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この作家の作品を読むのは久しぶりです。昔からわりと好きな作家の一人です。作風でいうと内容的には「平凡」な男を主人公にした「平凡」な恋愛小説が多いという印象があります。ただしこの人は小説がうまい。
どの作品の主人公も私自身に世代的に近いということもあるけど、「等身大」の男の心理がうまく表現されててその辺に共感を覚えるのかなぁ。なんとなく不安定な心というか存在感というか、どこか曖昧ですっきりしない感じもするんだけど、主人公も小説自体も。でもそういうところが好きですね、この作家の小説は。
この作品は突然恋人が「失踪」してしまった男の話しです。話しの本筋としては、だから失踪した恋人探しなんですが、そういう謎解き的な部分はもちろん重要ではないですし、面白いわけでもないです。ただしその「物語」の中で描かれる、なんというか、人間関係・男女関係の微妙さ、機微、脆さ、不思議さ、これは「人生の」と言い換えてもいいんだろうけど、どうも私の語彙と表現力ではうまく言い表せないんですが(^^ゞ そういうもろもろが実にいいんですよね。うまい。
いつまでも記憶に残る、というほどの作品ではないですが、ちょっと独特の雰囲気が馴染めれば、味わい深い作品です。
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哲学的なテーマを、ありふれた恋愛ストーリーに乗せ、説明的ではなく、登場人物のキャラと日常の描写でそういうテーマを描ききっている。ものすごい力量だ。
ぼくにはどうもラストシーンは気持ち悪いのだが、それもうまい具合に問題提起して終わっているからなんだと思う。
どの登場人物に感情移入するかによって物語が異なって見えてくるという多面性を仕掛けてあるのもすごい。
久々に骨太の「文学作品」を読んだ。
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明日の朝食に食べるリンゴを買いに、「5分で戻るわ」と出かけた彼女は、それっきり帰ってこなかった。
物語はそんな推理小説風の導入で幕を開ける。
やがて現れる彼女の姉だという人物とコンビを組んで、主人公による探偵ばりの探索行がはじまる。彼らはあちこちと聞き込みを行い、しだいに彼女の足取りが明らかになっていく、かに見える。
しかしある時から、一緒に彼女を探していたはずの(彼女の)姉や友人たちが彼を避けるようになる。問いかけても話をはぐらかされるばかり。ちょうどアイリッシュの「消えた花嫁」の主人公のように、彼以外の全員が答えを知っていて彼だけが蚊帳の外に置かれているみたいに。
そのまま事態は迷宮入りし、5年の月日が過ぎる。そして、答えはある日思いもかけないところでやってくる。思いもかけないかたちで。
それは、それまでの物語の意味を一瞬にして変えてしまう真実だった。まるでクリスティのミステリーで、犯人は語り手の主人公その人だった、とわかったときみたいに読者は思わずページを繰り、過去の記述を読み返さずにはいられないだろう。主人公とともに。
だが、そののち真実はしずかに心に着床しはじめる。
5年の歳月が、別の意味をもって彼の心に降りてくる。
それにしても、その答えを主人公は聞くべきだったのだろうか。
彼の人生を一変させてしまうその答えを。
「知らなければ、知ろうとしなければそれですんだのに」と人は思うかもしれない。
そう言えば、同じ作者の小説「Y」でも、主人公は何かに衝き動かされるように突き進んだ結果、意外な真相を知る。やはり彼にとっての世界がひっくり返るような事実を。
だが、いずれの主人公もたぶんそのことを後悔はしていない。彼らは真相を知り、その意味を悟ったとき、それでもそこから新しくはじまる世界を引き受ける決心をする。
彼らはきっと長い夢を見ていたのだ。
長い夢のあと人はふたたび目を醒まし、本当の人生を歩きはじめる。それは容赦ない真夏の光の降りそそぐ場所かもしれないが、それでも彼らはそこから歩きはじめる。
この物語の中でもっとも印象的なのは、小道具として登場するリンゴだ。
それはまるで主人公の分身であるかのように、物語の冒頭で彼の前から失踪し、物語の途中で消息を現したかと思うと、ラストシーンでまた忽然と現れる。
あたかも主人公のあてどない探索行の道標であるかのように、それは物語の要所要所に登場する。
しかし、まるで彼が探していた答えのように、それはずっと彼の近くにあったのだ。思いもかけないかたちで。幸福の青い鳥の物語のように、失われた彼のリンゴは、ずっと毎朝彼の冷蔵庫の中に入っていた。誰かの手によって。
物語の終幕はこんな風に描かれる。
「...蝉の声は途絶えることがない。何種類かの鳴き声が折り重なってひとつにまとまり鼓膜を震わせる。僕は片手にリンゴを握りしめたまま待った。真夏の光の降りそそぐ小さな駅の、人影のないプラットホームのベンチに腰かけて、いつやってくるともわからない上り電車を待ち続けた...」
http://book1216.blogspot.jp/2009/11/blog-post.html
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恋人の突然の疾走。その行方を探し始めた僕。伏線の張り方が絶妙で謎解きも意外でした。文体の感じも軽やかでさりげない感じが気に入った。平凡な人生に起こり得そうな物語で好感度大でした。他の作品もよんでみたくなりました。
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日本全国で1年間に、自分の意思で姿を消してしまう人間は、7万人以上。。。
その夜、ガールフレンドは、酩酊した僕を自分のアパートに残したまま、明日の朝食のリンゴを買いに出かけた。
「5分で戻ってくるわ」と笑顔を見せて。
しかし、彼女はそのまま姿を消してしまった。
僕は、わずかな手がかりを元に行方を探し始めた。
これは、言ってしまえば、姿を消したのは事件性とかではなく、彼女は自分の意思で姿を消してしまってんけど、その理由が切なかった。
自分なら、こういう行動をするかどうかと問われたら、絶対にしない!!って言うか、できひんと思う。
そんな勇気ないわ。
東京ラブストーリーの最終回のリカ(鈴木保奈美)が出した行動を思い出し、切なくもあり、彼女の度胸のすごさも感じて、面白かった。
この小説の中で5年の歳月がたってるねんけど、数ヶ月の出来事を凝縮された感じに思えて、サラッと読むことができた。
これは、読む人によっては、面白い人とつまんない人と、はっきり別れるかなと思ったけど、うちは、最後が好きやったから、オモローやった。
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いろいろと考えさせられる小説でした。
何がきっかけで人生が変わるのか。
今その瞬間の判断、行動が今後の人生を
大きく変えるかも。
解らないからこそ人生は面白いのかな。
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リンゴを買いに行ったまま失踪してしまった彼女を捜索するお話。
恋愛に重要なのは「タイミング」「フィーリング」「ハプニング」だとよく言われるが、本作はその「タイミング」に関しての要素が強いかな。
佐藤正午作品はこの一作のみしか読んでいないが、いま小説を書かせたらNo.1の実力と言っても過言ではないと思う。女性視点で読むと違和感が残るような気もするが、男の心理描写は抜群に上手い。
読んでていちいちイライラさせる主人公の優柔不断な部分は、きっと同族嫌悪なのだろう。終始、痛いところを突かれたような感じを抱えながらも、読了。
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あの時、ああしなければ、違った人生がになっていたかも。
誰しもが一度は思うことだが、この主人公は強いカクテルを飲んだことで、人生が変わってしまう。
良くあることかもしれないけど、普通は変化が緩慢で気がつかない場合も多い。それが明確に分かった場合に人はどんな反応をするのだろう。
恋人の失踪という事件のなか、その真相は?
楽しく読める一冊です。
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おもしろかった。村上春樹に似た感じなのかな、と思いながら読み進みてたけど、似ているとかではなくてきちんと味がある本だった。三月によみたいかなぁ。
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内容(「BOOK」データベースより)
その夜、「僕」は、奇妙な名前の強烈なカクテルを飲んだ。ガールフレンドの南雲みはるは、酩酊した「僕」を自分のアパートに残したまま、明日の朝食のリンゴを買いに出かけた。「五分で戻ってくるわ」と笑顔を見せて。しかし、彼女はそのまま姿を消してしまった。「僕」は、わずかな手がかりを元に行方を探し始めた。失踪をテーマに現代女性の「意志」を描き、絶賛を呼んだ傑作。
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「リンゴを買って五分で戻ってくるわ」と言い残して失踪した彼女。行方を追い始めるが、奇妙な出来事と彼女の関係者に翻弄される「僕」。そして、主人公の「僕」にも彼女に隠している真実があり・・・。
失踪が自らの意思なのか、それとも事件に巻き込まれたのか?真相が判るまで主人公以上にドキドキする。リンゴなど小道具の使い方も巧みで、小説の真髄を味わえる。
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5年を費やして自分の行動の不味さを認識した男の話。と言ったらかわいそうなのかしら?
身から出た錆に気づかないのってどういうことなのかしら。
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「リンゴを買って5分で戻ってくる」と言い残して失踪した彼女の謎の理由を探す物語。
先の展開が気になって1日で読み切った。
もしもあのときこうしていれば…
誰もが経験する、ちょっとした後悔がこの作品の大きな分岐点になる。
彼女が失踪することになった理由もまた切ない。
読後もこの小説の世界にしばらく浸れる、素晴らしい作品。
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作者に関する知識がほぼ皆無、どんなジャンルかも分からず、表紙を見ても内容は殆ど見えてこない。久しぶりにそういう状況下での読書を楽しんだ気がします。たまにはこういうのも良いものですね。読んでいくうちに作者の性向とか、物語のジャンルとか、そういうのが順次明らかになっていくスリル。ひょっとしたら、この状況で読んだ方がより多く楽しめるのかも、って思っちゃいました。最終的にはいわゆるミステリと呼べる作品でしたが、誰も死なず、事件性もない結末は、よく練られたものだと感じました。面白かったです。
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あの時、こうだったら、こちらを選んでいたら、誰でも考えることが描かれています。林檎を買いに5分で戻る予定だった彼女が姿を消してしまう。作者は、物語を通じて、何を語りたかったんでしょうか。全ての選択が今の自分を作り上げているのだと考えるべきだと言いたいのかなあと思っています。