あなたの好みに合うのはこっちかも!?近現代の文豪が手掛けた代表作以外の傑作選

中上健次の代表作「紀州サーガ」と呼ばれるシリーズで幾度も主役を務めた竹原秋幸。その母であるフサに焦点を当てた物語。壮大なシリーズの前日譚にあたる本書では、私生児フサの波乱万丈な半生が語られます。病死する夫、秋幸の父となる人物との出会い・・・。運命に翻弄されながらも強く生きるフサの、儚くもたくましい姿が印象的です。

『ジョン万次郎漂流記』で知られる著者の、もう一つの漂流記として親しまれている一冊。時は江戸後期。宇三郎は兄たちと松前を出航したあと、米捕鯨船に救出されるまでの6カ月間、漂流することになります。そうしてオワフ島やロシア領を遍歴するうちに、残留の意思が芽生え始め・・・。漂流者の足跡を情緒的に描いた名著です。

『金閣寺』などで知られる三島由紀夫が、近江絹糸争議をモデルに描いた長編小説。社長・駒沢善次郎のワンマン経営で業績を伸ばす駒沢紡績でしたが、露骨な管理体制に従業員は反感を抱いていました。やがて血気盛んな青年を中心にストライキが決行され、壮絶な争いに発展。家族主義的経営を通し、欧米の近代的思想と日本主義の対立を表現した意欲作です。

主人公はディケンズの『骨董屋』を原書で読む高校生。彼は刑事の叔父が庇護している夫妻と知り合い、映画制作に関わるようになりますが、そこに夫妻をつけ狙う革命運動家が現れて・・・。自身の家族をモデルにしながらフィクションも織り交ぜた、独特の構造が印象的な一冊。大江文学の醍醐味を堪能できます。

敗戦後の満州を脱出し、祖国を目指す残留孤児・久木久三。その顛末を通して、アイデンティティの喪失を表現した冒険譚。逃走中に列車襲撃に遭い、荒野を横断することになった久三は、広大無辺の辺境で飢餓と酷寒に苛まれることに。死の淵に立たされながら彷徨する描写は濃密で、著者の類まれな筆力に圧倒されます。