人間の愛おしさと切なさを丹念に描く。はじめての吉田修一

1980年代後半、大学進学で長崎から上京した18歳の横道世之介と、その20年後「世之介と出会った人生と出会わなかった人生だったら出会った自分は少し得している」と語る友人たち。もう二度と会えなくても、ともに過ごした日々を想うだけで人を笑顔にする世之介。まっすぐな生き方が爽やかな感動を呼ぶ、青春小説の傑作です。

軽いタッチの文体で人間を緻密に描いた表題作、血と地をテーマに人々の暮らしを綴る「破片」、高校水泳部員の競技に賭ける葛藤と性の欲望を爽やかに描く「Water」。どの物語も、登場人物たちの不器用な生き方に胸が締めつけられるような、切ない感覚に満ちています。甘酸っぱくてみずみずしい青春の空気に浸れる一冊です。

若い男女4人の奇妙な共同生活に新しく1人が加わり、住人それぞれの視点から淡々と物語が綴られていきます。明るく楽しい青春小説かと思いきや、登場人物たちの抱える闇や微妙な歪みが徐々に現れ、不穏な空気が漂い始め・・・。すべてをひっくり返す衝撃のラストに、読書の醍醐味が詰まっています。

殺害された1人の女性を巡り、その周囲の人々の言葉から徐々に真実があぶり出されます。犯人と、彼とともに逃げることを選ぶ女の巧みな心理描写にぐいぐいと引き込まれ、悪とはいったい何なのかと考えさせられることでしょう。加害者家族と被害者家族両方の心情に胸が締めつけられ、読後、「悪人」というタイトルの重みを感じます。

極道の家に生まれた喜久雄と、梨園で育った俊介。生い立ちも才能も違う2人の役者は切磋琢磨し、芸の道に青春を捧げます。成功をつかんだかと思いきや何度も絶望に突き落とされ、また這い上がる数十年の人生。そして、2人を巡る人々の人情が描かれます。ラストシーンの素晴らしさですべてが報われる気がする超大作です。