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紙の本
もう一つの戦争
2006/11/23 03:45
12人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くにたち蟄居日記 - この投稿者のレビュー一覧を見る
読み始めて2時間で一気に読みきった。
戦争気運の高まる昭和11年から15年までの黒部第三発電所のドキュメンタリーである。発電所建設のために不可欠なトンネルを掘る主人公たち。岩盤最高温度が摂氏165度にまで上がる。抗夫たちは ホースで冷水を浴びながら掘り進む。ダイナマイトの自然発火による爆発、次々起こる転落事故、雪崩が原因で発生する空気爆発。想像を絶する環境の下 それでもトンネルを掘り続ける。最後にトンネルは貫通したがそれは4年の年月と300名を超える死者を費やしてのものであった。
読みながらも 幾度か本を閉じて嘆息した。これはもう一つの戦争である。実話であるだけに その理不尽さは想像に余る。
主人公はトンネル貫通をひたすらめざすことで 自然と「対決」している。彼の頭には 自然に克つことしかない。その姿には一種すがすがしいものもある。しかし 主人公にまとわりつく死臭は消えることはない。
地元の警察は あまりの被害に幾度もトンネル工事中止を勧告する。冷静かつ常識的な対応だ。しかし 戦争の為の電力確保の為 国はトンネル貫通を最優先する。人の命が一つ一つ費えていくなかでトンネルは進むのだ。
主人公はトンネルを完成する。対決に勝ったといってよい。しかし そこにはヒーローの姿を全く描かないのが吉村昭の描写である。主人公は結局 自分を踊らしていたのは 「時代」であり「戦争」であったということには気がついていない。吉村は その点を冷徹に突き放して書いている。本は抗夫たちの不穏な動きで現場を逃げる主人公の姿で終わる。その姿は惨めなものと言ってよい。
繰り返すが これは一つの戦争であり、なくなった300余名も戦死であったとしか言いようが無い。そんなやりきれなさが 最後のシーンの行間から立ち昇る。実話であるという事実が 読むものを打ちのめすのだ。
紙の本
「黒四」以前に
2005/10/23 22:44
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:森とく子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
黒部第四発電所ダムの工事については小説や映画でも既におなじみ、ここ数年はNHK「プロジェクトX」でもとりあげられふたたび光があてられています。この作品でとりあげているのは「黒四」以前、黒部第三発電所の工事です。ダイナマイトの自然発火に脅えながら高熱の岩盤を掘削し、宿舎は一夜にして雪崩れで吹き飛ばされる。しかも人権などという概念も一般的でなかった戦前の話です。黒部の厳しい自然との闘いは熾烈を極めました。現在は雄大な自然を楽しむ登山客や観光客が訪れるこの地で、「黒四」以前にもこのような難工事をが行われていたことを少しでも多くの方に知っていただきたくなりました。
電子書籍
熱い史劇
2018/11/08 21:32
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
この作者は冷徹なある意味突き放したような書き方をした本が多い。しかしこの本は題名が「高熱隧道」だからと言うわけではないだろうが、事実の重みに胸が熱くなってくる。
しかし手放しでの開通万歳ハッピーエンドではなく、最後に技師への反抗(?)を記述した点がこの本に重みを付けている。
電子書籍
人柱の歴史
2017/07/29 18:12
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:プロビデンス - この投稿者のレビュー一覧を見る
登場人物こそ変えてあれど、これはフィクションだと思うと、そら恐ろしいものがある。酒井順子さんの「来ちゃった」から黒部峡谷に興味を持ち、黒部関連の本に飛んできたが、読んでびっくり。事故と災害の大連続であった。
紙の本
想像を絶する暑さが伝わってくる
2019/06/02 00:54
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ニック - この投稿者のレビュー一覧を見る
小説家として初のヒット作といえる「戦艦武蔵」の直後に書かれた初期の記録文学作品。多数の犠牲者を出しながらもトンネル貫通を目指し掘り進める男たちの壮絶なドラマを描く。想像を絶するような作業現場の暑さがさまざまなエピソードによって伝わってくる。
紙の本
地獄変
2003/08/21 22:25
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:野猿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この世の地獄です。灼熱の黒部第三発電所建設のトンネル工事現場。50度を超える、ダイナマイトが自然発火さえする坑道で、水をかぶって暑さにあえぐ工夫たち。それを心を鬼にして叱咤する技師たち。温泉脈の高熱と、泡雪崩の恐怖に、人間離れした辛抱で耐える工夫たちが、私の心を胸を貫く。選ばれた者と、それに付き従う者たちとの立場の違いに悲しみのまなざしを、著者は向けながらも、残酷なまでにリアルに描き切る。自然の脅威、それに抗することによって建設現場に宿る殺気。凄まじいエンディングには、背筋を切られるような怯えが、読む者の心臓に走る。