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甲斐小泉さんのレビュー一覧

投稿者:甲斐小泉

39 件中 16 件~ 30 件を表示

紙の本ナゲキバト

2003/12/08 17:17

大切な人への贈り物にしたい本です。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 アメリカの片田舎が舞台の、少年と祖父の交流を描いた、なんとも心温まる物語である。読んでいる間に、心の中に暖かいものが静かに広がる気持ちになった。

 主人公の少年ハニバルは不幸にも、交通事故で両親を亡くし、一人身の祖父ポップの元に引き取られる。ポップは名もなき庶民の一人ではあるが、非常に深い知恵をもった人で、ハニバルの心の成長に非常に大きな力を発揮する。

 例えば、遊び相手がいなかったハニバルの友達となったチャーリーは、いわば社会の最底辺の与太者の父親と暮らし、虐待もされている。私だったら、あんな子とつきあってはダメととめてしまうと思う。だが、ポッポは目くじらを立てることなく、父親は気の毒な人だからそうっとしておいてチャーリーとはいっぱい遊びなさいと言う。その気負わないさらりとした対応に子ども達への深い愛情を感じる。

 またある時は、ハニバルは主を失い廃屋になった両親の家を祖父にいざなわれて訪れる。二人がどんなに一生懸命生きていたか、自分がどんなに愛されていたか、ハニバルは残されていたものたちから再確認する。

 動物達との交流から、無益な殺生の意味を知る下りには、ただ甘いだけで、自分のした事の責任を取らせない現代の子育て風潮に、静かな抗議をしているようにさえ思われた。

 ひとつひとつのエピソードに愛情があふれ、いわゆるドラマティックな事件が起こるわけではないが、生きることの尊さや悲しさを教えてくれる文字通り珠玉のような物語である。自費出版から始まってベストセラーになったというが、この物語の良さを認めた人が多いというのは、世の中もまだまだ捨てたものではないと思う。

 今の日本は「勝ち組」「負け組み」と経済面だけで人を分けるのが流行になっているようだが、経済面では決して豊かではなくても、ポッポのような素晴らしいおじいちゃんは間違いなく人生の勝ち組である。こんな心の暖かな人がたくさんいるのが本当に豊かな社会というのだろうと思う。

 ギスギスした風潮が続く日本でこそ、もっと広く読まれたらいいのに、と思うが、先ずは大切な人に読んでもらいたい本である。シンプルで上品な装丁の本なので、素敵な贈り物になると思う。

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子育てに悩む親に新たな視点を教えてくれる本

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

タイトルからすると、英才教育の本かな?と思ってしまうが、サブタイトルの「脳生理学者の子育てメッセージ」というのが内容には相応しい。

 今、現在子育てをしている身として、体罰をも厭わない厳しさで行こうという論と、子どもの要求を満たしてやろうという論をはじめとして、さまざまな説に右往左往することが多い。著者は、教育評論家や小児科医などとはまた違った、脳生理学者としての立場から、子育てを説いているので、読んでいて「そうだったのか」と思ったり、「これは心せねば」と思うなど、新たな視点を教えてもらえて良かった。

 例えば、遺伝と思われる子どもの性格については、親の考え方や世間の流れが大きな影響を与えているという話は印象的だった。世間の考え方の移り変わりも考慮しなくてはいけないし、親の態度いかんで、子どもが生きていこうとする意欲、自信が違ってきてしまうとの事。さまざまな教育論の中で、何を選び取るかの責任は結局は親が果たさなければならないのだなと思う。

 また、今どの親も子どもに聞かれてなかなか適切に答えられない「何のために勉強をするか」という事にも科学的な面から答えを出してくれているので、子どもに聞かれて困ったときなど、引用させてもらえるな、と思った。

 現在、最も悩まされている、親をどこまでも自分の意のままにしようとしているとしか思えない際限のない甘えも、ヒトが進化する上で獲得した新しい脳ではなくて、動物として形作られた最も古い脳の部分に確固として築き上げられた生存と同じくらいの本能と知れば「そうだったのか」とホッとしたりもする。もちろん、これをカバーする理性を得て大人になっていくための手助けをして行くのに重要なのが親などの人生の先輩なのであるが…。

 タイトル、見出しなどを見ると、ぎょっとする表現もあるが、中身は決して過激な決め付けではなく、また、著者の顔をコラージュしての脳の情報の捉え方や、そこから起こる感情の反応といった説明を始めとして、説明図も豊富で、本来はむずかしい話なのだと思うが、素人にも分かりやすく、大変におもしろく読めた。

 巻末に「親が子どもの味方であるということをはっきり示せば、子どもは叱られてもそれで性格がゆがむなどということはない、と確信をもつべきです」と結んであるのは、とても嬉しい言葉であった。

 教育論の洪水の中で、自分の子育て方針に自信がなくなっている私のような親御さんには、ぜひお勧めしたい本である。

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お助け野菜のおいしい食べ方

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

夏の長雨で葉物野菜の価格が高騰して、豆苗を頼っていましたが、ワンパターンになりがちでした。この本にはいろいろなレシピが載っています。また、栄養価の高さと共にカップ麺に1パック投入など、目からウロコの情報もありました。今度豆苗を買ったらいろいろ試してみたいです。

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紙の本葬式の値段にはウラがある

2003/12/07 23:02

いつXデーが来るか分からないご家庭には必読の書

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 元警視庁の巡査部長として、ご遺体に対面する機会が人より多かった著者が説く葬儀の実態には驚くべきものがある。

 交通事故などの不意の死に驚く身内は遺体安置所で「警察指定の業者」といやおうもなく契約をさせられる。また病院の霊安室では死者との別れを悲しむひまもなく「病院指定の業者」が顔を出す。いかにも親切そうな顔をして、裏では金になる遺体の争奪戦やらエセ僧侶の養成までして、死者の供養のためと言いながら、常識では信じられないような金額の経費をぼったくる悪徳葬儀業者がいかに多いかを、関係者の匿名証言を元に書き連ねているこの本を読むと、まさに「地獄の沙汰も金次第」という言葉が浮かんできてしまう。

 最近では結婚式については、若い人たちの発言力が増してきていることもあり、親戚や会社の対面より本人の結婚後の幸せを考えるべきだ、ということが浸透してきて、堅実な、業者に乗せられない方式が増えてきているが、こと、葬儀に至ってはご本人は文字通り「死人に口なし」。遺族は故人を失って呆然、愕然としている上に、「ご冥福のために」は世間並みやら、文句なしを受け入れさせられてしまい、葬儀の後、これで払いは全てOKと思っている葬儀一式として出された価格の倍もの請求書が来ることも稀ではないという。

 冗談じゃないや!と思う向きにとってはありがたい事に、業者の思うつぼにならないための作戦もちゃんと載っている。先ずは葬祭会社と交渉力がある親戚、縁者にも間に入ってもらって、複数で対応すること。加えて、業者に「タダモノではない、侮れない」と思わせる「葬儀の一切合切でいくらになるか」という言葉で見積もりを依頼すること。また、業者の質を見分けることが出来るキーワードなどなど、身近にいつXデーを迎えるか分からない高齢者を複数抱える身には、非常に参考になる内容が並んでいる。正直なところ、この本を親戚中に回してXデー対策のバイブルにしたいくらいである。また、当事者となりそうなご本人が、死後の葬儀について希望のある場合は、ご当人に読んでおいてもらうのも、(いささか刺激が強すぎる記述もあるので、本人の性格などをよく見てからにしないと大変な事になりそうだが)良いかも知れない。また、自分自身を思っても、いつ何時お迎えが来るか分かったものではないので、家族にもしっかり読ませたい。

 もちろん、書かれているような悪徳業者ばかりではなく、顧客のためを思っている良心的な業者もあると著者は何回も書いているし(と、断り書きをしなければならない程の内実とも読めないこともないが)業界の古い体質を払拭しようという動きもあるというのが救いではある。それにしても、生きるのも大変だが、死ぬのも難儀なのが、今の日本だと思うと、やれやれと思う。

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紙の本地球買いモノ白書

2003/11/09 12:31

便利で安いのはいい事、というライフスタイルについて考えさせてくれる本

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 我々が日常的に便利にand/orありがたく使っているものが、どういう流れを通って手元に届くのかを追う中で問題提起をしている本である。

 チキン、マグロ、カップ麺、缶コーヒー、マガジン、スポーツシューズ、ケイタイ、ダイヤモンド、マンションの成り立ちを9つを分かりやすいイラスト入りで教えてくれている。それらが国内外の色々なところから、さまざまな行程を経て手元に届く事を知って驚かされるが、残念ながらどの項目でも、さまざまな問題点が出てくる。あるものは現地で働く人々の人権問題で、別のものは産業廃棄物や環境汚染という問題で。ものによっては複数が重なることもある。

 それについて、声高に「いけません!」とか「そんなもの買うな」という感情的に紹介するのではなくて、あくまでも淡々と冷静なスタンスで描かれているところに好感が持てる。その一方で、専門の研究者ではないグループのメンバーが、ネットや書籍を駆使しているうちに、さまざまな問題がボロボロ(と言いたくなるほど)出てくる所に問題の根の深さがあるとも感じさせられる。

 家計を考えると、ものの価格は安いほどありがたいし、便利さを求めるのも、時代の流れからある程度はやむを得ない面があると思うが、一方で、モノあまり状態が言い続けられ「捨てる」や「シンプルライフ」がちょっとしたブームとなっている日本である。単純に「ラクした」「得した」と喜ぶのではなくて、ちょっと立ち止まって、その商品の裏には何があるのか、自分の暮しに照らし合わせて本当に必要なのかどうか、と考えてみる必要があると思う。

 本当の国際人とは、たとえ自国から一歩も出ないとしても、地球のトータルバランスを考えて行動できる人たちのことかも知れない、と思いつつ読んだ。

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紙の本昭和の天一坊伊東ハンニ伝

2003/10/22 18:25

破天荒すぎて語られることのなかった男

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 この本に出てくる登場人物は、評論家の大宅壮一、ノーベル賞作家の川端康成、国民栄誉賞受賞歌手の藤山一郎、男装の麗人として未だ語り継がれている川島芳子など、そうそうたるメンバーである。昭和半ばに生まれた私は、実際の人物を見、あるいは、親から話を聞いていた人が非常に多いのだ。

 しかし、彼らと親交のあった、あるいは彼らを資金力で動かしたこの本の主役、伊東ハンニという人について、自分はもちろん知らないし、親から聞いた記憶もないのはどうしてだろうか?と不思議に思いつつ読み進むうちに、ハンニの破天荒すぎる人生が、彼と縁のあった人に多くを語らせなかったのに違いない、と確信するようになった。

 経済的に恵まれた家庭に生まれながら、実家が零落した彼は、独学を重ねて、当たって砕けろの行動力で考星学者として有名だった隈本有尚の弟子となる。彼に株価の動きを占ってもらった結果、大もうけをするというあたりからして、非常にドラマティックだが、そのもうけを元に、徳富蘇峰がはじめた国民新聞を買い取り、隈本有尚のもう一つの専門であったシュタイナー学を持って、独特の世直し理論を展開。

 宣伝には北原白秋に作らせ藤山一郎に歌わせた歌を使うなど、プロパガンダの大家でもあったようだ。しかし、日本が軍国主義に傾いていく中、段々に思想家というよりは、教祖的な言動を取るようになり、戦争終結前には危険な思想の持ち主という事で、過去に彼が度々詐欺を働いた事を理由に逮捕、投獄され、戦後は泣かず飛ばずで終わったという。

 詐欺と言っても、決して今の時代にはやっているような弱いものからむしりとるような悪徳ではなかったと著者は説く。交際のあった人物といい、彼がもうけた金額といい、投資した金額といい、なまなかではないのだが、あまりに破天荒すぎるが故に、彼を知る著名人は付き合いがあった事実を公言したくなかったのではないだろうか。

 恐らく、戦前のハンニは今で言うワイドショーを騒がせた人物のタイプ、つまり何ら文化的実りももたらさず、面白おかしい騒ぎをもたらしただけに終わってしまったのではないかと思う。本人は大真面目であり、カリスマ性を備え、非常にダイナミックな行動力がある人だっただけに、こけ方も派手だったハンニ。同じくプロパガンダを天才的に操ったヒトラーのように後世に語り継がれる極悪人とならなかったのは、天性楽天的、おめでたい面があったからだろうと想像する。

 ダイナミックにずれまくったお方だが、愛すべき面のある、実に面白い人物がいたものだと思う。夢想と実際をまぜこぜにしたうそだらけの経歴に散散翻弄され、迷宮をさまよう気分を味わいつつもハンニを紹介してくれた著者に拍手したい思いである。

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暮らしをもっとダイエットする本

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タイトルが示すところは暮らしのダイエットであるが、一過性のブームというより、一つの生き方として、広く認められつつあるシンプルライフについてのムックである。衣類の管理や持ち数、キッチンの事など、特に女性には身近な事柄から、マネー管理、スリムな心身のキープまで、とても幅広く、ヒントや実例を網羅している。有名無名の様々な人の実例が写真やイラスト多数と共に紹介されているので、イメージしやすく、とても分かりやすい。また、チャート式テストなども豊富なので、シンプルライフ志向の入門者にとって、うってつけのガイドになってくれると共に、既にシンプルライフを始めている人たちにとっては、自分の方法について再確認する一助となってくれそうである。シンプルライフについて、何か1冊と言われたら、この本をお勧めする。

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日常ながら運動のすすめ

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 サブタイトルがフィットネスクラブ無用論とあるが、特にダイエットを中心として、たとえ高額な料金を払っても、フィットネスクラブが、いかに続きにくいかというのを、なるほどと思う例を挙げて説明。
 それよりは、日常生活の中で気軽に、気長に、こつこつと運動をする事が大事という著者の持論には非常に説得力がある。
 図入りでないのが惜しいと言えば惜しいが、家庭から職場、移動時間まで、人の目のあるなし、スペースや天候などの運動を続けるのにネックとなりそうな色々な条件をも織り込んで、効果のあがる運動法をいくつも挙げてくれている。
 この本を手元に1冊置いて、ながら運動をしていったら、何ヶ月か経つと、年令相応の体力とそれなりのプロポーションをゲットできるのでは?と希望の沸く本である。

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マイナスからのスタートの方が大きな力を発揮出来ると教えてくれる本

14人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 今夏、実写版の映画第二弾が放映される「ゲゲゲの鬼太郎」の原作者、水木しげる先生の奥様の自叙伝で、ご自身の生い立ちから水木しげるさんとの結婚、極貧の下積み時代から、テレビ放映で人気が高まり、現在の「大家」として名を成すまでを、妻の目から描いていて、興味深い読み物でした。

 先ず、二人の出会いはそれなりの家柄の生まれとはいえ、「ないないづくし」「選べたもんじゃない」という状態から始まったのであり、当時はそれが普通だったというお見合い結婚の中でも、かなり異例なスピードで話が進みます。すなわち、著者自身は当時の娘の基準としては背が高すぎた(そう、少し前までは、女性の背が高すぎるのは嫁にいけない条件のひとつだったのです)ためにいわゆる婚期を逸した状態になっていた事、水木さん自身はよく知られているように戦争で片腕を失っておられたなど、いわば互いにハンディを背負っていた上、経済的な事情もあり、とにかくパッパと結婚してしまったのです。

 スピード結婚で上京すると・・・貸し本の漫画家をしているので稼ぎが月額3万円という当時としては上々だったはずの夫の収入の実態は、それとは程遠く、零細な貸し本業者からは値切られるは、踏み倒されるはの上、夫が先ずは自分の親やきょうだいを優先してしまうために、著者の家庭は赤貧洗うが如しという有様。申告所得が少なすぎるとやって来た税務署員に質札の束を突き出して、「われわれの生活がキサマらに分かるか」と水木氏が怒鳴るエピソードは圧巻です。そもそも結婚自体が成立しないような話ですが、こと、ここまで経済的に追い詰められ、しかも、夫が自分の家庭より身内を大事にしたら・・間違いなく離婚になり、周囲も妻側をいたく同情する事でしょう。

 しかし、著者は夫が漫画に打ち込む姿を見て、尊敬を感じ、絶対にこの人が世に理解される日が来ると信じ、文字通り健気に支え続けます。時として、収入度外視をしてどうしてこんなことをするのだろうと思いつつ、夫と共に戦艦を組み立てて遊んだりもする妻だったので、水木氏がとても幸せな人だったのが分かります。(重たいテーマ、不気味な話の中でも氏がユーモアを忘れないのは、この奥様の存在が大きいのかもと思わせてくれます。)

 暗くて、売れないよ、と言われていた水木さんの作品が世に知れ始めるのが、テレビの実写版「あくま君」。年齢がバレバレですが、子ども時代の私はあの番組がかなり好きで、特にねずみ男と合い通じるずるさ、せこさを持ってるのに憎めないメフィストが好きでした。(俳優さんの容貌や声色をいまだ覚えています)主題歌の作詞は水木さん自身ですが、この本に書いてある歌詞を全部覚えている程、あの頃は歌っていました。

 そしてアニメの「ゲゲゲの鬼太郎」で水木さんの人気は国民的なものになります。(あくま君以上に遠足、林間学校などの往復のバスの中で「ゲゲゲの鬼太郎」の歌は定番小学生唱歌として歌われていたものです。)鬼太郎、目玉のおやじ、ねずみ男をはじめとするユニークなキャラクターは、まんまるで可愛く陰がない、あるいは超未来的なヒーロー、ヒロインが大勢を占めていた中で、古い日本の不気味さや不思議さを秘めていて魅力的でした(それでいて、鬼太郎が闘うストーリーは現代的な問題を提起しているのも魅力でした)。

 子どもだった私が水木作品の魅力を享受している頃から、著者たちの暮らし向きはずっと楽になるものの、水木さんの周囲は一気に忙しくなり、家庭を顧ない夫の姿に著者は「貧しかった時の方が幸せだった」と思う事すらありました。しかし、ある時に、夫は家族は一心同体だと思っているからこそ、家族を後回しにするのだと理解し、さらに支え続けます。出世前の著名人と親しくなってしまう水木家の事や、慰霊の旅の事など、色々なエピソードが描かれ、現在の著者は実に幸せそうです。


 読んでいて、文字通りの内助の功を遂げた著者の芯の強さを感じましたが、それと共に、選べない、いわばどん底(これを一般的にはハングリーと言うのでしょう)からのスタートとなったが故の幸せというものを強く感じました。私の親世代位から上の世代は、その我慢と犠牲の上に成り立つ幸せというのを尊びましたが、私よりいくらか上の年代くらいで、大いに揺れて、下の世代は完全にハングリーな状態からのスタートを選ぶのは愚か、あるいは、本当にやむにやまれずのレアな状態になってしまいました。

 下手をすると「だから我慢が大事なのだ」「今時の若いもんは」と言う説教モードに持っていかれそうな部分があるのを著者は自分達は自分達だから、と流し、説教に堕してはいないのが、やはり著者がよく出来た人であると感じさせてくれます。

 我慢はしない、恵まれたところからのスタートが当たり前という現状が、ないものねだりや不安、不満感につながる事の多い今の風潮を見ていると、足らないところからのスタートでも、創意工夫を重ねて、自ら作り上げていく人生の方が充実感があるとはっきり言葉には出さず、感じさせてくれる本でもありました。

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痛々しい青春の記録ー搾取する大人たちの醜さ

12人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

15才の少女がいかにしてポルノスターになったのかというコピーを読むと、大変にスキャンダラスなキワモノだと思われるが、読んでみると、痛々しい出来事が多数語られていて、アメリカ(恐らく日本でも他国でも)でいかに無知につけこまれて少女達が性的に搾取されて行き、心にも深い傷を負うかが生々しく描かれている。
白人の貧困層の生まれのノーラ(これが彼女の本名)は暴力亭主である父親と、それから逃れるように男性遍歴を繰り返す母親の間に4人姉妹の二女として生まれた。自分では意識せずとも、異性の目を惹きつけずにはおかない容貌をしている彼女は心的なぬくもりを求めて付き合っていた年上の少年から僅か10才でレイプされる。父親から性に対する罪悪感を植え付けられていた事もあって、彼女はその時点で自分を「売女」だと思いこむ。
その後、母と一緒になった継父を若干の疑念を抱きつつ、昼間の顔を見て信頼のおける人間だと思って、15才で妊娠したことを相談すると、こいつがとんでもない食わせ物で(寝ている著者に性的ないたずらも試みていた)、彼女をポルノスターへの道を駆け上がらせるようにし向けた。合間には彼女を陥れて、自分の懐を暖めようとする人間が多数出没する。朱に交われば赤くなるという言葉通り、まだティーンエイジャーだというのに、彼女は麻薬の売人との出会いも恐れなければ、おかしな男をヒモにするような羽目に陥り、稼いだ金は右から左へ消えて行く転落の時期を過ごす。
本当はやりたくない、イヤダという気持ちを打ち消すためにドラッグやアルコール、セックスの依存症状態で20本の映画に出演するが、やっとポルノから足を洗おうという時にFBIの捜査が入り、児童ポルノの被害者であるにもかかわらずマスコミの格好の餌食になり、更に傷つけられる。
後半は彼女がセラピーを受けたり、山ほどの中傷や先入観のために辛い思いをする中、薬物に立ち返る事もなく、演劇の勉強をしたり、自らの努力で立ち直り、映画や音楽の世界で活躍する姿を写真も添えて描いているが、こういう風に己を語れる強さを持たずに沈んでいく少女達が世界中にどれほどいるのだろうかと思う。
レイプされた女性達は「自分にも落ち度があった」と思い、親や周囲から虐待されていた人間は「自分が悪かったから」とこれも自らを責めるというが、彼女もそう思い込む。そこにつけこむようにして周囲の人間のほとんどが彼女を救うどころか、つつき回して金儲けの道具にして行く。これが今日も世界のどこかで日常的に繰り返されているのだと思うと、本当に嘆かわしいとしか言いようがないのだが・・・。
悲惨な青春の物語だが、淡々とした語り口から、今は不幸な時代を過去のものとして決別出来ている事が分かるのが幸い。さらに幸せな結婚生活を送り、今は少女達を守る側に回ろうとしている結びを読むとホッとする。
彼女自身が「自分が語る事で、ポルノからスターになれると思われるのがコワイ」と言っているが、欲を言えば、同時に「薬物依存からも簡単に立ち直れるという勘違いをしないように」と一言書いておいて欲しかったと思う。

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紙の本老朽マンションの奇跡

2010/07/15 15:33

この本を読んだから、即、格安物件をゲットできると思ってはいけません。が、著者の住まうことに対する提言には力があります。

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 小さなライフスタイル提案型出版社を営む著者が若手社員ハヤト君の住宅難解決と絡めて、人気スポット吉祥寺で取得した格安ボロボロ物件を、すばらしいリノベーションマンション、コンセプトは「たそがれロンドンフラット」に変身させるまでのセミドキュメンタリー。

 著者は英国通として有名で、沢山の本を著し、大量生産大量廃棄で成り立つ日本の暮らしの不健康さを憂いて来た。特に、建て終わった瞬間から価値が下がり続けるしかなく、地震大国とは言え、極度に寿命の短い使い捨て住宅と、古いほど価値があり、手を入れて長く住み継ぐ英国の住宅との比較については、時に英国かぶれと揶揄されかねない部分もあるにせよ、なるほどと思わされて来た。

 今回も、上京した若者が独り立ちできないどころか、借金地獄へも落ち兼ねない元凶として、異常に高くつくのに、少しも豊かではない東京等、大都市の住宅事情があるという問題提起を行っていて、首都圏出身の自分には見えないでいたものを教えて貰った感じである。

 著者がいわば家道楽であり、何軒もの家に住み、自身も持てる力を駆使して低予算で理想的な家を建てたという経験のある目利きで、なお且つ、商売気を越えてバックアップしてくれる三井リハウス社員などの強力サポーターがいる等、一般の人が住宅を入手しようとする時よりはるかに有利な状態なので、この本を読んでも、誰でもが格安物件を手にする事は出来ないと思うが(サイドストーリーとして登場するエピソード:社員のために、ひと芝居を打って、高級マンションの大幅値引きを引き出す辺りは、素人、まして初めて住宅を購入しようと言う人にはとても思いつかないワザ)、そのポリシーには学ぶべきところが多々ある。

 あてがいぶちで我慢してしまったり、「今が買い時」と煽られてしまい、本当の意味での買い時とずれた時期に無理してしまったり、妥協してしまったり・・・バブルの最中、どんどん値上がりするマンション価格。高倍率の抽選などなど、まさしく煽られてしまって、後から考えればかなり不利な条件であった我が家を買ってしまった事をほろ苦く思い出してしまった。買い得と買い時は違う。まさしくその通り。

 みんな面倒を避けたくて新築住居、築浅住居を欲しがるというのを著者自身が何度も感じながらのスケルトンリフォーム。これには、三井リハウス社員から紹介してもらったリフォーム業者の力に預かる部分が大きい。途中のトラブルなども書いてあるので、何もかも順調とは言えず、むしろ古い物件だけに、様々なトラブルがあったものの、基本的に誠実な「老朽公団に強い」業者の尽力を得て、おんぼろマンションは見事なまでに大変身。そこへ、冒頭の、若手社員ハヤト君(彼は住宅のために借金をこしらえ、彼女に振られ・・・その後、悪名高きゼロゼロ物件に入居していた)をいざない、めでたし、めでたし!の大円団を迎えるのである。

 マンションの入手~リフォームのレポートと同時に、エコロジカル住宅など、富裕層ばかりに目が向き、地に足が着いていない住宅政策に対する批判(古い公団住宅等、空き家だらけの一方、若者の生活が成り立たないほど貧困な住宅事情がある)、提言が盛り込まれていて、説得力がある。確かに、リノベーションは面倒くさいが・・・業者に限らず、行政まで、手間要らずでパッとお金が舞い込む新築物件ばかりに目が行くのはどんなものだろうか。住宅のような大きなものまでも手間隙をかけず、安易に、使い捨てをする、異イギリス通の著者の憤りは、現在の日本のダメさの根本を突いているように思う。

 印象的だったのは、情報の力、人と人とのつながりである。そして、手間を惜しまない事。仕事を通して培った眼力や人脈、家建築を通して知り合った人たちを、みんなサポーターにしてしまえる著者の力量と、手間を惜しまない気力・根性があってこそ、格安物件を上手に入手し、低予算で素晴らしい物件に大変身させる事が出来たのだ。 格安に素敵な家を入手したいと考える人たちは、まずそういうものを得るところからスタートしないといけないだろう。

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紙の本高峰秀子の流儀

2010/06/22 12:53

高峰秀子とは・・・過酷な人生にも折れなかったタフで優雅な教養人。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 私が彼女のことを意識したのは「ミセス」に連載していたエッセイ。彼女が親世代にとっては、国民的アイドルだったらしいのは「でこちゃん」と彼女を呼ぶ父の言葉で薄々知ったけれど、既にエッセイにシフトしていた頃ではないかと思う。

 物語に親しんできた子どもにとって、日常身辺を描いたエッセイというのは、まだ面白いとは言いがたかったものの、モウモウの善ちゃんと夫君の事を呼んでいるという一文がいやに印象深く残っている。彼女のエッセイには、夫の松山善一氏の事がよく登場していたように思う。

 エッセイの名手という事と、子役から役者人生をスタートしたという事くらいは、何となく知っていたけれど、私の興味はほかの方に走っていて、ちゃんと彼女の事を書いた本を読んだのはこれが初めてである。

 確か、母が「高峰秀子は学校も行っていないのにたいしたもんだ」というような事を語っていた記憶があるけれど、(当時の芸能界には、子どもを全く学校に通わせなかったり、子どもの稼ぎを当てにしたり・・・今なら児童虐待で訴えられそうな親もいたようだ)実母が亡くなると、父親の妹である叔母に引き取られた彼女。

 この養母というのが、高峰秀子、松山善三夫妻をかあちゃん、とうちゃんと呼んで慕う著者から見たら、とんでもない女で、彼女の稼ぐ金を当てにして、学校にも通わせず、嫌がらせや、彼女の資産の横取りなど、したい放題。後述のような稀有な人格を持つ高峰秀子すらが「母」とは呼べず、その容貌から「デブ」と呼ぶような女であった。が、そんなデブの最期を看取ったのも高峰秀子である。

 著者が高峰秀子夫妻に心酔しているために、時として、神格化に近いものを感じる場面もあったが、多数の著名人にインタビューをして来た著者が、女優という人からちやほやされる職業についていると、ほぼ確実に生じる悪癖を一切持たない人が高峰秀子、と述べると、やはり説得力がある。

 章ごとのタイトルの殆どが、彼女の特性を表しており、動じない、求めない、期待しない、振り返らない、迷わない、甘えない、変わらない、怠らない、媚びない、驕らない、こだわらない・・・と並べるだけで、凡人には考えつかない精神力の持ち主だと分かる。タフと言うのはこういう人の事だと思わされるが、一方で、苦労人ゆえの心配り、繊細さも持ち合わせていて、こまめな礼状や、お手伝いさんや運転手さんと言ったいわゆる使用人に対しても見下したりせず、対等に接している様子も紹介されている。

 そんな彼女が唯一甘えを見せる相手が夫君である。身内から搾取される凄まじい子ども時代、思春期を送った彼女が、人気女優と助監督という映画界での身分格差をものともせず結ばれただけに、素晴らしい結婚生活を送っている・・・というのが、ところどころにはさまれた有名・無名の人が撮った夫妻の写真からも感じられる。

 それにしても、一流の映画人や芸術家等と接していたところから学んだのだろうけれど(勉強の機会を奪われた彼女の貪欲なまでの学びたい気持は凄まじく、独学で字を読むこと、書く事を覚えたと言う)、下品な成金趣味に堕しても不思議ではない境遇に育ちながら、夫に「この人の好みは間違いない」と言わせしめ、趣味の良いセレブリティとなり、多くの人に憧れられるようなスッキリした暮しを送って来た彼女の強さは・・・元々、桁外れな精神力を持つ子どもだったのだろうと思うけれど、それを磨いたのは、もしかしたら、あまりにも強烈な反面教師となったデブの存在だったのではないだろうか。

 理想的に見える人生を送る夫妻は、妻があまりに過酷な子ども時代を送ったために子どもを持たない事を決めたのだろうか?それとも、授からなかったのか・・・子どもを介した場合、この2人の人生はどのようになっていたのか・・・恥ずかしながら、子は鎹(かすがい)になっていない私としては、子有りの理想的な人生も見せていただきたかったと言うのが正直な思いである。

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タイトルは怖そうですが、内容は分かり易い説法です。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 多くの人をひきつけてやまない京都。ここは世界遺産をはじめとする神社仏閣、三大祭などの見どころが多い以外に、不思議な話も多く、それもまた人を惹きつけていると思われます。

 たまたま借りた本に入っていた新刊案内を見て、現役の和尚さんによる怪談話という事で、単なる怖がらせや、興味本位とは違うのではないかと、猛然と読みたくなりました。

 私の見込みは間違いなかったようです。

 普通の相談機関では相談できない不思議な、あるいは不気味な状況に対する相談事を、まさしく駆け込み寺状態で受けている著者。表紙はなかなか不気味ですが、本を読んでみると、時としてくすっと笑いたくなるようなユーモアも交えて語っておられ、サービス精神の結果らしいと分かります(笑)。

 死霊、生霊を問わず、人の念のなす仇の怖さや、思いの強さなどが描かれていますが、大げさにならず、顛末の分かるものについては書かれていますが、よく分からないものについては勝手に結論付けず、さらりと流しています。決して、身の毛もよだつ、後味の悪い読み物ではありません。

 怪奇譚の事例としては、振り込め詐欺の犯人の体験したゾッとする話から、恋愛の恨みまで、幅広く、対象も著者本人や知人、友人から、代理教誨師として訪れた先の塀の中の方だったり、バラエティに富んでいるので、その語り口の冷静さもあって、信憑性を感じます。

 全体を通して、著者は「見えないものは無い」と非科学的と称されるものを排除する傾向に対し、宗教者として、それはいかがなものかと述べています。

 霊障などと脅しつけて、高額な布施を要求したり、後味を悪くさせたりする、霊能者や宗教者を名乗りながらいかがなものかと思われる言動をする人びととは全く違い、あくまでも、死者の供養の大切さや、時としては知らず知らずに人を傷つけ、恨みを買う事もないとは言えないけれど、人を思いやって生きる大切さを説いていて、怪奇譚と銘打ってはいるけれど、興味本位な内容ではなく、具体的で分かり易い説法をしていただいているような気持ちで読めました。

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著者を裏切った組織と支える人たちがあって出来た本

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 村木厚生労働者局長が障害者団体向けの郵便割引制度悪用に絡み逮捕のニュースを見て、こんな賢そうな人がそんな犯罪を犯したの?と思いましたが、その後、村木さんは無罪となり、一転して村木さんを捜査した大阪地検の特捜部長と副部長が逮捕されました。

 この時には、村木さんに感じた以上の違和感がありました。と言うのは、検察=鬼、怖いと言うイメージを抱いていた割に(その手のドラマは余り見ないので、祖母が近所に越して来られた元検事さんを、元の職業柄から怖いと思っていたらいい人だった、と繰り返し言っていたのが大きいです)、元特捜部長の大坪さんは、普通のその辺にいそうな、怖いよりは善良そうなオジサンに見えたからでした(アクションスターのジェット・リーが「海洋天堂」で演じた、近所でお目にかかれそうな雰囲気のお父さんみたいです)。

 いやいや、悪人は悪人って顔してたらばダメなんだよ、経済ヤクザなんて、見た目にはすごい紳士に見えるじゃん!と思い直しましたが、その後のバッシングを見て、少しばかりマスコミの松本サリン事件の時の反応を思い出したりもしました。

 しばらく事件の事を忘れていた時に、大坪元特捜部長が勾留されていた時に体験した事、思ったことがつづられているこの本を見つけました。

 第一印象は、余りにも特捜部長と言う事にこだわっていて、差別的表現ゆえ使いたくないのですが、他にうまい言い回しが無いので言いますが、女々しいと思いました。

 何で特捜部長の自分がこんな目にと繰り返しておられるのですが、ある時点から、著者はかつて自分が塀の中に追い込んだ被疑者の身と我が身を重ね合わせるようになります。

 主に経済事件など、いわゆる凶悪犯よりはお金持ちやインテリさんを追い込む事が多かったから、なおさら、取り調べ官の言動一つでいかに屈辱を味わったり、逆に救われた気持ちになれるかを体感します。

 著者によると、フロッピー改ざん事件絡みの逮捕は検察組織のトカゲの尻尾切りで、本体を傷付けない為に著者と部下の副部長に全ての罪を被せたと言う事になります。

 取り調べる側として、被疑者を自白に追い込むノウハウを熟知している著者ですら、危うく認めますと言いたくなる捜査の様子を読むと、一般人ならば、例え自分がやっていない事でも、拘禁を逃れる為なら認めてしまうかもと思わされました。著者はそこまでは意図していないと思いますが、精神的な拷問に近い強引な取り調べによる冤罪はままあるだろうと思わざるを得ません。

 一読して女々しいと思われても仕方ない取り繕わない文章の書き方や、著者を信じ、支えようとする家族や司法修習生仲間や先輩、後輩などの言動に関する記述を読むと、確かにこの人はちょっとした取っ掛かりから貶められたのかも?と思われて来ます。

 著者の二男と近い年齢の我が子ならば、父親がこのような苦境に陥っても、決してこんな言葉を掛けて力づけたりしないだろうと思うと(私も著者の奥様のように頻々と面会などしないでしょうし)、忙しく仕事をしても、恐らくは仕事に逃げず、肝心な時には家族にしっかり対していたのだろうと思います。

 また、若干自慢臭はありますが、かつて自らが獄に追い詰めた人たちからの言葉も、著者が厳しさの中にも温情をもって当たったからだろうと思わされます。

 読後の感想と言うか直感はやはり、この人は仕事熱心なオジサンで、悪党じゃないよ!でした。

 実は最初に村木さん逮捕の報道を見た時に、女性の出世の足を引っ張りたい何者かが裏にいるのかしら?と言うインスピレーションが働いたのですが、この著者の場合は、あくまでも私の勝手な推量ですが、もしや検察組織内の学閥によってターゲットにされたのかも?と思ってしまいました。

 誇りを持って働き、信頼していた組織に裏切られたと言う著者は、ここまで書いた以上、例え無罪を勝ち得たとしても元のサヤには戻らないでしょう。今後は強引な捜査による冤罪などが起こらないように、善良な庶民の味方になって欲しいと思います。

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紙の本オリンピックの身代金

2010/05/17 12:45

庶民が踏みつけられる時代に逆戻りしている今だからこそ、読み応えがありました。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

戦後の荒廃の中から立ち直った日本の象徴となった東京オリンピック。この国家的大イベントを迎え
る中で密かに起こったテロを描いた力作。

 大変に正直に申しますと、東京オリンピックについては記憶があります。しかも、当時競技場を抱える渋谷に住んでいました。更に、トウヘンボクの父が折角手に入れた開会式の入場券を、な、なんと会社の部下にあげて大変に喜ばれたという、4年に一度、必ず母が蒸し返して恨んだ我が家の大事件まであったもので、余計印象深いのですが、子どもの目から見てキラキラしていたオリンピックにはこんな裏面もあったのかと思わされます。

 物語はオリンピックの最高警備本部の幕僚長を勤めることになっている警察幹部の息子、エリート揃いの一家の中では変り種、テレビ局勤務の須賀忠が、金持ちのドラ息子よろしく、当時は珍しかった自動車に女優志願の女性を乗せて、花火大会に行こうと気取っている時に自宅である瀟洒な屋敷の離れが火事になったところから始まります。

 この時、偶然に出会ったのが東大の教養学部(駒場キャンパス)でクラスメイトだった秋田出身の真面目で眉目秀麗な秀才、島崎国男。一方で、菅は自宅の離れが全焼という被害にもかかわらず、事件が一切報道されないことに疑問を抱きます。しかも、理由不明のうちに父親から勘当を言い渡され、女性のアパートに転がり込まねばの状態になります。

 警察側では若手刑事の落合昌夫がメインのキャラクターとして登場。同僚や上司と協力しながら、内部組織の連絡の悪さや公安との確執を憂いつつ、また、身重の妻や子どもに思いを寄せつつ、仕事を優先せざるを得ない日々を送っています。組織ではいわば使い走りの彼も、次々に起こる実在の迷宮入り事件の犯人、草加次郎を名乗る犯人からの要求の形を取る爆破事件の真相が分からぬまま、動き回り、次第に核心に近付いて行きます。

 須賀忠と警察側が、それぞれに導き出した結論が、島崎国男が犯人ではないかという事で、須賀は個人的な興味もあり、時々、父親の名前をチラつかせながら、捜査の邪魔とも思える場に居合わせ、結果として、捜査の進展に一役買ってしまったりします。

 勿論、物語はフィクションですが、オリンピック景気に沸く東京で、秋田の出稼ぎ労働者を兄に持つ、貧しい故郷では掃き溜めに鶴状態の東大院生の島崎国男が、兄の死をきっかけに、労働者を搾取しながら成り上がる社会に対し、静かな怒りをもってテロに走っていく様子は、本当にあった話ではないかと思われる程、克明に描かれています。

 ヒロポンを打たないとやっていけない休みなしのきつい労働。下請けの労働者と、建設会社の社員は口も聞けないほど、身分に隔たりがある事。底辺の労働者をさらに搾取する暴力団の存在。海外からのお客様に見られてはいけないものは徹底的に弾き飛ばし、暴力団ですら、それに従う程の国費発揚の威力があった東京オリンピックの裏で行われている事に対し、マルキシズムの研究室にいた国男は、破滅の道しかないと分かっていても、鉄槌をふるわなくてはいけない気持になって行くのです。

 立場によって、あるいは嗜好によって、それぞれの登場人物に対する思いいれや好みが違うかと思いますが、私の場合は、想像を絶する貧困の中で虐げられながら、上昇する気力さえ奪われている出稼ぎ労働者に思いを寄せ、自らの約束された輝ける未来を捨ててテロに走る島崎国男の姿に惹かれます。多分、実際に本人を目の前にしたら、労働者の仲間たちが「あんちゃんは俺たちとは別ものなんだから」と、あるいは「あんちゃんみたいな人が政治家になってくれりゃいいんだ」等と言って約束された世界に戻るように促したのと同じ事を言うと思いますが・・・。 読みながら、捕まるなよ、逃げおおせよと島崎国男を応援する自分がいました。

 身の破滅を招き、故郷にも戻れないと分かっていても、搾取で成り立つ世界に一石を投じずにはいられない国男。聡明で冷静な彼が、自分の投げた石が、国家に飲み込まれ、漣一つ立てないで終る事を予期しながらも動かずにはいられない程、弱肉強食の世界に対する怒りがあったのだと納得させられてしまったからでしょう。

 この作品は再び、格差が大きくなってきている今の時代にはとても印象的だと思います。そこそこ恵まれた人(頑張れば報われる)の代表は警察官の落合昌夫でしょうか。そして、社会の上澄みを泳ぎわたる事の出来るかなり恵まれた人の代表が須賀忠でしょう。

 高度経済成長期は苦役にあえぎヒロポンで身を滅ぼすしかなかった国男の兄のような人を減らし、落合昌夫のように頑張ればそこそこの暮しが達成できる人を大幅に増やし、一億総中流という言葉も出現しましたが、今、また、須賀忠のような、努力や根性という言葉を廃しても生きていける富裕層が増える一方で、搾取され、抗議する気力すら奪われている層が増えているようです。

 誰かが繁栄する時に、下敷きになって苦しむ声無き人々が大勢いる・・・という世の中はマルキシズムを信奉していなくても、いい年こいて青臭いと言われようとも、やはり変だと思わざるを得ません。

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