14人中、13人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kumataro - この投稿者のレビュー一覧を見る
記憶喪失だったぼくが見た世界 坪倉優介 朝日文庫
衝撃的な内容です。18才の著者は、雨の中、原付バイクを運転中に駐車中のトラックに衝突する。10日間意識不明となったあと息を吹き返す。大声で叫んで暴れて、病室のベッドにくくりつけられたあと数日して、急におとなしくなる。意識が戻った彼は、自分がだれなのかわからない。家族に会っても相手が何者かわからない。18年間の記憶が消えている。字は読めない。物の名称も覚えていない。現象の意味を理解できない。実話です。最後まで、記憶はほとんど戻りません。
命の再生を語る物語です。周囲から奇異な目で見られるのが嫌で、だれにも会いたくない。親からみれば生きているだけでもありがたい。本人は、生き返るんじゃなかったと言う。本人の行動は異常です。母親の涙は尽きない。弟、妹はとまどう。父親の厳しくも適切な教育があり、作者は在籍していた芸術系大学を留年しながらも卒業し、運転免許取得後、車中泊で新潟から北海道までひとり旅をしています。そして、ひとり暮らしに挑戦しています。お米をお湯でといだ話には笑いました。就職を経て、着物の染物作家として自立されています。海外での学習歴もあります。「絵があってよかった」というひとことにはほろりときました。初期の作品では、たくさんの足跡も鳥も人間を表し、そこにひとつだけ反対の方向を向いている足跡や鳥の絵があります。反対を向いているのは著者自身の姿であり著者の孤独を表しています。
交通事故後の様子は、認知症の年寄りのようでもあり、知的障害者のようでもあります。列車の中の描写は知的障害者の行動と思考の説明を表しているようで障害者の気持ちがよく伝わってきました。ひらがなをようやく覚え、漢字の存在を知る。失った能力と引き換えに鋭い感性が与えられます。わからないことを徹底的に追求します。観察力が向上します。
自然が心を慰めてくれます。樹木や草木を素材にして布を染める職業に就かれました。退院後、人生をもう一度最初から始める。一日一日を過ごすことによって過去が形成される。その過去が増えるごとにだんだん心が落ち着いていきます。この本は子育ての本でもあります。今年読んでよかった1冊になりました。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:飛行白秋男 - この投稿者のレビュー一覧を見る
解説の俵万智さんが書いておられますが、純粋な感情を持ち且つその感情を文章で表現できる作者、とても純な気持ちがよくわかります。
大事故から生還され、記憶喪失にも明るさで立ち向かわれました。ご両親の深く温かい愛情にも感動いたしました。
神は乗り越えられない試練は与えないのは本当なのでしょうか。
齋藤孝先生の著書で紹介されていたので即購入、短時間で読めますから皆さん必ず読んでください。落ち込んだ時や寂しい時、必ず笑顔にしてくださる明るい感動作品です。
これが記憶喪失か!
2020/07/28 00:35
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ヤマキヨ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ドラマでよくある記憶喪失の設定は、社会常識や日常生活に関する情報は保持していて、自分に関する記憶だけが出てこないというものでしょうか。自分の過去が思い出せずに苦しむ一方で、普通に生活は送っています。(そうでないとドラマにならないのでしょうね)
その記憶喪失のイメージから、筆者の記憶喪失は全然別物でした。状況を書くとネタバレになってしまうので、「日本語を忘れてなかったのがせめてもの・・・」という私の感想を上げておきます。
ドラマでは見知らぬ土地で、新しい“自分”として生きていくパターンですが、筆者は家族と記憶を取り戻そうとしながら、新しい記憶を積み上げていきます。この場合、これまで生きてきた記憶が「私の核心」なのか、新たな記憶部分こそがリニューアルした「核心」なのか。とても考えさせられました。
投稿元:
レビューを見る
記憶がなくなるとこうも人はわからなくなるものかと驚いた。
家や、人が流す涙さえ何なのかわからなくなったというエピソードがありありと書かれていた。
また「過去」が記憶から消えたことで、筆者の過去に対する考察がとても印象深かった。「過去がないと生きてる意味がない」という発言の真意を理解していないが、人は人生を今ゼロから始めることはできないのかもしれないと思った。
視野を広めるという意味の読書をされようと考えている方は是非。
投稿元:
レビューを見る
TVで紹介された本。
記憶喪失とそこから回復していくドキュメンタリー部分と、
著者の感性の部分が時間経過とともに記されているのだけれど、
もう少し分けてもよかったかも。
もっと、記憶喪失の人から見える新鮮な描写を読みたかった気がする。
でも、とても感動します。
投稿元:
レビューを見る
チョコと大学イモは違う味なのに、なぜ両方甘いと言うの? 事故で記憶を失った坪倉さんの手記。この体験を自分に置き換えると、想像を絶する悲しみと苦悩があるだろうと胸がよじれる。それと同時に記憶を失い、まるで子どものような感性で世の中と接していく坪倉さんの様子は、たくさんの発見を与えてくれる。時々読み返すことで、そのモノの見方、感じ方、言葉の選び方を、自分の刺激にしたいと感じた。
投稿元:
レビューを見る
18歳という年齢で、見るもの、触るもの、すべての意味が分からなくなる。
満腹になれば食べるのをやめるということ、夜になれば寝るということ、そういうことすら理解できない状態って、どんな世界なんだろう。
記憶喪失になったばかりの時は、言葉すら分からない。
でもそういった時の感情が、見事に文章に表されている作品だ。
投稿元:
レビューを見る
記憶がなくなるということは、今まで想像の域を出なかったけれど、この本の中には瑞々しい言葉で清々しく表現されている。
この本を読むと、乳児が世界をどう見ているのかも、垣間見えるようなきがした。
また、読みたい本。
投稿元:
レビューを見る
今見ているモノ、文字、色、これらのものが分からなくなったらどうしますか?すべてが何か分からないという状況が想像つくでしょうか?信号の見方も、何が食べ物かも全然分からないのです。
作者の坪倉さんは交通事故にあった際に今までのすべての記憶をなくしたのです。ドラマなどでは聞いたことあるかもしれませんが、記憶喪失になったのです。
しかし、記憶をすべてなくした彼は見るものすべてが新しいものなのです。今僕らが見ている景色とは明らかに違う景色をみているのです。
そんな彼が記憶をなくして、現在の草木染め職人になるまでのことについて書いている本です。
活字が苦手な人でもあっという間に読むことができると思いますので、ぜひ読んでみてください。
投稿元:
レビューを見る
ブクログでレビューを読み購入。
これまでに自分が得た記憶を全て失うというのはどういうことか。
体は大人なのに、頭脳は子供。
周りの人間は大人である自分を求めてくるが、自分は何もわからない。
本人は当然だが、周りの人たちの当惑も大きいと思う。
これまでに築いた人間関係や自身の感性を一から作り直すことになる。
だから、今は昔の自分を思い出すのが怖い。
(そうなったらそうなったで受け入れるしかないんだけど)
驚いたのは、ふとしたことがきっかけで、急に記憶が戻ることがあるのだということ。
自分では意識していないのに、そのことについて急にペラペラ話し出すということ。
それを遠くからみているような自分がいること。
そんなことがあるとは思わなかった。
興味深く、面白い本だった。
投稿元:
レビューを見る
大学生の時に交通事故にあい、過去の記憶を失った作者の実話。作者の視点と、母親の視点の両方が交互に綴られる。
作者自身が本当に幼児のような状態に戻って、周りの情景や友人、家族の様子を語っている部分は、子供の視点のようでとてもリアル。母親の当時の心情などは、子を持つ親として、本当に強い両親だなと感じる。
面白いけど、まぁでも星3つかな。
投稿元:
レビューを見る
記憶喪失になると、こんなことにまで影響が出るのか…と愕然とした。
ただ、坪倉氏はその人柄から記憶喪失となる前にたくさんの信頼できる友人・知人を獲得しており、その大きな助けがあって今の新しい生活が築けたのだと思う。
今振り返って、自分がそんな生き方が出来ているか、と考えると、全く自信が持てない。
今からでも遅くないはず。
投稿元:
レビューを見る
交通事故で記憶をなくした大学生の話。
家族や友人の存在はもとより、食べること、眠ること、物の名前など分からない状態から、草木染めの職人になるまでの話。
この話すごいんだよ、と同僚と話していたら、テレビで取り上げられていたらしい。見逃した~見たかった!
投稿元:
レビューを見る
おすすめの一冊。18歳で交通事故にあい、それまでの記憶を全てなくした筆者。
記憶喪失とは、“記憶”、つまりメモリーのみがなくなるものだと思っていた。
お母さんって何?
お腹いっぱいってどういうこと?
おいしいっていろいろあるの?
たぶん私たちも生まれて大きくなる過程で、間違いなく存在した感情を、知ることができる。
筆者のように世界をとらえることが出来ないのがなんだかとてもさみしく思えた。
脳科学的にも非常に有益な一冊だと思う。
投稿元:
レビューを見る
衝撃を受けた。
記憶を失うとはどういうことか、想像を超えた不便さ、辛さが次々と描かれる。
感性は失われていなかったのか、夕陽の色の感じ方はより純粋なものを感じた。
表現者として歩めてよかったと思う。