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紙の本
良心とは?神とは?医療とは?深く暗い題材がうねりただよう
2006/03/08 20:39
11人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦争の末期、大学病院でおこったという白人捕虜の生体解剖事件を題材とし、良心とは?神とは?を問いかける。著者の初期長編であり、その後の著作に繋がるいくつかのテーマが含まれている作品である。
事件の当時研究生だった主人公。彼は助からない患者をそれでもなんとかしようと努力を続ける医師でもあったが、死に行くものをどうすることもできない虚しさも感じている。その周囲では教室間の競争で手術をさせられ、その失敗も隠される患者もいる。そんな中で捕虜の解剖が「戦場での手術の基礎データ」のため、と計画される。
描かれた大学病院の教室間での競争は、どこか「白い巨塔」に通ずるものがある。しかし、事件に参加した医師自身は、逆らえない上司の命令に従ったというのとは少し違う思いを持っている。主人公は「断れば断れたのだ」がもうどうでもいい、と承諾してしまう。もう一人の研究生は、自分には良心がないのでは、と思い続けている。
戦時中という異常な状況のせいなのか、人間の持つなにかがそうさせてしまうのか。病院から臨める海が題名にも取り上げられているが、深く暗い題材がその海にうねりただよっているようである。「成果という大義名分」や「医の倫理」といった医療にも深く関係した問題提起を含むので、医学系の職業に携わる、あるいは携わろうとする人には、是非一度読んでもらいたい作品である。ちなみに著者は、自身が結核で何度も手術を受けるなど、患者としての経験の中から医療問題にも積極的に意見を述べている作家であったことも記しておきたい。
提起された問題があまりも深く暗いこと、複数の関係者の視点から描いた手記風の体裁をとっているので一つの中心が見えにくいことなどから、小説としては一つの結論にむかって凝縮していくことはなく、まとまりきっていないような感が残るかもしれない。 著者自身もこの題材をもう少しなんとかしたかったのではないだろうか、この作品のおよそ20年余り後に書かれた「悲しみの歌」では、この作品の主人公の医師が再び登場する。著者も年齢を重ね、人生の体験をさらに踏まえて書かれた「悲しみの歌」も、合わせて読むとよいと思う。
紙の本
忘れられない衝撃
2021/07/11 18:32
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投稿者:けろん - この投稿者のレビュー一覧を見る
少し前に出た新潮文庫の限定カバー版を見つけ、そのデザインに惹かれて購入した。
恥ずかしながらこの小説を読むまで「九州大学生体解剖事件」を知らなかったし、戦時中のことを書いた話をほとんど読んだことが無かったので、衝撃を受けた。
偶然の出会いだったが、視野・知識を広げてくれるような本を読むことが出来て良かった。
電子書籍
時代を超えて心に残る医療ドラマ
2021/01/24 06:19
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投稿者:まるちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は捕虜生体解剖事件をテーマにセンセーショナルな作品である。
僕とこの小説との出会いは小学校の頃。それこそ国語の文章題で、ちょうど勝呂の幼少期の回想部分の抜粋が出題された。今は読書の僕自身が30歳を超える大人になったが、改めて読み返すとあの頃は感じえなかった強烈な読後感を残す。歳を重ねて感受性が変化したこともあるだろうが、皮肉にも僕自身が医者になったことも作品へのシンパシーの要素として大いにあるに違いない。
主人公の勝呂のように、僕は内科医だから手術こそしないが、家族や患者に予後説明や死亡診断をして人の生き死にを語りかける機会はある。本文にあるようにいちいち感傷に浸っていては仕事にならず、深い面持ちを携えながらフラットな感覚に過ごす。でも内心は独特の感傷に揺れ動いているといった感情の挙動。厭に身についてしまった機敏がこの小説では丁寧に言語化され、物語の中に実に見事に組み込まれている。ただただ驚嘆するばかりである。純文学を損なうことなく手に汗握るエンターテイメントでもある。
また本小説は多視点でオペを通じて「罪とはなんぞや」を考えている作品である。そこに映し出される倫理観、原罪といったテーマは現代も色褪せず。寧ろ、感染症、戦争、テロリズムと、毎日のニュースを介してグローバルな死を身近に感じやすい今の時代だからこそ、より心に響く名作であると感じた。
紙の本
怖い小説だ・・・
2019/10/24 21:45
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
九州の大学附属病院で米軍捕虜の生体解剖が行われた事件を小説化したもの。その出来事を解剖に参加していた(させられていた)若い医師2人と一人の看護師によって語らせる、ほんとうに怖い作品。この戦争が万が一、日本の勝利で終わっていたら彼らの行為も英雄として語り続けられていたのであろうか。語り口がたんたんとしているので、余計にこの生体解剖の恐ろしさが深まる。「生理的食塩水は血液の代わりにどのくらいまで使えるのか」「空気を血管にどれだけ注入すれば人は死ぬのか」「肺の切除手術はどこまで可能か」書いているだけで怖い。でも、犬やウサギの代わりに人間で実験してみたいという医師は今でもいるのかもしれないと考えたりもする
紙の本
深いなあ
2019/04/17 19:35
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投稿者:飛行白秋男 - この投稿者のレビュー一覧を見る
何十年も前に読みました。
再読しましたが、印象が全く違いました。
すごいです。
紙の本
罪の意識。
2001/10/25 14:38
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投稿者:みやぎあや - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦争末期に九州大学医学部で行われた、米人捕虜の生体解剖実験。インターンの勝呂と戸田は助手としての参加を求められ、結局は承諾する。罪悪感に苛まれる勝呂と、自分が良心の呵責を感じない事実に無気味さを覚える戸田。
「自分たちだけじゃない、この状況に立たされたら他の人間だって同じことをしたに決まっている」
漠然とした疲労感を溜め込んでゆく勝呂に、戸田が言ったセリフがとても印象深かった。