幻想的で哲学的・・・大人の心にもしみる宮沢賢治の童話と詩の世界

病気の母と暮らし、帰らない父を待つ少年ジョバンニ。星祭りの夜に空を見上げていると鉄道がやってきて、なかには親友のカムパネルラがいました。2人は銀河鉄道に乗り、夜空の駅をめぐります。宝石が輝く夜空の河原や、男が河原で光る鳥を捕まえるなど幻想的なシーンが続く夜の美しい描写が、せつなさとはかなさを感じさせます。

狩猟の途中で山道に迷った2人の若い男性は、山中の無人の料理店に入りました。誰でも入っていいが注文の多い料理店だという店では、次々に奇妙な注文が続きます。2人は注文に従っていきますが・・・。若くて裕福で利己的な男性たちが世慣れているつもりでも、あっさりだまされる。人間の弱点を鋭く突いた童話です。

過労で倒れた「私」は天上の高原で目覚めました。1人で歩くうちに天の子どもたちと出会い、みんなで天のインドラ（帝釈天）の宮殿にかかる美しい網を眺めることになりました。宮沢賢治が夢見た清らかな天上の風景が、夕暮れから夜中に銀河が広がる情景や夜明けの美しさで表現され、汚れのない透明な世界が見えてきます。　

グスコーブドリはイーハトーブの森に住む少年。冷害で両親を失い、妹とも生き別れました。のちに火山局の技師となったグスコーブドリは再び冷害が来ることを知り、対策を考えはじめます。イーハトーブの美しい自然描写に加え、災害を体験した大人にとっては「自分に何ができるのか」という哲学的な問いが浮かぶ童話です。

宮沢賢治が生前に刊行した唯一の詩集。故郷の風景を語った「東岩手火山」や、妹トシの臨終を歌う「永訣の朝」が収められています。みずからを「ひとつの青い照明」と呼び、「冬と銀河ステーション」では銀河軽急便が「赤い碍子と松の森」を軽やかに駆け抜けるなど、大人が読むと色彩の豊かさ、美しさに感動する詩集です。