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投稿者:うみべ - この投稿者のレビュー一覧を見る
通り抜ければ10分足らずのトンネル建設に十数年かかった実話。作業中の労働災害や周辺住民への影響、はたまた文書をめぐる担当者とマスコミとの攻防など、こうしたことは今も全く改善されない負の遺伝なのかな、と思った。それにしても、もし工事を中断して現在の御殿場線ルートのままか、もしくは丹那盆地を迂回したルートをとっていたら今頃どうなっていたのか、興味深い。
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投稿者:a - この投稿者のレビュー一覧を見る
吉村さんのドキュメンタリーノベルで丹奈トンネルを開通させた人々の記録をうまく小説にして、当時の大変な状況を再現しています。東海道はこのトンネルができるまでは御殿場線経由でかなり時間がかかったということですね。
日本の基盤をつくる過程で得たもの、失ったもの
2019/08/16 14:45
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投稿者:ニック - この投稿者のレビュー一覧を見る
熱海・旦那トンネルの開通まで、16年にも及ぶ工事とそれにまつわる数々のドラマを、大正から昭和初期の世相も交えて描く。現代日本の基盤をつくる過程で得たものと失ったものが、一つの題材を通じて浮かび上がっている。小説の題材としては「高熱隧道」と対をなす作品ともいえる。
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投稿者:ME - この投稿者のレビュー一覧を見る
旦那トンネルの開通には時間がかかったが、この小説も長い。トンネル開通がひいては新幹線の開通にもつながっていることは初めて知り、興味深かった。
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226事件が発生した戦前、67名の殉職者、農業用水枯渇など難関を越えて、まさしく闇を切り裂いて通り抜けた土木屋達。開通した瞬間の嗚咽の描写、切り裂いて明かりがさした瞬間の感動は私自身が担当したトンネルも同じだった。
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吉村昭さんの記録文学でしか味わえない小説ではないだろうか。丹那トンネルを完成させるまでの過程の中で、自然との闘いに人々は挑み、自然の偉大さに屈しつつも、完成させていく。執念としか思えない事業だったのだ。一方で、美談ではなく、丹那盆地で生活している人々の苦悩にスポットを当て、読み手は、何時しか、丹那盆地の住民の立場でこの丹那トンネルの偉業を見始めるのである。そして、北伊豆地震との遭遇から、改めて自然への畏敬の念を学ぶのである。読了後、早速、丹那トンネルの犠牲者となった方々の慰霊碑に伺い、丹那盆地の様子や丹那断層の足跡を見学させてもらった。
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大正〜昭和にかけたトンネル工事の記録文学。
丹那トンネル(東海道本線・熱海−函南間)の工事を題材とした作品。
トンネル掘削による崩落事故の経過は、手に汗握る。
また、関東大震災にまつわる記録も混じっており、重要な記録である。
また、トンネル工事により、その真上にある村落の水の枯渇、村民と鉄道省との軋轢なども真に迫っている。
大量の湧水、地震などに悩まされ、工事中止を主張する声も上がる中、16年もの歳月と多くの犠牲を払ってようやく開通したトンネル。
交通の利便を求める一方で、多くの人命を犠牲にし、また、一つの村の存亡、水資源の枯渇といった代償も払うことになった。
自然にあらがうことの、人間の力を思い知る。
本書を読み終えて、第1章に書かれた新聞記者から見た風景と言葉が、印象に残る。
吉村昭氏の丁寧かつ細やかな取材や当事者への聞き取りをもとに書かれた本書。
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小説を手に沼津駅から御殿場線に乗り、該当の記述を読みながら車窓の景色を眺め国府津まで贅沢な時間を過ごした。
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大正7年に着工し17年の歳月を掛けて完成した丹那トンネルの困難な工事を詳細に描いた記録文学。その詳細な資料集め、聞き取り調査等により感動的な一大叙事詩ともいえる作品に仕上がっている。途中呼んでてめげそうになるが、中盤からどんどん引き込まれて完成までを読み進むことが出来た。
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大正七年四月一日起工。
昭和九年三月十日完成。
十五年十一ヵ月、延べ二百五十万人の作業員によって完成した丹那トンネル。
当初の甘い予測を遥かに上回る難工事。
付近の住民の非難。
自然災害。
それらを乗り越えて作り上げた大傑作”丹那トンネル”
著者の『高熱隧道』と共に読むと熱いトンネル屋の魂が感じられる。
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世界大戦前の大正から昭和にかけて工事が行われた丹那トンネルにかかわった人々の記録文学(といっていいのか)。吉村昭は「小説」と言っている。
工事の進捗が、ノミで岩盤を穿つような文体で、語られる。歴代の工事所長、主任技師、労働災害、被害を受けた地元の群像で進む。
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少し冗漫な感じもする。同じ作者の「高熱隧道」の方がまとまりよく一気に読ませる力があったように思う。
工事としては、旧丹那トンネルの方が期間も長くかかっているので当然大変だったのでしょうが、それを克明に記すのはある意味マンネリにもなる。
また、渇水による函南村の村民の苦難や怒りにも筆を向けているので、単なるプロジェクトX的な工事が大変でしたねだけではない、社会的な読み物になっている。
今の日本にこれだけ、住民の事を真剣に考えてくれるお役所・官僚はいるのでしょうか。
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丹那トンネルの工事の様子を描いた,ほぼノンフィクション.ほとんどプロジェクトX.主人公のいない,いわゆる「群像劇」である.なぜなら工事には16年間もの長い時間を要したから,さらには鉄道省の人々が役人であって,数年で配置換えになるからである.では事実が淡々とかかれているだけであるかというと,そうではなく,極めて困難な工事に挑んだ熱い記録である.最初に水抜き坑が貫通するくだりは,何度も繰り返し読んでしまった.
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「戦艦武蔵」を読んで吉村昭にハマったのだが、あとがきにある通り「戦艦武蔵」の書き方に似た群像劇であった。
当時の世相、大正、昭和、そして戦争をあっさり描く所など、あくまで主軸はトンネルである事が分かる。傑作と感じる小説。
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東海道線の三島~熱海間を結ぶ丹那トンネルは、全長7.8㎞。大正7年に着工され、当初の工期を大幅に超過し16年をかけて67名もの犠牲者を出しながら昭和8年に開通しました。本書は丹那トンネルの掘削工事にまつわる数々の事故や災害の実情を詳細に描いたノンフィクションです。
今では様々な重機と工法の発達で安全かつスピーディーにトンネルは掘削されるようになりましたが、丹那トンネルは着工時は何と工夫による手掘りでした。工期途中からようやく電気による掘削機を使用されましたが、掘削した後の坑道を支える支保工は丸太などが多用され、掘削したズリ(掘り出した土砂)を坑道から搬出するトロッコも、着工当時は馬や牛が曳いているような状況で工事は進められました。大きな崩落事故が発生した際、手掘りで地道に坑道に取り残された工夫を救出する様子がリアルに描かれており、息が詰まるような臨場感を感じました。
丹那トンネル工事が「世紀の難工事」と呼ばれる主因は、トンネルを断層帯が横切っており、夥しい量の出水があったことが挙げられます。丹那トンネルは丹那盆地の真下を掘り進められました。丹那盆地は豊かな湧水と地下水に恵まれた地域で、水田だけではなくワサビ栽培なども盛んにおこなわれていました。しかしトンネル工事が進むにつれてトンネルへの出水の影響で地下水位が低下し、水田への引水もままならず、工期後半では飲料水にも事欠くほどの状況に陥ります。丹那盆地に位置する自治体の農業被害の実情や、それに対する鉄道省の補償などについても詳しく述べられています。
そして、他のトンネルとの違いがより顕著なのは、トンネルを大きな断層が横切っていて、その断層が動いた「北伊豆地震」がまさに工事の真っ最中に発生した事です。工事は断層面で中断していたため、トンネル切端(きりは:掘削の最前面のこと)と断層面が一致し、約2.5mずれた断層面がトンネル内に出現しました。もしも地震の発生がもっと工事が進んだ状態であったなら、坑道が完全にずれていたでしょうし、トンネルが開通した後で列車が通過中であれば、大きな事故になっていた可能性もあります。
このような数々の障害を克服し、16年にわたる工期を要してトンネルは開通しました。文庫本500ページ超にその詳細が述べられています。著者はノンフィクション作家として有名な吉村昭氏。余計な脚色は一切なく、吉村氏の代表作の中の1冊と言われるのも納得できました。