気がつけば抜き差しならぬ泥沼へ　禁断の恋に身もだえする本

田舎町を舞台にした女子中学生・隼子と教師との禁断の恋物語、とまとめるだけではこの小説の魅力は伝わりません。物語は隼子の小学校時代の日常を描く群像劇のように始まり、やがて中学生活へ。彼らは性に目覚め、「事件」が起きます。そして20年後・・・。思春期の痛みを忘れかけた大人にこそ読んで欲しい大河ロマンです。

少年時代から同性愛嗜好に気づいていたモーリスは、大学で上級生クライヴと運命的な出会いをします。2人の愛はまたたく間に燃え上がりますが、クライヴは突然、異性との結婚に踏み切ります。苦悶するモーリスが次に見初めたのは・・・。半世紀前まで同性愛が禁じられていた英国で長く封印されていた、BLの先駆的小説です。

53歳の詩人が親友の妻と恋に落ち、家庭を捨てる話です。よくある話にみえますが、戦後の詩壇を牽引した詩誌「荒地」に集った実在人物の不倫劇となると興味をそそられるはず。天才肌の詩人、田村隆一の妻と恋に落ちるのは、仲間内でも地味な北村太郎。恋情とともに詩への熱情を取り戻す北村の評伝としても読める小説です。

英国紳士エワルドは、ビーナスのような肉体を持つ美貌の女アリシヤに一目惚れ。でも、恋人となった彼女の内面の卑俗さに苦悩し、自殺まで考えます。そこに現れたのが発明王エジソン。彼女そっくりな自動人形を作ってしまいます。さて、エワルドは人形を愛せるのでしょうか。ギリシャ神話を下敷きに生まれた思弁的小説です。

終戦直後から20年おきに起きた三つの謎めいた事件。その背景には画壇の巨匠となった男の秘められた恋があったのです・・・。良質なミステリーですが、この小説の最大の謎は冒頭の問いかけにあります。「他者にその存在さえ知られない恋は完全恋愛と呼ばれるべきか？」。読み終えたとき、禁断の恋に身もだえすること必至です。