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誰にでもある運命の線
2022/10/21 06:52
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
吉村昭さんの『仮釈放』は1988年4月に
新潮社の「純文学書下ろし特別作品」の一冊として刊行された。
タイトル通り、
物語は浮気をした妻とその相手の男を殺傷し、さらに男の母親を焼殺して無期刑を判決を受けた菊谷という男が
16年後に「仮釈放」されるところから始まる。
無期刑であっても「仮釈放」という制度が適用されることをこの物語で初めて知った。
けれど、無期の場合、終身で「保護観察」を受けないといけないらしい。
つまり、月に最低2度は保護司の面接をうけ、転居や旅行をする時も保護司の諒解を得るといったことだ。
16年ぶりに刑務所を出た菊谷は50歳になっていた。
すっかり変貌をとげた街の風景や物価の高騰に戸惑う菊谷の姿を
吉村さんはまるでドキュメンタリー映画のレンズから見ているように克明に描いていく。
菊谷は武林という75歳の温厚な保護司のもと、鶏卵場という仕事場を得て、
徐々に日常生活を取り戻していく。
しかし、彼は罪の悔悟という点では深層では決して自分を裏切った妻も相手の男も許していない。
そんな自分を表に出すことなく、菊谷の生活は続いていくが、
保護司たちはその姿を見て菊谷に新しい伴侶を引き合わせることになる。
一見どこにでもいる夫婦でありながら、菊谷の心には漆黒がある。
恩赦を願う妻に対して、菊谷は冷たく突き放す。
それは、菊谷にあらたな罪を行わせてしまうことになるのだった。
もし妻が男を裏切らなかったら、
「仮釈放」してきた男に改悛を強要しなかったら、
あるいは男は罪を犯さなかったかもしれない。
そのきわどい一線を、吉村さんは描いたといえる。
その線はもしかしたら誰にでもある、あまりにも細い運命という線だ。
素晴らしいです
2025/03/31 16:25
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投稿者:a - この投稿者のレビュー一覧を見る
浮気をした妻と相手の男の母を殺した罪で、無期懲役になった元教師が、仮釈放になります。刑務所に入る前と入った後で全く変わってしまった社会や物価の変化に戸惑い、犯罪者であることを他人に知られるのを恐れながら生きていく、凄い小説です。
罪と罰
2024/05/09 14:27
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投稿者:バベル - この投稿者のレビュー一覧を見る
仮釈放と言う題名からして、事件や時間に至った経緯が作品の主たるところだと思って読み始めたが、仮釈放の生活がこの様なことであると初めて知り、とても夢中になれる作品でした。
救いの欲しくなるストーリー展開
2012/06/25 21:58
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
吉村昭が描くドキュメンタリー・タッチの小説である。吉村作品にはよく登場する刑務所が絡んだストーリーである。受刑者の収監期限が一定期間を過ぎ、かつ生活ぶりの評価が高いと、仮釈放となる。一般にはあまり関心をもたれないことかも知れない。
しかし、本書を読んでいると外に出られて万々歳かとおもいきや、自由を与えられる代償はそれほど小さくはないことが本書を読めばよくわかる。牢獄の中は秩序が保たれ、不安定な要素はない。つまり、保護されたエリアである。その環境に慣れてしまうと、外の世界は弱肉強食が原則である。何もしないでいると、食っていけない。
さらに、受刑者を見る世間の目は冷たい。食べていくためには労働をしなければならないが、雇ってくれるところが少ない。主人公の仮釈放になった受刑者も関係者の配慮で勤めにつくことができた。生活が安定してきたところで、また人生の岐路に立たされる。これも関係者の配慮である。
冷たい社会に放り出された主人公は、これらの関係者に頼るしかない。この主人公は何の罪で受刑者となったのであろうか。これがこの物語のキーポイントとなる。主人公の受けた判決は無期懲役という相当に思い刑である。それが仮釈放となるには、相当な忍耐と日頃の生活態度の改善がなければならない。
ところが、この主人公は自分が犯した罪に対する後悔はない。そこにクライマックスで生じた出来事が重なり合っているような気がするのである。ストーリーとしてはなかなか救いのない展開である。
一旦踏み外すとなかなか元に戻ることが難しいのが人生である。元に戻ることもないではないかと多寡を括っていると、文字通り生きていけなくなる。それがこの世界の厳しさである。それを吉村は受刑者の仮釈放を通じて描きたかったのかもしれない。
主人公がたどった結末があまりにも厳しいので、何かの救いが欲しくなるようなストーリーであった。