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紙の本
命有るもの
2007/10/26 14:13
15人中、15人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:菊理媛 - この投稿者のレビュー一覧を見る
不覚にも通勤電車の中で涙をこぼしてしまった。
不遜と思われるかもしれないが、日ごろから人が災難に遭う映像より、動物が殺されたり迫害されている映像に心が痛む人間である私としては、人に良いように使われる身でありながら、人の娘である小夜に恋慕の情を持ってしまった野火が愛しくて、哀れでならなかった。
児童書でありながら、この物語に貫かれている精神は、今の世の中で大人が考えるべき真理ではないかと思う。恨みを恨みで洗うような正義は、各々には正義であるかもしれないが、相手にとってはただの横暴であると、せめてその事実だけでも理解できたなら、今の世の不条理もずいぶん沈静されるのではないかと思う。
主に使い魔として操られる霊狐たちが行う殺人は、人と人との争いの産物である。「食べるために殺すねずみをかわいそうとは思わないが・・・」という野火の言葉が生きるための糧としてでない殺戮の無意味さを率直に表していると思った。
命あるものすべて、この世にあるものすべて、それぞれに命を持っている。利権のためでなく、生きるための食物連鎖上のことならともかく、恨みを晴らすための恨み、相手を苦しめるためだけの争いには終着点がない。そんなことのために命を取ったり取られたりすることなど、何の意味も甲斐もないと、読むものに教えてくれる本だと思う。
小夜も野火も小春丸も、果ては玉緒さえも幸せに生きてくれたらよいと願わずにはいられない。残り少ない命と知りながら、呪者としての生き方を選んだ主でさえ、それにふさわしい死に方を経て、穏やかになれたのではないだろうかと思える作品であり、作者の精神の豊かさを表す傑作だと思う。
紙の本
こんな「重い」テーマのお話が、児童対象で終わるはずがない。視覚的にも美しく心に残る作品。
2009/11/02 18:02
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「りょうりょうと風が吹き渡る夕暮れの野を、まるで火が走るように赤い毛なみを光らせて、一匹の子狐が駆けていた」。走る赤い塊に誘われるように、冒頭の一文から、このお話の世界に引きこまれてしまう。
どこか昔の日本のようでもある架空の国を舞台に、魔力を持つ狐と、人の心が聞こえる娘、「呪われた」子として育つ子どもを巡って始まるこのお話。子狐も、娘も、少年も、そしてどの登場人物もそれぞれの「生まれ」や「境遇」に縛られた悲しさを背負って生きている。自分の行動は自分ひとりのものではなく、他人をも巻き込んで動いている、その中で自分の心をどう決めていけばよいのか。主人公が子狐や少年、少女であるだけに、成長していくことの厳しさがより強く感じられるのかもしれない。
本作は野間児童文芸賞受賞。上橋さんの話は児童文学として分類されることが通常であるが、こんな「重い」テーマのお話が、児童対象で終わるはずがない。大人の論理や、国政や世界情勢まで考えさせるものが書き込まれているからこそ、大人が充分に読める作品でもあるのだろう。
自分がどうなるかわからないけれど、自分が「よい」と思ったことに進む姿は、すがすがしい。上橋さんの作品の人物は、みなそんなすがすがしさを持っている気がする。最後は、一抹の寂しさはあるけれども「これでよかったんだよね」と慰めてくれるような穏やかな桜の咲く情景。走る赤い火の玉から始まり、このお話は最後まで視覚的にも美しい場面にあふれている。
上橋さんのお話は、頭に浮かんだ「一枚の絵」のような情景が種になっていることが多いようである。この話も、「火色の毛皮を光らせて枯野を走る狐」の映像から物語の種が芽吹いたとのこと。「精霊の守り人」の冒頭、夕陽に映える橋の上のきらびやかな牛車も画のように美しい。「闇の守り人」も、荒涼とした山の風景がまずあった、とたしかあとがきにでも書かれていた。初期作品「精霊の木」でも老人が炉辺にいる情景が発想の始まりであったとか。
この本は「バルサの食卓」に出てきた胡桃餅の場面をどうしても読みたくなって手に取った。嬉しそうに胡桃餅をほおばる、小さな灯に照らされている二つの幼い顔。私自身が子狐になってうらやましそうに見ている気持ちになってしまう。子狐がうらやましそうだからこそ、胡桃餅もいっそうおいしそうに感じられる。ここも、「絵のような」情景である。このシーンは後で想い出話として登場するのだけれど、そのときはお互いを思いやる心が透けて見えるような泣き笑いの情景になっている。このあたり、上橋さんはほんとうに上手いと思う。
「おいしそう」に引きずられて読んでみたら、なんともずっしりと重くて味わい深い作品だった、というところである。
紙の本
大切な人を守るということ
2012/08/19 20:26
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:桔梗 - この投稿者のレビュー一覧を見る
懐かしい日本情緒あふれる雰囲気のファンタジー
人の心の声が聞こえる少女「小夜」と小夜に助けられた霊狐「野火」
ふたりはお互いが持つ特殊な力のために いがみ合う二つの国の争いに巻き込まれる
憎しみからは憎しみ以外のものは何も生まれやしないのに
昔の恨みや憎しみをつのらせ 次々と呪いをしかけてくる隣国の領主
小夜の母や自国の領主を守る大朗たちは
自分の命をかけて
大切な人たちを呪いから守る
小夜と野火は お互いちがう生き物で
生きるべき場所がちがうことも
ふれあうことすら許されないことも 知っている
それでも相手が愛しくてたまらない
ふたりのひたむきな想い たがいを思いやる気持ちが胸を打つ
最終章 桜の花びらが舞う中
春の野を駆けてゆく狐達の姿が心に残る
紙の本
涙が
2021/05/22 22:03
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:m - この投稿者のレビュー一覧を見る
大好きな話です。野火の健気さが切なくグッときます。小夜と野火を取り巻く人間模様がとても細かく書かれています。
紙の本
幼く純な恋愛物語
2022/01/13 15:12
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:如月 弥生 - この投稿者のレビュー一覧を見る
人里離れて一人で生きる少女・小夜は自分の出自を知らない。そんな少女に命を救われた小狐・野火は小夜を長年遠くから慕い続けることになる。小夜の着物の胸元から見上げる不安げな小狐の顔が愛おしい。その後のお互いを思いやる心情は純で切ない。報われる可能性はないが一途な野火の覚悟と、絶大な力を持つがまだ覚醒していない弱々しい小夜の覚悟が奇跡を起こす。文章中では恋愛感情をまったく感じさせないが、やはりこれは愛の物語なんだろう。野火は自分のその気持ちを恋だと気付いていたのだろうか? 児童文学として推しの小説です。
紙の本
大切な本になりました
2021/07/04 17:32
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:もこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
読み出しは、精霊の守人と同じ世界観だなあ。と感じましたが、読み進めるにつれ、すっかり引き込まれました。
恨みや怒りが描かれているのに、大切な人への想いがしっかりと強く伝わってきて、何度も読み返したいお話です。
精霊の守人シリーズよりも、シンプルで分かりやすく、私の大好きな大切な本になりました。
紙の本
野火が健気すぎる
2020/10/29 01:25
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぽたみん - この投稿者のレビュー一覧を見る
すごく読みやすくておもしろかったです。読み終わったあとも余韻に浸ってしまいました。
野火がとにかく健気すぎて泣ける…。
最後、2人は幸せになったと思っていいのかな。
良作の和風ファンタジーでした。
紙の本
短いながらも良作ファンタジー
2017/12/24 13:57
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たっきい - この投稿者のレビュー一覧を見る
鹿の王よりもこちらの方が面白かったです。霊狐の野火と人間の小夜の絆の物語。主人に逆らえば、主人が持つ狐笛を握りつぶされることで殺される運命の霊狐。一方、他人が考えていることを聞くことができる能力を持つ小夜。この二人のまっすぐな気持ちが読んでいて良かったです。最後は小夜の運命も意外なものに、上橋作品には珍しく短いながらも、やはり良作でした。
紙の本
野火のけなげさに感動
2016/08/31 10:22
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kakako - この投稿者のレビュー一覧を見る
上橋さんの作品で、これも大好きです。
人間ではない野火の、小夜を思う気持ちに、切なさと感動を覚えました。
最後に、野火と小夜が結ばれて、子供と一緒に出てくるところは、ほっこりとした気持ちになりました。
紙の本
ひたむきさに心を打たれます
2016/06/10 09:39
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投稿者:透子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
始めて読んだときは、一般向けでは? と思いました。
が、再読する時に意識して読むと、たしかに語り口が子供にも受け入れやすいような平易な文章ですね。
それに、閉じ込められる不満を露わにする小春丸や、信じていてもどこか不信を捨てきれない臆病さをもつ小夜の、ただ模範的な子ではないところに共感してその気持ちの動きに寄り添えるのかもしれないですね。
とはいえ、己の寂しさより小夜の安全を優先させた小春丸のやさしさだとか、命の危機に怯えながらも小春丸たちを見捨てられずに動くし、野火を助けられるとなれば怖さを忘れてしまう小夜のひたむきさだとかには、心打たれるものがありました。
守り人シリーズから上橋菜穂子先生の作品にはまって、手を伸ばしてみたのですが、佐藤さとる先生の『だれも知らない小さな国』シリーズ同様、情景の美しさに魅せられる作品でした。
紙の本
ファンタジー
2016/04/21 22:08
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:saya - この投稿者のレビュー一覧を見る
野火大好きです。昔助けてくれた小夜ちゃんにどんどん惹かれていくところがとってもいいです。ドキドキハラハラしながら最後まで一気に読みました。
紙の本
入門に好適?
2015/06/06 16:40
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ががんぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る
最新作『鹿の王』が本屋大賞を受賞して、
あらためてその名声が響き渡った上橋菜穂子さん。
この機会に今までの作品を振り返ってみると、
「守り人」シリーズを始めとして、すばらしいものだ。
すでにすっかり作家としての評価、人気を確立していたわけだが、
そこでさらに今まで以上と評判の作品を送り出すというのがまたお見事。
私自身はまだまだ初心者で、『鹿の王』も未読だし、「守り人」シリーズもまだ途中なのだが、
この機会に比較的マイナーなこの小説に触れてみたい。
大作、さらにはシリーズものというのは、そのタイプが好きだったり、また一度ハマってしまうと、
楽しみが長く続く嬉しさがあるわけだが、
何しろ構えが大きいから、ためらう読者もあると思う。
上橋さんを読んだことはないが、とりあえず短めのものを一冊、という人には
たとえばこの作品がいいのではないか。
「守り人」が、ファンタジーとして日本を超えた設定であるのに比べると、
こちらはより日本的だし、恋愛ものだし、親しみやすいように思う。
わりと静かに入ってだんだん引き込まれる感じがあるから読みやすい。
それと個人的に気に入ったのは、
「守り人」がいわば物語の枠のようなものをしっかり持っているのに対して、
こちらはそれほど明確ではないこと。
というと欠点のように聞こえるかもしれないが、そうではない。
行き着く先が見えないところがよかった。
野間児童文芸賞を受賞していて質も高い。
というわけでこの作品でわりに軽めに触れてみて、
そこから気に入れば本格上橋に進むというのはいかがでしょう?
紙の本
懐かしく、優しくて、哀しい
2014/09/29 00:51
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Calico - この投稿者のレビュー一覧を見る
大昔の日本によく似た舞台で繰り広げられる物語です。
不思議な力を持つ少女、小夜は傷付いた霊狐、野火を助けました。
それを切っ掛けに、屋敷に閉じ込められた少年、亡き母を知る呪者、憎しみ合い傷付け合う連鎖から抜けられない領主、自由を奪われた霊狐達………様々な登場人物たちが動き出します。
しかも全ての人物たちの抱える想いが、きちんと丁寧に描写されています。なので彼らの立場・役目の違いから起こる戦いと、それによって心身が傷付く姿は「誰か何とかしてあげて!」と言いたくなる程痛々しいものが……。
小夜と野火。あまりに遣る瀬無い状況の中、優しくて健気な二人の主人公の選択を見守る一冊です。
紙の本
声を聞く少女と幽閉された少年
2020/02/01 22:00
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
小夜と小春丸の出会いから、ふたつの国の争いへと発展していく展開に引き込まれます。自らの命をかけて、愛する人を守る野火にもホロリとさせられます。