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敵とは誰なのか
2022/10/22 16:46
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ソ連」で生物兵器の研究をしていた女性天才科学者がアメリカに亡命しようとする。CIAが手引きするのだが、KGBがそれを許すはずがなく、激しい争奪戦が繰り広げられる。脱出のための秘策として、日本海を経由してアメリカ大使館に駆け込もうとしたため、日本政府は秘密厳守のために、海上保安庁の関守充介に身柄の移送を依頼する。
しかし両陣営にとって必死なところで、いかなる犠牲を払ってでも身柄を奪うか殺害するかしなくてはならず、無関係の人間を大量に巻き込んで捜索と破壊工作が行われる。旅客機は撃墜するは、新幹線は爆破するわで、もうたいへんなのだ。
いくらなんでもそんな無法を日本領土で行われるのを許すことはできず、海上保安庁においても洞察力、行動力、政治力で刮目されている関守に官房長官から依頼されてのこととなる。
しかし爆破現場から女性科学者の姿は消える。彼女の捜索、確保のために、各陣営の間でまた血みどろの抗争が行われる。そして関守率いる海上保安庁も、日本政府の謎組織と対決することになる。
結局、実際のリスクよりも政府の面子のために米ソ両陣営も、日本政府も無駄に血を流しているわけで、関守の使命はむしろその事態の収拾になってしまっている。こういう謀略小説は、個人と政府や組織の非人間性の対立になるわけだが、根源を突き詰めていくと、善悪の問題よりも、巨大組織の不合理性、非人間性に辿り着いてしまう。誰ひとりも望んでいない悲劇が生み出されるが、誰もその責任をとれない。それは日本の、あるいは世界中の政府機関の限界であり、そんな普遍的な敵を相手に戦うことに倦んできそうではある。
敵の存在をどんどん大きくしていくことで、緊迫したストーリーを生み出すことはできたが、カタルシスを得るには程遠いし、多くの人は自分たちの忖度、付和雷同、事なかれ主義こそが敵になっていることにさえ気づかないだろう。
西村寿行は戦うべき敵を見失ったの状態かもしれない。敵組織に好敵手がいたとしても組織の論理ですりつぶされてしまうことになるし、例えば鯱シリーズでは、ソ連やKGBはその腐敗や官僚主義を笑いのめす対象に成り果てている。
冷戦末期においてこういう状況であったわけだが、その後も世界はそのその傾向が強まっていき、敵が国家なのか単なるテロリストなのかも曖昧になって、巨悪と戦うヒーローも目指すところが違ってくる。だが関守充介も寿行も変わることなく、これまでと同じように戦い続けるだけだ。ただ日本の土着的な人々や組織の動きについては、ソ連やアメリカの想像の埒外であり、その鼻をあかせたのはちょっとだけ痛快なような、脱力もののような。
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