誰より近くて誰より厄介。「母」と「子」の関係を見つめる小説

音楽プロデューサーの泉は母子家庭で育ちました。そんな泉が結婚して子どもができたころ、母のある変化に気づきます。母は認知症になっていたのです。母と向き合うなかで、母との空白の1年の記憶がよみがえり・・・。老いていく母との関係について、深く考えさせられる小説です。

親とうまく渡り合えない人も世の中けっこういるものです。紗登子は恋人と結婚することをためらっているイラストレーター。彼女のコンプレックスは母でした。30歳を機に再会するもうまくいかず、母と仲良くすることがどうしてもできず・・・。しかしそれでも大丈夫、と自分を許すことができるやさしいお話です。

不倫相手の娘を誘拐して逃亡しながら「母」になっていく女性、誘拐により不倫を知り、「母」になれない実母。その実母と、ことの元凶である父の間で閉塞感を感じながら成長し、自らも不倫の末に妊娠して「母」になる決意をする娘の物語です。それぞれの苦しみとやりどころのない感情がリアルに描かれています。

女子高生の転落事故から物語は始まります。母の証言が腑に落ちない教師が「母性」について考え始めます。女性には「母性」が必ずあるものなのか？とふと疑問に思ったのでした。女子高生の回想と母の手記で浮かぶ過去の事件と悲しい事実。「母」とは「母性」とは・・・と深く考えるきっかけになる一冊です。

「母」をテーマにした連作短編集です。10人いれば10人の母と子の物語があります。いろんな母の愛情と葛藤に、自分と母の物語を投影し、自分から見た「母」、「母」から見た自分の在り方、そして母との思い出がよみがえり、読んでいて涙腺がゆるんでしまうでしょう。