四季を愛で、人情に涙する。和の神髄に触れる小説とコミック

15歳で茶道を始めた主人公・典子が、お茶を学ぶなかで日々発見したことがゆったりと綴られます。物語の終盤、典子の年齢は40歳を過ぎ。その間に就職があり、失恋があり、友達や親との別れもありますが、毎週茶道教室に通うなかで典子は徐々に自分を受け入れていく術を身につけていきます。茶道を始めてみたくなる一冊です。

就職が決まらない18歳の杏子は、とりあえず近所のデパートの和菓子屋でバイトを始めます。姉御肌の店長や、乙女系男子の先輩、個性的なお客さんたちと触れ合うなかで、少しずつ和の文化や和菓子の知識を学び、同時に仕事への意識も変化させていきます。季節ごとに登場する和菓子はどれも食べたくなるものばかりです。

出版社に勤める馬締光也はその言語のセンスを買われ、新たな辞書『大渡海』の編集部に引き抜かれます。10年以上の歳月をかけて辞書が製作される過程のなかで、編集者たちの仕事ぶりや生活、喜びや苦悩が描かれています。一冊の辞書をめぐる物語から、日本語という言葉に対する意識を大きく変化させられることでしょう。

転校生・新を通じて小学生の時に競技かるたの世界を知った千早と太一は、高校で再会したのをきっかけに競技かるた部を設立。再び3人そろって会えることを目標に、日々練習に励みます。行方の読めない恋、白熱する競技かるたの描写はもちろん、百人一首の意味や解釈が物語に深みを与えています。

刑務所の慰問で名人・八雲の落語を聞いて感動した与太郎は、出所後に弟子入りして落語を学び始めます。繊細な八雲の落語に対して奔放な与太郎の落語は、八雲に昔の同門だった助六を思い出させます。登場人物たちの激動の人生を読み進めるなかで、落語とは何か、人間とは何か、という問いを抱かずにはいられなくなるコミックです。