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紙の本
読者を楽しませる工夫が随所に
2007/05/23 08:27
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
窃盗犯の中でも忍び込みと呼ばれる盗犯を専門とする主人公。忍び込みとは家人が就寝中に在宅であっても住宅に侵入して、金品を窃取するという罪種である。本書はこの人物を主人公とする6編の連作小説である。
これまで横山秀夫の小説を読んできたが、横山は様々な工夫と一般には知られていない警察内部の有様を小説として描いてきたという認識がある。その切り口と情報の新鮮さで読者の注目を浴びたわけである。本書でも知られていない情報や新鮮さという点では現役の盗犯を主人公にするところにそれらしさが出ているのかも知れない。
単に忍び込んで金品を盗むだけでなく、スパイ大作戦さながらに、金品以外の証明書などの重要書類を盗んだり、子供のクリスマス・プレゼントを気付かれずに置いてきたり、希少な話題には事欠かないし、主人公は単なる盗犯ではなく、そのテクニックを生かした仕事をやってのける。大変面白く読めた。
私は暴力沙汰を描写したり、暴力団の内部を描いたりすることにはまったく興味がない。その点で趣味に合わないところが多かったのも本書の特徴だといえる。特徴と言えば、主人公はつねに単独犯ではあるが、母親が無理心中を図って死んだ双子の弟が常に傍らにいて、主人公に語りかける。時にはアドバイスだったり、ときにはけしかけたりと様々で、一心同体なのである。
行動をとる以前、以後に弟と語り合って、行動について評論、評価している。一見リアルに見えるこの物語なのだが、こういうところでは突然読み手の調子が乱れてしまう。誰と話をしているのかが理解できないのだ。違和感がある。
趣味に合わなくとも、違和感があっても、小説としての独創性と工夫には敬意を表したい。読者の意識を考えて、退屈しないような工夫を随所に施している。材料の新鮮さも大事なのだが、その料理の仕方も丁寧で読者に伝わってくるようだ。タイトルの付け方、構成、盛り上げ方にそれがよく出ていると思う。
そういう目で次回以降の作品を多角的に眺めてみるのも一興で、この種の作品を書ける作家も現実にはそう多くはないのである。
電子書籍
脳裏に焼き付く
2020/09/18 14:48
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
正統派の推理小説と思いきや、死んだ双子の片割れと会話をする場面はサイコスリラーです。悪女の稲村葉子と聖女の安西久子との、コントラストにも魅せられました。
電子書籍
クライムミステリーにしてはファンタジーな設定
2020/09/02 01:07
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投稿者:美佳子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ノビ師」と呼ばれる種類の泥棒が主人公というのも変わってますが、さらに死んだ双子の弟を中耳に住まわせ(?)語り合ったり語り合わなかったりするという設定もファンタジーっぽく、クライム・ミステリーとしては奇妙な感じがします。
本書は大きなミステリーが1冊全体で解かれていくのではなく、時系列に並んだ章ごとに小さなミステリーがあり、主人公がそれらを裏社会特有の解決法で対処していく一方、双子の弟との関係、二人で競い合ったこともある女性・久子との関係が少しずつ進展していきます。
とはいえ、クライムの方にフォーカスがあるので、その後久子さんと腰を落ち着けるために泥棒稼業から足を洗うのかどうかまでは書かれていません。
30半ば。もともとは頭脳明晰で司法試験も受けようかという優秀な人だったので、弟と両親の死によって道が逸れてしまったとはいえ、やり直そうとすればできないことはないのに、あえて将来のことを考えないようにしているところが切ないですね。
電子書籍
なかなか面白い本だった
2019/11/23 15:49
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ニッシー99 - この投稿者のレビュー一覧を見る
山崎まさよしさんが、「八月のクリスマス」以来に映画の主役をやるというので購入しました。読み始めると、次が気になりあっという間に読み終えてしまいました。久々に出会った良い小説でした。
紙の本
異色の主人公
2017/10/28 18:43
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
忍び込みを専門にしたコソ泥にスポットライトを当てているところが良かったです。双子の弟への思いには胸が痛みました。
紙の本
推理小説というよりハードボイルド
2015/06/08 19:52
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投稿者:papanpa - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ノビカベ」のあだ名をもつ、忍び込み専門の泥棒のハードボイルドな小説。
中耳に宿っている死んだ弟との会話、愛した女、死んだ家族。
成績優秀で検事まで目指した彼が、なぜコソ泥をやっているのか。
そう、すべては「影踏み」なのです。非常に面白かったです。
でもhontoさん,推理小説ではないと思いますが・・・?
個人的感想
最後の弟の「告白」を主人公が本当は知っていた,もしくは最後に気がついたという話であれば,「影踏み」として完璧だったのでは?では,どう書けば良かったかと聞かれたら,難しいのですが。