ブックキュレーター哲学読書室
「ゴシック・カルチャー破門」からのマニエリスム入門
「何読んでるの?」と聞かれて「言葉、言葉、言葉」と答える黒服のハムレット式メランコリーより、むしろ騎士道小説を読みすぎて風車に突撃するドン・キホーテの荒唐無稽にゴシックハートを疼かせたい。〈驚異〉美学たるマニエリスムにゴシックを接ぎ木する「びっくりドンキー!」な選書五冊。【選者:後藤護(ごとう・まもる:1988-:暗黒批評)】
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ゴシック入門にして否定の書。高原英理『ゴシックハート』と本書の関係は、『新約聖書』と『ツァラトゥストラはこういった』と相似の関係をなす。いわば際限なきパロディーであり、限りなくマニエリスム的なゼルプスト・イロニーの精神。つまるところ、ホッケのマニエリスム循環史観の一つの極点にゴシックは位置づけられる。
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ホッケのアキレス腱はゴシック派への目配せのなさ。綺想文学の系譜を辿る本書が、巻末のアンソロジーにE・A・ポウ「ウラリューム」を加えているにも関わらず、本文でそのポウに一言の言及もないのはいかなる事態か?ゴシックとマニエリスムを繋げ、碩学ホッケの穴を埋めた高山宏『目の中の劇場』と併読すると威力倍増。
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「魔術」を縦糸に、洞窟壁画~ゴシック~シュルレアリスムまでつながる蛇行曲線を描いた「もうひとつの絵画史」。ホッケがマニエリスムを「洞窟学」と呼んだことを併せ考えると、洞窟壁画の話に始まる点、意義深い。なお共著者のジェラール・ルグランは世界初のシュルレアリスム・ジャズ論Puissance du Jazzを書いており、翻訳希望。
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『魔術的芸術』が上半身だとすれば、その下半身にあたる一冊。超巨大兜が降ってきて人間を圧殺する(笑)という、H・ウォルポールの元祖ゴシック小説『オトラント城』の綺想は、つまるところ恐怖美学というより鬼面人を驚かす「突飛なるもの(=アンソリット)」の文化圏に位置付けたほうがよいと本書を読むと分かる。
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「王殺し」の本と人は言うが、この第三版(原著は全13巻)に目を通せば、その膨大な事例蒐集ぶりから当該テーマなど早々に見失ってしまう。「王殺し」の謎をめぐるミステリー小説とも評される本書は、むしろ小栗虫太郎的な博覧強記アンチミステリーの先達である。文化人類学版「突飛なるものの歴史」という罰当たりな読み方も可能。
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哲学読書室知の更新へと向かう終わりなき対話のための、人文書編集者と若手研究者の連携による開放アカウント。コーディネーターは小林浩(月曜社取締役)が務めます。アイコンはエティエンヌ・ルイ・ブレ(1728-1799)による有名な「ニュートン記念堂」より。
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