限りなく優しい純愛小説
2005/10/14 14:40
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:佐々木 なおこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
読み終わりは、ぷふぁ〜というため息が出て、本当に良かったねぇという感じ。決してありきたりな二人が登場して、ありきたりな恋愛をするわけではないのです。
登場するのは、中年の売れない小説家ジローと、見るからに訳ありで、幸せなんてフレーズは私の人生にはなかったのと全身で訴えている20代の洋子。この二人がある時、どしゃぶりの雨の中で出会うべくして出会う。洋子には簡単には語れない過去があり、それで苦しんでいた。それが出会ったあの雨の日以来、洋子は拾われた子猫のようにそのままジローのアパートに居ついてしう。まるで保護者のように洋子の傍らにあるジローの存在。
一体この二人はどうなるのか…。
ジローのアパート下に住む気のいいおじちゃん、おばちゃんや、洋子を担当する精神科の先生、はたまたあのどしゃぶりの雨の日にすれ違ってたヤクザ、そしてその子分達、二人を取り巻く様々な人たちの好意が微妙に作用して、この二人は華々しいラストシーンを迎える。この舞台準備が凄い。なんとも凄い。
「人間は−心に陽が射せば、かわるものです。−いくらでも、おどろくほど、かわるものです」小説半ばに出てきたこの言葉がしみじみ心に沁みる。
完成度野高い作品
2020/11/09 23:29
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投稿者:なのはな - この投稿者のレビュー一覧を見る
辻内氏は最高だとあらためて思いました。「TOKYOオトギバナシ」という副題がついているこの小説は、まさに「大人のおとぎ話」という言葉がぴったりな夢のような話です。ジローや洋子や龍治のそれぞれの思いを深く描き出すとともに、周囲の人達のあたたかさに包まれる様子もしっかり描かれていて、温かさと冷たさの入り混じった鮮度のいい小説でした。洗練されたユーモラスな会話も巧いのだけれど、なんといってもラストの大芝居ぶりが印象的でした。露骨すぎる感じもしないではないのですが、「大切なもの」を丁寧に書きたい気持ちがすごく伝わってきます。
印象としては「センセイの鞄」(川上弘美)の世界観に近いですが、真面目な恋愛小説であるにもかかわらず、堅くなく読み手に優しいです。非常に完成度の高い作品であると思います。
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一気に読了。『青空のルーレット』同様、軽やかな文体ながらもユーモアがちりばめられた文章が好きで、思わず笑ってしまう。中盤あたりからストーリー展開にやや「できすぎた感」があるものの、読み終えた後は、ほんわかした気分にさせてくれる。今の自分に当てはまる表現を何ヵ所か目にしてドキッとした。他の著書も読んでみたい。
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この間映画を観に行った時にようやっと見つけた辻内智貴さんの本を読了。
まとめて3冊買ってきてしまった。
そのうちの1冊。
僕は聴いたことが無いんだけれど、元々この方はミュージシャンだそうで、作品中にもよくミュージシャン志望の人とかが出てくる。
今回の主人公もそう。
お話としては、ありそうでいて無さそうな、それでもやっぱりありそうな日常のお話。
まだ『青空のルーレット』と『ラストシネマ』の3冊しか読んでいないけれど、基本的には「出来事」よりも「人間」を描く人なんだと思う。
出てくる登場人物達は、良い人と悪い人が両極端。
主人公の周りの人達はこれ以上無いくらいに良い人揃い。
その人達が、主人公を優しく見守ると共に守っている。
だから、どんなに悪い人が出てこようとも、なんだかほんわかしたお話になる。
作家としてスタートした人ではないからなのか、言葉の使い方が面白い。
定型に捕らわれていない感じで、「あぁ、この言葉の方が状況とか心情が伝わってくるなぁ」っていう部分がたくさん。
だからなのか、読んでいるだけで泣きそうになってしまったり、あとからその言葉だけを何度も読み返してしまったりする。
2009年に読んだ本の中で、僕のベスト1は『青空のルーレット』。
この中の言葉は、ここ数年でもピカイチだった。
よい意味で軽い文体の小説を書く方なので、読むのは比較的楽。
優しい気持ちになりたい時には良い本だと思う。
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再読
コーフクを喰らう時には、かなしみも喰らえ。
たのしさを喰らう時には、さみしさも喰らえ。
同(ひと)つものとしてあるものを、同つものとして、ちゃんと喰らえ。
コーフクばかり、たのしさばかり食いちらかして、うち捨てられたかなしみ の山が、澱んで、腐って、膿んじまって、そのあまりの腐臭に驚いて、あわてて皆で間に合わせのフタばかり、かぶせている。
皆さんは、そういう馬鹿だ。
そして俺は、そのフタづくりに参加する気もない、もう一つの馬鹿だ。
わたしもフタづくりをする気のない大馬鹿です・・。
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週末に再読しました。この本も良いです。良い話を読みたいと思った時、せひ一読を。ほっこりしますよ。同名の歌も良いですよね。
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この人の話を読むと、世の中悪い人なんていないんじゃないか、という暖かい気持ちになる。
常識ではこんなことありえないとは理性はわかってます。でも、理性とは関係のない自分はこんな素敵な出来事を信じてる。
辻内さんのハッピーエンドはいつも心地良いです。むずむずしないハッピーエンド。
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久しぶりに恥ずかしくならない純愛小説を読んだ。
登場する男どもが実にかっこいい!特に、人生という言葉から「虹」を連想するジローの器の大きさと懐の深さに憧れる。
そして、愛する女性から「わたし、うまれてきて、よかった」って言われるなんて男冥利の極みである。
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『セイジ』を読んだ時も思ったけど、頭の中で、映像が浮かびやすい。
シンプルなんだけど、その分登場人物の心情に入り込みやすい。
最後はずいぶん無理やりだったけどww
面白かったです。
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客観的に見れば、優れた作品では無いかもしれない。でも何故かグッと来てしまう本があるものです。
50を過ぎたオジサンが「良かった〜」と言うのは気恥ずかしいような純愛御伽噺(ちなみに単行本のサブタイトルが「TOKYOオトギバナシ 」です)。
だから、人には薦めません。
ミュージシャン崩れで人が良いばかりで売れない四十歳の小説家と、心に大きな傷を持つ二十歳の娘の純愛ですからね。さらにそれを取り巻くのが「親父」と呼ばれる退職刑事とその気の良い奥さん、さらに子供の頃に妹を亡くしてしまった孤児上がりのヤクザ。
ある意味ありふれた設定だし、クサいようなところもあるのですが、辻内さんらしい優しさの表し方と、ちょっとしたオチによって心地良い笑いが浮かんだりするのです。
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辻内作品は重厚な文体では無いので非常に読み易く、子供から大人まで十分楽しめる。そしてその愛溢れるメッセージ性の高い物語についついホロリとしてしまうのだ。この作品もしかり。心の病んだ孤独な女の子に中年貧乏小説家が『心の薬』になるというお話はひたすら優しさとは?を考えさせられる。惚けてるのか悟ってるのか良く分からない小説家、心に傷を持つヤクザ、人情味溢れる元警官夫婦と各キャラも際立ち物語に彩りを添えている。誰しもがきっとコミカルな純愛映画として頭の中で映像化されるだろう。
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心優しい人たちが集まった、なんとも穏やかな世界よ。衆人環視はちょっとやだけど、私も誰かの心を照らす光になりたい。