行きづまったときにどうぞ。主人公もうまくいかないけれど、心をほぐす物語

並行して進む五つの物語。うまくいってない登場人物たちが、ときに交差しながら、なんとかなんとか結末へたどりつきます。その結末は別に「大逆転ドーン！」みたいなことはなく、すこし希望がさしてくるだけです。それが、なんともいえない落ち着きをもたらす、そんなお話です。

主人公は、家庭も経営していた会社も失ったホームレスです。家具職人として働きなんとか飢えをしのぎつつ、ほかのホームレス仲間たちと楽しく暮らしていますが、心のなかは暗澹としています。そんな主人公ですが、仲間のホームレスと事件に巻きこまれるなかで、心がほぐれていきます。読者の気分もほぐれる物語です。

少しヘンな悩み、でも当人には深刻な悩みをもった人たちが訪れるのは、精神科医・伊良部の診療室。変人にしか見えないこの医者を疑いつつ、ハチャメチャな治療をほどこされる患者たち。爆笑必至の展開の末に、患者たちは悩みから解放されていきます。こんな悩みの解決法もありかなと、笑いながら思える小説です。

便利屋を営む多田と、そこに転がりこんできた高校の同級生の行天。2人はそれぞれ、過去に負った傷を引きずりながら生きています。淡々と描かれる便利屋の日常のなかで、そんな2人の心の変化が描写されます。その変化が劇的ではないのが、この物語の魅力。ゆったり流れる時間が心地よい連作短編集です。

意図せず殺人を犯した仮釈放中の主人公と、退職まぢかの刑務官。2人は、冤罪の可能性がある死刑囚の事件を調査することになります。刻々と迫る処刑の瞬間。この調査を依頼した謎の人物。さまざまな謎が結びついて解決されたとき、ほのかにさす希望の光が心を解放させます。