エンタメだけじゃない！伊坂幸太郎が描く文学的な小説

小惑星の衝突により3年後に地球が消滅する、そう予告された世界を描いた小説です。子宝に恵まれない「僕」や、妹をマスコミに殺された「俺」などが語る8編の物語が描かれます。終末世界で人は何を思うのか？また、人の幸せとはいったいどこにあるのか？読後、答えのないそんな問いが頭に浮かんできます。

カリスマ的人気を誇る国会議員の犬養と、それを担ぎ上げる国民。そんな彼らに言いしれない違和感を覚える会社員の安藤。物語のなかで安藤の口から語られる『周囲に流されることの危うさ』という言葉。この小説ではそれがテーマとして設定され、「自分で考えることの大切さ」が描かれた小説となっています。

本作は3つの中編で構成されています。伝染する勇気を描いた「PK」。過ちを認める大切さを描いた「超人」。些細な出来事で世界が変わることを描いた「密使」。3編は少しずつ繋がっているのですが、そこについてはっきりとした説明はされません。メッセージ性のある文章から読者が自ら物語を読み解いく、そんな文学的な小説です。

本作は太宰治の未完の小説『グッド・バイ』のオマージュとして書かれた小説です。『グッド・バイ』同様、ある男が複数いる恋人との関係を清算していく話になっています。太宰による純文学作品にオマージュを捧げているだけあって、伊坂によるこの小説も純文学的な色合いが強いです。関係を清算した主人公が行き着く場所ははたして・・・。

「新潮ミステリー倶楽部賞」というミステリーの賞を受賞した小説ですが、話は非常に文学的です。『人間の悪い部分は、動物と異なる部分すべてだ』など、人間や社会への警句が作中で頻繁に挟まれており、とてもメッセージ性の高い小説になっています。人の言葉を話し、未来を予知するカカシが放つ「真理」にも、ドキッとさせられるでしょう。