先の見えない日々を他者と生きてゆくために。「弱さ」について考えるための本

老若男女あらゆる人々と「哲学的対話」に取り組む哲学研究者、初めての著書。文字通り水中を潜り進むような柔らかい文章で、ささやかな疑問を丁寧に考えていきます。その根底に流れるのは、人生の苦しさやわからなさを「なんで？」と受け止め、引き剥がし、和解する哲学の意味。『なぜ弱くてはいけないのか？』という問いかけが胸に沁みる一冊です。

他者と感情や思考を分け合う最も基本的なコミュニケーションの一つが、会話です。しかし楽しいだけでなく、ときには場の雰囲気や言葉の多義性の影響で、支配や侮蔑に傷ついてしまう場面が生じることも。日常会話からアニメ・ゲームなど身近な状況に潜む違和感を、言語哲学を用いながらも気軽に解きほぐしてゆくエッセイ集です。

「ケアの倫理」は、病人や高齢者をはじめ誰しもが持つ弱さに寄り添う生き方を、ジェンダー論の観点から肯定する思想です。本書は政治学や倫理学などで議論されてきたその概念を文学にも広げ、古今東西の作品から「ケア」に着目する意欲作となっています。本書で紹介し、論じられている数多くの小説も読みたくなることでしょう。

刻々と変わる社会に加えコロナ禍によって、人々は不安を抱えながらも、それを自力で打破する強さを追求してしまいがちです。しかし本書では、その前にまず己の弱さを肯定する必要や、他者と共生する生き方を説いています。カトリック教徒の著者なりの視点で懇々と語られる言葉に、ぜひ耳を傾けてみてください。

震災やDVなどによるトラウマ研究の第一人者である精神科医・宮地尚子による初のエッセイ集。12年の時を経て、2022年に内容や装丁を新たに刊行されました。傷を負った患者を臨床の場で見守り続け、家族と過ごし、映画を観て、旅をする日々。「傷を愛せるか」という問いを自他に投げかけながら、互いの幸せを真摯に祈る姿勢に胸を打たれます。