ブックキュレーター作家 藤崎慎吾
懐かしくてたまらなくなる物語
たまには後ろ向きになったって、いいと思う。人生も半ばを過ぎれば、来し方を振り返ることが多くなって当たり前だ。前向きでいることに疲れたら古いジャズやフォークソングでもかけて、ここに挙げたような物語を読もう。思い切り甘い追憶や感傷に浸ったら、翌日は反動で気持ちが軽くなっているかもしれない。それも命の洗濯ではないだろうか。
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ゲイルズバーグの春を愛す
ジャック・フィニイ(著) , 福島 正実(訳)
タイトルだけで、もう懐かしい気分に陥ってしまう、ノスタルジックSFの本家本元。ゲイルズバーグがどこにあるかなんて、わからなくてもいい。自分の故郷の町にでも置き換えればいいのである。「古き良き時代」を希求するあまり現在も未来も真っ向から否定する、徹底して後ろ向きの語り口は、むしろすがすがしいくらいだ。
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この物語の主人公は、べつに後ろ向きではない。むしろ人類を危機から救うため、積極的に行動する。しかしスケールの大きな設定のわりに、舞台は牧歌的な風景の広がるアメリカ中西部の片田舎だ。そこを訪れる様々な異星人や人のいい郵便配達夫と、孤独な主人公との心温まる交流が、大自然の詩的な描写とともに綴られていく。
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遠野物語
柳田国男(著)
いきなり100年以上前の作品を出されて、戸惑う方のほうが多いだろうか。しかし、これぞ日本人の原風景、物語のふるさとという感じがする。美しい文語体で語られる、恐ろしくも切ない伝承の数々に酔い痴れてほしい。少し敷居が高いと思われる方は、拙著『遠乃物語』(光文社)を入門編として読んでいただければ幸いだ。
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テレビや電子レンジはあっても、ネットやスマホは影も形もない時代――小さな港町で次々と起きる不思議な出来事に、足の不自由な一人の少年が巻きこまれていく。それは風変わりな個人医院の秘密を知ってしまったのが、きっかけだった。「風待ち」という言葉にロマンを感じる方なら、読後は呑まずにいられなくなるだろう。
ブックキュレーター
作家 藤崎慎吾1962年、東京都生まれ。埼玉県在住。米メリーランド大学海洋・河口部環境科学専攻修士課程修了。科学雑誌の編集者や記者、映像ソフトのプロデューサーなどをするかたわら小説を書き、1999年に『クリスタルサイレンス』でデビュー。早川書房「ベストSF1999」国内篇1位となる。現在はフリーランスの立場で小説のほか科学関係の記事やノンフィクションなどを執筆している。『深海のパイロット』『日本列島は沈没するか?』『ハイドゥナン』『鯨の王』『深海大戦 Abyssal Wars』3部作など海を舞台にした著作が多い。民俗学にも強い関心があり『螢女(ほたるめ)』『遠乃物語』といった作品に反映されている。
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