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コラム

あの人と、本のおしゃべり ―第3回 小路幸也×大矢博子―

書評家・大矢博子が「おしゃべりしたい!」と思った作家さんに突撃する対談企画・第3回のお客様は、ホームドラマからファンタジーまで多彩な作品で人気の小路幸也さん。
文庫化された『スタンダップダブル!』のマニアックな野球話に始まり、なぜ小路さんの小説は「気持ちいい」のか、その裏側に迫ります!



初めて買った本は江戸川乱歩


大矢  よろしくお願いします。まずは……

小路  まずは日本シリーズの総括から。

大矢  あー、ソフトバンク強すぎてつまんなかった……って、いや、そうじゃなくて! 野球の話はあとでたっぷりやりますから、まずはこのコーナー恒例の「本屋さんの話」からやらせてくださいよ。(気を取り直して)小路さん、子どもの頃に初めて自分の意志で買った本なんて、覚えてます?

小路  (仕事モードに切り替えて)うん、江戸川乱歩の少年探偵シリーズ。小学校3年生のとき、草野球から帰ってきたら居間のテーブルの上に、おどろおどろしい表紙の本があるわけですよ。それが『青銅の魔人』(ポプラ社)。姉が学校の図書室で借りてきたものを置いてあったんだと思うんだけど、何だこれ、と思って手にとったのが、僕が初めて自分からした読書ですね。

大矢  へえー!

小路  読んだら、何だこれ、おもしれえーーっ! って、それでハマっちゃって。小学校の図書室に行って全部借りてきて全部読んで。でも図書室になかったものがあったから、親に「本が欲しい」って言って連れていってもらったのが、旭川市にある冨貴堂っていう書店なんです。そこで買ったのが『海底の魔術師』『怪奇四十面相』と……あと3冊くらい買ったかな。

大矢  よく覚えてますね! 小路さんにとって、相当エポックメイキングな出来事だったんでしょうね。

小路  そう、はっきり覚えてる。当時の冨貴堂さんは3階建ての細長いビルでね。それまで本屋というものを意識したことがなかったんですよ。漫画雑誌なんかは近所の駄菓子屋で買ってたから。それが初めて冨貴堂さんに行って、「これが本屋なんだ、ここに行けば全部あるんだ!」って感動して、それから大好きになった。


大矢  その冨貴堂さんにも、今はご自分の本が並んでいるわけですね。11月に文庫化された高校野球小説『スタンダップダブル!』(ハルキ文庫)は私が解説を書かせていただきました。これは北海道の無名の高校が鉄壁の守備を武器に甲子園を目指すという野球小説。野球部の主要メンバーは、実は幼い頃から同じ施設で育った孤児たちで、彼らの生い立ちと、試合の様子と、彼らをマスコミから守ろうとする大人たちの話が、並行して描かれます。小路さんにとって初めての長編スポーツ小説ですが、この話が生まれるきっかけは何だったんですか?


小路  そもそもは編集者さんとふたりで話してて、最初は「魔球モノ」にしようかって、言ってたんだよね。

大矢  魔球!? 魔球ってあの、大リーグボールとか、消えたり、分裂したりする……

小路  そう、その魔球。今の時代に魔球ってどうなんだ、逆に面白いんじゃないか、と思って書いてみたんだけど……いや、ダメだなと。

大矢  え、どうしてダメだったんですか?

小路  楽しすぎて。

大矢  はい?

小路  どんな魔球にしようか考え始めたら、いろいろ出てきて、もう考えるのが楽しくなってきちゃってね。楽しすぎてダメだなと。

大矢  楽しすぎてダメって初めて聞いた(笑)。今日日、魔球なんてリアリティがないとか、そういう理由じゃなくて、「楽しすぎて」って。

小路  魔球をやめるなら、じゃあどうしよう、やっぱり高校野球かなと。で、高校野球って思った瞬間に、そうだ「外野ゴロでアウトをとる野球」にしようって決めたんだよね。

大矢  そこ! そこが本書のキモですよ。無名校が秘密兵器を擁して勝ち進むというのは、高校野球小説のひとつの定番ですが、普通はその秘密兵器って、豪速球を投げる天才投手とかですよね。外野ゴロってマニアックにもホドがある。なぜ外野ゴロなんですか?



「外野ゴロ」の意外な裏側


小路  (乗り出して)外野ゴロって、ワクワクするじゃないですか! ヒットだーって思ったら外野手がそこにいて、「そこでとったの!?」って驚いて、シュパッとファーストに投げて、うわあ、外野ゴロかよーー! ってワクワクするでしょ。

大矢  するね(笑)。ホント、するね。「なぜそこに守ってるんだ!」っていう守備位置取りって、ファンは確かに萌えます。ただ、野球ファンとしては大好物なんですけど、世間一般のイメージからすると、豪速球の天才投手とかってのに比べて通好みというか、地味というか……。

小路  いや、外野ゴロでアウトをとるってことは、外野ゴロを打たせることができるピッチャーがいて、外野にゴロがくることをわかってる外野手がいるということですよ。

大矢  あ、そうか、これも天才投手・天才野手っていう定番設定と同じなんだ! しかもかなりリアルな天才設定。でも、実際の外野ゴロってほとんどライトゴロでしょう? 『スタンダップダブル!』では、まれにセンターゴロがある。そこは、リアリティとしてはかなりギリギリじゃないですか?

小路  ピッチャーとセンターがツーカーならできるんです。

大矢  (納得して)あっ、なるほど!

小路  ツーカーにするにはどうするか、双子なら、そのギリギリのリアリティも読む人は納得してくれるんじゃないかと。双子の持つ不思議な力で……って、そんなの本当は多分ないんだろうけど(笑)、でもありそうでしょ。その双子の絆をさらに強めるために、彼らを施設で育った孤児ということにしたんです。

大矢  えっ、ちょっと待って、双子設定だけじゃなくて孤児設定も、外野ゴロに説得力を持たせるためだったの? あの悲しくも感動的な施設の子どもたちのエピソードは、友情の尊さを描くためじゃなく……

小路  ためじゃなく。あくまでも外野ゴロにリアリティを持たせるための(笑)。とにかく「外野ゴロ」を描きたかったんですよ。

大矢  えーっ、感動して読んだのに、なんかひどいっ!(笑)

小路  正確に言うと、外野ゴロを書きたいというのがまずあって、そのために双子、孤児、と考えて、じゃあ彼らを追うメディアの人間を出そう、この場合女性記者の方がよさそうだ、という一連の設定が5秒くらいで、ぽん! と全部できちゃうんですよ。これとこれを結びつければ、こういう話になるな、これでできるじゃん、OKじゃんっていう。


大矢  ああ、どっちがメインとかじゃないんですね。設定のとっかかりが「外野ゴロ」で、それを成立させるための要素を考え、その要素を組み合わせることでストーリーが生まれるわけか。これ、小路さんの「小説作法」なんですね。それが5秒ってのがすごい。

小路  外野ゴロとか、たとえば『花咲小路四丁目の聖人』(ポプラ文庫)に出てくる「商店街の怪盗紳士」とか、ちょっと「ん?」と思うようなイッちゃった設定は、僕にとってのマクガフィン(MacGuffin)なんですよ。書き手にとって、物語を最後まで進める動機付け。それがないと書けないんです。


大矢  なるほど、外野ゴロはマクガフィンであって、小説のテーマとはまた別なんだ。青春スポーツものにしろ家族小説にしろ、定番・王道のストーリーでありながら「小路幸也の個性」が出てるのは、そのマクガフィンの存在ゆえなんですね。



「幸せになるほうが、いいじゃん」


大矢  今回の『スタンダップダブル!』は固い絆で結ばれた子どもたちを大人たちが全力で守る、という構図がとても感動的です。小路さんの小説って、代表作の『東京バンドワゴン』(集英社)シリーズにしろ、10月にシリーズ3作目『花咲小路二丁目の花乃子さん』(ポプラ社)が出た「花咲小路」シリーズにしろ、ちゃんと真面目にがんばってる人がちゃんと報われて終わりますよね。そういう話を書きたい、というお気持ちがあるわけですか?

小路  いや、そういう話にしようとか、したいとかじゃなくて……なっちゃうんだよね。

大矢  なっちゃう?

小路  うん、何も意識してなくて、自然にそうなっちゃう。

大矢  じゃあホントはイヤミスとかも書いてみたいとか?

小路  テクニックとしては書けるだろうけど、たぶん書いてる最中に自分で嫌になると思う。自分の嫌なことは書きたくないっていうのが、あるんだと思うんだよね。だって、幸せになるほうがいいじゃん。

大矢  そりゃその方がいいけども(笑)



小路  (少し考えながら、ゆっくりと)多分、それが自分の「地」なんだよね。持ち味って言われることもあるけど、持ち味というより「地」なんだと思う。何も考えずに書いたらこうなっちゃうんだ、というものを書いてるんで……。作家としてのあり方みたいな話になっちゃうのかもしれないけど、ハッピーエンドじゃない話を書く人は他にもたくさんいるし、僕は、このままでいいんじゃないかなあ、って。


大矢  なるほどー。そういう意味では、今回の『スタンダップダブル!』も実に小路さんらしい、幸せなエンディングが用意されています。ただ、解決されてない大きな問題が残ってますよね。これは続編の『スタンダップダブル!甲子園ステージ』(角川春樹事務所)への布石になるわけですが。

小路  連載の途中で続編の話が出たので、そこは「続編ありき」で入れた箇所ですね。

大矢  『スタンダップダブル!』『スタンダップダブル!甲子園ステージ』は続編というより、上下巻と考えた方がいいんじゃないかな。こういう方法で解決するか、という、実に胸熱な展開です。うん、やっぱり、幸せになる方がいいですね(笑)。

小路  でしょう?(笑)

大矢  もうひとつ、小路さんの作品に共通する要素として、「親の不在」が挙げられると思うんです。『スタンダップダブル!』の孤児たちが典型ですけど、他の作品でも、親がいないとか、縁が薄いとかって設定が多く目につきます。

小路  それも自分では意識してなかったんだけど……理由を探すとすれば、最初に挙げた江戸川乱歩の少年探偵シリーズね、僕、小林少年が好きなんですよ。小林少年には親がいないでしょう? 保護者が明智小五郎なんです。その小林少年の、親のいない自由さというものにすっごく憧れたんです。

大矢  ああ、なるほど~。読書の原体験がそこに生きてるんですね。小路さんは江戸川乱歩生誕120年記念のアンソロジー『みんなの少年探偵団』にも参加され、単著でも『少年探偵』(ともにポプラ社)を出されてますけど、まさにそれが出発点だったんだ。



キーワードは「仲間」


小路  小林少年は自由で、自分で動いて、事件解決して、明智小五郎に「えらいぞ、小林くん!」て褒められて(笑)。小さいころ、「親のいない子どもたちの活躍」にすごく憧れたんですよ。当時観ていた「宇宙少年ソラン」とか「レインボー戦隊ロビン」とかね。はっきり意識したわけじゃないけど、(作品に親が出てこない)理由が何かあるとするなら、そこに結びつくのかなあ。

大矢  でも小路さんの作品は、親はいなくても近所の人とか祖父母とか友だちとか、親代わりの存在はたくさん出てきます。

小路  そうだね、なんでなんだろうね(笑)。多分ね、僕は「仲間」ってものが大好きなんですよ。親友とか、命預ける仲間とかね、そういうのが大好きだった。……あのね、僕、仲間がいなかったんですよ。

大矢  あ、あれ? なんかちょっと寂しい話になる?

小路  いや(笑)、友だちはたくさんいるんだけど。僕、4月生まれなんです。小学校の頃って、4月生まれって同級生ではいちばん上で、なんでもできるんです。お兄さんだから。だから勉強もできるしスポーツもできるし。同級生に、僕よりできる人間がいなかったんですよね。

大矢  小路さん小路さん、嫌味な人になってますよ!

小路  小学校の頃の話だから(笑)。同い年の中に頼れる友だちがいなかったんです。だから、頼れる仲間が欲しかったんだろうな、と。

大矢  ああ、なるほど!(納得して)小路さんの作品って確かに、家族ものでもご近所ものでも、登場人物にそれぞれ役割分担があって、頼ったり頼られたりする関係ですよね。それってつまり「仲間」なんだ。そういう意味では『スタンダップダブル!』は、まさに正面からの「仲間」の話なんですね。

小路  うん、多分僕の作品のキーワードは「仲間」なんだと思います。

大矢  では最後に、これからのご予定を聞かせてください。

小路  『旅者の歌 魂の地より』(幻冬者文庫)が文庫になりました。単行本の2巻『旅者の歌 中途の王』に、電子書籍版の『旅者の歌3』を一冊にまとめた完結編です。年明けからは、また連続して単行本が出ます。

大矢  ホントにハイペースですよね! しかもスポーツ小説、家族小説、ミステリ、ファンタジーと実に幅広いんですが、これから書いてみたいジャンルは何かありますか?


小路  準備が必要だから今は無理だけど、いつか時代小説を書いてみたいですね。僕、時代劇が大好きなんですよ。水戸黄門とか必殺シリーズとか。ただ、時代小説は難しいし、偉大な先達もたくさんいる。その中で、小路幸也が時代物を書く意味って何だろうと考えると、おいそれとは書けないですね。アイディアはもういくつかあるんだけど。

大矢  わ、それ教えてもらえます?

小路  じゃあキーワードを少しだけ。ひとつは「ぼ●●●」。

大矢  はい? ぼ●●●?

小路  それから「ア●●」。あと当然、必殺シリーズ的なもの。

大矢  ああ、そっちは小路幸也が書く意味があるテーマですよ。……でも、ぼ●●●? これ、伏字にしますから読者の方にはわからないでしょうけど、時代小説のモチーフとしてはあまり聞かない単語です。でもそれがきっと、小路さんのマクガフィンなんですね。小路さんの時代小説が出たら、ぜひ「ぼ●●●」をチェックしてみて下さい!



新刊紹介


スタンダップダブル!

小路 幸也
角川春樹事務所
本体価格:680円+税



【内容紹介】

北海道支局に飛ばされた全国紙スポーツ記者の絵里。
そこで出会った弱小の高校野球部が、旭川支部予選を勝ち上がっていく。
彼らの不思議な強さの秘密に惹かれた絵里はやがて、
ナインが甲子園を目指す特別な理由を知り...。











旅者の歌 2 魂の地より

小路 幸也
幻冬舎
本体価格:960円+税



【内容紹介】

野獣の姿となった兄姉・許嫁を人間に戻すため、ニィマールは仲間と共に
試練の旅に出た。
やがて〈果ての地〉を目指す彼らの前に現れたのは、呪われた地である
戸惑いの〈白い森〉だった...。完結。〔2014年刊の増補〕












作家プロフィール



小路 幸也(しょうじ・ゆきや)
2002年、『空を見上げる古い歌を口ずさむ』(講談社)で第29回メフィスト賞を受賞し、デビュー。
代表作の『東京バンドワゴン』シリーズは亀梨和也主演でドラマ化され、10作目が今年春に刊行予定。
近刊に『花咲小路二丁目の花乃子さん』(ポプラ社)、『怪獣の夏 はるかな星へ』(筑摩書房)、『踊り子と探偵とパリを』(文藝春秋)など。








インタビュアープロフィール



大矢 博子(おおや・ひろこ)
書評家。著書に『脳天気にもホドがある』(東洋経済新報社)『読み出したら止まらない!女子ミステリー マストリード100』(日経文芸文庫)がある他、
『お仕事小説アンソロジー エール!』全3巻(実業之日本社文庫)の編集を担当。
ラジオ出演や読書会主催など名古屋を拠点に活動。







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2015/12/10 掲載

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