現代イギリスの文化と不平等を明視する

「社会学の古典」である『ディスタンクシオン』を批判的に継承し、社会調査で現代イギリス社会を実証的に分析した書籍です。文化的な嗜好・趣味に関する包括的な調査をおこなっているだけでなく、グローバリゼーションや社会階級の変化も視野に入れており、現代イギリス社会を捉える貴重なデータと示唆にあふれています。

いきなり『文化・階級・卓越化』を手に取るのは（いろいろな意味で）「重い」と思いますので、現代イギリス社会に関心のある方にお薦めなのがこちらです。「40年後の『ハマータウンの野郎ども』」として、現在のイギリス社会で排除されている気分に陥っている白人労働者階級の状況を彼らの声とともにあばいています。

『文化・階級・卓越化』の調査がおこなわれたのとほぼ同時期、ブレア政権期からロンドンオリンピックまでの頃、イギリスでは「クリエイティブ」な文化政策がおこなわれていました。本書は、社会インフラとしての「文化資本」に着目して、このような施策が結果的に文化の不平等を維持してしまうことを指摘しています。

現代イギリスにおける移民、エスニシティ、多文化主義、レイシズムをめぐる社会的・文化的問題は、近年になって生じた問題であるかのように語られることが多いです。しかしながら、1945年を転換点としつつ、19世紀の移民の歴史にまでさかのぼって学ぶ必要があることを本書は教えてくれます。

『ディスタンクシオン』や『文化・階級・卓越化』では、関係性を図示できる統計手法として、フランスで発展した対応分析が重視されています。専門的な内容ではありますが、本書はこの分析手法をわかりやすく紹介した入門書です。日本語版はフリーソフトRで検算する方法も解説されていて、まさに基礎から学べる一冊です。