100年後の地球と人のために、今こそ学びたい。宮沢賢治の倫理と思想を知る本

宮沢賢治の倫理を知るためには、その内面から彼の人生を覗かなくてはなりません。妹の死、両親への憎しみ、そして自然への愛を始点とする賢治の倫理は、当初「犠牲」の精神によって支えられていました。しかし、賢治の人生を内側からたどる本書では、「犠牲」の精神の後にある自然との調和の倫理を描いています。

宮沢賢治はその人生において多くのことを自然から学び、吸収した人でした。彼の作品にも「石」や「風」、「動物」など自然に関するモチーフが多く登場します。それらの特徴的なモチーフをなぞることで浮かび上がる、賢治の自然と調和した世界観。彼が遺した多くの未完の物語から追う、イーハトーブの世界をお楽しみください。

宮沢賢治を愛読し続けた詩人の山尾三省。何気ない日常の景色の一つひとつに、賢治の倫理観を重ね合わせながら、その人生と作品について綴っています。賢治の世界観に「商品がもたらす喜びよりも、より信頼できる深い」幸福を感じて紡がれた言葉たちには、自然とともに生き、文学を味わう幸福を私たちに教えてくれます。

幻想的な世界観はもちろんのこと、本書に登場する氷山にぶつかって沈んだ船の犠牲者は、賢治が生きた時代に起きたタイタニック号事件がモチーフになっています。そんな幻想と現実、生と死の狭間を舞台にした本書は、「犠牲」と「幸福」という宮沢賢治の倫理が凝縮されている物語でもあるのです。

南方熊楠は、自然観と宗教観において宮沢賢治と多くの共通点を持っていました。本書は自然の神秘に惹かれていた2人の共通点を始点にしつつ、それぞれの思想の特徴も浮かび上がらせています。賢治を「銀河系曼荼羅人間」、熊楠を「一切智曼荼羅人間」とする本書から、賢治の倫理のさらなる発展を見ることができます。