おもしろおかしい、だけど少し切ない。お笑い芸人の哀愁漂うエッセイ集

東京のあちこちに染みついた思い出を綴った、芥川賞作家・又吉直樹による傑作エッセイ。これを読めば、汚い東京の街も、醜い人間の心も、少し好きになれるかもしれません。小説『劇場』のモチーフになった、取り返しのつかない苦しい失恋話「池尻大橋の小さな部屋」も収録されています。

ナナメ＝皮肉な心で世間を見ていた「オードリー」の若林正恭。しかし歳を重ねるにつれ、社会や自分自身をやさしくゆるすことができるようになるプロセスが繊細に描写されています。スタバで「グランデ」を頼めるようになるまで、亡き恩師・前田健との思い出。生きづらさを抱える読者の心を肯定してくれるエッセイです。

「才能がない」と悟った日から始まった、「南海キャンディーズ」山里亮太の超ストイックなお笑いへの努力論。コンビ不仲、芸人を辞めようとした日、念願の「M‐1グランプリ」。自己嫌悪、ひん曲がった反骨精神、並々ならぬ悔しさを燃料にして走り続けた彼が見た景色とは？

明るい相方と比べて「陰」イメージのある「ハライチ」の岩井勇気。タクシーでの出来事や自宅の庭の話など至極平凡な場面への鋭い観察眼、繰り広げられる妄想劇は、ユーモラスでありながら、生温かい緊張感と狂気があります。日の目を浴びることだけが人生ではないと思える一冊です。

コンビ名の通り、阿佐ヶ谷のアパートの隣同士で暮らしている江里子さんと美穂さん（姉妹ではありません）。豆苗を育てたり、洗剤の貸し借りをしたり。その質素な暮らしぶりに心が癒されます。ふたりの柔らかな日常をこっそり垣間見て、クスッと笑ってしまうやりとりのなかから、忘れかけていた温かい人情を思い起こさせてくれるエッセイです。