藍桐さんのレビュー一覧
投稿者:藍桐
紙の本奇貨居くべし 2 火雲篇
2002/05/16 15:26
人生を変える出会い
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一作目の春風篇で重傷を負った主人公の呂不韋がなんとか命をとりとめ、これから動き出そうというところからがこの二冊目。最初は少年で、何かに怯え、自分に自信がなく、誰かに翻弄されるだけだった主人公がここからは少しずつたくましく、一人の人間として輝き始める。
物語中に登場する歴史上実在の人物、荀子や著者の他の作品に登場する孟嘗君など、その脇役もにぎやかになってくる。
主人公の成長といい、その主人公を取り巻く登場人物達といい、まだまだ先が気になる物語。
紙の本奇貨居くべし 1 春風篇
2002/05/10 21:51
暗く沈んだ少年の純粋さが見えるまで
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始めは両親に冷たくあしらわれていると感じている主人公の呂不韋が、父の命で旅に出ることで家の外の世界を初めて知り、初めて人間というものにふれて今まで閉じていた心の目を開き、人生を一歩踏み出すのがこの一冊目。
親元を離れ、心細さを感じるどころか全くの他人に心を開き、家の外にこそ自分の居場所を見つける呂不韋の姿に痛々しさと同時に清々しさを感じる。
旅は始まったばかりだというのに出会った全ての出来事、全ての人からあらゆることを吸収していく呂不韋のこれから先の生涯にどんどんひきつけられていくことは間違いない。
家の中で暗くよどんでいた少年が、その純粋さと向上心を武器にどのように運命と戦い、どのように大成していくのか続きが楽しみな一冊。
紙の本ストレンジ・ランデヴー
2002/05/09 21:05
痛いほどの一途な想いに
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この著者は実に様々なジャンルの物語を書くことができる珍しい作家ではないでしょうか? 重たいSFのイメージもありますが、この作品は全編を通してとにかく一途な想いを抱いたキャラクター達が生き生きとしています。特に最後の話は感動して涙が出てきました。短編集なので、それぞれの話は全く独立しているのですが、一冊の本、全体を通して見ると後半に向かってどんどん物語が加速している感じがして、とても面白かったです。
私は普段、恋愛小説はあまり読まない方なのですが、この本に出てくる短編は全て、恋、だけでは片付けられない、もっと真摯で一途な想いを感じ、普通の恋愛小説にはない感動を得ました。
紙の本D-邪神砦
2002/02/12 21:32
更に増した物語の魅力
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著者もあとがきで語っていますが、今回の「D」はいつもとはちょっと違うというのが読み終わった最初の印象でした。といっても、もちろん面白くないなんてことは決してありません。今まで際立っていた主人公Dの魅力はそのままに、物語の中にちりばめられている問題提起のようなものが今回はちょっと違っている気がしました。そのせいで話全体が奥深くなっているように感じるのは私だけではないはずです。今までは、日常を超越した異世界で繰り広げられる美しい主人公Dの活躍劇でしたが、今回は物語の中で語られる問題が読者の世界と浅からず結びついているのです。面白い面白いとノンストップで読んでしまい、読み終わった後に充実感とはっと気づく何かが残るはず。どんどん進化し続けるDにこれからも注目です。
紙の本陰陽師 竜笛ノ巻
2002/02/04 21:24
テレビ化されても映画化されても
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テレビ、漫画、映画とさまざまなジャンルに進出したこの作品ですが、原作の面白さは全く変わらないのがうれしかったです。更に、今回から登場してきた新しいキャラクターも、今までにない味を出していて、それでいて物語りにすっかり溶け込んでいるので違和感がなく、全編、本当に楽しく読むことができました。
人の心の中に宿る鬼の話、更には陰陽術だけではなく、他の呪術も使って見せる晴明、中途半端な仙人の登場と読者を飽きさせることがありません。ゆっくりとした話の流れ、そして会話、行間、その全てに平安という時代の人々の息遣いや闇を感じるような気がします。
今までのシリーズと変わることなく、新しいキャラクターの登場で更に面白くなった一冊を映画からファンになった人にも楽しんで頂きたいです。
紙の本あかね空
2002/01/26 23:34
複雑に入り組んだ人の想いに涙
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ちゃんばらもない、岡引も出てこない、侍も皆無、それでもこれは立派な時代小説だ。時代背景がというだけではない。職人のその魂、江戸っ子の気風のよさ、そして長屋での人付き合い、そのどれもが時代小説ならではの雰囲気をかもし出している。ちゃんばらがなくてもこれほど面白い時代小説を読むことができるとは、新鮮だった。
話は一人の豆腐職人が自分の店を持つところから始まる。もちろん、苦労は多いし、そのひたむきさに涙する場面もあるが、何よりも目を引くのはその人間関係の複雑さ。それは、あまりにも現実の世界がリアルに写し描かれている。出てくる人々、全ての想いが一つになり、誤解が解ける日は来るのだろうか? それが知りたくてついついページをめくってしまう。
人間、素直になれないこともあれば、つい悪態をついてしまうこともある。本当の気持ちとは逆のことを口走ってしまうことだってあるはずだ。そんな人間の複雑さも感じた。
誰だって一度はあるはずだ、わかっていても言えなかったこと、誤解されたこと、そしてその誤解が解け、全てに満たされたことが。そんなこと一つ一つを思い出しながら読むと、間違いなく涙が頬を伝うはずだ。
紙の本黒と茶の幻想
2002/01/14 00:41
過去の中に眠るいくつもの想いを
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人間の記憶というのは怪しいもので、楽しいことはいつまでも覚えていたいし嫌な事は早く忘れたい。しかも楽しいことは美化して覚えていたりする。都合の悪いことも忘れる。それはきっと人間が幸せに生きていくのに必要なことかもしれなくて……それでもこの物語に出てくる四人の登場人物達は、その過去を明らかにしようとし始める。それは彼らにはきっと必要なことだったのかもしれない、でもそのことで傷つくこともつらいこともあったはず。傷を負ってまで見つけ出した記憶と真実の中に彼らが見たものは、少なからず読んでいる私達も似たようなものを持っている、そんなものでした。
絶対に実際にはありえないような話、でも、その話の向こう側には現実を生きている私達にも見える何かがあるのに気づく、そういう作品は最近、少ないと思います。そういう意味でとても素晴らしい小説だと感じました。