ブックキュレーター作家 山口恵以子
読むとお腹がすく小説
小説を読んで、作中に出てくる食べ物の描写の素晴らしさに、思わず「おいしそう!」と感じたことはありませんか。いわゆる「グルメ小説」ではなくとも、思わずお腹がすいてくるような小説はたくさんあります。今回はその中から、とっておきの5冊を紹介します。
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池波正太郎なかりせば、時代小説に「料理もの」のジャンルは生まれなかったろう。『鬼平犯科帳』『必殺仕掛人』等の人気シリーズには随所に美味しそうな料理が登場するが、『剣客商売』は年の差夫婦:秋山小兵衛とおはるのほのぼのとした関係が食べ物の描写にも反映されていて、特に素晴らしい。おはるにかかっては剣客・小兵衛も形無しで、「ズボラはいけねえよ」と料理の手伝いをさせられる。純朴で可愛いおはるの手料理が食べたくなる。
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三屋清左衛門残日録
藤沢 周平(著)
実は藤沢周平も食べ物の描写の美味さには定評のある作家で、読んでいるとヨダレの出そうな作品が結構ある。『三屋清左衛門残日録』では主人公に思いを寄せる女性みさが料理屋を営んでいるので、飲食の場面が度々登場する。四季折々の庄内地方の豊かな海の幸と山の幸が、伝統の料理法で供される様は、読んでいるとどうしても食べたくなる。取り敢えずはハタハタの湯揚げを肴にぬる燗と行きたい。
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ミス・マープルのシリーズには、必ずお茶の場面が登場する。熱くて濃い紅茶にたっぷりミルクを入れ、スコーンやマフィンやトーストをつまむ。ありふれた食べ物が何とも美味しそうに感じられるのは池波正太郎や藤沢周平と同じく、優れた文章力の為せる技だ。この作品は「古き良き英国」を再現したホテルが舞台なので、イングリッシュ・ブレックファーストの描写が堪らない。これを読んで思わずポーチドエッグを作ってしまったのは、私だけではないはず。
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レベッカ 上
デュ・モーリア(著) , 茅野 美ど里(訳)
いわゆる「グルメ小説」ではないが、戦前の英国の大農場主のお屋敷が舞台なので、食事やお茶の豪華さもハンパない。毎日のお茶の時間に登場する各種の菓子やサンドイッチ類が「貧しい家族が優に一週間は食べていける」量だというのだから、想像を絶する。「ダウントン・アビー」の世界ですね。その他、パーティー場面などでは贅沢な料理がてんこ盛りで登場するが、苦悩するヒロインはほとんど何も食べない。ああ、もったいない。私が代わりに食べてあげたい!
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四谷しんみち通りの端にある「めぐみ食堂」は、女将のめぐみが一人で営むおでん屋だ。人気占い師だっためぐみはある事件で全てを失い、心機一転、おでん屋に飛び込んで人生をやり直した。今では女将業も板につき、季節の肴にも腕を振るう。孤独を抱える客たちは温かなおでんとめぐみの人柄に癒やされ、転機を迎える。バツイチ、年の差婚、国際結婚、格差婚・・・それぞれの抱える問題にぶつかりながらも、全ての具材を受け容れるおでんのように、やがてじっくり味が染み、一つの料理に昇華されてゆく。
ブックキュレーター
作家 山口恵以子1958年、東京都江戸川区生まれ。早稲田大学文学部卒業。松竹シナリオ研究所で学び、脚本家を目指し、プロットライターとして活動。その後、丸の内新聞事業協同組合の社員食堂に勤務しながら、小説の執筆に取り組む。2007年『邪剣始末』で作家デビュー。2013年『月下上海』で第20回松本清張賞を受賞。その他の著書に「食堂のおばちゃん」シリーズや『風待心中』『婚活食堂』『毒母ですが、なにか』などがある。
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