ブックキュレーター平野啓一郎
改めて考える、私とは何か?あなたとは何か?
自分とは一体、誰なのか、というアイデンティティの問いは、近年の私の文学の主要テーマで、新書『私とは何か──「個人」から「分人」へ』で示した分人主義という発想も、この十年ほどで、かなり理解が広がった感触がある。ここでは、その考えのヒントとなるような本を近著と併せて紹介したい。
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私はこの本を、分人主義を唱えだした後に、何人かから薦められて読んだのだが、単一的なアイデンティティを個人に押しつけることこそが、社会的分断を煽り、暴力を招来することになるというセンの主張に強く共感した。アイデンティティの複数化が重要。
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名指しと必然性 様相の形而上学と心身問題
ソール A.クリプキ(著) , 八木沢 敬(訳) , 野家 啓一(訳)
この本を熱心に読んだ、というのは、世代的なこともあるように思う。私などは、中村雄二郎の『述語的世界と制度』と同時期に読んだ記憶がある。固有名を持った存在の同一性を担保するものは、確定記述の束なのか?近著『ある男』に直結する問い。
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スティグマの社会学 烙印を押されたアイデンティティ 改訂版
アーヴィング・ゴッフマン(著) , 石黒 毅(著)
日本でも「スティグマ」という言葉を時折耳にするようになったが、そのわかりやすい解説書。私は、何もかもを曝け出して生きる、というのが好きではないが、本書では「印象操作」という用語(違う意味で、最近よく政治家が使用しているが)で、他者に対して好印象を与えようとする振る舞いが、自然な現象として語られている。
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若い頃は、断然、ドストエフスキー派だった私も、近年はトルストイの非常にしなやかな文体に魅力を感じる。トルストイは、登場人物の分人の描き分けが極めて巧みで、カレーニンと一緒の時のアンナ、ヴロンスキーと一緒の時のアンナの違いに注目すると一層面白さが増す。人間的に最も深みがあるのはリョーヴィンだが。
ブックキュレーター
平野啓一郎1975年生まれ。京都大学在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。40万部のベストセラーとなる。以後、一作毎に変化する多彩なスタイルで、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。2004年には文化庁の「文化交流使」として一年間、パリに滞在。美術、音楽にも造詣が深く、各ジャンルのアーティストとのコラボレーションも積極的に行っている。『マチネの終わりに』『私とは何か「個人」から「分人」へ』など著書多数。
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