無駄のない文章はやはり名文。翻訳の違いで読みやすさの違いを体験した一冊。
2009/01/23 16:49
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
同時代のキケロからして「名文」と称讃した、カエサルが自分自身のガリアでの戦いを記録した文章「ガリア戦記」。世界史好き(ローマ好き?)ならば一度は読んでおきたいと思うのが本書ではないだろうか。
数年前に別の文庫版で読んだときは、「素晴らしい文章」といわれる割には読みづらくてよくわからず、途中で断念してしまった。最近塩野七生さんの「ローマ人の物語」を読み、今度は別の翻訳で、と本書を手にとって見たのだが、本書の翻訳文は(少々後述するような点は気になるものの)テンポも良く、全体を面白く読み通すことができた。翻訳が違うとこんなに読みやすさが違うものか、と実感した一冊でもあった。
「知らせが届くと、彼はただちに都を旅立ち、できるだけ道中を急いで、わが属州に向かい、ついでゲナヴァに到着する」。この一文は、カエサルが最初にガリアに赴く場面である。三人称を用いた簡潔な文章は、淡々としていてスピード感がある。戦闘部分などは躍動感すら感じさせ、あっという間に読み通してしまった。5巻44のエピソードなどは、日本の軍記物の先陣争いにも似ていて読ませるところである。
戦いの「記録」という性質のためか、橋や防塁の高さや長さ、築く手順までも詳細に書かれている。これも、城郭などが好きな人にはたまらなく面白いところかもしれない。ローマ人にはまだ馴染みの少なかったガリア人やゲルマン人の性格や習慣の記述も興味深かった。イギリスまで渡った時の苦労も記されているが、あの時代によくもあそこまで行ったもの、と感心してしまう。
巻末の専門語説明がついているのは理解の助けになった。遠征の地図は、日本語表記になってはいるのだが、何しろ9年もかかった遠征である。何回も同じようなところを通るので一枚の地図に重ねて書かれた軌跡はわかりやすいとは言いづらい。各巻の中にでも、それぞれの年の分を取り出して挿入していただければよかったのに、と惜しまれる。
翻訳は、先にも書いたがわかりやすい。ただ、少々くだけすぎか?と思うようなところ(「対談をぶっつぶす」とか「ぎょうさんな褒美」とか)がある一方、漢語や馴染みの少ない言葉(「・・とあいまって」「是認した」など)が混在してなんとなく違和感が残るところもある。しかし全体を読み通すことができ、面白さが伝わってくるには充分よいものだったと思う。一文を短く区切った翻訳は、簡潔性、スピード感を上手く引き出している。私のように他の翻訳で挫折した人にはこの翻訳でもう一度読んで見ることをお勧めしたい。
講談社学術文庫には、同じ翻訳者による「内乱記」(こちらはガリア遠征に続く、ポンペイユスとの戦い、いわゆる「ルビコン川を渡る」ことから始まる戦いの記録である)も出版されている。「ガリア戦記」を楽しめたかたには、「内乱記」もまた期待を裏切らない作品であると思う。
翻訳者としては本書と「内乱記」とで一対、との見解であろうか、翻訳者の「あとがき」は本書にはなく、「内乱記」のみに掲載されている(解説はどちらにもある)ことを書き添えておく。
(僭越ながら、この書評も「内乱記」のものと併せてお読みいただければありがたい。)
塩野七生さんの片思い
2006/09/28 07:01
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くにたち蟄居日記 - この投稿者のレビュー一覧を見る
カエサルはローマ帝国の設計者であることは 塩野七生さんの本で教えて貰った。因みに 塩野さんは もうカエサルに 時空を超えて 恋をしていらっしゃるので 彼女の本だけで 判断していはいけないと思い いきなりカエサル自身の著作を読んでみた。
小林秀雄が絶賛し 若しノーベル文学賞が当時あったら入賞間違い無しと言われた本である。僕もすぐひき込まれた。
なんといっても簡潔で骨太な文体が素晴らしい。飾りが無く 事実を淡々と記しているだけだが それこそカエサルの筋肉が目の前で動いているのが見える様子である。本当にあっという間に読んでしまう。
塩野さんにして 惚れてしまうのは分かる気がした。
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投稿者:ねったいぎょ - この投稿者のレビュー一覧を見る
カエサルといえば、古代ローマの政治家であり武将ですが、その人が書いた本が存在していて今も読めるというのが奇跡のように思います。ガリア戦役と呼ばれる戦争があり、実際に戦闘の指揮をとったカエサルが書いた本だと思うと、読んでいてぞくぞくしますね。
古代に書かれた本とは思えないほど読みやすいです。文章力も素晴らしく、カエサルの作家としての能力も堪能できる一冊です。
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二千年以上前に書かれたのに充分面白いです。先にカエサルがらみの本を読んでおいて、固有名詞に馴染んでおくとわかりやすいかも。
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人物名や部族名を覚えるのが大変でしたが、2000年以上前の天才的政治家・武将が実際に書いた迫真の記録を読めた、というのは貴重な体験だったと感じました。全体的に文の訳し方(日本語への訳し方)は塩野さんの文章よりも自然な感じがしましたが(兵士への演説とか)、カエサルが兵卒達を「お前ら」と呼んだり、兵卒達が「わしら」と言ってるのには違和感がありました。ちょっとおっさんくさいってば(笑)。
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2000年経とうが全く色褪せることない、普遍的おもしろさ。人間の本質がある。良い文章は、何回読んでもおもしろい。5回は読んだな。人生の曲がり角で、これからも読み続けよう。
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ようやっと読んだ。んー、これまでなじみの薄いタイプのカタカナ名前が多いのがつらい。でも文章の躍動感はすさまじいものがある。塩野でなくてもカエサルに惚れる気持ちはわかる。ハゲの女ったらしだけど。これは時間をおいて再読、かな。
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塩野七生の『ローマ人の物語』のカエサルについての内容を読んで、
気になった本。
カエサルが7,8年に及ぶガリア遠征について、
1年毎にまとめて記述したもの。
自分の行動について書くときに一人称ではなく「カエサルは...」と客観的に記述してるのがちょっと面白い。
「簡潔にして流麗」というのがカエサルの文体の評価らしいですが、
結構回りくどい言い方もしてるような気がするんですが。
訳が悪いのか、いや読解力が足らないのか。
その内また読んでみようと思います。
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カエサルは、ローマ史に燦然と輝く名将の一人であるばかりか、ローマの将来を見通す慧眼の持ち主でもあり、さらにはローマ最大の弁護士とも称されるキケロにも並ぶ雄弁家であり、その上タキトゥスにも劣らぬ希代の名文家である。また、女性関係ではゴシップに事欠かない軟派男であり、借金王でもあった。そんな破天荒な天才の著作の中でも最も重要なのが、本書「ガリア戦記」である。ガリア戦記にはいくつかの邦訳があるが、おそらく一番読みやすいのは、近年出版された講談社学術文庫版であろう。それでも、訳文につきものの堅苦しさとぎこちなさはいかんともしがたいが、カエサルの明晰な思考と、そこはかとないユーモアのセンスを感じるには十分である。惜しむらくは、本書の記述を解するためには、古代ローマに関する前提知識がかなり必要とされる点である。カエサルは、あくまで古代ローマの同時代人に向けて本書を著したのだろうから贅沢は言えないが、もうちょっと配慮があるとよかったのになぁと思ってしまう。とはいえ、歴史的名著であることには変わりない。
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カエサル自身の文才(?)によるものなのだろうか、どんどん先へ先へと読み進めたくなるような文章だった(第七巻までは)。もっともラテン語原文を読んでいるわけではないので実際どうなのかはわからないが、少なくとも訳者の国原氏の力があってこそのものでもあろう。
共和政期ローマ時代のガリア(現在のフランス・ドイツ周辺)を舞台にしたカエサルの戦功日誌的なもの。そのためか当時の戦争がどのようであったのかが垣間見られる。
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最高にすばらしい。
今から2000以上前の天才指導者ユリウス・カエサルの書いた行軍記である。
あくまで簡潔に、わかりやすく書かれている。
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まるでエイジ オブ エンパイアを観ているかのよう。簡潔で客観的な描写は読みやすい。大八巻だけは別の作者が書いたものでカエサルの文章よりも劣る。巻末の専門用語略解に絵があるので戦闘の様子が想像しやすかった。ガリア人がケルト人のローマ読みだったのを初めて知った。ガリア人とローマ(カエサル)はアケメネス朝とイオニア人に、ブリテン島のガリア人やゲルマン人はアケメネス朝とアテネ、スパルタの関係に似ている。イオニア人よりも文明度が低い分、アグレッシブだったのだろう。
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あとがき解説の部分にあった言葉で「歴史は詩に非常に近く、ある意味においては、散文詩であった。」という考え方が割としっかり当てはまった。
そもそもの原本が「覚え書き」であって、その個人の人物が公表を意図しないが自分の目的を文章にして残しておくことが目的だった、つまりメモ的なものであったらしい。もちろん後々に出版されるにあたっての事を考えられてはいるが、基本的には個人の見解を簡潔に書きつられたものだと、要するに文章としての精度がいいのでそのまま評価されて歴史の重要な資料になるほどのものになったということだろうか。
そもそもこの人物が現代で言うところの天才に近いポジションに位置していて戦略やら文章やらが学問が他の人より圧倒していたというのがうかがい知れる、自分(カエサルの文)で書かれているのにもかかわらず味方の情勢とそこにカエサル自身の援軍に行くまでの戦地の描写が出来てる辺りは視点が一歩上になっているんだろうなという。この辺が資料になりうる条件なんだろう、しかしこう考えると一人の人物の過去を振り返るメモにどこまで歴史的な公平性を求めるかなんて無茶なことだろうとも思う、なにかしらの主観性や人間的な憂慮が働いているのはあたりまえだろう、とまあこう考えてしまうのは自分がこういう物にあまりに客観性を求めすぎていたっていうこともあるかもしれない。
古代ローマ史には疎いがこの中でのメインを占めているのがガリア平定を目的とした周辺地域との争いをどんな部族がいて性格や習慣、ローマにおける権力図が見えてくる。おおよそフランス・オランダ・ドイツ・イギリスの辺りをめぐってローマ軍が周辺部族をカエサル指揮のもとに制圧したり、反乱を鎮めていく話。この時代だからこそなのか、今でもそうなのか、冬の季節を主とした食糧事情と偽の情報をうまくあしらっていくのがこの記述の読み応えのあるところなんじゃないだろうか。
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完訳本には珍しく、図説が充実。(どういう印象持ってるんだ)
注や専門用語の解説もあってとてもわかりやすい。
何より戦記普通に面白い。
内容を鵜呑みにするわけにはいきませんが。
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確かに名文なのだろう。カエサルが一気に書き上げたと言うけれど、なるほどそのときの情景が浮かんでくる様である。