寝付けない夜に手に取りたい、美しい夜の情景が描かれた小説

弟の病気により親戚に預けられたトム。夜中にホールの大時計が存在しないはずの「13時」を知らせたことをきっかけに、夜中にだけ立ち入ることのできる庭を見つけたことから物語がはじまります。みな寝静まりシーンとした家に大時計の時を打つ音が響く場面が印象的で、静かでどこか物悲しい夜の時間を味わえる一冊です。

主人公の貴子が3年間誰にもいえなかった秘密を精算するために、高校生活最後の行事「歩行祭」に臨むストーリー。普段眠っている夜に、友人たちと外を歩いているという特別な緊張感を登場人物たちと共有できます。そして、やわらかい陽光を感じ夜から朝へ時間が移りゆく「夜明け」を貴子が見つめる描写が美しく、心に残ります。

郵便飛行事業が危険とされていた時代に、事業のために死と隣り合わせの業務を実行する人々の一夜を描いた物語。飛行士であるファビアンのフライトシーンから読みとれる、一歩間違えば墜落してしまうという暗闇でのフライトに潜むスリル。そして、行先を照らす唯一の光源である月と星々のきらめきが目の前に広がります。

いつの間にか「銀河鉄道」とよばれる汽車に乗り込んでいたジョバンニが、同乗していた友人のカムパネルラとともに鉄道の旅に出るストーリー。物語冒頭の「天の川」をテーマとした授業風景から一気に夜空の世界に惹きつけられます。青白く光る星座のなかを進む旅の描写が美しくもせつなく、星の儚い輝きが印象深い小説です。

夏の夜、友人の忘れ物をとりに行くため一緒に学校へ向かったアリスが見つけたのは「人ではない」少年たちの授業。少年たちの仲間と勘違いされたアリスは、彼らがおこなう夜空の修復作業に巻き込まれます。やさしい月光や生ぬるい夜風、かすかに漂う草花の香りなどの「夜の自然」の繊細さをあらためて感じられる物語です。