600分の1に過ぎない
2025/01/03 09:35
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投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
99万年の歳月をかけて狩猟採集社会に適応してきた我々ホモサピエンスの体質が、1万年前からの農業革命、250年前からの産業革命にうまく適合できないのは当然すぎることである。最終章でその点になんとか折り合いをつけようと何種類かの提案がなされている。提案そのものは妥当である意味平凡なものであるが、そこへ至るまでの膨大な考察の積み重ねがあるので随分と説得力がある。
ミスマッチ病は進化の代償か?
2016/02/18 17:10
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投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
人体は環境の変化でこの形になり、自ら環境にも影響してさらにまたその形を変えていく。本書はヒトの体の歴史を環境との関係から考察し、まとめたものである。
邦訳の上巻部分は霊長類からヒトへの進化から農耕文化の頃まで。段階を追って環境と人体構造の変化が起きたことを丁寧に説明する、事実の列挙的な感が多い。下巻になり産業革命などの影響を語る部分から、次第に著者の主張したいことが明確になってくる。
ミスマッチ病という言葉がキーワードになってくるのだが、自分なりに要約すると現代的な病気は人間が環境に適応していく変化の速さよりも環境を変化させる速さの方が速く、そのために起きたものだということだろう。わかっていても甘いものがやめられないとか、具体的な身近な話題に近づけて説明されているのでわかりやすい。しかし問題は大変複雑だということがわかってくる。
身体の変化速度が追い付かないほど環境を変化させている現代の私たち。便利になることのジレンマというのだろうか。本書は悩ましいが重要なポイントを理解させてくれるものだった。
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下巻では農耕とはどのような生活かを人体に与えた影響から解説し、ミスマッチ病の説明をしている。
一例として、人体は一日に数キロ移動することに適応しているから動かないことによる病が存在する、というような指摘を著者はしている。面白いのは、だからエレベーターなどの動かなくてすむような機械を使わないようにすべきだ、という提案を行わないことにある。
著者の提案は万全だと思えないが、人がどのような存在かを理解する際にはよい内容だと思う。
現代が病気への対処は行うが予防には全然お金をかけていないという指摘があったのは嬉しかった。
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適度な運動、バランスの良い食事のなぜが腹落ちする良書。最近、ジャンクフードは全く食べないが、よりよく子供にも説明できるようになりそう。
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上下巻からなるこの本、下巻は「ミスマッチ病」についての記述が続く。
原因を克服することなく症状に対処することは、その弊害が自然選択のふるいにさらされることがなく次世代に引き継がれるため、著者が「ディスエボルーション」と呼ぶ有害なフィードバックループを生む。その進化と環境のミスマッチの結果が「ミスマッチ病」と呼ぶ一群の疾患ということになる。ミスマッチ病について理解することは重要だ。なぜなら、われわれは「十中八九ミスマッチ病で死ぬ」のである。本書では、心臓病やがんだけでなく、自閉症やADHD(多動性障害)、骨粗鬆症、アレルギー疾患、埋伏歯、アルツハイマー病もミスマッチ病に分類される。
まずは農業の導入がミスマッチ病の大きな原因のひとつとなったとされる。「農業経済に移行した当初、人々はその切り替えからなにがしかの恩恵を受けたが、以降、この新しい生活様式は多くのミスマッチ病や、その他さまざまな問題を生み出した」とされる。もちろん、農業社会に移行した方が繁殖という観点では都合がよかったからに他ならないのだが、人類が進化的に適応するには時間が短かった。
さらに輪をかけて問題となるのが産業革命だ。生活の工業化と都市化。産業革命は、進化的な時間尺度でいうと、「瞬きするあいだに全世界の様相を変えてしまった」ために、多くのミスマッチ病が発生することとなった。実際に当初多くの人を惹きつけた都市での生活における人々の死亡率は田舎よりも高かったと言われている。
食事についても工業製品化された食品は十分なカロリーを供給することにはたけているが、過剰摂取やビタミン・ミネラル・繊維質の不足が目立つようになる。さらに慢性的な睡眠不足が肥満を輪をかけて促進する。2型糖尿病はディスエボリューションの典型的な例だ。
「進化の光を当てなければ生物学には何の意味もない」
一方、人類は文化を通じても進化できるようになった。「文化的な革新がこうしたミスマッチ病の多くを引き起こしてきたように、別の文化的革新がこれらを予防するのに役立ってくれる。それを実行するには科学と教育と、賢明な集合的行動のすべてが必要となる」
それにしても無理に長かったなという印象。
『人体600万年史(上):科学が明かす進化・健康・疾病』のレビュー
http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4152095652
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ようやく読了。いや、読みごたえがありました。現代の病気、体の不具合はなるべくしてなった、ともいえるし、防ごうと思えば防げるんですな。
とうわけで今はただやわらかい内容の本が読みたい(^^;
以下、興味を引いた個所
「たいていの場合、動物が人間に依存するようになると同時に、人間もその動物に依存するようになった」
「ドーナツで換算すれば、受付係がその仕事で一日当たりに消費するエネルギー量は、砂糖がけドーナツを3個食べればだいたいまかなえるが、炭鉱労働者の場合は15個分のドーナツが必要になる」
「フルーツジュースはしょせん、ジャンクフードなのである」
「霊長類の視点から見れば、人間はみな――痩せている人でさえ――比較的、太っている」
「通常体重の女性が1カ月のあいだに0・5キロでも体重が減れば、彼女の妊娠する能力は、その翌月には大幅に落ちるのだ」
「あなたがいますぐ立ち上がって5キロほど走ってくれば、あなたは約300キロカロリーを燃焼するだろう(正確なところは体重によって変わる)。この余計に消費したカロリーが体重を減らすのに役立つだろうと期待するかもしれないが、無数の研究で明らかになっているところでは、そこそこ激しい運動を定期的に行っても、体重はそこそこしか減らない(だいたいは1、2キロ程度)」
「運動をしていない痩せた男性は、定期的に身体活動をしている肥満の男性より、死亡リスクが2倍も高いことが判明した」
「人間の身体はすべて、必要十分な能力を得るために必要十分な負荷を必要とする」
「私たちは直近における費用と効果を、将来における費用と効果よりも高く見積もる癖がある(行動経済学では双曲割引という)。そのために、長期的な目標に関しては合理的であるようでも、すぐ先のことに関しては、あまり合理的でない欲求や行動や快楽に任せてしまう。結果として、たとえ潜在的に有害なものでも、いまの生活を高める効果のほうが最終的な費用やリスクよりも大きいと判断すれば、私たちはそれを許容したり満喫したりしてしまうのだ」
「潜在的な新しいことを人間が時々やってしまう理由に関しては、もっと深い進化論的な説明もできる(中略)私たちは多くの新しい行動を、じつは潜在的に有害だと思っていないということだ」
「進化の論理からすれば、新しく出てきた行動や環境一面が不健康でも、それが日常となってしまえば、人間はそれに慣れてしまうものなのである」
「私たちはえてして快適さを幸せと勘違いしてしまうのだ」
「最も極端な意見がたいてい最もの関心を集める」
「人間の身体は過去の適者生存によって形成されたが、あなたの身体の未来は、あなたがそれをどう使うかしだいだ」
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本文だけで上下巻合わせて500ページを超える大作だが、著者の言うように、これでもまだ事象の表面をなぞっただけ、もっと深いところまで考察を進めたものを読みたくなる、そんな総論だ。
非常に壮大なテーマを高く掲げ、網羅的かつ論理的に、それでいて平易な言葉で分かりやすく見解を説いているという点では、ジャレド・ダイアモンド氏の「銃・病原菌・鉄」にも匹敵するようなスケールのノンフィクションといってもいいのではないだろうか。
和訳者がいい仕事をしているというのも同じく。
ベアフットランニングやパレオダイエットなどに代表されるように、現代の科学技術や文明の利器による恩恵を受ける前のあるべき人間の姿に戻ろう、という主旨のムーヴメントが近年、特にアメリカを中心に広がりつつあるが、そういった傾向を感覚的にではなく、進化医学や文化的進化といった概念を軸に、カチッと理屈で説明している、とも言える。
本論中のディテールに目を向けてみても、例えばカロリー消費における脳と腸のトレードオフの関係とか、人間が例外的に口呼吸を行う根拠、虫歯のメカニズムなどなど、興味深いトピックスは数多い。
学術論文とは違うので、著者の主観が強く反映されている箇所ももちろんあるが、そういった見方も含めて、読者が現代社会の抱える問題群を有機的に考える際に、有用な示唆を与えてもくれる。
そして考えれば考えるほどに、我々人類はおそらくは最近の数百年のうちに、もはやなかったことにすることは決してできない、致命的な過ちを一度ならず犯してきてしまったのだろう、ということが確信される。
個人的なレヴェルでささやかな抵抗を試みることは可能だが、種族として、慣れきってしまったこの大量生産・大量消費・大量廃棄社会を根底から作り直すことはできない。
ホモ・サピエンスという動物としてナチュラルに生きることよりも、利便性と経済性をとにかく優先して人間は月日を重ねてきた(つまり著者のいうところのディスエボリューション)、ということがここでも自ずと分かってしまうのだ。
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下巻では、「過剰」と「快適」が問題となっている。今では、少なくとも日本やアメリカのような24時間営業の店が、住んでいる地域にある人にとって、手軽に好きな食べ物や飲み物が手に入り、便利だ。しかし、摂取するものによっては過剰摂取になり、脂肪という余分なポイントをため込むことになり、臨界点を超えると様々な病気を抱えることになる。
第13章で、「本当の適者生存」として、いくつかの方法を提案している。
1. 問題解決を自然選択のふるいわけに任せる
2. 生物医学による研究と治療にもっと投資する
3. 教育して力をつけさせる
4. 環境を変え
5. 後ろを向きながら前へ進もう
人体の歴史を踏まえて、どう健康であるかふと考えさせられる本だ。
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表紙を一見して、人体の進化の歴史を上下巻で延々と説明した本、にも見えるが、副題にもある通り、進化の観点から、現代の人類を悩ます病気とその対策について考察した本である。
筆者はハーバード大学の人類進化生物学者という肩書きであるが、人類の進化の歴史に目を向けるのみならず、進化が現代の私達の体をどう作り上げ、それが文化的な発展と相まって、どういった健康上の問題を起こしているのか、そして、それを解決するにはどういった個人的、社会的な取り組みが必要なのか、といったテーマについて研究をしているらしい。(あとがきによると、進化医学というとか。)
現代に存在する病気は全て、体の進化が文化の進化に追いつかないことによる、「ミスマッチ病」であるという指摘は、目から鱗だった。
子供の頃からそこにあると思っていた、各種感染症、糖尿病、がん、心臓病、アレルギーから、近視や扁平足に至るまで、本書の指摘に鑑みれば、旧石器時代以前の人間には、確かに起こりようがなかったのかもしれない。
また、感染症はともかく、非感染性のミスマッチ病については、環境と遺伝子の相互作用が複雑に関連しあっており、原因遺伝子を少数に絞り込むことは実質的に不可能で、症状の緩和はできても、根本的な治療は難しいため、今後、画期的な治療法が見つかる可能性にも本書は懐疑的で、予防が肝要であるらしい。
では、これらのミスマッチ病を予防するにはどうしたらいいのか。
それは、旧石器時代の生活習慣を考察し、なるべくそれを実践することだ。
具体的には、本書で口を酸っぱくして繰り返し述べられているように、食習慣(植物、木の実、植物性の油脂、果実、動物や魚介類をバランスよく摂取し、過度な糖質や脂肪の摂取に留意すること)を見直すことと、定期的にある程度の激しさを持った運動をすること。
これらは、子供の頃から「健康的な習慣」として教えられてきたことである。
しかし、様々な情報が錯綜する現代では、果たしてそれらが正しいのか、そしてなぜ正しいのかを理解するこは困難だ。
また、本書でも述べられているが、経済的な圧力、同調圧力、また、目の前の安楽を優先しがちな人類の進化的な特性も考えると、なかなか実践は難しいのだ。
本書を読むと、これまでの研究の成果から、旧石器時代以前の人々はどういう生活を送っていたのか。
また、その生活習慣に適応した人類が、文化の急激な進化により、どういう不健康な状況に追い込まれているのか。
その結果、どういう病気が生じてきたのか。
そして、それがどういう社会問題につながり、どういう対策をとっていくべきか。
そういったことを一つ一つ、参考文献やデータを引用して丁寧に説明してくれており、巷にあふれる健康本とは一線を画す本だ。(参考文献が上下巻それぞれの20%にも及んでいる。)
恐らく筆者の専門や、現在の研究成果の限界もあるのだろうが、どういった食習慣がいいのかといった考察の部分には曖昧さと歯切れの悪さを感じたが、(例えば、過剰な動物性脂肪の摂取は問題なのか?といった部分。「かも」という表現が多い。)全体を通して非常に重要な内容だと感じた。
最終章で、国家財政を圧迫する巨額の医療費の問題と、本書で書かれている観点での予防に注力することで、それを大幅に圧縮できる点について考察されているが、その実現の困難さはともかく、我々人類にはもう、そこに取り組むしか道は残されていないように思われた。
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農業と産業が人を不幸にしたという第2部、環境が変化するスピードにあわせて人体の仕組みを変えられないことから病を得るのだという第3部。たしかにとは思うが、第一部に比べて平凡という印象。
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人間は(すべての生物がそうであるように)子孫をできるだけ多く残す方向に自然選択を受けてはいるものの、座りっぱなしで画面や文字を凝視する時間が長く、加工食品ばかり口にするような先進国の現代的な生活をしながら健康体でいるように自然選択は受けていない。
近視、歯列の悪さ、婦人科系のトラブル…自分が医者にかかったことのある病気・症状の大半が予防可能なミスマッチ病だったことにがっくり。はっきり言って親の責任がかなりあるので、自分は繰り返さないように日々努力したい。
人間が健康でいられるために自己責任でできることを挙げてみると:
・骨に負荷をかけるような運動を頻繁にすること。特に成長期にそうすることは一生の資産になる。
・加工度のできるだけ低い食品をバランスよく食べること(所謂地中海食。筆者も指摘する通り和食に限らず東洋の料理もよい)。また小さいうちは固いものを意識して噛ませること(著者はガムも推奨)。
・砂糖、砂糖を使った食品は食べない。
・特に子どものうちはできるだけ屋外で過ごす時間を長くすること。また幼少期・成長期に読む本などは、できるだけ目に負担がかからない、多様な色を使ったはっきりした印刷のものを選ぶこと。
・女性だったら出産したらできるだけ長い期間授乳すること。
・いうまでもなくタバコは吸わない、お酒はほどほどに(自分の場合、断酒かもしくは週に1回、1杯のみ)。
・CMは批判的な目で見て、惑わされない。
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2型糖尿病、骨粗鬆症、がん(特に乳がん)、など現代病と呼ばれる病気が生物学的進化と文化的進化のミスマッチから生じていることを説明している。
まず、生物学進化によって人間がいかに効率的に糖を接種できる能力を獲得できたを示し、次に農業革命、産業革命を経て、人間がいかに過剰に糖を接種しやすくなったを示すことで、現代病の原因となる肥満になることが必然であることをわかりやすく説明している。
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後半は人類進化を踏まえた人間の健康に関する内容。
中東では、新石器時代が始まってから身長が4cmほど高くなったが、7500年前から低くなり始めた。中国や日本でも、稲作が発達するにつれて8cm低くなり、メソアメリカでも農業が確立するにつれて5.5~8cm低くなった。感染症との闘い、断続的に起こる食料不足、長時間の農作業にエネルギーを費やしていたためと考えられる。ヨーロッパ人の身長は、1950年頃になって旧石器時代のレベルに戻り、その後上回るようになった。
狩猟採集民の標準的な栄養量は、炭水化物35~40%(日本人の摂取基準50~65%)、脂肪20~35%(同20~30%)、タンパク質15~30%(同15~20%)、食物繊維100g/日(同20g/日以上)、ビタミンC 500㎎/日(同100mg/日)、カルシウム1000~1500㎎/日(同650mg/日)、カリウム7000㎎/日(同2500㎎/日)。
睡眠中はレプチンの値が上がり、グレリンの値が下がり、食欲を抑制する。睡眠不足の状態が続くと、レプチンの値が下がり、グレリンの値が上がるため、栄養が足りていても食欲が旺盛になる。
週25km歩くだけでHDL値をかなり上げ、血中トリグリセリド値をかなり下げる。精力的な身体活動によって、新しい血管の成長を刺激し、血圧を下げることにつながり、心臓の筋肉や動脈壁を強化する。定期的に運動している人は、心臓発作や脳卒中のリスクを半分近くまで減らせる。運動の程度が激しいほどリスクの減り幅が大きい。
飽和脂肪酸は肝臓を刺激してLDLを多く産生し、動脈硬化のリスクを高める。不飽和脂肪酸はHDL値を高め、LDLとトリグリセリド値を下げて、心臓血管疾患のリスクを減らす。トランス脂肪酸は、LDLを増やし、HDLを減らす。