魑魅魍魎に妖怪跋扈の日本画壇。
2007/12/25 18:10
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
読み終わって、思わず「日本芸術院」を検索してしまう。
確かに存在している。組織も役割も、物語中に出てくるものと同一だ。
としたらこの物語に描かれる実態というのは、本当なんだろうか・・・。
日本画や洋画、彫塑に書。その他あらゆる芸術の頂点に君臨するのが、
日本芸術院である。その会員は、もちろん日本芸術界の最高位に君臨し、
あらゆる意味で、怖いもの無しの存在となる。
だけに、誰もがいつかはと目指すのが芸術院会員。しかし会員は定数で、
あまりに少ない。日本画、ではたったの13席である。
しかも、任期が無い。会員が「辞めた」と言う(基本的にこれは無い)か、
亡くなってしまわないと、チャンスが廻ってこないのだ。
だけに、会員に穴が空いた千載一遇のチャンスには、
虎視眈々と会員入りを狙っていた者達が、
当選する為あらゆる手段を講じる。
コネもカネも、あらゆるものを使う。・・・というか、金なのだ。
選挙に勝つには、会員になるには、金。
どれだけ金を撒くかで、その当否が決まる世界なのである。
そう全くもって、そのまま贈収賄事件である。
これが現存する日本芸術院の内情なのだとしたら、
これはちょっとした問題作?なんではなかろうか。
「疫病神」「国境」他、あまりに濃い名作を世に送り出した黒川氏。
この作品も、比類無き筆致で芸術世界の裏を描き上げている。
もちろんただの暴露本的な事だけではなく、
それでも芸術にひたむきに取り組む若い力を描き、
魑魅魍魎達とのコントラストが面白い。さらには政治家や画廊と言った、
「金」の匂いにつられて芸術院会員にまとわりつく者達。
本作は芸術院会員選挙を背景に、そんなマネーゲーム的な側面も見せ、
驚きの結末へと向かっていくのだ。
しかし恐ろしい作品である。目からウロコというか、
自分の常識が少し変えられた瞬間を感じさせられた。
読めば読むほど、「濃い」作品だなと感じる。
知識と引き出しが、どんどん増えていく感じさえした。
じっくり腰を据えて、もう一度相対したい作品である。
日本画壇という小さな世界
2021/08/01 21:54
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:qima - この投稿者のレビュー一覧を見る
理想だけではやっていけなくて、どんな世界もコネとかお金とか、お金とか。まあ、大人はみんなわかっていますけど、それにしてもすごい。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:hid - この投稿者のレビュー一覧を見る
本当にこんな感じなんだろうな。
読んでて嫌になる。
ってことは、それだけ黒川さんの書き方が上手ってことなんだけど。
ほんと、コワイ。
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芸術院会員の座を狙うふたりの日本画家。
選挙の投票権を持つ現会員への猛烈な接待攻勢。
はたして勝つのはどちらか・・・
魑魅魍魎が闊歩する芸術界の深部を暴く問題作。
展覧会で入賞するのもコネと金
ひとつ段階をあがるたびにコネと金
芸術院会員になるためには1億からの資金・・・
これ、すごいリアルなんだけど、現実もこんなのかなあ
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面白かった。出張の帰り道と家に帰ってきてから読む。飛行機で寝られなかった。ラストは予想できたがいつもながらひどい奴しか出てこない。芸術院会員から訴えられるようなひどい話。しかしボーっと口をあけて待っているだけでは地位も名誉も転がり込んでこないのはその通り。
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黒川さんの本はどれも最高で甲乙つけがたいが、
中でもこれがベストワン候補の一つ。
画家の先生達が個性的で面白い。
文化勲章などがニュースなどで流れるたびに
この本のことを思い出してニヤけてしまう。
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冒頭───
大阪難波、淀屋デパートに着いたのは十時五分前だった。タクシーを降りて新館に向かう。玄関前には七、八人の女性客が並んでいた。待っているはずの美術部長の姿が見あたらない。
「どうしたんや、伊谷は。おらんやないか」
腕の時計に眼をやって、いらだたしげに室生がいう。
「おかしいですね。十分前には新館の前にいるというたんですけど」
大村は室生のそばを離れた。小走りで『虹の街』のほうへ行く。カフェテリアの向かいにもう一カ所、淀屋の入り口があったが、そこにも伊谷はいなかった。
黒川博行の作品は特徴がいくつかある。
一、 常に関西が舞台である
二、 主人公と連れ添う相方が存在し、二人を中心に話が展開する
三、 相方との関西弁での会話が絶妙、或いは相方への秘めた心理描写が面白い
四、 可愛い女性が良いキャラを演じている
私がこれまで読んだ作品は全てこれに当てはまった。
この四つが絡まり合って、とにかく読んでいて楽しい。
この作品は美術界の内幕、芸術院会員になるための派閥争いや贈収賄などの裏抗争を描いている。
といっても、これがそのまま現実のことではないだろうが。
でも、清廉潔白に見える芸術分野が、権威や権力を勝ち取るために、裏では金や生臭い争いにまみれているという、いかにもありそうな話になっている。
ここまで過激ではないかもしれないが、これに近い状況がないとは言えないのだろう。
私の知りあい(というにはおこがましいが、年齢がかなり上の方なので)が、天下の東京G大の学長に就任したとき、派閥の戦いがあったという噂を耳にした。
この話のように実弾までは飛び交ってないだろうが。
それでも、この作品内での魑魅魍魎が跋扈するどろどろした抗争は、政治家なども絡まって妙に現実感がある。
最後の落ちも、ある程度予想されたこととはいえ、見事だ。
黒川博行の筆の達者さと言うべきか。
ラストの大村の呟き、
「おれは絵描きやな」
「おれは絵描きやろ」
「絵描きは絵を描かんとあかん」
という台詞は、絵描きは名誉や権力を得るための政治屋ではなく、純粋に絵を描くことにのみ研鑽すべきだという警鐘なのだろう。
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面白かった。先が読みたくて一気に読んだ。
日本芸術院。日本画家。
芸術の世界はこんな感じなのか。
…にしても、黒川博行氏の作品はどれもおもしろい。今一番好きな作家だ!2017.01.15
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日本画の勉強にもなるかと思い読み始めた。
が、どろどろとした汚い世界の連続。
伏魔殿をあえて書くにはなんらかの理由があるのだろが、なんだか事実のように思えてきてやるせなくなる。
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芸術院会員選挙をめぐる日本画壇の話。
芸術院会員になることは、最高の権力と名誉を手にすることであり、次は文化功労者、文化勲章に繋がっていく。
芸術院会員は、欠員が生じると現会員の選挙によって決ま。そこでは莫大な金が動くという。
芸術院会員を座を切望する日本画家の室生は、選挙参謀に老舗の画商をつけて、億の金を使い、あらゆる手段を講じて選挙戦に挑む。
画商、百貨店の美術部長、政治家などが絡み合い、選挙はヒートアップしていく。
面白かった!!
なりふり構わぬ室生の姿がいじましく、勝ってほしいと思いながら読んだ。
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内容紹介
芸術院の会員の座を狙う日本画家の室生は、選挙の投票権を持つ現会員らに対し、露骨な接待攻勢に出る。いっぽう、ライバルの稲山は、周囲の期待に応えるために不本意ながら選挙戦に身を投じる。会員の座を射止めるのは果たしてどちらなのか。金と名誉にまみれ、派閥抗争の巣と化した“伏魔殿”日本画壇の清と濁を描き、その現実の姿に迫った問題作。
内容(「BOOK」データベースより)
次期補充選挙で芸術院会員の座を狙う日本画家の室生晃人は、対抗馬の稲山健児とともに、現会員らへの接待攻勢に打って出る。師のために奔走する中堅画家や、振り回される家族たち…。絵に魅入られ、美の世界に足を踏み入れながら、名誉のためには手段を選ばない派閥抗争の巣と化した伏魔殿―。美術界の清と濁、画壇の現実に迫った問題作。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
黒川博行
1949年、愛媛県生まれ。京都市立芸術大学卒業後、高校で美術を教え、86年、『キャッツアイころがった』で第四回サントリーミステリー大賞を受賞し、作家活動に入る。96年、『カウント・プラン』で第四十九回日本推理作家協会賞受賞。大阪を主舞台にした軽妙な語り口の中に、産廃問題や北朝鮮関連などの社会的テーマを取り込んだ独自の小説世界を持つ(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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内容(「BOOK」データベースより)
芸術院会員の座を狙う日本画家の室生は、選挙の投票権を持つ現会員らに対し、露骨な接待攻勢に出る。一方ライバルの稲山は、周囲の期待に応えるために不本意ながら選挙戦に身を投じる。会員の座を射止めるのは果たしてどちらか。金と名誉にまみれ、派閥抗争の巣と化した“伏魔殿”、日本画壇の暗部を描く。
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登場人物多すぎ!
・・・って読み始めてまず思ったこの作品の感想だが、
読み進めていくと複雑に絡み合うこの登場人物たちが面白い。
出世欲に駆られた主人公、その腰巾着の画家、実弾(現金)を受け取って一票を投じる芸術家etc・・・
どいつもこいつもクズばっか。
画家なら絵描いてろよ!って言いたくなる。
バイオレンスばかりだけでなく、自分が知らないような美術界の裏事情も作品にできる黒川氏に改めて敬服。
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日本最大の総合美術展「邦展」(もちろん、モデルは日展)と日本芸術院会員選挙をめぐる収賄、不正審査などを描いて、日展の暗部を世に知らしめた小説。連載は 2003年、単行本は 2004年、そして日展に出品する人ならば誰もが知るこの慣行を、鬼の首でも取ったように朝日新聞が「スクープ」するのが 2013年。小説には、暗部を描く力はあっても、世の中を変えるにはジャーナリズムの力が必要ということか。もっとも、疫病神シリーズなどと比べると筆の勢いも今一で、小説としてだけ読むと、たいして面白い作品でもない。
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日展での不正がスクープされたのが2013年。本書はそれ以前の作だが、以前から常識だったものだそうなので、そういうことなのだろう。
芸術院会員選挙への老画家たちの選挙戦と、その周辺の画家や画廊、政治家の混迷。
登場人物が無駄に多い割に役割がそう重要な訳でもないので、面白くない訳ではないが半端な印象。
室生個人の人生にするか、全員を重厚に描くかして欲しかったかな。
同主題で別の小説やノンフィクションなどないだろうか?
https://www.j-cast.com/2013/10/30187698.html?p=all