ブックキュレーター哲学読書室
贈与論を通してどう資本主義を突き抜けていくか
行き過ぎた資本主義は、自然の搾取、無縁社会、貧富の差をもたらしている。贈与の思想は資本主義を問い直し、人間関係、自然との関係を新たに創造する可能性をもっている。旧来の贈与の慣習だけでなく、臓器移植、コモンズの利用、自然の恵み、動物本能を含めて贈与を考えていこう。【選者:岩野卓司(いわの・たくじ:1959-:明治大学教授)、赤羽健(あかはね・けん:1991-:編集者)】
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本書は二つの面を持つ。まずはモース、レヴィ=ストロース、バタイユ、ヴェイユ、デリダ、マリオンといったフランス現代の思想の贈与論を読み解く。次に、この読解の成果を生かして現代の資本主義、交換経済、人間中心主義を著者が独自の視点で問い直し、新たな地平を模索している。(岩野)
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贈与についての古典的名著。経済の起源が物々交換ではなく贈与交換であることを、未開人や古代人の文献を狩猟しながら人類学の視点から解明した。さらに、未開人の贈与の知恵を参照しながら、贈与しあうことでの戦争の暴力の回避や社会保障制度の充実をも現代人に提言している。(岩野)
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太陽による光の贈与によって地球上のエネルギーは過剰であるから、消費することが経済において何よりも重要という発想をとる。だから、贈与が重要なテーマとなる。神への贈与であるアステカの供犠、北米原住民による闘争的贈与交換のポトラッチ、戦後のマーシャル・プランなどを消費の視点から読み直している。(岩野)
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モノ研究に先鞭をつけた鶴見良行『ナマコの眼』、村井吉敬『エビと日本人』、本書訳者で「ナマコおたく」赤嶺淳に共通する問いは、資本主義とどう向き合うかである。非資本主義的様式をもったマツタケ世界を歩くアナ・チンもしかり。贈与を通して資本主義の終焉ではなく変質を探る哲学者・岩野卓司もその系譜に位置づけられる。(赤羽)
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だれもが善意で相手を助け「ただ与える」ができればいい。しかし、無意識の悪意や嫉妬が人間の行動を決めることもあり、みずからコントロールできない不合理な側面も考える必要がある。本書のアルス・マカロニカ風の卓見「人間は不合理なロボットである」を人文的思考に採り入れ、贈与をめぐる問いを深化させよう。(赤羽)
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哲学読書室知の更新へと向かう終わりなき対話のための、人文書編集者と若手研究者の連携による開放アカウント。コーディネーターは小林浩(月曜社取締役)が務めます。アイコンはエティエンヌ・ルイ・ブレ(1728-1799)による有名な「ニュートン記念堂」より。
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