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ヴィア・ノヴァさんのレビュー一覧

投稿者:ヴィア・ノヴァ

38 件中 1 件~ 15 件を表示

再評価を待つアヴァンギャルドな絵本

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 何かに憑かれたかのように熱を帯びた時期、ロシア革命後の1920から30年代の前半にかけて、様々な新しい芸術が溢れ出たロシア・アヴァンギャルド。その中でも、絵本は当時最新の絵画技法を用い、隅々にまで気を配った美しい仕上がり。それでいて、芸術家の独りよがりではなく、現代の我々も含め、誰もが楽しめるようになっているのが凄い。値段も安く、発行部数も驚異的な多さだったという。本書にもある様に、当時の日本の絵本が所謂子供だましなのに比べて、格段の差である。卑下な例えかもしれないが、ウルトラマンセブンのように大人でも子供でも様々な角度で楽しめそうな絵本にみえる。現在でもアニメ化したら素晴らしい作品になりそうである。
 しかし、これらアヴァンギャルドな絵本は、スターリンによる芸術統制や第2次世界大戦によって、短い輝きを終える。前衛的な芸術家の最後の砦として絵本の果たした役割や、統制を受けた後の芸術家の作風の変化などは非常に興味深く、物悲しく、痛々しい。
 もちろん、当時のソヴィエトのプロパガンダの一部として、絵本の果たしたネガティブな役割についても触れられている。その後のスターリンによる批判もあって、右からも左からも否定され忘れられてるロシア・アヴァンギャルドの結晶とも言うべき絵本についての素晴らしい本である。ちなみに本書をまとめた芦屋市立美術館は、現在、市の財政不況で存続の危機にある。ロシア・アヴァンギャルドのたどった運命といい、芸術と社会の関わりについて、色々と考えさせられる。

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自衛隊内部の危機管理の必要性

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 世の中全てうまくいくとは限らない。予測不能で本来好ましくない状態に置かれたり、事故が発生したりした時どうするかという危機管理は大切であろう。しかし自衛隊員一人一人の危機管理が適切になされていないのではと本書を読んで心配になった。

 外交関係において常に話し合い、問題が起きた時にも適切な対話や譲歩、時には制裁を加えて平和な関係を築くことが戦争を防ぐ最良の方法であろう。しかし現実には最善を尽くしても問題が解決しなかったり相手から一方的に攻撃を受けたりする危険はいつでも起こりうることであり、好ましくないことが実際に起きた時に国民の生命や財産を守る危機管理のために自衛隊が必要とされていると思う。

 自衛隊員の生活においても同様のことが言えると思う。自衛隊の色々とストレスのたまりやすい閉鎖的な生活では、ギャンブル、過度の女遊びや飲酒、借金、いじめ、恐喝など本書に取り上げられているような様々な問題が一般社会より起こりやすい環境にありそうである。しかし、借金はしてはいけない、いじめはしてはいけないなど、通り一遍の指導は行われているようだが、実際にそのような問題が起きたときの適切な相談や対応といった危機管理がなされていないようだ。実際に問題が起きても誰にも相談できず、周囲が気付いても適切な対応も出来ないまま事態をますます悪化させる最悪な展開が本書には溢れている。

 問題を絶対起こしてはいけない、そのための完全な教育を行えば問題はおきない、我々は完璧な教育をしているはずであり、だから問題が起こったときの対応など考えるのは完全な教育のために無駄であり必要も無い、そんな単純な考えが自衛隊内での主流であるようだ。確かに予防的な手段は一定の効果があるだろうし、実際に問題が起きていなければそれだけで充分であるだろうが、本書を読む限り現実には自殺やストレスによる不祥事が頻発しておりしかも増加傾向にあるという。

 第3章のモザンピークで自衛隊が行ったPKO活動の取材で、酒も出て「いける」ポルトガル軍の食事についてある日本の自衛官が「自衛隊は『演習』ですから、現場でうまいものを食おうなんて発想はありません。…長期滞在するには、ああでなければ(書評社注ポルトガル軍のような食事のこと)体が持ちませんよ」と語っているのが象徴的であるだろう。実際に困難な状況が発生したときには粗食では身体・精神とも持たないと思うのだが、そういう最悪の事態を想定した危機管理は出来ていないようだ。内部での危機管理がうまく処理出来ていない自衛隊に日本の危機管理をゆだねることは出来ないだろう。自衛官一人一人の様々な問題について、最悪の事態を想定した危機管理体制を整えていく。そのことが日本の安全の重要な担い手である自衛官の幸せとなり、結果としてより安全で平和な日本につながると思った。ちなみに本書と合わせて一ノ瀬俊也著「明治・大正・昭和軍隊マニュアル-人はなぜ戦場へ行ったのか」(光文社新書)も是非読んでいただきたい。危機管理をしないのは日本の治安機関の悪しき伝統であることがよく解ると思う。

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本書をより楽しむためのちょっと変わった読み方の提案

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 宇宙人やSFなどに興味を持っている方はもちろん、(訳者あとがきにあるように)宇宙人なんてと思っている方にも是非読んで欲しい一冊である。地球には生命が生まれ、地球以外に生命体が存在するかどうか確認しようとする人間(知的生命体)が生まれている。そこに至るまでには数々の条件があっただろう。その条件は何か、どの位の確率かを決めて、銀河系の星(その一つ一つは基本的には太陽と同じ恒星)の数を掛け合わせれば、どのくらいの数の知的生命体が宇宙にいるか解る。答えが1ならば、地球以外に知的生命体はいないことになる。しかし、それこそ天文学的に膨大な数の天体、宇宙誕生以来の気の遠くなるような時間、我々の住む太陽系がさほど特殊に思えないことなどから推測するとこの数字はもっと高いように推定される。それではなぜ現在、こちらに来たり、向こうからの声が聞こえたりしてこないのだろう。この銀河系にあるはずの地球外文明、「彼らはどこにいるのだろう。これがフェルミ・パラドクスである。」

 本書は第1,2章でこのフェルミ・パラドクスについて説明した後、その後の章で50の解を挙げ検討していく。個人的な提案であるが、まず第1,2章を読んでフェルミのパラドクスについて理解したら、いったん本を閉じて、科学者になったつもりで自分なりにパラドクスの解や、その解を確かめる検証方法などを考えてみる。そしてその後に目次を見れば、著者の検討する50の解がタイトルだけ出ているので、自分の考えた解に近いものはどれか、自分の考え付かなかった解のうち面白そうなものはどれか、その解を確かめるのにはどうしたらいいか考え、その後で本書の解の部分を読んでいく。自分の考えと似ていたり、あるいは全く逆だったり、想像も出来ないような解や検証方法、困難なことがあったりして本書をより楽しんで読めると思う。

 宇宙人というとSF小説のひとつの永遠のテーマだと思うが、本書でも多くのSF小説について言及されている。著者の国籍を割り引いて考えても、英語圏のSFの質の高さ(逆に言えば日本のSFのレベルの低さ)が良く解り面白かった。数字が出てきたり、理解するのに若干頭を使ったりする部分があるが、時間をかけて考えれば中学生でも理解できるレベルだろう。宇宙人について考えることで宇宙だけでなく、生物や環境、世界平和や倫理などより深く私たち地球のことを考え理解するきっかけとなる良書だと思う。

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紙の本鳥の起源と進化

2004/11/19 14:12

2,30年後にもう一度読みたい一冊

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 いきなり本書の内容とは直接関係ないことを書くのをお許しいただきたい。今から約2、30年前の気象関係の本を読んでいると「地球寒冷化の危機」という言葉がよく書かれていた。少しあやふやな記憶ではあるが、コンクリートなどの建物や農業などの人間活動で従来に比べて地球表面の太陽光の反射率が大きくなり、地球が寒冷化する。そのために両極付近の氷冠が大きくなる。氷の表面は光の反射率が大きいのでますます地球が寒冷化、さらに氷冠が発達し寒冷化が進むと主張されていた。人間活動で濃度が上昇した二酸化炭素による温室効果により「地球温暖化の危機」が叫ばれている現状と比べると正反対の主張であり驚かされる。

 さて、本書では題名の通り、鳥の起源と進化について述べられている。鳥の起源は恐竜であるという説をご存知の方も多いだろう。しかし、本書の著者は鳥の恐竜起源説に対して徹底的に反論している。恐竜起源説はインパクトが大きく一般のメディアでも取り上げられやすいが、専門の学者の間ではなお問題の多い学説であり、各研究者の専門とする分野によりかなり恣意的な解釈が横行していることを本書は示している。恐竜起源説が比較的分り易く感じられるのに比べて、著者の主張は高度に専門的な考え方や骨の構造など専門家以外には理解が難しそうなものが多いのだが、じっくり読むことにより逆に著者の主張が明確に理解でき、恐竜起源説のあやふやさが暴露されているように感じた。また進化の面に関しても専門家の間では信じられないくらい数々の意見の相違があり、ある物事の説明に専門分野の違いにより正反対の主張がなされているのには驚かされる。科学の本というと既に分かっていることのみが述べられていて面白味が無い本も多いと思うが、本書は全く逆で色々な主張が入り乱れていて自分で考えながら読むという楽しみがある。もちろん著書の主張にもかなり推測が入っており、強引な解釈や恣意的なデーターの選択をしているように思われる部分も多かった。また、最近の遺伝子の解析による研究の紹介や解釈がやや物足りなかったのは少し残念だ。しかも、専門的な用語や細かい骨の名前などが次々に出てくるので簡単に読める本ではないと思うが、普段あまり窺い知れない科学の最先端で実際に行われている論争にあたかも参加しているように感じさせる熱い本として推薦できる。今から何年か後に鳥の恐竜起源説が現在の「地球寒冷化の危機」のように忘れられているか「地球温暖化の危機」のようにメジャーな見解になっているか、本書をきっかけに考え予想してみるのも一興かと思う。

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たかがカエルと侮るなかれ

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 「熱帯雨林の宝石」と呼ばれるほど美しいヤドクガエルたちの妖しい魅力(毒を持っているという警告色)がたくさんの美しい写真で堪能できる。そして著者の思い入れが凄い。「堂々とした体躯とパーフェクトなバランスの模様はカリスマ性を漂わせ、アイゾメヤドクガエルの王様と位置づけるべき」「夜空に散りばめられた星のごときメタリックグリーンの小さなスポットは、ため息の出る美しさである。」など。極めつけは「筆者が見てきたヤドクガエルの中で最も美しい」バリアビリスヤドクガエルについてのコメントで「私ごとであるが、『生まれ変わり』があるのなら次は本種として生まれ、ペルーアマゾンのジャングルを駆けめぐって、最も美しいメスのバリアビリスを勝ち取り、さらに美しい子孫を残したい。ヒトである現在でも、本種のメス個体は十分魅力的。」だそうである。

 本来の警告色が逆にヒトに気に入られて、飼われるというのは少し皮肉な気がする。しかも不思議なことに同じ種類でもかなり様々な色や模様があり(警告だったら同じほうが効果あるはず)、飼育されていると本来の毒はほとんど無くなってしまうそうである。カナリアのようにかわいい声でないたり、つめに乗るくらい小さな(15ミリ位)種類もあるそうで、逆にここまで来るとヒトに飼われるために進化したのかなとも思ってしまう。飼育の方法も詳しく書かれていて「キンギョすら飼ったことがなく」ても飼育に成功しているそうだが、えさのコオロギやショウジョウバエから飼育しなければいけないそうで、飼育場もヤドクカエルの生育環境を忠実に再現したもの(この擬似熱帯雨林自体が芸術的にきれい)が必要だそうである。しかも繁殖は日本のカエルとかなり違った独特の方法(敢えて書かないがこれがまた感動させるくらい素晴らしい)の種類も多く、難しい。しかしこれも微妙にマニア心をくすぐっているのではと思えてくる…。ああ、どうやら私までヤドクガエルの魅力に取り付かれてしまったようだ。皆さんも本書を読むときはくれぐれもご注意を!

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紙の本世にも奇妙な職業案内

2004/08/27 05:18

面白くシンプルだけど深い一冊

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 本書は新聞の書評欄等にも採り上げられ、話題になっているそうだ。一つの職業について、開いて左側のページに2、300字位の簡単な文章、右側のページに一枚の写真が並ぶだけの簡単なつくりになっている。おそらく一つの職業だけで一冊本が書けてしまうくらい面白そうな職業ばかりだが、それを2ページでうまくまとめている。まず写真が文句なしに素晴らしい。訳者あとがきにもあるように、たった一枚だけでその職業の特徴をうまく表している。右側の写真だけを見て、何の職業か予測するのも面白い読み方だろう。文章も大変面白く、おそらくこれこそが著者の狙いであろうが、文字数が限られているが故に色々な想像や推測が出来る(この職業をどうして知って選んだのか、給料はいくらぐらいか、どのくらいの忙しさか、仕事上での特典や悩みはetc.)のが最高だ。

 本書を読んで、有名な都市伝説「大学病院の地下、ホルマリンのプールに漬けられた死体、ガスがたまって浮いてくるので棒で沈める」(色々な点から事実無根、ネットで検索して下さい)を思い出した。それくらい突飛な仕事ばっかりである。しかし、よく考えてみれば私たちの普通の生活(!)は本書に登場するような奇妙な職業によっても支えられているのが良く解るであろう(といってもやっぱりいくつかは理解不能のものもあったが)。彼らを通して自分の仕事や生き方を様々な角度から考えることが出来る、深い内容の一冊だと思う。

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紙の本金で買えるアメリカ民主主義

2004/08/20 14:07

金で買えるどころか金儲けの一手段としての民主主義を暴く一冊

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 「正義は武器に似たものである。武器は金を出しさえすれば、敵にも味方にも買われるであろう。正義も理屈をつけさえすれば、敵にも味方にも買われるものである」。本書を読んで、この芥川龍之介の一節を思い出した。ただし、正義は理屈や金で買えるどころか、金を儲けるための一手段にしかなっていないのではないかと本書を読んで思った。

 日本語版カバー裏に書かれているように、著者はマイケル・ムーア監督にも多大な影響を与えているようだ(というより、ムーアのネタの大きな供給源が本書の著者といったほうが正確であろう)。2000年大統領選挙で、ブッシュ大統領の弟が知事であるフロリダ州(ごたごたの末、500票差でブッシュ現大統領が当選)での大量の不当な公民権停止(約9万票)があったことを著者は発見する。しかもそのほとんどがマイナリティーであり、民主党に投票する可能性が非常に高い選挙民を選択したかのような処置だったそうだ。その裏にはもちろん、兄のブッシュを大統領にしようというブッシュ知事の思惑があったのは当然であるが、それとあわせて杜撰な選挙人名簿作りで逆に金儲けしようとする信じられないような裏の政策が明らかになっている。また、イラクの刑務所での虐待が問題視されたが、本書を読めばそれはアメリカが刑務所におけるグローバリゼーション(!)を進めた結果に過ぎないという皮肉な顛末が明らかになるはずだ。また他にもグローバリゼーション(IMFやWTOと欧米企業との黒いつながり)、ますます広がる貧富の格差、ブッシュ前大統領と現大統領の周りでの不可解な数々の動き(「華氏911」で触れられていそうなサウジ王家とのつながりを含む)、報道の自由と政府の圧力など数々の現代社会の邪悪な一面を白日の下にさらしている。

 本書が最近流行の単なる反グローバリゼーションになっていないのは、著者がチリのピノチェト政権下での経済政策(初めてのグローバリゼーションとも言われる)を指導した、シカゴ大学のフリードマン教授(日本でも一部でカリスマ的崇拝を受けるノーベル賞受賞者)のチーム(シカゴボーイズと呼ばれる)のすぐ近くにいたこと(当時のフリードマン教授の元で学ぶ唯一のアメリカ人)も大きい。新聞の一面や雑誌で大きな顔写真と一緒に「嘘つき」「世界で最も邪悪な人物か?」と大きく見出しをつけられた人物による渾身のメッセージ、マイケル・ムーアの著作や映画に興味がある方にはもちろんであるが、今後の世界やアメリカの情勢を含む私たちの生活を真剣に考えるためには必読の一冊である。

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カツ代さんの幸せそうな笑顔の源は「おいしいもん」に有り

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 著者の小林カツ代さんをテレビなどで拝見すると、その心の底から幸せそうな満面の笑みに、見ている僕も幸せな気持ちにさせてくれます。本書はその笑顔の源の一端がカツ代さん(敢えてそう呼ばせていただきます)の食べてこられた数々の料理にあることを明らかにしています。

 本書ではカツ代さんが商家のお嬢様として小学校高学年から結婚される21歳まで生活されていた大阪の日本橋(道頓堀まで歩いて10分くらい)付近のおいしい食べもん家さんと家庭料理を紹介していきます。とにかくその全てがおいしそう。本書の前書き冒頭でも『「おいしい」「おいしい」と言いすぎていますことを、お断りしておかねばばなりません』と述べられてますが、プロのお料理人らしく表現が実に豊かで、繰り返しおいしいと言われても辟易することがないのです。

 また本書は単なるおいしいもんの紹介ではなくて、食べ物を通して生き方までを考えさせる、そんな本にもなっていると思います。例えば、カツ代さんのお父様が戦争中であったのにもかかわらず中国という国と人々に抱いていた親近感と尊敬の念は「家に呼ばれてごちそうになり、テーブルを囲んで食事をして」築かれた「友情や親しみ」にあり、「国同士の争いによってもそこなわれたりしない」強いものになるというのは、現在でも絶えることの無い醜い争いを見るときに心に響いてくる一言です。カツ代さんのご両親のカツ代さんたちや奉公人の方々への愛が料理を通じてそこかしこに出ています。本当ならば苦難の時代であったはずの戦中戦後、それを本当に力強く明るく真っ直ぐに生きてこられたカツ代さんとその御家族の姿には本当に感動を覚えました。

 最近流行の「スロー・フード」、カツ代さんはそんな言葉が出来るもうずっと前から地でそれを実践されています。おいしいもんを食べて幸せに生きる、そんな一見当たり前のことが如何に大切かを思い知らされる一冊です。

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食べ物とその源について深く考えさせられる一冊

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 ものすごく気になるタイトルである。ハンバーグの材料は牛であることは、頭の中では理解できていても、ここまで具体的に思いをめぐらすことは本書を読むまで僕は無かった。「一頭の牛の誕生するところからハンバーグになるところまで」を追いかけることにより、著者の「命あるものがどのようにして食べ物に変わっていくのかという好奇心、私たちの食欲を満たすため多くの動物たちが列車に乗せられる(殺される)ことへの驚きと落ち着かぬ思い」についてどう変わるだろうか調べてみた本である。

 著者は、実際に牛を買い、農家に育ててもらう。ハンバーグになるまで取材をしようとするが、徐々に牛への愛情が芽生え、牛を殺すのをためらうようになる。しかし、実際に著者の牛と一緒に育った牛が解体される現場で「よだれをたらしている」自分を発見し、ますます悩むのである。

 著者が解体か延命かを悩むのは、取材の目的を離れるためであり、また著者自身が牛を飼えないこともあるが、実際に牛を育て売り解体する人たちの思いを知ったからというのも大きいと思う。牛を育てる農家の人は、最終的には自分の育てた牛が食べられてしまうことは了承済みである。「資本の回収」とまで言ってのける。しかし、実際に牛を売る市場に行くのは「憂うつになる」ので行けない。番号だけで呼ばれる数百頭の牛全ての性格や健康状態を完全に把握しているのは、彼らが単なる商品として牛をみているのではないということを暗示させる。それでも彼らは自分の育てた牛がハンバーガーになるのを誇りに思うのである。もちろん商売として牛を育てるので、完全に人道的な処置が取られているわけではないが、それぞれの人がそれぞれの理由で努力している姿を丁寧に描いている。

 さて、本書で著者に買われた牛が解体されたのか、それ以外の方法をとったのか、その顛末は本書を読んでのお楽しみとしておこう。「ハンバーガーはどこから来るのと子どもたちに聞かれたら、ハンバーガー畑からとれるのさと答えるよう命じられた」 「なぜ農家が必要なんでしょう? 肉は店で売っています」 (僕も含めた)普通の消費者にとって食べ物とその源との断絶は上記発言と同じくらい深いものであると本書を読んで思い知らされた。逆に生産者の方の複雑な思いに胸を打たれた。

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紙の本お尻とその穴の文化史

2004/07/27 06:50

おおっぴらには語りにくいけど興味はあるお尻に真正面から取り組んだバランスの良い名著

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 誰もが持っていて、ある程度関心もあるのにおおっぴらに語られることが滅多に無いもの、お尻とその穴はその代表格でしょう。本書は医学、文化学的なものの両面からバランスよくお尻を真正面から取り上げている名著だと思います。

 著者は2人ともお医者さんということで、専門分野である痔や座薬、便秘といった医学的なことはもちろんですが、フランスを中心に古今東西(日本も含む)様々なお尻に関係あることが網羅されておりその博学的な知識の量の膨大さには驚かされます。しかもこの種の本にありがちな高圧的な知識のひけらかしや、様々な文化に勝手な優劣をつけたり、変な倫理観を示したりすることがほとんど見られないのは素晴らしいことです。表現も非常に簡潔でわかりやすく、フランスものに多い過度の文学調的な文章になっておらず、適切な図版が配されており、全体がバランスよくそれでいて真面目さや面白さを失わないすごい一冊だと思います。色々な人にぜひ読んで欲しいオススメの一冊です。

 本書を出版している作品社からは、そのほかにも興味はあるけどおおっぴらには話しにくい体や様々な行動についての文化史が「異端と逸脱の文化史」というくくりで出ているようです。本書を読んで他の本も読んでみたくなりました。

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「ものをつくる人」ファーブルならではの一冊

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 ファーブルと言う言葉は、「ものをつくる人」という意味だという(岩波書店「図書」第662号2004年6月から)。本書を読んで、「名は体を現す」という諺がファーブルには正にぴったりだと思った。

 畑の害虫の天敵を中心に、各動物たちの興味深い生態を生き生きと描写している。おじさん(おそらくファーブル自身)と三人の子供たちの、楽しそうな会話になっており、子供たち(のみで無く私も含む)が感情移入しやすいようになっているのと、単なる知識の羅列ではなく、推測したり、なぜ、どうして、と考えることの大切さが自然と身につくようになっているのが素晴らしい。動物たちの興味深い行動の裏には、自然の驚くほど巧妙な仕組みがたくさん隠されているというのが、ファーブル自身が語りたかったことのようだ。さらに、おそらく当時はあまり考えられていない環境や生態学的な視点をファーブルが感じ取り大切にしていたことにも驚かされる。本書が農民の視点から書かれているように、常に自然の中にあり、自然と対話し観察し続けたファーブルならではのものであろう。

 もちろん、訳者あとがきにもあるように100年前に書かれた本であるので、現在では誤りであったり、もっと詳しくわかっていることも多々ある。農民の視点からいい動物、悪い動物という言葉を使って各動物を描いており、ファーブル自身の限界が感じられる部分もある。(もちろん、人間も生物のひとつであり、生きていくためには他の動物を犠牲にすることはある程度は必要であろう。それを暗示させる様な表現も本文にちゃんとあるが、現在の日本のように農業が身近に無いことが多い環境では、子供たちがそのように理解するのは難しいだろう。)また、当時のキリスト教的な道徳観も日本の子供には難しいだろう。しかし、子供はそういう部分は飛ばして理解するであろうし、足りないところは大人がフォローすればいいと思う。さらに、大人が読んでも(あるいは大人だからこそ)新鮮な視点が多々あり、はっとさせられる部分がたくさんあると思う。

 原著の銅版画も素晴らしく、丁寧な装丁と造本も好ましい。併収の「女の子たち」も女子教育に熱心であったファーブルが、鋭く温かい彼ならではの観察眼で、ちょっと困った女の子たちを面白く描いている。ともあれ、本書を読めば、新たな視点でものを見るようになり、好奇心や自然に対する共感などのたくさんのものがつくられるだろう。

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紙の本ヴェルディ

2004/06/28 22:40

神話化された作曲家像を打ち壊す良質の入門書

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 学校の音楽室、とてつもなく厳しいベートーヴェンやバッハといったクラシック音楽のエライ!作曲家の肖像画が僕たちを睨み付けていました。学校の怪談のねたになるくらい怖い目つきで。

 偉大で高尚な音楽を作ったクラシックの作曲家は、人間としても高潔で少しの間違いも無い、という考えの下、偉大な作曲家の生涯は、数限りない偉大な伝説で飾られてきました。その象徴が、あの怖い肖像画だと思います。

 しかし、彼らも生の人間、人間的な弱さを持っているはずで、その弱さを理解してこそ、その作曲家の真価が解り、作品の解釈が深まると言う考えが、特に前世紀の中盤ごろから広まりはじめたと思います。ただ、当初そのような考え方は専門の学者たちの間で広まり、また日本ではクラシックの音楽家を生涯は子供向けの偉い人の伝記としての役割が大きいこともあって、現在まで一般の音楽ファンになかなか受け入れられず、知られていないのが現状です。

 本書の主人公ヴェルディは、サッカーW杯の日本代表の音楽やミュージカルでも人気のアイーダをはじめとする名オペラを作曲、イタリアの統一にも功績がありますが、そのイタリア統一の高まりを利用するように成功する壮年期、父親との微妙な関係、純粋な愛の形を追及するオペラを作曲する傍ら、妻と愛人の二人の間を揺れ動く後半生など入門書の制約の中では最大限にリアルな伝記になっています。本書を読む読まないでは、作品の印象がかなり違ってくるでしょう(たとえば、アイーダの登場人物の愛の葛藤などは、作曲者の状況を考えると興味深いものがあります)。本書に登場するヴェルディの作品をもっと聞いてみたくなりました。

 本書は「作曲家 人と作品」と言うシリーズの中のひとつです。既発のショパン、シューベルトは、本書ほどの充実は感じられなかったのですが、今後も続々と大作曲家の伝記が発売されるそうです。本シリーズを通して、音楽室の怖い顔が、普通の人間、普通の顔で描かれるように祈ります。

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紙の本アンコウの顔はなぜデカい

2004/11/20 09:04

美しい写真を楽しみつつ科学者の楽しみを簡単に味わえる最高の一冊

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 とにかくきれいな写真がいっぱいです。もちろん全てカラーで明るくてきれい。量も魚の種類もたくさん。写真集としてみてもこの本は素晴らしく、値段もお値打ちでしょう。特に「3.魚の顔はなぜおもしろい」では真正面から見た魚の顔が満載。本当に色々な顔があるのに驚かされました(特にイネゴチやマエソにそっくりなおじさんがいて本当に笑ってしまいました)。本書の写真の白眉は「えさを飲み込むためのお作法」でしょうか。魚を飲み込んでいる魚の写真、特に「うかつにハリセンボンを食べて、困っている風情のカスザメ」は必見です。

 しかしながら本書の素晴らしさは美しい写真だけではありません。「ただおもしろいと見るだけでなく、魚の顔と形の意味を考えてみましょう。」と書いてあるように美しい写真で飽きさせないようにしつつ自然と知識が身につき、なおかつ「顔と形の見方」を理解できたり写真から色々なことが推測できるようになっています。全ての写真に魚の名前と説明がきちんと載っている(これは意外と少ない)のは大変嬉しかったです。そして本書の一番最後、アンコウが登場するころには「アンコウの顔はなぜデカい」のか自分で答えを発見できるようにきっとなっていると思います。単なる知識の詰込みではなく、自分で考え発見する楽しみ、喜びが科学者にとっておそらく一番大切なことでしょう。本書は楽しく間単にそのことが体験できる本として子供はもちろん、大人にも是非おすすめの一冊です。

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ブッシュ政権内部での深刻な対立を生々しく描いた名著

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 ブッシュ政権というとネオコンに操られた政権というイメージを持っていた私にとって、予想外の事実が書かれており、本書により新しい視点でブッシュ政権を見ることが出来た。

 本書の主人公ポール・オニールは様々なデータを冷静に分析して真実を探求し最善を尽くす「実利主義」の信奉者である。かなり貧しい出身ながら、人一倍努力してアメリカの歴代共和党政権で重用され、民間企業に転職しても順調に昇進、大企業アルコアのCEOとなって改革を断行し売上高・収益で驚異的な改善を成し遂げ社会的経済的に大成功していたオニールはブッシュ政権の財務長官に就任する。就任以前に予測していた以上の自らの立場の困難さに立ち向かい闘いながら、結局彼自身の不用意な発言のせいもあって解任に至るまでを、「小説風ノンフィクション」のスタイルで生々しく描いている。

 ブッシュ大統領の様々な問題点は側近中の側近である財務長官であるだけにかなり詳しく描かれており、読んでいて本当に不安を感じる。それ以上に驚いたのは、政権ではオニールのような実利主義(パウエル国務長官やグリーンスパンFRB議長の他に大変意外な人物も含まれる)と最初から結論を決め付けてそこに向かって突き進む「理念主義」の信奉者の深刻な対立があり、理念主義が勝利しつつあるという点である。ブッシュ大統領の以前の大統領とは違う性格と、政権内で両主義の調整をする人物の不在が重なり事態を深刻にしている。本書にも書かれているが、ネオコンの中心的人物の一人(意外な実利主義者の一人、誰かは本書を見てのお楽しみに)の解任や辞任という憶測が出回ったことがあったが、それは実利主義と理念主義の対立という視点で見ればよく分る話である。本書はオニールの個人の体験であり偏った見方も多いかもしれないが、ネオコンによる政権支配という視点だけではブッシュ政権を語るのには不十分だということはよく理解できた。

 最後に、本書執筆後の動きを見ていてもますます理念主義の方向に動き出すアメリカに詩を捧げたいと思う。(出典手塚治虫「ブラック・ジャック」第10巻第94話「Uー18は知っていた」)
あなたがもし
天国ばかり目をすえて
地上をけっして
みないなら
あなたはきっと
地獄いき
オースチマン・オマリー

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一人でも多くの方に読んでもらいたい衝撃の書

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 あまり無駄な言葉は使いたくない、ぜひ読んで欲しい、そういう一冊である。

「干からびた鼠の死骸を踏んでしまった不快な感触…、顔の周りを飛び交う無数の小蠅…、むせ返るような湿気、鼻腔の奥を強烈に刺激する糞尿の臭い」「棺桶のほうがよっぽどマシ」想像を絶する環境で生き延びる少年少女たちの現実の前ではどんな言葉も無力である。諦めてしまっている青年、逆に大きな希望を語る少年、厳しい環境でもお互いを深く愛し尊敬しあう夫婦など、どの登場人物も光と影を持ちつつ一所懸命に生きている。

 おそらく誰が読んでも心に深いものが残るであろう本書の素晴らしい点を敢えて指摘するならば、取材対象であるマンホール生活者との絶妙な距離を著者が取り続けている点であろう。もちろん深い思い入れを持ちつつ取材しているが、下手な同情はほとんどない。彼らの努力不足、狡賢さや彼らの間でさえある差別、犯罪に対する認識の甘さなども冷静に彼らに指摘している。逆にだからこそ彼らが著者に心を開いている部分が多く見られた気がする。

 本書は2002年に賞を獲ったルポルタージュを改題・加筆したものであり、話題にもなった本である。僕ごときが薦める必要もないと思うが、どうしても薦めたいと思わせるくらいすごい本、一人でも多くの方に読んでもらいたい衝撃の書である。

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