ブックキュレーター港の人 編集者 井上有紀
辞書の誕生
何万もの言葉を集め、体系化して収めた辞書・辞典。威厳に満ち、厳粛な顔をしていますが、裏側を覗いてみるとどこまでも人間くさいのです。パソコンもコピーもない時代に、いえ、それらがあったとしても、辞書とは情熱や執念なくては生み出せないものなのでしょう。辞書誕生の陰には必ず壮大なドラマがあるのです。
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オックスフォード英語辞典は、辞書の王様のような存在。言葉の詳細な定義だけでなく、それぞれ語の歴史までもを語るというこの辞書の誕生に秘められたドラマが、ミステリー小説のようなタッチで描かれる。博士と狂人という対照的なふたりの人生をも平然とのみ込んでしまう辞典そのものの存在感も圧倒的。
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日本の近代化を下支えすべく、たったひとりで「言海」という辞書を完成させた大槻文彦の人生を描く評伝。洋学者として西洋の言葉と辞書をよく知る大槻が選ばれ国家事業としてスタートした辞書編纂は、最後には大槻の情熱に委ねられることになった。言葉の海を全身全霊で泳ぎ切った波瀾万丈の人生が語られる。
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ペリー来航時にオランダ語通訳を務めた堀達之助は、代々通詞(通訳)の家系に生まれ英才教育を授けられた言語分野のサラブレッド。『英和対訳袖珍辞書』は、達之助が中心となり開国の最前線で突貫工事で作られた。本書では、この辞書の手書き原稿が見られる。赤い筆による書き込みが、開国への情熱を伝えるようで眩しい。
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日本人がどうやってスペイン語を学んできたか、ひとつの言語が外国で浸透していく過程を詳細に追っていて興味深い。いくつもの辞書が生まれて、それぞれに思いがこめられているが、最も感動的なのはメキシコ移民の照井亮次郎が苦労を強いられている同胞たちのためにと志を立て11年かけてつくった「西和辞典」かも。
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『日本国語大辞典』編纂で有名な著者だが、驚くべきことに親子三代で辞典の編纂に携わっている。祖父と父の姿がそのまま辞書の歴史なのだ。祖父と父が遺した辞典作成のための膨大なカードをもとに新しく生まれたのが『日本国語大辞典』。「子どもが育っていくように楽しい」と辞書作りを語る祖父の言葉が心に残る。
ブックキュレーター
港の人 編集者 井上有紀鎌倉の由比ガ浜にある出版社「港の人」勤務の編集者。手がけた本は、『目であるく、かたちをきく、さわってみる。』(マーシャ・ブラウン)、『きのこ文学名作選』(飯沢耕太郎編)、『胞子文学名作選』(田中美穂編)、『世界 ポエマ・ナイヴネ』(チェスワフ・ミウォシュ)、『90度のまなざし』(合田佐和子)など。海を見ながら自転車で通勤する時間が、毎日のいちばんの贅沢です。本棚の隅っこにあるような本もふくめて、一冊一冊大切に紹介します。ホームページhttps://www.minatonohito.jp
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