現役医師による知識と経験をもとにした医療ミステリー。はじめての知念実希人

2011年に賞を獲ったデビュー作は、文庫化に7年もかかり入手困難だったため「幻の」という冠がつきました。末期がんに侵された医師のレゾンデートル（存在意義）とは？という重いテーマですが、そこに「切り裂きジャック」が絡み、アクションありサスペンスありの見事なエンタメ小説に仕上がっています。

療養型病院にピエロマスクのコンビニ強盗が押し入って立てこもる事件が発生。当直バイト中だった外科医・速水は、怪我人の治療を続けつつ脱出を試みますが、その過程で病院の不自然な点に気づき・・・。無駄のないスピーディな展開で読ませるサスペンスミステリー。2020年には映画化もされた人気作です。

著者の代表作でもある人気シリーズの第1作。総合病院の特別部門・統括診断部に所属する天才女医・天久鷹央の活躍を描いた医療ミステリーの短編集です。性格に難のある主人公をはじめ、振りまわされ役の内科医見習いなど、個性的なキャラクターが多数登場。彼女たちによる掛け合いも楽しく、ライトな感覚で読むことができます。

主人公は、心臓外科医を目指す大学病院の勤務医・平良。研修医の指導を受け持つことになった平良は、医局の最高権力者・赤石教授を告発する怪文書の犯人捜しも命じられ・・・。著者が手がけたほかの作品と比べると、ミステリー色やエンタメ色はやや薄め。真正面から医師の仕事に踏み込んだヒューマンドラマに仕上がっています。

出版当時、著者が「自身の最高傑作」とコメントし、医療ミステリーと冒険ファンタジーのハイブリッドといった趣もある物語です。さまざまなエピソードや謎が展開し、それらが一つずつ結びついていく過程は秀逸のひと言。著者ならではの要素がすべて詰まっているうえに、新たな表現にもチャレンジしている意欲作です。