキリをするのでなく、働く者に新たな仕事を創り出すことが、氏の戦略的思考の本質なのである。
また、彼のアイデア借用の姿勢は極めて徹底している。牛丼、JALパックから、猿真似のエビゴーネンではなく本質をプリコラージュしていくのだ。「新しいアイデアとは新しい場所に置いた旧いアイデアである」とは良く言われるが、彼が生んだイノベーションの本質もここにある。
最後に、人間の八徳には「仁」と「義」がある。仁は最高の徳とされるが、義を重んじた彼の行動は、結果、仁に至ったのだと思う。また、昨今のCSR「ブーム」とは次元の違うノブレス・オブリージュ(道徳的義務感)を胸にし、正すべきは正すを信条とした希代の企業家が、自らの経営の実践において錬磨し昇華してきたフィロソフィーが、この一冊に凝縮している。伊藤肇曰くの「精神の貴族性」、「第5水準のリーダーシップ」(『ビジョナリーカンパニー2』)を持った経営者なのだ。昭和の経営者の巨星の最期の時に際して、本書および『経営はロマンだ!』から益々そう感じるのである。
巨星の逝去に当りそのご冥福を祈り、しかし、彼が事上磨錬のなかで昇華したビジネスに対する姿勢がひとつのロール・モデルとしてこれからも模範として受け継がれていくことは疑う余地がない。

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紙の本

ポーター競争戦略への強烈なアンチテーゼ、既存の戦略論の認知アンカリングから開放する

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

経済には需要と供給がありこの関係によって価格が決まるというのは、誰もが知る一物一価の原則である。問題は、一物一価の市場の認知の枠組みのなかで超過利潤を得るためには競争戦略しかないということであり、更には競争戦略のゼロサムゲームは最終的にマイナスサムゲームに移行してしまうことだ。
本書は、この領域を取り払い、知られざるマーケット・スペースを自ら創出する「ブルー・オーシャン(手垢つかずの海)」を見出すための戦略論であり、供給飽和の市場構造にあって、新たな収益・成長オポチュニティを見出そうとする。
まず特徴的なのは、この戦略理論が、競争戦略の枠組みをあっさりと否定し、「競争優位」に囚われた認知構造をリフレーミングしてくれることだろう。典型的には「差別化かコストリーダーシップかの二択」というポーターのGenerics strategyが提示した命題を超えて、両者が両立するマーケット・スペースを生み出すということにある。むしろ自社と顧客双方の価値を飛躍的に高めることで競争とは無縁の存在になることがブルー・オーシャンの目的である。正に孫子の論理と同様と言える。
他方、このスペースが簡単に見出せるのであれば競争戦略に腐心する必要はない。これに対してキムは、1「青い海は技術革新の賜物ではない」、2「青い海は既存のコア事業から生まれやすい」、3「企業や業界を単位に分析してはいけない」、3「青い海はブランドを育てる」と言う。即ち、1や2に従えば新機会は辺境にあるのではなく灯台下暗しということになる。これは認知のフレームを変えないと見えないものだ。更に3は合理的な経営判断の否定である。データにもとづく意思決定は結局測定可能性バイアスにかかり多角的な視点を消滅させる。即ち、既存の認知を変えることができれば新たなオポチュニティの可能性が生まれると説いているのである。
もとより、簡単ではない。キムは「ブルー・オーシャンは事業構造の変革を要求するため、社内の政治に負け易い難しいものだ」と説く。戦略と言う言葉が戦争のメタファでありこれにひきづられてしまうように、バイアスから逃れ集団の認知構造を変えることさえできれば、青い海が見出せる可能性は格段に高まるだろう。本書では多くの欧米企業の事例からこうした洞察を導くが、日本では例えばヤマト運輸の宅急便も「青い海」だと言える。
本書はこのように、既存の戦略理論に囚われることによってむしろ超過利潤の機会を失ってきた特に過当競争におかれた企業にとっては、新たな認知の地平を開くという難しい作用を促すに際しての力強い示唆を与えるものとなる。

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紙の本

仕事で「一皮むける」という語感、実態的なキャリア形成論

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

仕事で「一皮むける」 という語感は何とも耳に感触良い響きである。本書は、関西経済連合会が主催して調査したミドルマネジメントのキャリア形成に関する調査を新書として仕立て直したもの。かのエドガー・シャインの直系の弟子である金井先生によることも手伝って、たかが新書と侮ってはならない一冊に仕上がっている。若い後進達に紹介したい一冊であり、また、それに値するものだ。
本書では、数多くのビジネスパーソンが、自己の職業人生を回顧しながら、自分自身が「一皮むけた」と感じた44の実体験が告白される。
「新規事業・新市場のゼロからの立ち上げ」「プロジェクトチームへの参画」などの華々しい場面でこの体感を得た人もいれば、「悲惨な部門・業務の改善と再構築」「降格・左遷を含む困難な環境」に直面して脱皮した人もいる。仮にそれが好ましい状況ではなくても、後々の血肉となり、自己を形成する糧となるのである。また、こうした体験がないままにリスク回避的な行動を採ったツケは、合理的な判断だけでは立ち行かない局面において必ず回ってくる。「艱難辛苦は人心を鍛える」というが、まさにそういうことなのである。
つい先頃、経済同友会が公表した「知的感性時代の人材マネジメント−ビジネス感度と革新型リーダー−」では、仕事を通じてのリーダーシップ開発の重要性を声高に説いている。本書の指摘する「一皮むける」経験と同じ趣旨だ。
戦略策定PT参画という私自身の経験は貴重ではあったが、成功体験というよりは挫折感や限界感が残る。一介のサラリーマンにとって、経営者や組織の複雑な力学など大きな壁・制約があるとは言え、自分自身の努力不足も痛感するし、傍観者からの批判はそれなりに堪える。もとより本書が示した事象に比べればアマちゃんだと言える。だが、集団への責任感を傍らにおけば、これもまた自分の力で「一皮むけた体験」に昇華し得るはずである。
夫々が、夫々の状況のなかで学べることはふんだんにあるのだ。まさに「生徒の準備ができた時に先生は現れる」のである。真摯に愚直でいよう。

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紙の本

紙の本仕事は楽しいかね? 1

2004/12/06 01:37

何度読んでも新しい気づきを与えてくれる清涼剤

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 早いもので、本書が出版されてからもう3年が経とうとしている。お話としての読みやすさの完成度は高いし、(年食ったからか)何度読んでも新しい気づきを与えてくれる良書。これは実際読んで頂ければ分かるだろう。

 本書で特徴的なのは、なによりビジョン→プラン→ドゥー→シーという、ビジネスや個人の成長にありがちな考え方の汎用スタイルをあっけなく否定していることだろう。
 時代が成熟化し、市場が競争化するに連れるほど、何が成功するかは混迷していく。ご多分に漏れず成熟化したわが国でもサービス経済化が進行している訳で、ビジネスや個人の仕事のあり方は多様性が増す過程にある。「狙え・構え・打て」的な、もしくは「先知後行」的な考えで臨む方がむしろ非効率になる場面も出てくるのは無理からぬ。主人公マックスは、「目標に関するきみの問題は、世の中はきみの目標が達成されるまでじーっと待っていたりしない」、「必要は発明の母かもしれない、だけど、偶然は発明の父」と言い、偶発性を受け容れる自分を創ることを薦めるのだ。
 そして、そのうえで「試す」ことの価値を改めて説く。すなわち、失敗の擬似を沢山創ることでそのなかから成功するシーズ、失敗からの学びを得ようと説くのだ。曰く「試してみることに失敗はない」、「遊び感覚で色々やって成り行きを見守る」と言う。
 そして、なにより、仕事に身を投じるなかで楽しみを感じ続けるために、如何に「試してみる」ことが大切かを切々と語りかけてくる。「人生とはくだらないことがひとつふたつと続いていくのではない。ひとつのくだらないことが何度も繰り返されていくのだ」、「明日は今日と違う自分になる」と言う。新しい自分を試してみないことには、ツマラナイという負の連鎖から抜け出せないということなのだろう。

 勿論、本書のような自己啓発書のようなお話を気に入らない向きもいるだろう。ならば、『あなたの知らないヒットブランドの本当の話』(ジャック・ミンゴ著)は試すこと・偶発から生まれた成功の実例を示している。理論的に考えたいなら、『失敗を生かす仕事術』(畑村洋太郎著)も良いだろう。ただ、本書に清涼剤としての付加機能がついていることは、改めて有り難いと思う。

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紙の本

あえて「女性」を強調した起業論、良い時代になってきたと実感する一冊。

9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

当時起業を考えていた「女性」に『はじめの一歩を踏み出そう』(マイケル.E.ガーバー著)を拝呈したお返しに返礼頂いた一冊が本書。読まれたご本人は、相当感銘を受けたようだ。「女性」という立場を重視した視点で書いた起業論であり、ビジネスを通した自己実現の一冊でもある。
特徴的なのはやはり、女性を強調して記されていることだろう。「私は起業してから子供を産みました。5人まで産み育て、これからも、楽しく、世の中に役立つ仕事をしていきたい」という帯の言葉が代表的だが、女性がビジネスを通じてありたい自分を体現していく様を綴っている。ただ、大事なことなのだが、本書で言わんとしていることは、女性だから云々ではなく、男女の差異なく起業論として共用できるオーソドックスな内容なので安心して読み進むことができるし、男性にもお薦めできる。
他方、「女性は出世や権力より、自分の力で人生の自由を獲得することに価値を見出す」といった一文は、決して女性固有のことではないだろう。「話を聞かない男地図が読めない女」のような二元論的平均像も分からないではないが、日本には各6千万人の男女がおり、世界には各30億人の男女がいるのだから、平均的な男女像よりも個体差の分散・偏差の方がよほど大きいのでは?、と突っ込みを入れたくなる。
第2に、非常に参考にしたい点として「プレゼンス・マネジメント」が行き届いている。ご自身の美貌に相当の自信があるからであろう表紙他のポートレート、「〜しましょう」で統一を図ったレトリックは、内容如何に拘りなく読者の心象を形成することに成功する要因だろう。流石に中小企業の広報代行アウトソーサーとして知名度を上げてきた会社の社長だけある。女性に限らず、「パーソナル・ブランディング」の観点からも参考になるのではないか。反面、自我の強さを裏付ける要素ともなるのだが、この程度の我がなければ、起業を教える起業家は務まるまい。
また、脱線するのだが、著者を含め、最近目立った起業家にリクルート出身者が多いことも特筆。リンク・アンド・モティベーションの小笹氏もそうだが、リクルートという「場」のダイナミズムから生まれる人材の厚みには頭が下がるものがある。
10年前、知己の女性が起業しようとして「女性」ゆえに苦労した当時からすれば、著者のような「女性」が生まれてくることは喜ばしい時代になったと思う。労働力人口が減退するなかにあって、仕事と育児との両立を通じてありたい自分の自己実現をできる「女性」が増えることは、経済・社会のダイナミズムをうみだす促進力になるし、また、そうしたダイナミズムが生まれるような環境やインフラを醸成することは、豊かな国となるためにも重要なステップであると思われる。

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例えばFaracfranc

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

マーケティングの調査研究で、Francfrancを題材にしたことがある。家具雑貨に対する家計支出は年々減少する中で、高い成長率と高い粗利益率、成熟化社会における典型的な成功事例企業だ。この本が伝えたいことは、例えばFrancfrancを想像しながら読むと納得感が高い。
法則1「論理で売るな!、直感で売れ!」、2「攻撃で売るな!、防御で売れ!」、3「結果で売るな!、過程で売れ!」、4「明確で売るな!、曖昧で売れ!」、5「中心で売るな!、周辺で売れ!」。曖昧とは、訴求ポイントを明確に、というマーケティングの教えとは相容れない。論理で売るなもそうだが、帯びに並ぶこれらの提言は、プランニング重視、ロジック重視のモダンマーケティグとは相容れないのだ。
例えばFrancfrancなんかも、高い割にはブランドというようなものでなく「曖昧」、結果=合理的購買動機でなく、その雰囲気で売っているのだ。また、社内運営がマネジメント主導であれば、感性や共感する能力高い社員は育たない。そんなことをさらっと伝える。
必要なモノは殆ど買える時代、合理的な理由で購買をする訳ではない。エクスペリエンス・マーケティング、ポストモダンの教えを、本著は、まさに体験的に感じ易く伝えてくれている。

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紙の本経営はロマンだ!

2005/07/04 01:50

小倉昌男に見る「人間的魅力の研究」

8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『小倉昌男 経営学』と本書の2冊は、わが国の多くのBizスクールのリーダーシップ・組織行動論において、サイドリーディングに指定されているようだ。前書とは別に、本書については、あえて評価は保留としたい。本書を通じて、各人が各様に感じ取れば良いと想うのだ。
本書は、日本経済新聞の「私の履歴書」を取りまとめた一冊であり、幾分かは『小倉昌男 経営学』と重複する部分がある。だが、だからと言って、『〜経営学』を読めば本書を捨て置いて良いとは思われない。この両書を合わせることによって、経営者としての小倉氏の人格が立体的に伝わってくるからである。
個人的に特筆すべきと思われるのは、昭和の経営者の巨星自身の恋愛歴についてであろう。ご令室がなくなられた後にあえて初めて記した初恋の想いは、プラトニックであり、心の痛点を知る経営者の人格の土台を見て取ることができる。その想いたるは、宮本輝が自身の名を世に知らしめた『青が散る』に通じるものがある。桑田啓祐が「TSUNAMI」に託した感傷とも通じている。加えるなら、我が元上司が、娘に初恋の女性の名前をつけようとしたということにも通じる。一部の男子たるが、なかなかに勝てない女々しき精神のサガの有様が、小倉氏にも同様であることを感じさせる。
重要なのは、所詮色恋事の話と言えばそれまでだが、これが彼の経営における「ノブレス・オブリージュ」、「義憤の志士」とも言うべき行動態度と重なり、真摯で愚直な人間的魅力を立体的なものとして感じさせ、私自身のエトスとは何かを省みさせ、彼に対するパトスを感じさせるのである。経営者の要件として、戦略や意思決定・決断が重要であることは否定されるべきではないが、他方、それだけではない、人間としての有様があってその土台のうえにいわゆる要件が蓄積されていくのである。
さて、私自身は、本書と伊藤肇の著とを何度か合わせ繰りして読んだことがある。今更に、「エトス・パトス・ロゴス」という一人の各個人が集団に対して持ちうる責任と影響とを自己に問うてくる一冊である。

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エライですな

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

会社の後輩が手に持って歩いているのを見たときはちょっとビックリ、借りて読んでみた(そうでなければ興味さえ抱かなかったかもしれない)。ただ、書いてあることは、(年老いた自分には無理だけれど)若い方々にはなかなか参考になる部分もあるのかもしれません。
二重顎のホリエモンの代わりにマスコミに叩かれているうちに、すっかり主役が入れ替わってしまった感のある乙部女史。あのような状況にあっても、腐ることなく、逆にこうした転機・機会に変えてしまうところは、流石に「ポジティブ仕事術」。また、初めて女史のブログを見てみたが、「ありがとうございます!」が連発。実際の気持ちは推測しかないが、たとえそれが表面だけであっても感謝の姿勢を崩さないところは大したものだし、本書で伝えたいことに裏づけを与える。
また、丁度同じような時期(最近)に、経塚香保子さんが記した『自分の会社をつくるということ』とも通じて、パーソナル・ブランディングの視座が豊か。自分の見た目のことも含めて、色々と計算されている(なかのポートレートの好き嫌いは分かりませんが)。
飛行機のキャリア・アテンダントから転じて多様な仕事で自分を高める経験を「見出す」姿勢は、今の時代の女性の自己実現のひとつのあり方を教えてくれる。

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紙の本ビジョナリーカンパニー 2 飛躍の法則

2004/12/08 00:59

真の企業、企業家に飛翔するための卓越かつ必読の理論

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 前著『ビジョナリー・カンパニー』よりおよそ6年の年月を経て出版された本書。偉大な企業が偉大さを永続する卓越した企業になることを説いた前著に対して、本書はその続編ではなく、「良い組織を偉大な実績を持続できる組織に飛躍させる(Good to Great)」ことを説いたものであり、むしろ前編に当る。前著以上に、本書はすべての企業人、企業家に対して価値ある示唆を与える卓越した一冊だと言える。

 まず、こうした内容の類書・文献は多分に散見されるが、これらと本書とを明らかに異なるものにしている点は、本書が理論の域に達していると言い得ることだろう。巻末に示される膨大なデータ調査の経緯や議論・検討の経緯の記述から、仮説でも一般解でもなく理論だと言い得るのだ。即ち、本書が与える示唆は、勿論実現は容易ではないのだが、科学性・再現性を備えたものだと思われる。
 次に、ただ単に「成功の方法」を説いたものではなく、その持続性に焦点を当てていることは無視できない。即ち、如何に短期的な成功、大々的なキャンペーンがあろうとも、企業組織が持続的発展を望む以上、この視点から考察された本書の示唆は非常に稀有であり、読む者を崇高な想いに至らしめる。ビジネスの競争にあって、ややもすれば独善性や視野狭窄に陥り易い企業人に対して自身を内省させる視点に溢れている。
 第3に、それでいて革新的な提言が盛り込まれている。本書で提示するGood to Greatへの処方箋は、「第5水準のリーダーシップ」「最初に人を選びその後に目標を選ぶ」「厳しい現実を直視する」「針鼠の概念(BHAG)」「規律の文化」「促進剤としての技術」「弾み車と悪循環」の7つの概念から構成されている。「第5水準のリーダーシップ」はコッターなどが提示するリーダーシップモデルを超えて更に「個人としての謙虚さと職業人としての意思の強さ」を兼ね備えたリーダーの必要性を説いている。また、「最初に人を選び次に目標を選ぶ」というのは人的資源管理の原則的な考え方とは趣きが大いに異なる。加えて、「促進剤としての技術」では技術はあくまで補助に過ぎないことを再認識させ、それに振り回される企業人に警鐘を鳴らす。非常に有益で考えさせられる示唆が豊かなのだ。

 本書が示すところは所謂「企業変革」とは明らかに相容れない空気がある。しかし、短期的に華々しい変革ではなくとも超長期の卓越を得たいのであれば、本書の説くポリシーがまずもって優先されるべきだろう。偉大な企業に脱皮し持続的高成長を掌中にするためには、市場環境に対応すること以上に、規律ある組織や内省できる個人など、深く・潔く自らと向き合うことが如何に重要であるかを思い知らされる。
 間違いなく秀逸な良書である。

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紙の本

紙の本完全なる経営

2004/11/27 18:52

「心理学第三勢力の父」によるマネジメントへの洞察

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 A.マズローと言えば欲求段階説であり自己実現欲求、そんな覚え方をしている人は多いだろうし、かく言う自分自身とて大差ない。その著「完全なる人間」によって行動主義とフロイト派から離れた「心理学第三勢力の父」としての功績はあまりに大きく、更にはエドガー・シャインとウォレン・ベニスが彼の弟子に当ることを考えると、とてつもない巨人だと言えよう。

 まず断らなければいけないことは、はっきり言って難解な文章だということ。そもそも読み難いマズローの文章は、本書が手記の編纂であること、60年代に書かれたものであることが相まって、決して読みやすいとは言えず、読了には骨が折れる。しかし、本書では、ウォレン・ベニスの冒頭や金井泰宏氏の解説、現代経営人による解釈コラムによって、その意味付けや現代的・実践的解釈が理解し易いように構成されている。

 彼のマネジメントに対する心理学的洞察は本著の一編「進歩的な経済活動と経営管理」に表出しているように思われる。このなかで彼が提唱する「ユーサイキアン・マネジメント」の36の仮定に、前提を為す与件、人間観が現れている。「誰もが受動的な助力者であるよりも原動力でありたいと望む。道具や波に翻弄されるコルクのような存在でありたいとは思わない」、これが彼の組織を構成する人間に対する認識だろう。
 一方、彼の欲求段階説に従い、人間の欲求が多様であって、夫々の段階に応じたマネジメント策が在り得ることを示唆している。マネジメントは、この多様性を認知せず一様に取扱うか、逆に多様なものとして不作為に陥るかの傾向があることを省みれば、「存在価値」と「欠乏動機」など、マズローの指摘は今更に新鮮な気づきを与えてくれる。
 また、マグレガーやドラッカーに対する批評の部分など、興味深い点は尽きない。

 「仕事を通じての自己実現は、自己を追求しその充足を果たすことであると同時に、真の自我とも言うべき無我に達することでもある。自己実現は、利己−利他の二項対立を解消するとともに、内的−外的という対立をも解消する」。マズローが概念提供し、今現在多用されている「自己実現」という言葉の意味がここにも現れよう。また、マズローによって構築された「人間主義心理学」のスタート地点が、陽明学の「心即理」など東洋思想に通じていることは興味深い。

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紙の本

紙の本水煮三国志

2005/07/27 00:10

好き嫌いはあれど、抱腹に面白い中国的MBAスピードマスター

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 吉川英治『三国志』、陳舜臣『三国志演義』など日本でも多くの人が慣れ親しんできた三国志。中国の四大古典小説(三国志、西遊記、水滸伝、紅楼夢)のなかでもポピュラーな歴史小説三国志(三国演義)を題材に、現在のビジネスシーンに落とし込んだ一冊が本書。
 何より面白いのは、三国志を読んだ人の多くがいずれかを英雄と思う曹操、諸葛亮、劉備、関羽達が、これまた演義の行程ように、ビジネス的にパロディ化されていること。魏、蜀、呉の三国の覇権争いを、大企業の曹操、中小企業の孫権、ベンチャー企業の劉備にたとえて展開する。「あの名場面をこう読み替えるのか!」、そんな面白さがあるし、また、脳裏の残り易いだろう。
 無論それだけではない。孫子(兵法)、三国志や十八史略、貞観政要などの中国の歴史書物の多くが欧米ビジネススクールでも引用されるなか、古今東西を問わないビジネスに通じる知見がフンダンにちりばめられている。
 また、仮に日本のビジネスシーンに合わないとしても、何しろ「中国で110万を超えるベストセラー」という謳い文句のとおり、躍進著しい隣国中国のエネルギーを感じる一冊となろう。

 注意の必要があるとすれば、難しく考えて読む本ではないということ。もとより、味わいの深さ・喜び、引用の応用発展性などは原書に及ぶべくもないので、この点は割り切るべきだろう。むしろ楽しみながら読んで頂ければ、学習効果は益々アップするのではないかと思います。

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インサイトを獲得するための智恵

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 インサイトとはナンナンだろうか。本書では、インサイトを「勝てる戦略の構築に必要な頭の使い方、ならびにその結果として得られるユニークな視座」だと言い、この新たな戦い方を作りあげる能力を身につけた者だけが、自らを差別化し、競合優位に立つことができると言う。なるほど、確かに、例えばポーターの戦略論などは、誰でも知っている定石であって、今更新しくもなければ付加価値にもならない。MBA的な知は当然のものとしたうえで、さらに実際の場面から知見を獲得することが競争優位になり得るという主張は、至極当然なものだ。

 本書ではインサイト=スピード+レンズと定義する。
スピードを上げるためには、「(パターン認識+グラフ発想)×シャドウボクシング」が如何に大切かがわかる。特筆すべきは、論理的思考にとどまってはならないと明快に言い切っている点だ。なるほど、言われてみれば論理的思考は多段階の官僚組織構造(ピラミッド構造)みたいなもので多くの蓋然性を積上げないと結論を導出できない。この点、右脳と左脳とをコラボレーションさせ、蓋然性ある飛躍を導こうとする、「(パターン認識+グラフ発想)×シャドウボクシング」の考え方は、確かに身につけたい思考プロセスだ。
 また、発想力を高めるための道具として、レンズの比喩を用いて、感度の良い多様な切り口を提供する。拡散・フォーカス・ヒネリの各3次元、計9つの視点は、バリューチェーン、進化論、KFS、ユーザーになりきるなど、戦略論では目新しくはないが、しかし、汎用的である。

 いずれにしても、本書はインサイトにたどり着くまでの知見を与えてくれるが、結局、何度も実践してみてやっとインサイトにたどりつくのだろう。シャドウボクシングを重ねることによって自らの実践力を高めることが、結局、一番の近道なのだ。

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さて、わが社は・・・。

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本書の帯びにはこうある。
「スリッパにはきかえる会社、極端に美人の受付嬢がいる会社、相談役のいる会社、社員に体操を強制する会社−すべて要注意!」、前から2つ目は除いて、随分とドキッとすることを言い出らっしゃる。
本書で指摘する法則は、投資家としての著者が形成してきたヒューリスティック(意思決定の便法)であり、例えば営業担当者が「トイレが汚い会社とは取引するな」といわれ、融資担当者が「ベンツに乗った社長には気をつけろ(会社と個人とが分離していない証左)」などと言い継がれるのと同じである。よって、まったく当てにならないでもなければ、信用するまでもない。
また、投資される側としては、こういう当りに気をつけておかないと、IRやロードショー上で不利になるということを知っておいて損はない。
ただ、著者自身が相当胡散臭い経歴の持ち主でもあることは今更言うまでもない。光通信を激賞し、ネットバブルの上りエスカレーターに乗って名声を勝ち得、光通信の凋落とともに一時雲隠れした経緯を持っている。クレジットアナリストとしての当時の私は、彼のレポートを拝読したことがあるが、まあ、精神論一辺倒の内容のないものであったことは事実だろう。
前述のとおり、これは個人投資家などが読むというよりも、投資される側が気をつけることによって自社のプレゼンス・マネジメントの参考になる、そういう使い方がお薦めである。

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